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漂流の殺し屋剣士の副業 5



漂流の殺し屋剣士の副業 5

 門の前に、屈強な男が五人、地面に胡坐をかいで座っていた。全員、酒を飲んでいる。アイゼンの姿を見るなり、地面に唾を吐いて立ちあがった。
「てめえ、どこに行きやがる」
「ルーカス野郎とおとなしくここから出て行け。さもないと皆殺しにする」
「はあ?」
 あっという間に、連中がアイゼンを囲んだ。
「おまえ、頭おかしいんじゃねのか?」
「面倒くさいから殺しちまおうぜ」
 アイゼンを取り囲んでいた兵士達が一斉に剣を抜いた。アイゼンの右腕が剣に伸びる。撥ねられた二つの首が宙を舞った。
 アイゼンの剣を抜く早さに驚いた兵士達が背中を向けて逃げ出した。しかし、アイゼンは逃げ惑う兵士に非情に剣を振る。
 騒ぎに気づいた傭兵達が、城の中から次々と出てきた。アイゼンは対峙した敵に対し、無表情に剣を振るう。撥ねられた首が次々と地面を転がり、腹を斬り裂かれた兵士が内臓を引きずりながら地面をのた打ち回っている。
 やがて、兵士共は、一人残らず屍と朽ちた。刀は血濡れて紅に染まり、周囲は血潮が満ちた屍の荒野と化していた。
 アイゼンの肩が激しく上下する。一人で二十人もの兵士たちを斬り捨てた。さすがに息があがっている。
 精悍な男が一人、こちらを睨みつけていた。どうやら傭兵達の隊長のようだ。
「お前は誰だ」
 血溜まりの荒野で横たわる足元の屍が、アイゼンを恨めしそうに見上げている。
「アイゼン・ユンゲラー」
 男の表情が変わった。
「五年前のアルデンヌの戦いで百人斬りをした、あのアイゼン・ユンゲラーか?」
「そうだ。あんたは?」
「オットー・ベルンシュタット」
 知っている。少数精鋭の部下達を率いて村々を襲い、千人以上を殺戮している冷酷無情の指揮官だ。
「腕自慢の部下達は全員死んだ」
「そんなもの、俺が生きていればいくらでも補充できる。お前、今はたしか殺し屋家業だったな。依頼人は誰だ?」
「ベルトンの娘だ」
「娘? まだ十歳くらいだった筈だが?」
「依頼料を出したものが俺の依頼人だ」
 ポケットから緑の石を取り出して、オットーに見せた。
「それは翡翠か何かか?」
「いや、ただの石だ」
 オットーが笑った。そして、先に踏み込んできた。抜き身の剣が一振りされる。とっさに剣で受ける。ぎらつくその光に、息を呑んだ。
 速い。部下達とは格が違うようだ。
 刀の柄をググッと握り締め、間近まで距離を詰めてきたオットーの横へと飛び込み、腹に剣を打ち込む。剣で受けるオットー。再び距離を取る。
 お互いの白い息遣いが辺りを占める。
 巨躯なのに俊敏な身のこなし。野性的な光をたたえた鋭い双眸が、鋭くアイゼン射抜いた。
 剣の腕は互角。いや、アイゼン以上かもしれない。
 同時に踏み込んだ。剣のぶつかる音。
 握りしめていた剣を握りなおそうとしたとき、返り血を浴びていた手から剣が滑り落とた。
 アイゼンが慌てて拾おうとしたが、オットーはその瞬間を見逃さなかった。一気に踏み込んできて、居合いの一撃をアイゼンの胴へと叩き込もうとした。
 アイゼンは剣を拾うと見せかけて、腰の小刀を抜刀しながら、踏み込んでくるオットーと一緒に後ろに跳び、刀を横になぎ払った。
 手に人肉に刃が喰い込む感触が伝わってきた。
 腹を抉られ血を吐きながら跪くオットー。それをアイゼンが黙って見下ろしていた。
「くそ……わざと隙を作るのも戦術というわけか……。あんな状況で、あんな隙の作り方するなんてな……。俺なら考えつかねえ……。ほんと、バカには叶わねえや」
「大きなお世話だ」
 オットーが崩れるように倒れた。目からすっと魂が抜けていくのを、はっきりと捉えた。
 馬の足音が近づいてきた。
「アイゼン!」
 白い馬に跨ったベルトンの手に、剣が握られている。
「約束どおり、傭兵どもは片付けました。あとはあなたの仕事です、ベルトン様」
 そういうと剣を鞘に戻し、ベルトンに背を向けて城から出ていった。

漂流の殺し屋剣士の副業 6(最終回)



漂流の殺し屋剣士の副業 6(最終回)

 賑やかな炭鉱の町だった。
 食事を摂ろうと店を探していると、背中越しに女から声をかけられた。
「ねえ、あたしの事、買ってくれる?」
 振り返ると、顔に大きな傷のある女が立っていた。
「この傷だから、安くしておくわ」
「じゃあ、うまい飯が食えるところを紹介してくれ」
「奢ってくれる?」
「いいとも」
 女と二人で、狭い路地に面した静かな店に入った。仕事終わりの炭鉱労働者で店は賑わっていた。
 テーブルに着いた。
「ハンサムね。いい体してるし。炭鉱夫なんでしょ?」
「殺し屋だ」
 女が大げさに笑う。
「女を大勢ベッドで殺してきたんだ」
 すぐに注文した川魚のソテーと酒が来た。女はうまそうに魚を食い、酒を飲んだ。
 アイゼンは女の前に金貨を一枚置いた。それを見た女が驚いてアイゼンを見た。
「いったい、どんな事をしろっていうの? 恥ずかしいことなら我慢するけど、痛いのは駄目よ。切り刻まれるのはごめんだわ」
「情報料だ。娼婦なら近所の街の情報には詳しいだろ?」
「まあ、流れ者を相手にすることは多いからね。あたしはこんな顔だけど、大方の男は女の下半身にしか用が無いから、安い女は人気があるんだよ」
「サウズロード地方の領主の話、何か知ってるかい?」
「ノインシュタイン公爵のこと?」
「ああ」
「ちょっと前にお家騒動があったの。ベルトンって領主が叔父の罠にはまって投獄されたんだけど、牢から抜け出して叔父を城から追い出したんだって。そんな叔父なのに、わざわざ領地の隅に住む家まで建ててやったってんだから、できた人なんだよ」
「かもな」
 女は酒を飲み干した。二杯目を注文してやる。
 女がテーブルに身を乗り出してきた。
「実は、公爵がある男を捜しているの。名前は確か、アイゼン……なんだったっけ? 見つけた人に金貨百枚の報奨金が出るのよ」
「そりゃ、すごいな」
「どんなお尋ね者なんだろうって思ってたんだけど、どうやらそうじゃなくって、公爵家の恩人なんだってさ。碌にお礼もできないまま姿を消しちゃったらしくて、公爵夫人も娘もその男に会いたがってるらしいんだよ。そういえば、公爵令嬢のシェルファって、むっちゃ可愛いんだって。一度見て見たいなあ」
 アイゼンが黙って酒を飲み干した。
「見つけた者に金貨百枚だよ。そいつ、公爵に会いに行けばきっと莫大なお礼をもらえるはずなのに、どこにいるんだろうね? もったいないなあ」
「そうだな」
 女が横に来て、腕を組んできた。
「ねえ……お部屋にいって、布団の中で温まろうよ……。今夜は冷えるんだって……」

(完)

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