キチガイたちの挽歌 6
陽子が全身を震わせて静かに落ちた。
ハヤトの顎からも、汗が滴り落ちている。
いい女だった。二十万の値打ちは、確かにある。
ペニスを抜いて、陽子の横に崩れるように倒れた。
「ねえ……」陽子が腕をからめつけてきた。「何やったの?」
好奇心漲る目を向けられ、ごまかすように苦笑いする。
「自分で言うのもなんだけどね、私って高い女なの。そんな女を一晩好きにしていいってご褒美なんでしょ?」そう言って、顔を覗き込んでくる。
「九州の田舎やくざにお灸をすえたんだよ」
陽子がハヤトのさらっとした髪を撫であげた。
「そうなんだ。薬で今揉めてるんでしょ、九州と」
「まあな」
「仕事は何してんの?」
「いろいろ。最近は金村さんの下でシャブ捌いてる」
新宿では住吉会がシャブを独占的にシャブを捌いていたが、関東連合がそこに割り込んでいった。それだけでも、住吉会と一発触発は避けられない事態なのだが、関東連合とのもめごとを避けようとして、今のところは住吉会も静観している。
しかし、国内のシャブの市場を牛耳る最大手、九州の道仁会は黙っていなかった。新宿で捌く薬は道仁会からビジネスパートナーの関東ヤクザに一手に卸すことになっている。卸売は道仁会、小売は住吉会と住み分けていて、それはもう十年以上も続いているしきたりなのだが、関東連合は道仁会以外から仕入れて売り捌いていた。
「うちが卸してやるからそれを売れ」
二か月前、道仁会がそう警告してきたが、関東連合はそれを無視。道仁会はさらに「ウチが卸す商品を売るか全員ぶち殺されるか、どっちか好きなほうを選べ」と迫ってきた。それは道仁会からの最後通牒だった。関東連合はそれを無視して覚せい剤を捌き続けたため、連中は関東連合のメンバーを殺した。マコト。ハヤトの弟分だった。
陽子が背中の蛇のタトゥーを指でなぞっている。
「私、強い男好きよ」
「あそこが臭い女は嫌いだ」
「最低」
陽子がぷいっと背中を向けて布団に潜りこんだ。
「拗ねるなよ」ハヤトが陽子を抱き寄せる。
「じゃあ、もう一回して。今夜、好きなだけ抱いていいのよ、私のこと」
「お前は嫌じゃないのか?」
「嫌じゃない」そういって、唇を重ねてくる。
「タクヤさんとはどういう関係なの?」
「俺の兄貴分だよ。タクヤ総長の後輩、金村さんのタメ。普段はタクヤさんと組んでいるんだが、金村さんに声をかけられたんだよ」
「タクヤさんって羽振りいいんだって? 芸能事務所の社長でしょ? いまどきのアイドルを何人も抱えて、大成功してるって聞いたわ」
「ああ」
「昔、ホストだったのよ。私、知ってる。ギャランドゥのナンバーワンだったの」
「ああ、そうだ」
木村タクヤは頭の切れる男だ。族ではタクヤを支える参謀として重要な地位に居座り、警察の裏をかいて伝説の東京縦断大爆走を成功させた立役者でもある。族を引退してからはホストとなり、その甘いマスクを存分に利用して力のある女どもを手中に収めた。今はホストクラブ経営の傍ら、芸能事務所を取りしきっている、関東連合でも一、二を争う切れ者だ。
「タクヤさんがどうかしたのか?」
「私に、芸能界デビューしないかっていってきたの」
「AVか?」
陽子がハヤトの頬を抓った。
「テレビに出ないかって。お笑い芸人のお御所を気取っている奴が司会やっている、大勢の女が出てやいやい騒ぐだけの番組なんだけど、そこに出してやるって。プロデューサーの目に止まったら、芸能界デビューも夢じゃないんだって。私、売れるかな?」
「そうだな。ムーンライトのナンバーワンなんだから、そこそこいけるんじゃねえのか?」
顔や容姿だけじゃなく、一流のホステスは一流の接客術と処世術も持っている。その辺の素人の女では歯が立たないだろう。
陽子が布団にもぐりこんできた。ペニスを手で包んだかと思うと、ぬめっとした感覚が伝わってきた。陽子が口に含んだペニスを丁寧に舌で刺激する。鬼頭、裏筋を巧みに舐められ、ハヤトのペニスはあっという間に力を取り戻した。
「どう?」布団から顔を出した陽子が、自慢げに微笑む。
「うまいな」
「何回してもいいのよ」
「でも、約束があるんだ」
「何時に?」
「五時から。幹部会の前に、金村さんが話あるらしい」
「何よ、まだ朝の十時よ。あと七時間もあるじゃない」
陽子がしがみついてきた。押し付けられた彼女の豊かな乳房が、ハヤトの胸でつぶれる。
五時までにあと何発できるかな。そんな気分になってきた。
陽子がハヤトの股間に跨り、手を自分の入り口に添えると、ゆっくりと腰を落とした。
「あああ……」
微かな呻き声を漏らし、彼女がゆっくりと動き始めた。