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キチガイたちの挽歌 3



 北に向かって車を走らせると、十分ほどで海沿いを走る国道にでた。そのまま東に折れて、目の前に広がる倉庫群を目指す。女はすっかりおびえてしまい、横で身体を震わせながらハヤトの様子を窺っている。
 港湾倉庫が立ち並ぶ一角に出る。見張りの後輩に手を振ると、向こうが慌てて頭を下げた。シュウジが倉庫の前に車を停めた。カローラがその後ろに停まる。ドアを開けると潮の匂いが車内に流れ込んできた。腕をつかんで引きずり出すと、女が短い悲鳴を上げた。
カローラのドアが開いて、後部座席からコウイチが奴を引きずり出した。
「た、助けて……」奴はすっかり怯えている。コウイチに足蹴りを食らわされ、奴が悲鳴を上げた。
 その様子を見ていた女が泣き出した。自分たちがこれからどんな目にあわされるのか、思いを巡らせたのだろう。
「お前も奴と同罪だ」
「私、何にも知らないもん」
「ダチが殺された現場にいただろ」
「だって、リンチ止めるなんて私には無理だったもん」
「そんなことをいってるんじゃない。俺が言いたいのは、ダチが殺されるのをお前が笑いながら見ていたってことだ」
 女の顔がこわばった。
「捕まえたお前たちの仲間しめあげて聞いたんだ。諦めろ。言い逃れはできないぜ」
 シュウジと一緒に女の腕を掴み倉庫のドアを開けた。男が泣きべそをかいて地面にうずくまっている。
「お前もこい、こらぁ」
 男の肩を掴み、コウイチがこちらに引きずってきた。男の顔は既に鼻血で真っ赤に染まっている。
「車の中でヤキいれていたみたいですね」シュウジが関心なさそうにその様子を見ている。
「お疲れ様です」
 倉庫に入ると若い連中をまとめているタツヤが頭を下げた。続いて若い連中も声を揃えて頭を下げる。全部で十名ほど。暇を持て余してタバコを吸っていたからか、倉庫内は靄がかかったように霞んでいる。
「拉致ってきた三人はどうした?」
「あそこです」
 タツヤが倉庫の奥を指差した。三人の男が折り重なるように倒れている。引きずってきた女が腰を抜かして床に座り込み、泣き出した。
「なんスか、その女?」タツヤが女とハヤトを交互に見た。
「極道の女」そういって、横に立つシュウジが鼻で嗤った。
「お前らに土産だ。好きに遊んでいいぞ」
「えっ? やっちゃってもいいんすか?」
「そのために連れてきたんだよ」
 ハヤトがタツヤの肩を叩くと、「マジっスかぁッ!」とガッツポーズをした。
「おい、ハヤトさんからの差し入れだってよ!」
 タツヤの言葉に、それまでだるそうにしていた若者たちの目がぎらぎらしてきた。 
「やった!」
「超ラッキー!」
 男たちに囲まれ、女が唇を震わせながら目から涙を溢れさせている。恐怖のあまり、声も立てられない様子だった。タツヤが若い奴を仕切り、全員でじゃんけんを始めた。
「よし、俺からだ」
 熊のようなの大きな身体を揺すりながら、ユウジが女に迫っていった。確かブラジルとのハーフだと聞いている、チームの中でも一番大柄な男だった。
 横から男の悲鳴が上がった。コウイチが先に始めたようだ。
 ユウジが女に覆いかぶさる。女の悲鳴が上がる。
「でけえおっぱいしてやがる」
 ユウジは女のデカい乳房を服の上から揉んだ。若い男たちのぎらついた目に囲まれ、女は抵抗できないでいた。こいつらの欲望を満たしてやらないことには、そのうちとんでもないことを始めそうだ。いや、もう三人殺しているからもう遅いか。しかし、三人殺ってもこいつらは平然としている。今どきの若者の集団心理の恐ろしさに、いまさらながらぶるっとくるものがある。
 コウイチとジュンは交互に男を蹴っている。顔中血まみれになった男が、悲鳴を上げながら命乞いしている。
 こんな騒ぎも久しぶりだ。

小説とは(1)



いまさらとお思いになるかもしれませんが、小説とは、以下の構成で成り立っています。

・説明(叙述又は要約)
・描写(風景・心理・行動)
・会話(台詞)

小説とは、これらのパーツの組み合わせなのです。
そしてその組み合わせの手際の良さが、作者の力量のひとつともいえるでしょう。

パーツの組み合わせなどと書くと簡単なような気がするのですが、それがなかなか書けないんです。
優れた書き手たちによって、我々読者は物語の世界に引きこまれてしまいます。
活躍している作家の小説を読んでいると、頭の中で主人公が笑い、泣き、怒り、悩み、会話し、動く様子が、まるで映画を見ているように、頭の中に各シーンが次々と浮かんできます。
ただ、作者の書き綴った文字を読んでたどっていくだけでです。

これは本当にすごいことだと思います。
彼らの語りの巧みさには嫉妬すら覚えることもあります。

キチガイたちの挽歌 2



「いらっしゃいませぇ」
 営業スマイルを浮かべたウェイトレスが寄ってきた。茶髪ストレートで胸もでかい。いい女だ。三人の前を進んで窓際の席に案内する。
「ブレンド三つ」コウイチがにやけ顔でオーダーを言う。視線はウェイトレスの胸と尻ばかりを追っている。
 制服の短いスカートをヒラヒラさせながら、女が調理場に戻っていく。スカートから伸びた白い太ももがチラチラと眩しかった。
「あれ、いいじゃん!」
 コウイチが視線をウェイトレスの太腿に向けたまま話しかけた。ハヤトはその言葉を無視して、店の奥に目をやる。チンピラ野郎が女の前で下品に笑いながら何かを話している。その様子を見て思わず舌打ちする。
「スタンガン持ってきたか?」コウイチの脇を肘でついた。
「ポッケの中」
「向こうはもう食い終わっている。そろそろ出てくるだろ」
「まだ十時だぜ。これからビールでも飲むんじゃねえのか」
「女とやるだろうから、ホテルが埋まる前に出てくるさ。今の奴の頭の中は、この後どうやって女を連れ込むかでいっぱいのはずだ」
 出てきたコーヒーをさっさと飲んで三人は店を出た。指示通り、マスタングを挟むように、赤のカローラと白のスカイラインが停めてある。マスタングの運転席側に停めたカローラの後部座席にコウイチとジュンが乗り、反対側に停めたスカイラインの後部座席に、ハヤトが陣取った。
 タバコをちょうど一本灰にし終えたとき、ファミレスから奴が出てきた。女の肩を抱いている。悪いが、今夜奴は女とはできない。いや、今夜で奴の人生は終わるだろう。チンピラとはいえ、れっきとしたヤクザだ。中途半端なことはできない。
奴がマスタングの運転席のドアを開けた。スカイラインのドアを開け、ハヤトが外に飛び出す。同時にカローラから飛び出したコウイチが、背中を向けた奴の首筋にスタンガンの電極を押し当てた。奴の身体が一瞬硬直し、崩れ落ちるように地面に倒れた。
 ハヤトは何が起こったのか理解できていない女の腕をつかむと、そのままスカイラインの後部座席に引きずり込んだ。
「えっ? なに? ちょっと……!」
 後部座席で彼女は身を縮めた。
「ヤダ、何? ちょっ……降ろししてよ! なッ…! イ、イヤッ! 降ろして!」
「静かにしろや」
 ハヤトがナイフを女の鼻先にあてがった。女は目を大きく開いて息を止めた。
「おとなしくしてれば、命までは取らねえよ。オマンコが少々汚されることになるかもしれねえがな」
「い、いや……」
「じゃあ、お前も奴と仲良く海に沈むか?」
 女が身体をぶるぶる震わせながら、必死で頭を振った。ハヤトは女の両手首を後ろに回し、ガムテープを何重にも巻いた。

キチガイたちの挽歌 1



 シュウジの携帯が鳴った。左手でハンドルを握りながら、右手で携帯電話を耳に押し当てている。
 後部座席に座っているハヤトが、ウインドウを下ろして銜えたタバコに火をつける。午後十時。歓楽街の土曜の夜はこれからだ。
「ジュンからか?」電話を置いたシュウジに聞いた。
「はい。ヤツはファミレスで飯食ってるらしいっす」
「やくざがファミレスで飯食ってどうすんだよ」横に座っているコウイチが、逆立てた髪を撫でながら嗤う。
「ヤクザじゃねえよ。金のないただのチンピラだ。クズだよクズ」
 ハヤトが右手の人差し指と中指にはめたシルバーのスカルリングを撫でる。相手の顔面をぶちのめしたときに指輪が相手の頬を切り裂く感覚が好きだ。あのチンピラ野郎の皮膚が裂け骨が砕ける感触を想像すると、身震いしてきた。
 コウイチがタバコを銜えて火をつけると、煙を噴きながら顔を近づけてきた。
「この前スカウトした女に、チンポ銜えさせてやったんだ」
「お前のイカクサデカマラをか? それ、気の毒だろ。いたぶりすぎ」
「拷問っすよね」
 ハヤトにつられて運転席のシュウジも笑った。女子高に入ったばかりの一六歳の少女だったはずだが、顔を思い出せない。
「でも、うまそうにしゃぶっていやがったぜ。それも、うめえんだ。たまんなくなって口の中に思い切り出してやったら、全部飲み込みやがった。それから言いやがるんだ。『これで私もアイドルになれますか?』だって」
 コウイチの下品な笑い声が車内で響く。
「まあ、少なくとも素質はあるだろうな。売れるかどうかは別として」
 外を眺めながらハヤトが呟いた。三センチほど下ろしたウインドウの隙間から、タバコの煙が外に流れていく。初めて会う男のチンポも銜えられないようじゃ、今の芸能界でアイドルをやっていくのは無理だ。
「シュウジ、奴は何人つれているんだ?」
「女を一人連れているだけらしいっす」シュウジが答える。
「女かよ、そりゃいい」コウイチが後ろから運転席の背もたれを叩いた「その女、いただいちまおうぜ。ちょうど溜まってたんだ。倉庫で待ってる連中の土産にもなるしな」
「いいぜ、好きにしても。どうせヤクザの女だ。何しても構わねえよ」
 コウイチが笑う。この男の笑い方はどこか下品だ。ハヤトはスカイラインの後部座席で、ルームミラーに映るシュウジに顎を飛ばし、急ぐように言った。
 国道を車で飛ばし、途中脇道に入る。そこから三十分ほど走ったところで、ファミレスが見えて来た。
 ファミレスの前に、ハザードを点滅させた赤いカローラが停まっている。その後ろ車をつけると、赤いカローラからジュンとケイタが下りてこちらに走ってくる。
「店の奥の席にいます」窓を下まで降ろすと、ジュンが窓を覗き込んでいった。
「奴は車か?」
「はい、あのマスタングです」ジュンが駐車場の隅に停めてある黒いマスタングを指差した。両側のスペースが開いている。
「奴が車に乗り込むところを拉致る。マスタングの横にカローラを放り込んでおけ。シュウジもこの車をあいつの横につけおくんだ」
はい、といって、シュウジが頷いた。ケイタが踵を返してカローラに戻っていく。
「出てくるまで待つか」コウイチが窓の外に吸殻を投げ捨てる。
「まずはツラ拝みに行こうぜ」
 ハヤトがジョリーロジャーのダウンジャケットを手に持った。シュウジを残してコウイチと一緒に車を降り外に出た。ジュンが後をついてくる。
 ドアを開けて店の中に入る。客席のざわめきが三人を包んだ。

小説のテーマ(2)



新人賞に応募するなら傾向と対策は必須なので、両者の分類はある程度必要なのは言うまでもありません。
しかし、そうであっても、書きたいものを書いて、出来上がった作品を見て、その時にどちらかに分類する必要があるのならそうすればいいのです。

重要なのは書くこと、です。
あれこれ決めてからでないとかけないというのは、ある程度の書き手になってから言うこと。
初心者は考えるより先にペンを取ること。

小説は面白ければそれでいいのです。
もちろん、「何がおもしろいか」は人によって違います。
あらゆる年齢、男女、職業、地域の人にとって面白い小説を書くのはプロの作家でも無理でしょう。

要するに書きたいことを書く。その中で、自分なりにどうかいたら面白いのかを考えながら書く。
そうして、出来上がった作品をじっくり見直して、「この作品のテーマは何なのだろうか」をじっくり考えるというのはどうでしょうか。

小説のテーマ(1)



小説を書いている人、あるいは書こうとしている人の多くは小説の書き方について指南した書物を読んでいることと思います。
そんな小説作法の指南書を覗いてみると、小説を書き始める前に「テーマ」を決めろと必ず書いてあります。

「テーマ」という言葉はよく聞くけれど、どんなものかと問われてうまく説明できる人は少ないでしょう。
たしかに、小説にとって、テーマは大切なものです。
だからといって、無理に小説のテーマを決めようと肩に力を入れる必要はありません。
「テーマ」を、文言をもって説明できるようにする必要はないのですから。

そもそも「テーマ」というものは「決める」ものなのかどうかは疑問です。
書きたい事柄がありペンを取る。その時点で大なり小なりその小説はテーマを持っているはずだからです。
無理にテーマを決めようとすると、これから書く作品そのものを型にはめてしまうことになりかねません。

同様に、これから書く作品を、純文学にするかとか、エンタメ(大衆・娯楽)小説にするかといった、型にはめて考えるのもやめたほうがいいでしょう。

このブログについて



先日、「自分の能力を越えたところに目標を置かない」と書きましたが、そう思うことでヘビーな思いこみから解放されて、自由に書いていく気になれました。

さて、次に考えることは、はたして自分は何が書けるのか、ということです。
皆さんは、自分の小説が実は小説の体をなしていないかもしれないのではないかと、不安になったことはないですか?
私はしょっちゅうあります(もちろん、今もです)。

小説を書くためにはさまざまの技術があります。
なので、正しく小説を書くためには技術を学ばなければなりません。
その技術を使いこなせるようになることが重要なのです。

小説家に目指すなら小説を書くための技を身に着けるのは当然のことです。
そんなこと言われなくてもわかっているとお叱りを受けそうですけど、それが簡単なようで、意外と難しい。

世の中にはさまざまな小説作法の本が出版されていて、どれももっともらしいことが書いてあります。
なるほどと思わず膝を叩き、その瞬間から上手に小説を書けるような錯覚さえ起こります。

しかし。もちろんそんな甘いものではないです。
問題はその作法本の内容をいかに自分のものにするか、なのです。
スポーツでも小説でも、基本が大事です。
基本をおさえておかないと応用が利かないのです。

このブログでは、小説を書くための、ほんとうに基本的な事柄を取りあげていく予定です。
すでに多くの小説を書いてこられた人にとっては、ごく当たり前のことばかりかもしれません。
そういう人は気づいたことを教えていただければ助かります。

私はこのブログを私なりの小説作法の集大成にしたいと思います。
モチーフの見つけ方、プロットや構成のしかた、そして、小説の命ともいえる描写方法と会話。
それに、推敲とチェック方法、梗概の書き方等など。
まあ、脱線することも多いと思いますが……。

あくまでも私なりの「小説作法」なので、間違いとか誤解があるかもしれません。
それをご了承の上で、ご指導いただけると助かります。

はじめに



私は、ずっと作家になりたいと思っていました。
純文学の読後の寂寥感が大好きで、若いときは、純文学こそが真の文学だと思っていました。
難しいものを読むことで、自分は頭のいい人間だと錯覚させたかっただけなのかもしれません。

しかし、初めて小説を書いたとき、あまりのできの悪さに落ちこみました。
プロの作家の本を読み、こんな難しい文章はやはり自分にはかけないのだと、鬱々と過ごしたものでした。

しかしある日、小説は「ただの暇つぶし」でいいのだという誰かの言葉を聞いてから、気が楽になりました。
ここにきて、ようやく小説は自由で楽しい娯楽なのだという考えに思い至ったのです。
誰もが最初に読書の楽しさを知るのは、ファンタジーやSF、探偵小説やミステリーからでしょう。
子供だけではなく、歳を重ねてきた読者にもそっち系が圧倒的大多数なのです。
私の周りのアラサー・アラフォー・アラフィフで、純文学など読んでいるものはいませんし。
もちろん、純文学はいいものですよ。今もたまに読みます。

途中中断した時期もありましたが、長い間小説を書き続けてきました。
小説をこれまで書いてきて痛感したことは、「自分の能力を越えたところに目標を置かない」ことです。
もちろん、作家としてデビューを果たすためには志を高く持つことは必要です。
しかし、高い目標の重圧に負け、「どうせ俺なんて……」と夢を諦めてしまっては本末転倒だと思います。

「継続は力なり」
今の自分の実力を基準に、のんびり焦らず、しかしデビューという目標はしっかりともって、心に秘めた熱い思いを文章に綴っていくしかないのです。
等身大の自分というのもなかなか捨てたものではない。
ありのままの自分を磨き上げることで、それまで見えていなかったものが見えてきます。

このブログでは、私の書いたオリジナル小説を紹介するとともに、自分自身が実践してきたハウトゥーを再確認する目的で、小説を書くための基本的な技術について書いていきたいと思います。

そして、いつか作家としてデビューして見せます。

皆様の忌憚のない意見やご指導、お叱りを待っています。
プロフィール

アーケロン

Author:アーケロン
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