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処女の秘孔は蜜の味  目次



処女の秘孔は蜜の味

「可愛い処女のあそこって、蜜みたいに甘いんだぜ」
親友だったトシアキの嘘のような話を、不良少年、藤島辰雄は信じていた。韓国が中国に併合されたことで始まった第二次朝鮮戦争。日本政府は海外ボランティアの名目で若者達を次々に召集し、男は兵隊として、女は米兵相手の慰安婦として戦場に送り込んでいた。そんな最中、戦争など我関せずと、辰雄は親友だったトシアキの遺志を継いで街のゴキブリたちを駆逐していた。しかし、やがて彼の周囲にも戦争の影がちらつき始める。
処女の甘い蜜を吸うまでは、死ぬわけにはいかない……。

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ツギクルバナー

処女の秘孔は蜜の味 1 



1 暗闇の森の少女

 今夜は満月のはずなのに、夜空に月は見えない。
 空には一面厚い雲が広がり、黒く澱んだ夜が灯火管制中の街を包んでいる。時々道路を通り過ぎる車のヘッドライト以外、人工的な明かりはまったく見られない。死に絶えた街の姿がそこにあった。
 草むらの中から周囲の様子を窺う。誰もいるはずはないとわかっていても、気を抜くことが出来ない。臆病なくらいの用心深さが、生き残る秘訣であることを、藤島辰雄は知っている。
 誰もいないことを確認した後、大麻草の束を抱え草むらから出た。タバコが吸いたかった。なぜか仕事を終えた後は、マリファナではなくタバコを吸いたくなる。タバコの値段が上がっているのは戦争の影響らしい。戦争など俺には関係ないことなのに、迷惑な話だ。
 車のドアを開けたとき、川原のほうから女の悲鳴が聞こえてきた。どこかの不良が街で攫ってきた女の子を輪姦しているのだろう。不良たちは街で女を攫い、人気のない山奥に連れてきて、皆で女を輪姦すのだ。
 俺には関係のない話だ。それより、誰かに見つかる前に少しでも早くこの場を離れなくてはならない。
 後部座席に束ねた大麻草を放り込み、運転席に乗り込んだ。
 見て見ぬ振りをするのは、その卑怯な行為に加担しているのと同じなんだぜ。トシアキの言葉が頭に蘇る。
 わかってるよ。
 舌打ちすると、車のグローブボックスの中の拳銃を手に取った。六連式のリボルバー。トシアキが辰雄のために残してくれた銃だ。
 放っておけばいいものを、まったく、どうかしている。
 銃なんて持ち歩いてると、いつか使っちゃうような場面に出くわしちゃうんだから。綾香のしかめっ面が目の前に浮かんだ。
 あぜ道を降りていくと、川原に停めてある改造車が目に入った。軍用に転用可能な四輪駆動車。かなりの年代ものだが、日本車は故障知らず。何年でもろくなメンテナンスなしで使用可能だ。長引く戦争で疲弊していても、日本の技術は世界最高レベルにある。
 また、悲鳴が聞こえた。今度ははっきりと聞こえた。すぐそばだ。
 車の陰から向こう側を覗き見た。二人の男の下で、女がもがぎ騒いでいる。女は男たちに手足を抑えられ、服と下着を引き剥がされて、素っ裸のまま泣き叫んでいた。
 一人が女の片足を押さえて、あとの男がズボンをパンツごとひき下ろしていた。女をまさに犯そうとしているところだった。
 ジャンパーのポケットからナイフを取り出して刃を立て、改造車のタイヤに刺し込んだ。ぶしゅっと下品な音を立ててタイヤが一気に萎む。
 男たちが慌ててこちらを見た。
「てめえ、何してやがる!」
 男の一人が懐中電灯を向けて凄んできた。
「見りゃ、わかるだろ。ナイフの切れ味を確かめているんだよ」
「はあ? そりゃ、俺達の車だぜ」
 辰雄に気づいた女が「助けてください!」と叫んだ。
「あまりにおんぼろなんで、ここに捨ててあるのかと思ったぜ」
「面白いこというじゃねえか」
 二人がにじり寄ってきた。ふたりとも手にナイフを持っている。
 男達の格好を見て舌打ちしそうになった。国防色の軍服の胸に二本の黄色のライン。治安会か。
 国民の治安と安全を守る会。略して「治安会」。戦争が激しくなり国の治安維持もままならなくなったため、国が民間に治安維持を委託した。委託した先は政治家と結託していたやくざだ。国からの委託を受けたやくざは大手を振って街の不良たちをかき集め、街の安全を守るという名目で好き放題暴れ回っている。
 しかもこの二人は軍服を着ている。治安会でも幹部クラスだ。幹部クラスでさえこんなゴキブリなのだ。
 仕方ない。顔を見られた。こいつらをこのまま帰すとあとが面倒になる。殺すしかない。だから、厄介ごとにはかかわりたくなかったのだ。ナイフをポケットにしまうと、腰に刺している拳銃を引き抜いて、銃を突きつけた。
「ガキがおもちゃなんか振り回すんじゃねえよ」
 にやつきながらナイフを向けてきた男に銃口を向けたが、男達は怯まずににじり寄ってくる。
 車のフロントガラスが懐中電灯の明かりを跳ね返した。女の顔がはっきり見えた。なかなかの美形だ。それに、いい体をしている。
「俺達が誰だかわかるよな?」
「ああ、治安会の豚野郎だろ」
「このガキが。殺してやる」
 俺の指に力がこもった。
 重く鈍い銃声が響き渡り、強烈な反動で腕が大きく跳ね上がった。男の体が後ろに吹き飛んだ。
 男が仰向けに倒れた。地面に転がった懐中電灯の明かりが、頭を半分失った男のグロテスクな姿を映し出した。
 ヒッ、という怯えた仲間の声が聞こえた。今頃気づいても遅いんだよ。
「俺もさあ、こんなところで遊んでんじゃねえんだよ」
 銃を突きつけたまま、男の目の前まで歩いて行った。手に握った重い鉄の塊の先から、細い煙がたなびいている。
「た、助けて!」
「そいつは無理だ」
 男が大きく眼を見開いた。その場に跪き、両手をあわせて泣き出した。
「お願いです、助けてください!」
「だから、無理だって。お前のような奴に顔を見られた以上は生かしておけないんだよ。こんなところに女を攫ってきて突っ込もうとする奴が悪いんだ」
「あなたの顔は忘れます! 絶対に忘れます! だから命だけは!」
「駄目。だぁめ」
「そ、そんな!」
 引き金を引いた。弾丸は男の眉間に突き刺さると、脳みそとともに後頭部から出ていった。
 地面に大きな血だまりが出来ていた。
 両手で胸を隠した女が、怯えた目でこちらを見ている。
「服を着ろ」
 女は我に帰ると、地面に落ちていた下着を拾い上げた。そして辰雄に背を向け、脚を通した。ブラの中に大きな乳房を押し込んだ後、スカートとブラウスををつけた。
 ほう。
 知っている制服。有名なお嬢様学校、白百合女子学園の制服だった。
「さて、こいつらがなぜ殺されたのか、あんたにはわかるよな。俺の顔を見たからだ」
「はい……」
「あんたは俺の顔を見たのかい?」
「はい……見ちゃいました……」
 女が震えながら答えた。なんとも馬鹿正直な女だ。
「助けて欲しいか?」
「はい……」
「手に持っているリボンで目隠しをしろ」
 戸惑っている女に「早くしろ!」と怒鳴ると、女が慌てて赤いリボンを目に当てた。
「途中でそのリボンをはずしたら、あんたを殺さなきゃ、ならなくなる」
「はい……」
 男達の死体を川に流した後、女の背後に立った。女の体が緊張で強張った。
 女の背中を押して降りてきたあぜ道を戻り、川原から出た。女を停めていた車の助手席に乗せ、エンジンをかける。
 改造マフラーの爆音が、暗闇に包まれる森を震わせた。窓を開けてアクセルを踏む。冷たい夜風が車内に流れ込み、辰雄の頬を叩いた。
 トシアキと二人でよく走った峠道。こうやって夜道を何も考えずにすっ飛ばしていると、嫌なことなど吹っ飛んで、自分が偉大な存在になったような気がしてくる。
 峠を越えて山道から人気のない国道に出た。この時間帯、車はめったに通らない。下手をすれば、物影から銃撃される恐れがある。世の中は物資が極端に不足してきているので、金品や食料、ガソリンが狙われるのだ。だから法律で禁止されているが、自衛のために銃は手放せない。
 女のカバンを開けて中を探る。生徒手帳が出てきた。白百合女子学園、島中祥子。住所は地元でも有名な高級住宅街だ。
「島中祥子」
 名前を呼ばれ、女が体を震わせた。
「あんたの名前と住所、通っている学校を覚えた。もし、今夜のことをどこかの誰かに話したら、喋った相手が親兄弟だったとしても、あんたはもちろん、家族全員が死ぬことになる」
「私、誰にも喋りません……」
「それでいい」
 駅前の交番。婦人警官の姿が見えた。灯火管制の街でヘッドライトをつけて走っている車を不審に思ったのか、交番の中からこちらを見ている。
「車を降りた後、五十数えたら目隠しをはずすんだ。交番に駆け込めば助けてくれる。婦人警官なので、犯されることはないだろう。あんたのその汚れた格好を見ても、このご時勢だ、警察は関心も持たないと思うが、もし聞かれても適当に誤魔化すんだ。うまく誤魔化せ。あんたや家族の命がかかっていることを忘れるな」
「はい……」
 辰雄は女を車から下ろすと、そのまま走り去った。
 やれやれ、俺もお人よしだな。
 でも、島中祥子って、きっと処女なんだろうな……。
 あそこを舐めさせてもらう、いいチャンスだったかもしれなかったのに……。
 女が座っていた席を見た。生徒手帳が置かれたままだった。

処女の秘孔は蜜の味 2



2 男をそそらせる美尻

 カーテンの隙間から差し込む朝陽で目が覚めた。今日もいつもどおり、何も変わらない朝がやってきた。
 朝の日差しはあらゆる人間に等しく降り注ぐ。裕福な人間にも、困窮な人間にも、善良な人間にも、悪どい人間にも。死と同様、平等に朝はやってくる。
 ベッドから降りて冷蔵庫を開ける。朝食は必ず摂ることにしている。朝食を食べるかどうかでその日一日の元気具合が変わってくる。
 バナナを一本、房からもぎ取る。皮をむいてかじりながら、ポットに湯を沸かす。
 テレビをつけた。朝のニュース。税金がまた上がるらしい。日本は今大変な状況なので我慢しましょう。ニュースキャスターが笑顔でのたまう。国民に我慢を強いる政府を、民放各局が後押している。
 インスタントコーヒーを入れ、タバコに火をつけ、煙を天井に噴き上げる。
 ニュースのコーナーが終わり、芸人が食レポを始める。
 日本のマスコミは本当に重要なことを伝えなくなった。日本海を隔てた半島での戦況はどうなのか。国民が一番知りたいニュースを一切伝えることなく、何事もない日常が今も進行しているような演出をしている。
 好きにすればいい。俺には関係ない話だ。
 制服に着替えて玄関から出る。ドアの鍵はいつも開きっぱなしだ。盗まれて困るものはないもない。
 晴れやかな朝日が地面を照らしている。通い慣れた路地を歩く。数日前、ミサイルが着弾した場所は、今も瓦礫のままだ。
「海外ボランティア推進法の改正に、ご理解お願いいたします!」
 朝の早くから、国に委託された団体職員が街頭に立って頭を下げている。海外ボランティア推進法。海外ボランティアという名の、徴兵を正当化する法律。十八歳を超えると任意に抽出された若者が、男は兵隊として、女は米兵相手の慰安婦として戦場に送られる。
 ふざけるな。どうしてこんな国のために死ななきゃならないんだ。
 地面のそこらじゅうがひび割れている。改修工事などされるはずもない。そんなことに金と人手を使うくらいなら、戦費に回される。
 とことこと歩いて学校を目指す。登校や出勤の時間真っ最中だ。周りには通学途中の学生たちやサラリーマン、お姉様OLが歩いている。
 前方に見知った後姿が学校への坂道を歩いている。他の生徒より拳ひとつ短いスカートから、まぶしいばかりの美脚が伸びている。ひらひらと翻るスカートのなかで、大きな尻が左右に揺れていた。新谷綾香。美人でいい体をしている、わが学園のオナペットだ。
 その無防備な後姿に股間が熱くなる。あれでは尻を触られても文句が言えないだろう。いや、撫でてくれと誘っているのだ。
 じゃあ、誘いに乗らないわけにはいかない。
 辰雄は足を忍ばせ彼女に近づいて行った。そして彼女の背後をとり綾香の美尻に手を伸ばした。
 まさにその果実を掴もうとした瞬間、後頭部に衝撃が走った。目が霞み、視界が揺らぐ。頭を抱えてその場で地面に跪いた。
「この馬鹿」
 上から声が降ってきた。見ると須藤エリカがこちらを睨みつけるように見下ろしている。
「よ、よう、エリカ」
「朝から発情してんじゃないわよ」
 前を歩いていた新谷綾香が振り返った。
「あ、おはよう、エリカ。それに藤島」
「気をつけなよ、綾香。こいつ、あんたの尻を触ろうとしていたんだから」
「はあ? まさか。あんたの目の前で?」
「ふん。こいつには節操ってものがないのよ。年がら年中発情してるんだから」
 エリカはスカートの中を隠そうともせず辰雄を見下ろしている。綾香のスカートよりさらに拳ひとつ分短いスカート。いつものレースの下着が丸見えだ。
「いつまで見ている気?」
 頭をさすりながら立ち上がった。学生カバンの角を叩きつけられたようだ。
「人を変態扱いするんじゃねえよ。新谷が触ってくれって誘っていたから手を伸ばしただけだ」
「はあ?」
 新谷綾香が睨みつけてくる。
「そんなに女の子のお尻に触りたいのなら、エリカのを触りなさいよ」
「こいつのはもう触り飽きた」
 エリカが再び学生カバンでスマッシュを決めた。
 三人並んで校門をくぐった。頭がまだずきずきと疼く。
「エリカ、今朝は早いのね」
 たしかに。エリカはいつも予鈴ギリギリに教室に飛び込んでくる。
「お前がこんな時間に登校するなんて、いよいよこの街にも核ミサイルがぶち込まれるのかな」
「あほ。近所の川に死体が上がってパトカーのサイレンがうるさかったから目が覚めたの」
「死体があがったくらいで、警察が朝っぱらから騒いでたのか?」
「治安会の組員が二人、撃ち殺されたのよ。頭を撃たれてね。結構強力な銃だったらしくって、頭が半分吹き飛んでいたんだって」
「それ最高」
 綾香が笑う。昨夜殺したあの二人の死体がもう見つかったのか。ずいぶん早く下流まで流されたようだ。
「一般人が殺されても知らん振りなのに、治安会の組員の死体が見つかっただけであれほど騒ぐのね。馬鹿みたい」
 エリカが不満顔で胸を反らせた。突き出された彼女の爆乳が、プルッと揺れた。

処女の秘孔は蜜の味 3



3 校舎の屋上でマリファナをやる

 黒板の前で、教師が熱心に二次方程式の解き方を説明している。こんな学校の生徒に数学なんか教えても何の役にも立たないのに、無駄なことをしているとは思わないのか。
 手が油だらけだった。さっきの授業では旋盤の操作について習った。日本のものづくりの技術は世界一で、その技術は若い者たちが毎日技術の研鑽に励むことで維持されるのだと、教師は口角泡飛ばしながら口走っていた。
 多くの男子生徒が油まみれになりながら必死で旋盤を操作していた。いい成績を残して少しでも給料のいい工場で働くこと。この学校で真面目に勉強している奴はみなそう考えている。そして、辰雄や吾郎、光男といったはみ出し者は、卒業前になって海外ボランティア応募用紙を突きつけられるのだ。
 女子は確か、西洋文芸の授業だったはずだ。歌や踊り、上品な歩き方を学ぶ。そして女子はまた、実践的な英会話と保健の授業が課せられる。保健の授業で主に習うことは、妊娠と避妊についてだ。つまりこの学校の女子は慰安婦になる基礎を教えられているのだ。日本を守ってくれるアメリカ兵のための性処理を担う、お国のための立派な仕事。だから、この学校の教師達は男女が深い中になることについて特に注意しない。この学校に処女はいないという噂は本当なのだ。
 逆に島中祥子のように、日本の将来を担うエリートの若者と結婚する女子は処女性が重んじられる。ほとんどが一流校の女子高に通い、男との接触を断たれる。
 有能な人間、役に立つ人間のみ残す国家政策。役に立たないと判断された人間には即、海外ボランティア応募用紙を叩きつける。消耗品としての人生を強要されるのだ。拒否は出来ない。
 各生徒がどんな仕事につくかは、都道府県を通じて学校から生徒達に伝えられる。下級国民に職業選択の自由はない。好きな仕事が出来るのはエリートの上級国民だけだ。
 吾郎も光男も辰雄も海外ボランティアは決定だろう。卒業後、いかにして逃げるかが問題だ。
 黒板の上にあるスピーカーから終業のチャイムが流れた。
 学級委員の新谷綾香が、教師が終わりの合図を出してもいないのに、「起立」と元気な声をあげた。起立の号令にあわせて、生徒たちはばらばらに立ち上がった。
「礼」
 頭を下げた生徒達が、ばらばらと教室を出て行く。綾香が勝手に号令をかけたのに、教師は何も言わない。教師にとって、生徒たちが授業に興味を持ったか、理解したかなど、どうでもいいことなのだ。
 一部の学校を除き、この国の教師達はすでに教育の仕事を放棄している。教師達にとって、授業は淡々とこなす作業に過ぎない。
 一番後ろの席で居眠りしていた山峰吾郎が椅子をひきずって大きな体を立ち上げた。その前に座っている田村光男はまだ眠っている。吾郎に声をかけられ、光男がようやく目を覚ました。
「吾郎、光男」
 辰雄が二人にタバコを吸う真似をして指を上に向けた。次の時間は自習だ。二人が笑いながら頷いた。
「エリカ」
 席を立ったエリカが振り向いた。
「屋上に来いよ」
「はあ? 馬鹿なこというんじゃないわよ」
「何が?」
「いくら安全日だからって、学校ではやらないの」
「馬鹿はお前だ」
 エリカの頭を軽く叩く。
「ブツが入ったんだよ」といって、タバコを吸う真似をする。
「えっ? 葉っぱ?」
 辰雄が慌ててエリカの口を塞いだ。

 エリカと二人で校舎の屋上にあがると、吾郎と光男が先に来て二人を待っていた。ポケットから刻んだ乾燥マリファナ入りのビニール袋とパイプを取り出し三人に渡す。
「おお、いいねえ」
 三人はパイプに乾燥大麻をつめ、ライターで火をつけた。
「かあ! 効くね!」
 煙を吐き出した吾郎が満面の笑みを浮かべた。光男もエリカも煙を吐き出しながら頷いている。
「最高。いいブツじゃん、これ」エリカも満足そうだ。
「いまどきマリファナが違法だなんて信じられないな。タバコのほうが害あんのに」光男が上空に向けて煙を吐いた。
「治安会の要請だよ」
 三人が辰雄を見た。「マリファナが合法になったら、治安会の商売は上がったりになるからな」
「治安会がマリファナ捌いてるのか?」
「この辺りで出回っているのは治安会の流しているマリファナだよ」
「じゃあ、これも?」
 エリカがパイプを突き出した。
「それは違う。別ルートのものだ」
「別ルートって?」
「知り合いから買ってんだよ」
 大麻を山で栽培していることは秘密だ。本当に隠さなくてはならないことは、たとえ親しい親友にも打ち明けない。
「他から買ったことが治安会にばれたらやばいじゃん」
 マリファナの密売がばれたらただではすまない。縄張り内で勝手な商売をする奴らを、治安会は決して許さない。しかし、だからこそ危ない橋を渡ったものが大金を稼げるのだ。
「そんなへまはしねえよ」
 爆音が響いた。三機編隊のジェット戦闘機が上空を横切っていく。翼の日の丸がはっきり見えた。
「自衛隊だ、自衛隊」
「がんばれ、ニッポン!」
 ジェット戦闘機はあっという間に空のかなたに飛び去っていった。
「戦争って、日本が優勢なのかな?」
 吾郎が、ジェット機の飛び去った空を眺めながら呟いた。
「新聞もテレビも全然伝えてくれないしよ。国民の知る権利はどうしちまったんだよ」
「都合が悪いから隠してんだよ」
「ってことは、日本が不利なのかな。嫌だな。俺達もうすぐ十八じゃねえか。下手すりゃ、今年中に戦場に送られちまうんだぜ」
「やだなあ……」と光男もため息をつく。
「やめなよ。せっかく葉っぱやってんのにテンション下がるじゃん」
「おまえだって召集がかかるかもしれないんだぜ」
「女は招集されても食事を作ったり慰問団に同行して歌うだけなんでしょ? たいしたことないわよ」
「下級国民の女は慰安所に送られてアメ公にチンポ突っ込まれちまうんだよ」吾郎が吐き捨てるようにいった。
「アメ公のチンポか。悪くないかも」
 光男と吾郎が笑った。
「お前は辰雄のデカチンで鍛えられてるからな」
「黙れ!」
 エリカが吾郎の背中を思い切り叩いた。マリファナで三人ともテンションがあがっている。
「戦場に送られるなんてごめんだ」
 辰雄がこつこつとパイプで床を叩き、中に残った灰を叩き出した。
「エリカ、召集がきたら一緒に逃げようぜ。俺、エリカが他の男にチンポ突っ込まれるなんて嫌だよ」
 エリカがきょとんとした顔で辰雄を見ている。
「馬鹿。慰安所に送られるなんてこと、あるわけないでしょ」
 エリカが大声で笑った。


処女の秘孔は蜜の味 4



4 体の相性のいい女

 激しくぶつかり合う肉の鈍い音が部屋中に広がった。
 辰雄はエリカの腰を掴みグイッと引き寄せ、深いところまでねじ込んだ。そして、荒々しく乱暴に突いた。
「エリカ……いきそうだ……」
「きて! きて! ああああっ!」
 激しく、荒く、労わりの心も無く、ただ、快楽のみを追求するもののごとく突きまくった。
「うっ、ぐっ、おぉっ!”」
「あああっ!」
 凄まじい快感が全身に駆け巡り、腰が痙攣した。精液が一気に流れ出し、エリカの子宮の奥に注がれた。
 激しいセックスを終えて、辰雄はぐったりと仰向けになった。
「あん……よかった……」
 エリカが辰雄に抱きつき、大きな乳房を押し付けてくる。
「あ、やばい……出てきた」
「ちょっと待て」
 ティッシュを二、三枚引き抜き、エリカの股間にあてがう。きれいに拭った後、丸めてゴミ箱に放り投げた。外が曇りの上に電気を消していたからよく見えなかったのに、吸い込まれるようにゴミ箱に入った。
「ストライーク」
 エリカの声が部屋に響く。午後五時。半分開け放したカーテンから、雨音が聞こえてくる。過ごしやすい十月半ばなのに、辰雄もエリカも全身に汗をかいていて、狭い部屋は若い二人の性の匂いに満ちていた。
 エリカはベッドから降りてテーブルの上からタバコと灰皿を持って戻ってきた。辰雄の横でうつぶせになり、銜えたタバコに火をつけた。
「マリファナ吸ってセックスすると最高……。途中で手で口を塞がれたけど、声、大きかった?」
「すごかったぞ。近所迷惑だ」
「マリファナのせいよ」
 彼女の吐き出した煙で周囲が霞む。後ろ髪が首筋にべっとりと絡みついていた。辰雄はその髪を人差指の爪でひっかけた。
 隣のアパートの部屋から、ギターの旋律が聞こえていた。それ以外は、ほとんど完璧な静寂が二人の寝転ぶ空間を、やさしく包み込んでいた。
「隣のマンションに聞こえたかもな」
「いいじゃん、別に」
 エリカが肺一杯にタバコの煙を吸い、一気に吐き出した。
「ねえ。学校の屋上で言ったこと、本気? 召集がきたら一緒に逃げようって」
「本気だよ。法律か何かは知らないが、政府の理不尽な指示に従う気なんてないね」
「指名手配されて捕まっちゃうよ」
「逃げ切るさ。そのうち戦争も終わるだろう」
 どうやって逃げるかは決めてある。隠れ家も金も用意してあるし、マリファナで稼ぐルートも確保している。用意万端だ。
 エリカがタバコの吸い差しを灰皿におき、枕を両手で抱え込んだ。
「こんな生活がずっと続いたらいいのに。毎日こんなに楽しくていいのかなって、最近思うわ。この気持ち、わかる?」
 辰雄は沈黙した。よくわかる。辰雄も同じ気持ちだった。この楽しい日々が終わる日が来るのが、怖かった。
 辰雄は手を伸ばしてエリカの尻を撫でた。張りのある大きな尻。触り心地もいい。体の相性も最高だ。
「私ね、召集に応じてもいいと思ってるの」
 驚いてエリカを見た。こちらを見ていた彼女と目が合った。
「本気で言ってるのか?」
「本気よ」エリカは辰雄の目をキッと見つめた。
「吾郎の言っていたことは本当だぜ。下級国民の女はアメリカ兵の性欲処理に使われるんだ。それが戦場の兵士にとって一番の慰安になるからな」
「知ってるよ」
「平気なのか?」
「平気じゃないけど、悪いことばかりじゃないわ。慰安婦はいいお金になるんだって。二年間の徴兵期間で一億は稼げるのよ」
「金のためなのか?」
「そうよ。私の母親がバーで働きながら体売ってるの、知ってるでしょ。血は争えないわ」
「しかし……」
「まさか、あんたも本気じゃないんでしょ? 私が他の男に抱かれるのが嫌だなんて。私たちはそんな関係じゃないわ。私はあんたにマリファナもらって、その代償にこの体を抱かせる。それだけの関係よ」
「俺はそうは思っていない……」
「治安会の二人を撃ち殺したの、あんたなんでしょ?」
 辰雄は黙ったままエリカを見ていた。
「トシアキの拳銃なんでしょ? あいつが強力な銃を持ってたって光男が言ってたもん。トシアキの仇を討ったの?」
「ただの偶然さ」
 エリカが二本目のタバコに火をつけた。
「お前は俺の女で、俺はお前の男だ。本気でそう思ってる。金が欲しいのなら俺が稼いでやる。馬鹿なことは考えるな」
「嘘でも嬉しいわ、辰雄……」
 あそこを洗ってくるといって、エリカがベッドから出て行った。辰雄はエリカのシガーケースからタバコを一本抜き取り口に加えた。
 バスルームからシャワーの音が聞こえてくる。エリカが嘘を言っていないことはわかる。慰安婦になって戦場で稼ぎ、金を持って平和なアメリカにでも行って暮らす。強い彼女が考えそうなことだ。
 シャワーの音が止まった。しばらくしてエリカが部屋に戻ってきた。股間の濃い陰毛、大きな尻と深くくびれた腰、大きく張り出した胸。
 そして、怒りに満ちた目……。
「ど、どうした?」
 エリカが突然、手に持っていたものを投げつけてきた。
「痛っ!」
 それは額に当たり、枕の横に落ちた。エリカが辰雄の体の上に飛び乗り、首を締めつけてきた。
「お、おい!」
「殺してやる!」
 エリカの目が、怒りでたぎっている。
「何しやがる!」
 両手で彼女の手首を掴んで引き離した。ハアハアと荒い息を漏らしているのが、自分なのかエリカなのかわからなかった。
「どういうつもりだ!」
「この部屋に女を連れ込んだのね! この糞野郎! 最低!」
「何のことだ?」
「とぼけるな!」
 彼女の目から大粒の涙が零れ落ちた。
 枕元に落ちたものを手に取って見る。
 白百合女子学園の生徒手帳。開いたページの中から、島中祥子が微笑んでいた。

プロフィール

アーケロン

Author:アーケロン
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