魔女の棲む街 1
1
暗闇の中から、男の呻き声が聞こえてきた。目を覚ましたらしい。地面に横たわった状態でこちらを見ている。猿轡を噛まされているので声をあげることはできないが、おそらく、ここはどこだ、お前は誰だといっているのだろう。
「すぐに終わるから、そのままの状態でもう少し待っていてよ」
手早く二台のカメラをセットした。明かりをつけるわけにはいかないので赤外線モードで撮影することになるが、そのほうがいい絵が取れる。明かりの下であの手の映像を取ると、どうもまやかしのように見えてしまう。
カメラのセットを終え、男の顔を覗き込んだ。薄闇の中で、屠殺される前のウサギのような哀れな目を向けている。あの時の人を小馬鹿にするような目つきのほうが良かったのだが、この状況では無理もない。
どうせこの街の住人なのだ。そうあたりをつけて一週間ほど夜の街を徘徊した。あいつだ、間違いない。ようやく男を見つけた時は、その場で小躍りしそうになった。高鳴る胸を押さえつけて男のあとをつけ、その日のうちに男のアパートを特定した。週末に部屋を見張っていると、思った通りあの時の女を部屋に連れてきた。三時間後、男の部屋から出てきた女の後をつけた。髪を金色に脱色した、頭の悪そうな女だった。女は近くの駅から電車に乗り、自宅に帰った。タクシーを使われなくてよかったと思った。
そして今夜、街で再び男を待った。男の行動は把握していた。チャンスを狙っていると、男が人目のつかないビルの谷間に入っていった。足音を忍ばせて男のあとに続いた。薄闇の中で、派手なアロハシャツを着た男の背中が、スッと伸びていた。横に広げた脚の間の地面が、耳障りな音を立てていた。
周囲に人影はない。あんな男でも、立小便のときは人目を避けようとするのだ。
放尿を終えた男がペニスをズボンに収めて振り向いた。男と目があったのは一瞬だった。男の目の焦点が合う前に、改造して電圧を上げたスタンガンの電極を素早く首筋に押し当てた。
「僕のこと、覚えてる?」
怯える男の顔を覗き込んでいった。どうやら覚えていないようだ。しかし、あの時のことを覚えているかどうかなんて関係ない。この男は悪い人間だ。その事実さえわかっていればいい。悪い人間なら何人でも殺してもかまわないと、あの方も言っていたのだ。
カメラのアングルを調整すると、デイバッグからレインコートを取り出して頭からかぶる。バッグの底をかき回し、沈んでいたペンチを手に取った。
「さあ、宴の始まりです」
男をうつぶせにすると、後ろ手に縛った手首をつかみ、男の人差し指をペンチで切り落とす。男のくぐもった声が響く。しかし、ここには誰も来ない。
「痛い?」男の髪を掴んで額を持ち上げる。男が必死で頷く。
「じゃあ、続けるね」
ペンチで男の指を次々と切り落としていく。男が狂ったように縛った足をばたつかせる。親指と小指以外の六本の指を切り落とすと、男を仰向けにした。
「助けてほしい?」
男が涙を流しながら、必死で頷いている。
「だめ」
メスで男のシャツの前を切り裂いた。男の身体が痙攣した。切り裂いたシャツを両側に広げる。男の胸が露わになる。メスを男の喉の下あたりに押し当て、皮膚を縦に切り裂くと、男のくぐもった声が暗いビルの谷間に響いた。
メスをもう一度喉元につきたて、今度はもっと深く切り裂いた。激痛で男が身体を捩ろうとしたが、しっかりロープで身体を縛っているので動けない。切り裂いた男の皮膚から血があふれ出し、シャツを赤く汚している。傷口に両手の指を差し込んでひっかけ、左右に広げる。男が絶叫して暴れる。白い肋骨が露わになった。まだ心臓が規則正しく鼓動している。
大型のペンチで肋骨を掴むと、男が暴れるのも構わず力を入れてねじ切る。左右の肋骨を3本ねじ切ると、カバンからレンガを取り出して胸骨にたたきつけた。男の身体が硬直し、動かなくなった。あれほど激しく動いていた心臓も沈黙した。ブロックを数度たたきつけて胸骨を砕き、ペンチで破片を取り除くと、止まったばかりの心臓が露わになった。男はすでに絶命していた。
メスで身体につながっている血管を切断し、心臓をつかみ出す。胸が高鳴る。これでまた一歩、あの人に、神に近寄ることができたのだ。
心臓を逆さにし、両手で絞るようにして、中に残っている血液を太い血管からできるだけ絞り出すと、コンビニのレジ袋に放り込んだ。血まみれになったレインコートを脱ぎ捨て、ゴム手袋も外して一緒に丸め、大型のゴミ袋に入れた。
早く持って帰って中の血液を洗い出し、ホルマリンを入れた瓶に保存しなくては。デイバッグに今夜の生贄を大切に納め、腰を上げる。地面に仰向けになった男が、魂の抜けた目でこちらを見ていた。この世にいて何の役にも立っていなかったこの男が神の生贄になれたのだ。今頃きっと幸せに思っているに違いない。
血の付いたレインコートとゴム手袋を入れたゴミ袋を公園のゴミ箱に乗り込み、はやる気持ちを押さえながら家に戻った。玄関に入る前に直接庭に回り、水道の蛇口を開く。レジ袋から男の心臓を取り出すと、血管から水を入れて中をゆすぎ、残っていた血を絞り出した。
納屋の棚にいてあった空のガラス瓶を掴み撮って床に置き、ふたを開けると、心臓を中に収めた。最後に一斗缶の栓を抜き、ホルマリンを注いで蓋をする。
「できた」
ようやく肩の力が抜けた。納屋にもう何年も置かれている埃だらけの段ボール箱を移動し、床板を外した。中に六個のガラス瓶が置かれている。一本一本とりだして眺めていると、うっとりした気持ちになってくる。母親に見つかると大変なので、ガラス瓶を元に戻し、新しい七本目の瓶を秘密の隠し場所に納めると、床板をはめ込み、段ボール箱を元の位置に戻した。
赤い髪のカツラを取って玄関に回り、何食わぬ顔でドアを開ける。家に上がって部屋を覗き込んだが、母親も父親もまだ仕事から戻っていない。
離れにある自分の部屋に入る。うずたかく積まれたDVD。ビデオデッキが唸っていて、部屋の温度が高い。エアコンをつけると、やりかけていたDVDの編集の続きを行う。
女が男に犯されている。
つまらない映像だ。
でも、いつか本当の魔女を殺す映像を撮ってやる。
やりかけの編集を手早く終えると、今夜撮影した映像を画面に映し出した。
よく撮れている。今夜も悪い男を切り刻んで神の生贄にしてやった。
これで、あの人にまた一歩近づけたのだ。
魔女の棲む街 2
魔女の棲む街 2
はぁはぁと、荒い息を吐き、男がのしかかって来る。息が湿っていて生臭い。接している肌も汗で湿っていて、中年男性独特のベットリとした感じがする。妊婦みたいに張り出した腹にのしかかられ、重くて苦しくてたまらない。
はぁ、はぁっ、と肩で呼吸をしながら、男が春姫の頬や乳房を撫でる。
「すごく、よかったよ」
「私も……気持ち良かった……」
春姫は男の身体を抱えるように手を回した。飽食の限りを尽くした結果、腰のまわりにたっぷり肉がついている。よほどいいものを食っているのだろう。
「可愛いね、春姫は」
男が春姫の大きく張り出した乳房に手を伸ばし、無遠慮に揉みはじめる。
ようやく男が身体を離した。すっかり萎れた男の塊が、体内からずるり、と出て行く。股間から漏れ出た精液が太腿を流れ落ちた。気持ち悪い。
「わたしのこと、どうだった?」ベッドに横になった男を抱きしめる。
「最高だったよ」
「じゃあ、シャワー、浴びてくるから、その間に返事を考えておいてね」
「返事?」
「知ってるくせに、意地悪なんだ」
そう言って、男の頬にキスをする。ここは押しどころだ。
「ははは、わかった、わかった」
床をベッドに残し、春姫はベッドを出た。プリッとしている自慢の尻をわざと男に見せつけながら、バスルームに向かう。
やれるだけのことはやった。あとは結果を待つのみ。あの男はどう返事するだろう。美味くゲットできれば、この先小遣いに困ることはないのだ。
シャワーを捻り、湯の温度を高めにセットする。きめ細かい肌の上を、水滴がライトの光で煌めきながら流れ落ちていく。春姫はボディーソープを身体に擦り付け、男の汗や唾液を洗い流していく。身体の奥からどろりと零れ落ちる感覚に、思わず太腿を閉じた。男の放ったものが出てきたのだ。ピルを飲んでいるので妊娠する恐れはない。
高級娼婦だから、これくらいは当たり前。いつからか、そう思うようになった。指を使って、掻きだすように体の中から精液を洗い出し、シャワーを止める。
ふと、鏡に映った自分と目が合う。同級生たちよりずっと大きな胸に、血管が透けて見えるほどの白い肌。
もう、大人の女と変わりないほど、身体は十分発達している。けれど、髪は染めていない。化粧だって、平凡な女子高校生レベル。清楚そうな少女のほうが、中年男たちには受けがいい。
鏡の前でポーズをとってきた。なかなか、いけていると思う。
しばらく、鏡に映った自分の裸体を見つめていたが、いつまでもバスルームにいるわけにはいかない。男をベッドに待たせているし、早く結果を聞きたい。
体を拭いて、バスタオルを体に巻くと、シャワールームから出た。
男がベッドに座ってタバコを吸っている。
「ねえ、どう?」
男の横に滑りこんで腕を組んだ。自慢の胸を男の腕に押し付ける。
「どうしようかなぁ……」試しているのか。男のどっちつかずの態度に苛立ちを覚えた。
「愛人にしてよぉ……」
「返事はママにするよ」
「意地悪。味見して逃げる気なんだ」
男の腕を放すと、背中を向けて布団にもぐりこんだ。
「そんなに拗ねないでよ」
男は立ちあがってソファにかけてあった上着から財布を取り出した。
「ほら、お小遣いだ。これで機嫌なおしてくれ。お前を泣かせたってママに知れたら怒られちまうよ」
男が札を春姫の手に押し込んだ。五万ある。
「やっぱり、お金持ちなんだ」布団から顔を出して男を見た。
「小さな鉄工所の社長だよ」
男は全裸のままシャワールームに向かった。
あぁ、良かった。この様子じゃ、愛人にしてくれそうだ。それに、思ったほどしつこくなかった。払う分、元を取ろうとしゃぶりついてくるせこい男じゃない。やっぱり、金持ちは心に余裕がある。
もらった金を財布にしまおうと、ソファーから通学鞄を取り、チャックを開けた。中には、試験勉強をするために久しぶりに持って帰って来た教科書が入っている。
「あっ」
思わず声が零れた。中に入れておいた携帯電話のライトがピカピカと点滅していたからだ。
真紀子からだった。
ボタンをクリックして耳にあてた。
「もしもし、春姫」
「お疲れ。調子はどう?」
「親父を二人も相手にしてへとへとだよ。六万円はいったけど、二万円あいつらにピンはねされたばかり」
不満な様子で言う。それでも、ケツ持ちの安尾から客を紹介してもらえるので贅沢できると、真紀子は喜んでいる。
「知ってる? クラブの傍のビルの裏でまた人が殺されたんだって」
「へえ」
そういえば、数日前にも歓楽街で男が殺された。身体を切り裂かれ、心臓を抜き取られていたのだ。どこかのカルト野郎の仕業だと新聞に書いてあったが、チンピラが何人殺されようが、春姫には関心はなかった。
「刑事がいっぱいいて、あの近辺に親父たちが寄りつかないんだ。でも、あいつらが客を紹介してくれるから助かるよ」
私はあんなやつらに利用されたくはない。
「そっちは?」
「脈ありかな」
「やった! 金持ち親父ゲット!」
「まだわかんないの」
「あんた、可愛いから愛人にしてくれるよ。お小遣いもいっぱいもらえるじゃん」
男がバスルームでよかった。こんな話を聞いたら、腰を抜かしたかもしれない。これが今時の女子高生の会話なのだ。世の親父たちは今時の本当の女子高生の姿を知らなさすぎる。男の思っているようなファンタジーな世界は、女子高生の世界には存在しない。
「じゃあ、明日」
いつもの調子で真紀子が電話を切る。
あんたこそが、正直者さ。
以前どこかで聞いた、フォークソングの歌詞を思い出した。
魔女の棲む街 3
魔女の棲む街 3
ホテルからカップルが出てきた。中年男と若い女。見たところ、不倫のようだ。やりたてのほやほやかよ。股間から湯気があがっているぜ。
にやつく安尾をみて、カップルが足を速めた。
安尾は視線をホテルに戻した。ちょうど制服を着た女子高生が出てきた。中年男と手をつないでいる。にこやかに手を振って、ホテルの前で男と別れた。タバコを道路に捨て、女子高生に近寄っていく。
安尾に気づいた女子高生が、微笑んでカバンを開けた。財布を取り出すと中から一万円を取り出して安尾に手渡した。
「今日は稼げたな。明日も街に出てこれるか?」
「学校が終わったらすぐ」
「じゃあ、四、五人はいけるな」
「そんなにしたら、あそこが擦り切れちゃうよ」
女子高生がけらけら笑っている。
「稼げるときに稼いでおけよ。客はジャンジャンまわしてやるから」
「やった!」
客の紹介とケツ持ち。それが安尾の仕事だった。安尾が中年親父を女子高生たちに紹介し、事が終わった後、一万円を受け取る。これが面白いように儲かる。いつの時代も、中年親父たちは幻想を追い求め、女子高生の身体を金で買う。これからもじゃんじゃん儲けてやる。
弟分の慶太や義雄にも、もっと金づるを連れて来いと、発破をかけたばかりだ。それも、可愛い女子高生を連れて来いと。女子高生というだけで客をとれる時代はとっくに終わっている。上玉の女を引きこむことができれば、面白いように稼げるはずだ。
最近は、ちょっと甘い顔をすればつけあがる女子高生も多い。生意気な奴がいれば、いくらでも俺がシメテやる。
本間真紀子も稼いでくれるようになってきた。あれもいい身体をしている。それに、金を欲しがっている友人もいるらしい。援交をやりたがる友達をどんどん紹介しろよといってある。
そういえば、あいつも本間真紀子の友達だったな。
榎本春姫。
メロンのような胸にプリッと張り出した尻。女子高生離れした、いい身体をしていやがる。あれは稼げる女だ。しかし、ビッチのくせに大物ぶっているのが気に入らない。
先日、ケツ持ちを持ちかけたが、乗ってこなかった。高価なブランドのバッグとアクセサリーを持っているので身体を売っているのは間違いないのだが、どこで客を取っているのかがわからない。真紀子の話だと、金持ち親父の愛人をやっていたらしいが、最近別れたらしい。
あいつだけは、一度痛い目に合わせないといけない。いつかあの生意気な女をひいひい言わせてやる。俺もやくざなのだ。いつまでも下っ端ではいない。あんな女に舐められてたまるか。
それに、兄貴も俺を頼ってきている。最近は上納金もきっちり納めている。上納を納められるようになれば、ヤクザは一人前なのだ。
胸ポケットに入れた携帯電話が鳴った。弟分の慶太からだ。
「あ、兄貴。準備できました」
「サカキバラは?」
「もうこっちに来て、カメラのセッティングをやってます」
「よし、十分でそっちにいく」
表通りに出てタクシーを捕まえ、ホテル街を出る。駅前を通るにぎやかな大通りだが、五分も直進すると、行きかう車の数が急に減る。
町はずれの住宅街を抜けると、倉庫や町工場の集まった地域に出た。タクシーを降り、街灯もない道を歩いていくと、ポツンと建つプレハブ倉庫が見えた。倉庫の扉を開けて中に入ると、慶太と義雄が待っていた。
撮影準備はもうできていた。いつものように、サカキバラが部屋の隅で死人のような顔で立っていた。本当に気味の悪い男だ。
倉庫の打ちっぱなしのコンクリート床に、両手を後ろ手に縛られた若い女が転がされている。
「これ、この前の突っ込みを編集したやつです」
慶太がマスターDVDを安尾に渡した。
「さっき、サカキバラに中身を見せてもらったんですが、うまく編集できていました」
「すぐにダビングに回せ」
安尾が床に転がっている女を見た。女子高生だと聞いている。髪を金色に染めた不良娘だ。この女を攫うように、サカキバラがリクエストしてきたのだ。
数日前、街でサカキバラが出会いがしらでこの女にぶつかった。女に文句を言われて唾を吐きかけられ、連れの男に顔を張り倒されたらしい。
その連れの男が、先日殺されて心臓をえぐり出された。
まさか、サカキバラがやったのか? しかし、あのひ弱そうな男に人殺しなどできるはずがない。
「いい身体をしてますよね」
義雄が色欲に満ちた目で女の身体を舐めるように見ている。身体を縛られ猿轡を噛まされて、女が涙を流して震えている。
サカキバラが壁から離れて傍に寄ってきた。カメラを女に向けてスイッチを入れた。
「じゃあ、やるか」
安尾の合図で、慶太が頭から目だし帽をかぶり、ポケットから覚せい剤のパケを取り出した。サカキバラがカメラを慶太に向けている。慶太は注射筒でペットボトルから水を吸い上げると、スプーンの上に取り出した覚せい剤の結晶に水を注いで溶かし、再び吸い上げた。
「天国に連れていってやるぜ」
怯えた目で男たちを見ていた女子高生の腕を取り、慶太がニードルを血管に突き刺した。シリンジが押し込まれ、覚せい剤の水溶液が女の身体の中に消える。
義雄が女の口から猿轡をはずした。
「お願い、助けて……。家に帰して」女が泣きながら懇願している。
「そう邪険にすんなよ。今から気持ちのいいことしてやるぜ」慶太が女の腕をすっと撫でると、女が悲鳴をあげて身体を捩らせた。
「へへ、効いてやがる」
安尾のその言葉を合図に、目ざし帽をかぶったふたりの男が、少女に襲いかかった。少女の悲鳴が倉庫に響く。しかし、ここには誰も助けに来ない。
サカキバラがカメラのファインダーを覗き、衣服をはぎ取られている少女を撮影している。全裸にした少女の腕を義雄が押さえつけた。慶太がズボンを脱いだ。ペニスが勃起している。慶太が少女の脚を開き、少女の股間に腰を割り込ませると、ペニスをねじ込んだ。
少女の悲鳴が上がる。しかし、それは苦痛からくる悲鳴ではない。シャブを決めた女たちは、みな同じ声をあげる。
「たまらねえ! もっと顔をこっちに向けろ! そうだっ! なんだ、感じてる顔じゃないか!このスケベ女め!」
わめきながら義雄も勃起していた。サカキバラは一人、黙ってビデオカメラのファインダーを覗いている。この男の撮るアングルは病的に執着していた。これでもか、これでもかという変態じみたカメラアングルだった。結合され、軋まんばかりの局部、耐えきれず流れ出す少女の体液の一筋さえ、撮り逃がさないとするようだった。
激しく出し入れする度、ヒクヒクと痙攣する局部と激しく喘ぐ少女の顔を、サカキバラが舐めるように撮影する。
少女が大声をあげて達した。シャブセックスのいいところはこれからだ。最高の絶頂感が治まることなく持続する。
湿った音とともに、怪異な塊を、少女の膣は飲み込んでいった。その様をサカキバラのビデオカメラが静かに収めている。
少女は叫んで、のけぞった。シャブセックスの快感に抗える女はいない。 むちっとした健康的な脚が、大きくMを描いていた。 巨漢の義雄に抱えられ、剥き出しの性器に勃起した巨大なペニスが出し入れされる。
少女は汗だくになり、涙を浮かべて首を激しく立てに振った。
カキバラのカメラアングルは相変わらず執拗だった。 喘ぐ少女の顔をアップで撮り、そのままカメラを舐め上げられる乳首におろす。義雄の舌で濡れ、ピンクの可憐な狂おしいまでに上をむいて勃起している。そして、激しく出し入れされ、激しく収縮する少女の性器に接近する。
少女が立て続けに絶頂に達する。それでも、慶太はやめない。
少女の身体の中に、慶太の熱い液が注がれた。
女がうわごとのように呟くのが聞こえてきた。
慶太は全てを少女の奥に注ぎ終わると、ペニスを抜いた。少女の腟口から精液が太股に流れ出した。
入れ替わるように義雄が少女に覆いかぶさった。少女が犯されシャブ中にされて堕ちていくのを撮影する。サカキバラのアイデアだ。その過程を編集してDVDに焼いて裏DVDとして売る。
がちレイプの裏DVDは高値で売れる。
高価な編集機械はこの少年が持っている。あとはマスターを受け取ってダビングするだけ。シャブ中になった少女は闇風俗に売り飛ばす。まだ高校生だ。買い手はいくらでもいる。
まったく、笑いが止まらない。
義雄が腰を振るわせながら、少女の奥深くに注ぎ込んだ。少女は息も絶え絶えにぐったりとしている。
仕事を終えた男たちが、だらしなく弛緩したペニスを露出したまま、タバコを吸っている。全裸のまま床に横たわっている少女が放心状態のまま身体を痙攣させていた。
サカキバラが撮影機材の片づけをはじめた。
「マスターができたら連絡してくれ」
「僕、もっと自分で納得いく映像を取りたいんだな」サカキバラが振り向いて微笑した。その不気味な表情に、安尾の背筋がぞっとした。
「映像? どんな」
「綺麗で悪い女を見つけてきてほしい。魔女のような女。街を探してもいないんだ」
「そうかい」ふと、春姫の顔が思い浮かんだ。この男のカメラの前で屈辱に歪む春姫の顔は、きっと美しいはずだ。
「わかった。いいのを探しておいてやるよ」
サカキバラは不気味に微笑むと、撮影機材の入ったバッグを背中に背負い、倉庫から出ていった。ミニバイクのエンジン音が遠ざかっていく。
「気味の悪い奴だな」安尾が床に唾を吐いた。
「でも、あいつといると金になりますよ」
儲け話があるといって、向こうから近づいてきた。DVD自主制作仲間が喜ばそうと思ってやっているんだけど、闇で捌くと結構儲かる、手を組もうと言ってきた。
サカキバラは安尾たちが、女子高生を風俗に紹介しているということを知っていた。安尾はサカキバラのことを怪しんだが、ひ弱な奴だったので、一度言うとおりにしてやったが、この男が編集したDVDのマスターが百万で売れた。それ以来の付き合いだ。
まあ、今のところは問題ない。あのガキをさんざん利用して、儲けるだけ儲けてやる。
魔女の棲む街 4
魔女の棲む街 4
校門には誰もいなかった。鉄門は閉まっている。一時間目の授業は始まったばかり。走れば遅刻は大目に見てくれるが、そんな気もなく、鉄門を押し開けて中に入ると春姫はそのまま校舎の裏に回った。
プレハブ倉庫の裏で、真紀子が一人、地面に腰を下ろしてタバコを吸っていた。短いスカートの奥から下着が顔を覗かせている。
「パンツが見えてるぞ」
「おっ、春姫もさぼり?」
「お前もこんな朝っぱらからニコチン補給?」
春姫は真紀子の横に腰を下ろすと、学生鞄からセーラムライトを取り出した。
「今朝は機嫌がいいのね。昨日はだいぶ稼いだんじゃないの?」
春姫が最初のひと吹かしを辺りにまき散らす。
「まあね。それでかな。股間がやたら痒いんだけど」
真紀子がスカートの中に手を入れる。
「病気じゃないの?」
「大丈夫」と言って、スカートから出した指を鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。
「うん、いい匂い」
春姫が彼女からそっと離れた。
「絵里がさ、高田にぞっこんなんだよね」
「高田?」
「高田アキラ」
「ああ、あのチャラオか」
「あいつのこと、どう思う?」
「どう思うって、見た目まんま。あんな奴信用できないじゃん。性欲処理用に遊ばれるだけだよ」
「そう思うっしょ。でも。絵里に言っても全然聞く耳持たずだし」
「無駄無駄。恋は盲目だもん。特にあの子の場合、前の男にあんなひどい目に遭わされたのに、全然懲りてないし」
ポケットの携帯電話が鳴った。
「誰?」
「ママからメール」
「何? 仕事のメール?」
「そう」
すぐにかけなおす。
「昨日の彼、どうだった?」
「とてもいい人。紳士だったよ」
「向こうも気に入ってくれたみたいなの。もう、話付いているの。あなたには月二十万入るわ。できれば断らないでほしいんだけど」
やった! 思わずその場で拳を握った。
「私なんかでよければ、こちらからお願いします」
「そう、よかった」
ママの声がパッと明るくなる。ママにはいくら入るのか知らない。私が二十なら、十ってところか。金を持っていそうな男だった。それくらいなんともないだろう。
「今夜も彼に会える?」
「大丈夫」
ママが男との待ち合わせ場所を説明する。
「どうだった?」
電話を切ると、真紀子が顔を覗き込んできた。ピースサインを送ると、「やったジャン!」といって背中を叩いた。
「いいなあ……。今度奢ってよ」
「あんたも金持ちのパパを見つけろ」
「それはそうと、あの安尾には気をつけたほうがいいよ。あんたに眼ぇつけてるみたいだし」真紀子が地面にタバコの吸い殻を押し付けた。
「あいつにとやかく言われる筋合いないじゃん。客は自分でとっているんだし。街で男を見つけるわけじゃないんだし、ショバ代を払えんてどうして言われなきゃ、なんないわけ?」
「やくざにそんな言い訳通用しないよ。あの街のあいつらの縄張りで遊んでいて身体売ってる女の子は、みんなあいつらに金渡さないとダメなんだよ」
「そんなの、おかしいじゃん。普通の女の子だっていっぱい遊んでるじゃん」
「そうだけど。だから、あまり近づかない方がいいよ。あいつらに理屈は通用しないんだから」
春姫は大きなため息をついた。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。