6
風が窓を叩いている。手を伸ばして床に置いた腕時計を掴んだ。
午後八時。少し腹が減ってきた。
ぐったりと仰向けになっていた梨花が抱きついてきた。彼女の大きな乳房が、遼の二の腕でつぶれる。
「まだ痛む?」
ナイフで切られた傷を、テープの上から指で撫でる。
「たいしたことはない。テープ剥がすと傷が開いちまうがな」
「縫ったほうがいいんだけど」
半分開け放したカーテンから、ぼんやりとした街の明かりが入ってくる。過ごしやすいはずの十月半ばなのに、遼も梨花も全身に汗をかいていて、狭い部屋は若い二人の性の匂いで満ち溢れていた。
遼は梨花の横でうつぶせになり、銜えたタバコに火をつけた。暗い室内に、タバコの火が蛍のように光る。
「タバコやめなさい」
「そのうちな」
「そればっかり。ねえ……声、大きかった?」
「いや」
「だんだんよくなってる」
遼に抱かれるまで、梨花は処女だった。
「いらないものを捨てたいの。一緒に手伝って」
そう言って誘ってきたのは梨花のほうからだった。同年代の女の子と同様、早く捨ててしまいたかったというわけでもなさそうだったが、遼に恋愛感情があるとも思えなかった。抱き合っている今でも時々、梨花が何を考えているのかわからないときがある。
吐き出した煙で周囲が霞む。梨花が遼の身体に裸体を押し付けてきた。しっとりと汗ばんだ身体がほどよく火照っている。窓の外を走り去る車のエンジン音以外、何も聞こえてこない。静寂が二人の空間を、やさしく包み込んでいた。
「隣の部屋に聞こえてたかも。壁薄いもん、この部屋」
「隣は空き部屋だ」
「嘘。この前、音が聞こえていたわよ」
「逃げたのさ。借金取りから」
肺一杯にタバコの煙を吸い、一気に吐き出した。やくざの怒声とともに、隣の部屋から住人の気配が消えた。逃げたのか、それともやくざに連れ出されて借金のかたに内臓を抜かれたのか。
「伊達君が、最近あんたが狂暴になってきてるっていってたわ」
やはり気づいていたか。伊達とは中学からの付き合いだ。たしかに、暴力衝動が抑えられないときがある。わけもなく湧き上がってくる苛立ち。それをどう抑えたらいいのか、最近分からなくなってきている。
「暴力的な男は嫌いか?」
「嫌いじゃないわ。それに、女の子を抱くときは優しくなるもん」
「女は苦手だ」
「初めて聞いた」
「どう触れていいか、未だにわからない」
「女の体のことはよく知ってるじゃない」少し拗ねたような声。
「そういう意味じゃない。女をどう扱っていいかわからないから、抱くとき優しくなるんだよ」
遼は手を伸ばして梨花の尻を撫でた。張りのある大きな尻。触り心地もいい。
「私の首、絞めたくなるときがある?」
「いや、そんな趣味はないな」
「絞めたくなったらそのまま殺して」
「死にたいのか?」
彼女が遼に腕を絡めたまま、顔を枕に埋めた。
「お前が死にたがる理由がわからんな。家は裕福、勉強が出来て顔もスタイルもいい。お前は女子たちの憧れの的なんだぜ」
「男子じゃなく?」
「男子はおとなしい女が好きなんだ。お前は気が強すぎる。特に男に対しては強く当たるときがある」
「そうね。最近の男ってホントにはっきりしないからイラついちゃうの」
「怖いな」
「さっき河原で言ったこと、本当? 私たちのことを知ってる奴がいるって」
「確信はない。しかし、いてもおかしくはないだろ。クスリの取引で手に入れた金を奪われたんだ。連中は必死でこちらを探しているはずだからな」
「怖気づいたついたのね」
「そうだな」
「私は絶対やめないわ。クスリに関わると碌なことがないんだと、売人たちに思い知らせてやるの」
梨花は親友を売人にジャンキーにされ、それが原因で親友を失った。だから、売人を恨んでいる。
「今、密売人が卸問屋を疑って焼き入れて回っているの。手を引き始めている卸もいるわ。両者の騒ぎに気付いて警察も動きだしている。もう少しで、両方に大きなダメージを与えられるの」
「たった四人でどこまでできるというんだ」
「できるわよ。私はひとりでもやるわ」
遼がタバコの吸い差しを灰皿の上でつぶした。
「こんなことやめて、楽しい学校生活を送りたいと思わないか?」
「私は毎日楽しいわ。特に密売人が逮捕されたりつぶし合いをしてるってニュースを聞いたときは」
「屈折してるな」
「人並みに楽しい学校生活を送りたいとも思うわ。でも、そんな甘えは許せないとも思ってしまう。この気持ち、わかる?」
遼は沈黙した。よくわかる。遼も同じ気持ちだった。
梨花が布団から出て行った。箱からタバコを一本抜き取り口に銜えて火をつけた。
バスルームからシャワーの音が聞こえてきた。
私はひとりでもやる。梨花が嘘を言っていないことはわかる。彼女が考えそうなことだ。
5
夕闇の気配が漂う中、河原に心地よい風が吹き渡る。
学校の傍の河原。明るいうちは部活中の生徒がランニングしたり、カップルで散策したりする場所。
しかし、街灯も少なく、夜になると闇に包まれ人影もまばらになる。
遼は川の流れる音を聞きながら、河川敷の遊歩道をゆっくりと歩いた。
看板の辺りに三人の人影が動いている。他の面子はすでにそろっているようだ。
「遅い!」
梨花の強い視線が、暗闇の中から突き刺さる。こちらを睨みつけているのだろう。
「時間にルーズな男は信用されないわよ」
「たかが五分遅れたくらいで喚くんじゃない。焦らされるほど悦びは大きいっていうぜ。特に女はな」
「最低」
仲間は四人。リーダーの伊達芳樹、ハッキングのプロの三島悠太、情報収集担当の鈴木梨花、そして暴力担当の阿久津遼。
伊達がカバンから分厚い封筒を取り出し、仲間たちに渡していく。わざわざ封筒に入れてくるところが律儀な伊達らしい。
奪った金は一千万。ひとり二五〇万。高校生にとってはこの上もない大金だ。
「これで新しいゲームソフトが買えるぞ」
三島が封筒の中身を取り出して数えている。
「今まで稼いだお金、もう使っちゃったの?」
「パソコンにスマホにカメラ。一通りそろえるとなくなっちまった」
「呆れた。馬鹿みたい」
「どれも、仕事にも使うものだよ」
「ほとんどお前の趣味に使うものだろ?」
遼の言葉に梨花が三島に鋭い目を向ける。
「趣味って、何よ。変なエロゲーとかじゃないでしょうね」
「違うよ」
「そんな生易しいもんじゃないさ」
遼の言葉に梨花の目が鋭くなった。三島が意味ありげににやけている。
「悠太のおかげで昨夜はいい稼ぎになったんだ」とリーダーの伊達がその場を取りまとめる。チェック漏れはあったものの、三島の情報は概ね正確だった。梨花が街の売人の情報を拾ってきて、三島が売人のスマートフォンをハッキングして支配下に置く。あとは売人の情報網に潜り込んで取引の日時、場所、メンバーを割り出していく。三島にとっては造作もない作業だ。
梨花と三島の集めた街の売人情報は膨大な量になる。三島のハッキングに気づいていない売人は日々取引の情報を送ってくれる。その中からこれはと思う取引に殴り込み、金を強奪する。
金を奪われた売人はクスリを売った相手の仕業だと思い、両者の間で小競り合いが起っている。今や卸と売人はお互い疑心暗鬼に陥っていて、取引はスムーズに進まなくなってきている。
「次の仕事の話がある」
金をポケットに押し込み、踵を返そうとしたとき、伊達が声をかけてきた。
「取引の情報が入ったのか?」三島を見ると、彼がにやりと笑った。
「まあ、そうだな。卸の連中は大忙しだ。この街には売人が多いから」
三島がいつものいやらしそうな笑いを浮かべた。
「あてになるのか? 俺たちのことは連中の間でも噂になっている。罠ってこともあるぜ」
「私もこれから裏取るわ」
前回のミスを挽回したいのか、梨花の言葉に力がこもっている。
「たしかに、罠の可能性もある。だが、売人もブツを仕入れないことには商売あがったりだ。どこかから仕入れないとな。梨花と悠太の情報次第だが、戦いの手を緩めるわけにはいかない。
伊達はゆっくりと三人を見回し、確認するように言った。伊達はあえて戦いという言葉を使った。そう、これは遼たち四人の戦いでもあるのだ。
「安易な判断には賛成できないな」
「私たちの集める情報が信用できないっていうの?」
「嫌な予感がする。俺たちのことを知っている奴がいる」
「そんなはずはないよ」三島が口を挟んだ。「売人たちはクスリの卸問屋がブツを売り渡した後、金を奪いにきたと思ってる。両者は手を結んで稼ぐ傍らで争っている。このまま続けりゃ、両者の信用関係は破綻するだろう」
「どこにも騙されるやつはいるが、全員じゃない。中には頭の切れる奴だっている」遼が皆を見回した。
「何か、気になることでもあったのか?」
「いや……」屋上に現れた、見覚えのない女子生徒。同じ匂いがした。偶然だったのか。
「何、弱気になってるのよ」
「そういうわけじゃないが、だいぶ稼いだ。そろそろ潮時なんじゃないのか」
「何言ってるの。私はやめないわ、絶対」梨花の鋭い声があたりに響いた。
4
「火、貸してくれるかしら?」
そろそろ帰ろうか。そう思った時、突然背後から声をかけられた。
振り向くと、女子生徒が立っていた。
遼の知らない女子生徒だった。
いつからそこにいたのか。気配は感じなかった。
青白い肌。透明感のある瞳。肩にかかる程度の漆黒の髪。無機質なプラスチックのような独特の存在感。
妙に大人びた、しかし、どこか病的な、まるで幽霊のような少女だった。
遼は黙って自分のライターを差し出した。
「ありがとう」
細いがよく透るはっきりとした声だった。
彼女が慣れた手つきで自分のタバコに火を着けた。タバコを持つ細く綺麗な指に思わず目がいく。
この学校は生徒数の多いマンモス校で、一学年六クラスもある。それに、遼は学校の同級生にまるで関心がない。遼の知らない生徒がいても不思議ではない。
自分以外にこんな時間に屋上に来てタバコを吸う生徒が他にいるとは。しかも、女子生徒だ。
香草のような強い匂い。
自分の知らないタバコの匂いだ。
「変った匂いだな」
それまで黙ってタバコを吸っていた女生徒は、瞳をわずかに動かして遼を見た。その値踏みするような目に、イラっとした。
「海外のだから」
「どこのタバコなんだ?」
「フィリピンよ」
今時、タバコを吸う女子生徒は珍しくない。それは進学校であっても同じだが、こうまで校内で堂々と吹かす奴はいない。
「今日はどのクラブも部活が中止なのね」女子生徒が運動場を眺めながら、煙を吐いた。どうでもいいといった感じだ。
「テスト前だからな」
「学校の中には、もう誰もいないわね」
「まだ教師たちがいるさ。大声で悲鳴を上げれば飛んできてくれる。女子の悲鳴は空手部員やボクシング部員の拳より強力なアイテムだ。無実の男をたちまち極悪の犯罪者に仕立て上げることができる」
彼女がクスリと笑う。
「痴漢に間違われたことでもあるの?」
「いや。でも、痴漢に間違われた男を見たことはある。女の悲鳴で駅員が警官を連れて飛んできたが、警官は男の主張なんざ、まるで聞こうとしなかった。推定無罪って言葉、知ってるか? 法治国家の大原則が、この国では守られていない」
「本当の痴漢だったのかも」
「違うさ。そいつ、俺の目の前でずっとぼうっとしていたんだ」
「助けてやらなかったの? この人は犯人じゃないって証言してあげればよかったのに」
「トラブルなんかに巻き込まれる奴が悪いのさ。外でぼんやりしていたら、殺されたって文句は言えない。日本人は平和ボケしすぎているんだ。常に気を張り詰めていないと。油断している奴が悪いんだよ」
女子生徒がちらっと遼を見た。
「ここでこうやってあなたと二人でいるのは、私が油断しているからかしら」
「さあな」
「私にひどいことしたら、あなたはその倍返しを食らうことになるわよ」
「怖いな。俺は暴力が大嫌いなんだ。穏やかに行こうぜ」
女がまたクスリと笑った。
ふたりのタバコの煙がり風に流されていく。遼は自分の吸い殻をコンクリートの床に捨て、踵でもみ消した。タバコの小さな火の粉が風にかき消されていく。
彼女がこちらを見ていた。
「逞しいのね」
「はあ?」
「体、鍛えてるの? 部活をしているわけでもないのに」
「どうして部活をしていないと思うんだ?」
「放課後に部活なんてするタイプには見えないから」
彼女が遼の左腕にすっと手を伸ばした。
「触ってもいい?」
「かまわんよ」
「悲鳴、あげないでね。痴漢に間違われたくないから」
思わず、笑ってしまった。
彼女が腕をつかんでくる。昨夜の傷に痛みが走ったが、表情は変えなかった。
ふと、彼女から自分と同じ匂いがした。
「ありがとう」そう言って、女がまた運動場のほうを向いた。
「じゃあな」
昇降口まで戻って、一度振り向いた。彼女は夕空をバックに柵にもたれてタバコを吸っていた。その姿はまるで幻のように見えた。
まるで、本物の幽霊のようだ。
数年前、この屋上から飛び降り自殺した生徒がいた。薬物中毒で、ひどい鬱状態になっていたらしい。
何を馬鹿なことを。
遼は、自分の下らない妄想を吹き消すとタバコとライターを制服の内ポケットに忍ばせて階段を下った。
3
ホームルームが終わり、担任が教室から出て行った。クラスメートたちが席を立って教室を出ていく。
席を立った梨花が近づいてきた。
「さっきの数学問題、全然わかんなかった。解き方教えてよ」
「悪い、用があるんだ」
「嘘つけ」
梨花が足で軽く蹴る。
「パソコンには強いくせに、数学は苦手なんだな」
「数学なんて、一生懸命勉強しても将来何の役にも立たないわよ。本当に無駄。時間の浪費、青春の浪費よ」
「板書の回答を丸暗記しろ」
「適当ね。暗記科目じゃあるまいし」
「誰でもそう思うんだよ。でも、数学ほど暗記に頼れる科目はないんだぜ。俺は回答を丸暗記するだけで、数学はいつもトップテンなんだ」
「いい加減なこと言って。教科書やプリントと同じ問題、出るわけないじゃん」
「こんな感じの問題が出たらこうやって解くんだって覚えるんだよ。数学は応用問題のパターンもその回答パターンも、意外と限られているってわかるぜ」
「本当? 教えるの、面倒がってない?」
梨花の問いかけには応えず、カバンを持って席を立った。
「また屋上?」
「俺のルーチンなんだ」
「いつか先生にばれるんだから。じゃあ、先に行くね」
「まだ時間があるんじゃないのか?」
「買い物があるの。可愛いワンピースを見つけたの。売れる前に買わなくっちゃ」
「ワンピースなんて、これからは好きなだけ買えるさ」
「あんたは?」
「帰るのは面倒だからこのまま直接行くよ」
「一緒に買い物に行く?」
「遠慮しとくよ」
「ふん」
じゃあ、先に行くね。そう言い残して梨花が教室を出て行った。
やっとうるさい奴が消えた。遼は教室を出ると一人で屋上に上がった。
午後三時過ぎ。赤い夕陽の照り返しで紫色の雲が燃え落ちていくように見える。昼間の余熱を少しはらんだ風が通り抜けて行った。
もう十月なのに、空気はまだ夏の匂いを残している。今年の二月、つまり南半球が真夏の季節、南極の気温が十八度を超えたらしい。いくら夏とはいえ、雪と氷で閉ざされた南極でだ。そして日本では夏を通り過ぎて十月になってもこの暑さだ。地球は年々異常になってきている。
風が強くなってきた。タバコの火が消えないようにライターを手で覆いながら火を着けた。白煙が細く流れ、肺の中にタバコの味が流れ込む。
屋上に設置してある排気装置がくぐもった音を立てている。
吸い殻を指で弾いた。床に落ち微かな残り火を放つ吸い殻を足で踏み潰し、排水溝の方に押しやった。
昨夜はそこそこの儲けだった。それに、チェック漏れがあったが、四人の手際もよかった。三回目ともなると手慣れたものだ。だが、だからこそ油断は禁物となる。ちょっとした気の緩みが命取りになるのだ。
この街では、相変わらずドラッグが流行っている。今時の高校生に、違法薬物の使用に対する罪悪感などまるで無い。ドラッグの売買は洒落た小遣い稼ぎとスリリングなゲームを兼ねていて、中高生の間でちょっとした流行になっている。
この進学校も例外ではない。校舎内でも公然と薬物の取引が行われている。県内有数の進学校でまさかドラッグの取引が行われているなんて、親も教師は夢にも思わない。知らぬは大人だけだ。
そして、様々な密売グループが手を伸ばしてくる。街で知り合った学生を足がかりにして、密売グループは校内に販売路を広げていく。他校やOBと繋がる者から横流してもらう者、果ては暴力団と取引する者さえいた。
ドラッグの売買と使用が違法行為だと理解していても、周囲にいる友人達が気軽に手を出しているので、誰も深刻にとらえていない。今や若者にとって、ドラッグは手軽な気晴らしであり、眠気覚ましやダイエットサプリなのだ。
だから、深みにはまる者も珍しくない。
アルミホイルの上のクスリをライターであぶり、気化した煙を吸う。それがいけてる若者のスタイルだ。静脈注射は注射痕残る。ダサいジャンキーしかやらない。
遼たちは僅か四人の小グループで、そんな薬物を街に流している連中相手に戦っている。
梨花は薬物の売人を心底恨んでいる。得意のコンピュータを駆使して闇に潜む売人の情報を炙りだすのが彼女の役目だ。ダークウェブにダミーの取引情報を流し、接触してきた売人のスマートフォンに三島がプログラムしたウイルスを感染させるのだ。
三島は梨花と同じく、コンピュータを武器にしている。梨花がウイルスを感染させた売人のスマートフォンを特定し、得意のハッキングで売人たちの携帯電話を乗っ取り、取引の情報を引き出して遼や伊達に流している。正義のためという大義名分など、この男は必要としていない。ゲーム感覚で小遣い稼ぎをしているだけだ。
伊達は正義感の強い男だ。頭も切れるし決断力もある。リーダーの素養に恵まれているし、女にもよく持てる。それに、遼とは中学入学以来の親友だ。
下校時刻はとっくに過ぎていたが、家には誰もいない。帰ってひとり部屋にいるのもくだらない。だから、用のない日はいつも屋上にいた。三人の仲間以外の連中とは、表面的には適当に付き合っている。毎日同じことを喋り、人間関係を適当にこなすだけ。だらだらとした退屈な日常。時々、自分が馬鹿に思える時がある。そんな時はひどく虚しい。だから、たまに刺激は必要だ。退屈な日常を紛らわすために、売人たちをぶちのめす。
吐き出した白煙が風に散らした空中に消えて行くのをぼんやりと見つめた。眼下には薄青い暮色に沈んだ街が見えていた。貧素な商店街の明りがぽつぽつと灯りはじめている。
母親をジャンキーにしたのはやくざだった。やくざにいいようにもてあそばれ、捨てられた。自分の父親は誰なのか、遼は知らない。おそらく、父親もどこかのやくざなのだろう。典型的なスケコマシの顔だと三島に言われたことがあるし、自分でもそう思うときがある。もしかしたら、自分は母親のヒモだった男の子供なのかもしれない。
2
カーテンの隙間から、雲一つない青空が見えている。昨夜の厚い雲はどこに行ったのか。
遼は布団から出てテレビをつけた。
ニュースキャスターが事件のニュースを流している。昨夜、駅で高校生が老人を三人刺殺した。働けなくなった年寄りは社会のお荷物だと叫びながら、老人たちを次々刺殺したらしい。犯人の少年は覚せい剤を使用していたとのことだ。
またか。最近では珍しい事件ではない。
全国の薬物事犯は十月になって三千件を超えた。特に少年少女の使用が増えているらしく、薬物使用が原因の殺人事件も頻発している。
タバコを銜え、火をつける。女性キャスターの訳知り顔のコメントに、吐き気を覚える。
次のニュース。密売組織同士の争い。少年二人が襲われて殺された。
煙を天井に振り上げる。襲われたのはクスリ問屋、襲ったのは問屋と取引している売人グループだ。
ゴキブリ同志、殺し合えばいいのよ。梨花の機嫌のよさそうな顔が目に浮かぶ。
昨夜の連中が警察に届けるはずはない。ひとり二五〇万の儲けか。昨夜の仕事は悪くなかった。
室内着のトレーナーを脱いで左腕のテープを剥がす。傷は浅かったが、傷跡は十センチほどある。テープで留めておかないと傷跡が開いてしまう。病院で傷を縫いたいが、こんな傷を見られたら、すぐに警察に連絡されてしまうだろう。
腹も刺されたが、防刃チョッキを着ていたので皮膚にまで刃が通らなかった。だが、腕を切られたのは油断からだ。地面に倒れた男を痛めつけるのに夢中で、後ろから飛びかかってきた男に気づかなかった。
今後の仕事に差し支えなければいいが。
シャワーを浴びる。昨夜飲んだウイスキーがまだ少し残っている。仕事の成功をひとりで祝ったが、酒臭いのはまずい。午前中には消えるだろう。せめて教師に気づかれないように注意しなければ。
テープを貼り替え、制服に着替える。二本目のタバコに火をつける。本数が増えている。制服がタバコ臭くなると、梨花に睨まれてしまう。
外に出た。太陽がまぶしい。晴天は苦手だった。自分の汚い部分が他人にさらけ出されてしまいそうな気がするからだ。
バスに揺られながら街の中を通過していく。他校の生徒が列をなして通学路を歩いている。今の若者の間では、薬物が大ブームになっている。売人があの手この手で販路を広げ、学校内にまで販売網が侵入している。あくまで統計上の話だが、あの列の中の何人かが確実に薬物に手を染めているのだ。クスリはファッションの一部。そう割り切っている奴もいる。
ガキは薬物の本当の怖さを知らない。遼は母親がクスリで壊れていくのを長い間見てきた。刑務所から出てきたとき、何と言ってやろうか。言っても無駄だ。刑務所から出てきたら売人がまた群がってくる。どうせまた数年娑婆にいたら中に入ることになってしまうだろう。無駄だとわかってはいるが、せめて、母親が出所するまでに一人でも多くの売人を消しておいてやる。
バスが停まった。同じ学校に通う生徒たちがバスを降りていく。バスを降りたら、またタバコを吸いたくなってきた。
学校へと延びる緩やかな坂を歩いていく。連れ立って歩く女子生徒たちの華やいだ声が、二日酔いの頭に響く。
「おはよう」
後ろから肩を叩かれた。二日酔いの脳が揺れ、思わず顔をしかめた。振り返る。梨花が怪訝な顔をした。
「朝から機嫌悪そうね」
「二日酔いだ」
「信じられない」
「昨日は飲みたい気分だったんだ。ひとり二五〇万の稼ぎだ。お前はうれしくなかったのか?」
「お金なんて、どうでもいい」
「じゃあ、お前の分け前、俺にくれ」
「いや」
「家が金持ちなんだから、金なんて要らないだろう」
「それとこれとは別、労働の対価よ」
「まあ、物は言いようだ」
「でも、今回のことは私と三島君のミス」
「気にするな。お前たちはよくやってくれている。お前たちがいなければ取引の日時や場所はわからなかったんだから。少なくとも俺にはお前たちの真似はできない」
「かばってくれるの?」
「まあな」
「腕、大丈夫?」
遼が驚いて梨花を見た。
「どうして知ってる?」
「電話で伊達君から聞いた。ナイフで切られて怪我したって。俺のせいだと言って落ち込んでいたわよ」
「口の軽い男だ」
「マークが漏れたのは私たちのせい」
「もういい。大したことはなかったんだ。俺がこうやっていつもどおり登校しているのがその答えだ」
「なんか、今朝は優しい……」
梨花が潤んだ目を向けてくる。
「気のせいだ。仕事がうまくいったから機嫌がいいだけだ」
梨花が遼の尻を蹴り上げた。
「調子に乗んな。優しい顔するとすぐにつけあがるんだから。それに、今朝、タバコ吸ったでしょ? 口が匂うわよ」
「酒とタバコと女は俺の必需品なんだよ」
「最低……」
梨花が早足で遼を追い抜いていった。
1
午前二時。
街灯に照らされる倉庫群。その隙間を埋めるように、畑が広がっている。そばに停めたバイクのエンジンが冷えるときの、カチカチという音が聞こえてくる。
街の明かりが、頭上を覆う分厚い雲を照らし出している。ぼんやりと光る雲を見ながら、阿久津遼は銜えたタバコに火をつけた。風下に立っていた伊達芳樹が舌打ちする。
「タバコはやめろよ、遼」
遼が伊達を見た。「簡単にやめられたら苦労はしねえよ」
「やめようなんて気はさらさらないくせに」
「そのうちやめるさ」
「せめて、学校で吸うのはやめろ。そのうち先生にばれるぞ」
「そうよ」突然、イヤフォンから鈴木梨花の声が聞こえてきた。「あんた、制服にタバコの匂いが染みついて臭いんだから」
うるさい女だ。
「クスリやるよりかはましだろ」
吸い殻を吐き飛ばし、靴底で吸い殻を踏み潰した。
「動いたぞ」
三島悠太の声がイヤフォンから聞こえてきた。
「取引を始めたようだ。相手は二対二で間違いない」
薬物の取引は一瞬で終わる。拳を守るため、革のグローブを手にはめる。
「終わったようだ。二人、そっちに向かっているぞ」
三島の声。遼と伊達は、そばの倉庫の陰に隠れた。
話し声が近づいてきた。二人じゃない。
街灯の下に男が三人現れた。
「三人だぞ」伊達が短く言う。
「嘘」っと梨花が短く叫ぶ。俺の方も信号は二人分しかないぞと、三島も戸惑っている。ふたりがマークしていない奴が混じっているのだ。
「近づいてくるぞ。どうする」
伊達がこちらを見ている。
「やるさ」
よしっといって、伊達がスタンガンを取り出した。
「お前の道具は?」
「素手でいい」
「ふたりとも引き返して」梨花が叫ぶ。「私と三島くんのマークが外れていたわ。想定外のことが起こったの、作戦は失敗よ」
「どうってことねえよ」常にすべての情報がそろっているわけじゃない。その場の状況に応じて臨機応変に判断する。
「駄目よ、勝手なことしないで」
「じゃあ、リーダーの芳樹に判断してもらおうぜ」
伊達のほうを見る。「やろう」伊達が迷うことなく判断を下した。
倉庫の陰から出て、三人組の前に躍り出た。三人の男が慌てて足を止めた。
「お前ら、誰だ」
男のひとりが睨みつけてきた。二十五、六歳。やくざに使われている、クスリ問屋の幹部。
「いい値で売れたか? 最近の卸相場はグラム十万くらいらしいじゃねえか」
遼の言葉に男たちの顔が変わった。
「どこのもんだ、お前ら」
三人がナイフを取り出した。
「強盗だよ。お前の持っているカバンを置いていけ」
「ふざけやがって、殺してやる」
男たちがにじり寄ってくる。「二人ともまだガキじゃねえか。かといって許してもらおうなんて思うなよ」
男たちがナイフを突き出して脅してくる。そのしぐさで、ナイフの使い方に慣れていないとわかる。
遼が踏み出した。その勢いに押され、男たちが後ずさりした。カバンを持っている男がナイフを振るった。ナイフの刃が服を切り裂く。皮膚には届いていない。
「しょうがねえな。これで正当防衛だ」
こちらを睨みつける男の懐に飛び込む。男の薙ぎったナイフの切っ先をかわし、鼻っ柱に拳を叩き込んだ。殴られた男が地面に倒れた。伊達も踏み出した。彼が残り二人を相手にする。遼は金の入ったカバンの強奪に専念することにした。
倒れた男の全身に靴先を叩き込んでいく。履いているのは安全靴で、靴先には指先を守るための金属の保護具が入っている。
靴先から男のあばらの折れる感触が伝わってきた。背後で、伊達が二人の男を引き留めている。スタンガンが火花を散らす音が繰り返し聞こえてくる。
腕に灼けるような感覚。振り返ると男が立っていた。ナイフで腕を切られたのだ。
伊達がやってきて、男にスタンガンの電極を押し荒れた。男がうめき声をあげ、地面に倒れる。
「すまん、止められなかった。大丈夫か?」
「どうってことねえ」
どうしたの、とイヤフォンの向こうで梨花が叫んでいる。
動かなくなった男の手からカバンを引きはがした。中を開ける。札束が十個。一千万。それをカバンから取り出し、服やズボンのポケットに押し込んでいく。
周囲に、伊達が動けなくした二人の男たちのうめき声が響いている。スタンガンの電圧は高めてあるはずだ。
上着を脱いで確認する。シャツの左袖が血で染まっているが大したことはない。
「よし、これでブツも手に入れたし金も取り戻したぞ」
取引相手の密売組織の仲間を装う。
「お前ら、こんなふざけたことをして逃げられると思うなよ」
カバンを持っていたリーダー格の男が呻きながら言った。
「じゃあ、捕まえて見ろよ」
「俺たちは相手が高校生だろうと容赦はしねえ」
驚いて男を見る。
「どういう意味だ」
「そのうちわかるぜ」
口を割らせてやる。ポケットからナイフを取り出した。
早くしろ、とバイクのエンジンをかけた伊達が背後から叫んだ。
イタリア保健省は、国内の新型コロナウイルスの感染者が1万5000人を超え、
死者が1016人に達したと明らかにした。
死者が1000人を超えたのは中国に続いて世界で2カ国目だ。
全土で住民の移動制限が発動され、仕事や通院、食品の買い物など必要な場合
は、申告に基づき移動が許可されるが、申告なしに外出した場合は罪に問われ
ることになる。
実際、無断外出した住民7人が拘束され、禁錮や罰金が科される可能性がある
とのことだ。
これは相当深刻な事態である。
一応先進国のイタリアですらこの惨状だ。
アフリカの国々や北朝鮮とかで、新型コロナウイルスが蔓延したら、もっと悲
惨な事になるだろう。
それにしても、死者1000人に到達する速度が早すぎる。
もはやイタリアは医療崩壊に突入して制御不能に陥っている。
人工呼吸器が限られてるので60歳以上には使わないと、医者が言ってるのには
驚きだ。
世界の高齢化1位が日本で、2位がイタリア。
こんな型ちで命に差をつけるのは非常に悲しい。
まだ医療体制が崩れてない国は、医療を崩さないこと第一に考えてほしい。
一度崩れると立て直しができなくなってしまう。
日本は個人個人が出来る小さな積み重ねや、医療現場で格闘する医師や看護師
の奮闘の結果、犠牲者を抑えられている。
2月23日のテレビで櫻井よしこ氏が、「世界で武漢ウイルスを克服できる国は日
本。日本人の国民性ならそれが可能」と言っていた。
マスクとか手洗いとか、お上に従う国民性が功を奏したのだろう。
それに、日本人は元来用心深いから、「君子危うきに近寄らず」の精神で、自己
防衛、セルフメディケーションに走る。
マスクを求めたり、消毒液を求めたりといったところにも表れている。
今回のイタリアの事態は、イタリア人のおおらか過ぎる気質が災いした。
とにかく、イタリア人は他人の言うことを聞かないのだ。
イタリアはG7で唯一、中国による「すべての道は北京に通ず計画」に参加して
その濃厚接触度は他国の追随を許さないほどだ。
日韓もそうたが、依存度が顕著に感染者の数字に顕れる。
こういう状況なのに、他のEU諸国ももはや手を差し伸べられる状況ではない。
ドイツとフランスはマスクや防護服を国内で抱え込み援助もせず、資金的支援
もしない。
自国対策で手いっぱいで、人員も医療機器も回すことができないのだ。
オーストリアはいち早く移動制限をかけ、英国のEU離脱、西からは、トルコ
経由のシリア難民が押し寄せてくる。
歴史的に疫病と民族大移動は、政治的にも大変動をおこす。
イタリアに限らずEUのどの国もEU委員会の財政緊縮策に則り、財政赤字削減
のために医療や福祉を大きく削減し、医療水準はかつての高さを誇っていない。
よって、ウイルスが拡散され、歯止めが効かないまま、あれよあれよと拡散し
てしまったようだ。
この死者数の激増を見ると深刻そのもので、現場の医師も後1週間ももたない
と訴えている。
そこへ手を差し伸べに来たのが感染源の中国で、人工呼吸器やマスク200万
枚や人員も送るそうだ。
もはや中国は自らの責任など、どこ吹く風のようだ。
幻影と嘘の擬態 【連載中】違法薬物が蔓延る街で、クスリの売人をぶちのめして金を奪う、神出鬼没の四人組の男女の活躍を描きます。
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新型コロナウイルスの影響で2020年夏に東京オリンピック・パラリンピックが開催できない場合、延期が現実的な選択肢となってきた。
大会組織委員会の理事で電通顧問の高橋治之氏は、東京大会について、今年夏に開催できなかった場合「1年から2年の延期が現実的な選択肢」とアメリカのメディアに答えた。
高橋氏は、延期を判断する時期について「アスリートのことを考えると5月では遅いのではないか」との認識を示し、「日本開催を考えるのであれば、IOCよりも先手を打って考える必要がある」と語ったとのことである。
高橋氏はいままで組織委員会の顧問としか肩書が出ていなかったが「電通」関係者だったとは驚きだ。
利害関係ど真ん中の位置する人物ですら、予定通りの開催は不可能であると考えてるくらいだから、他のIOC関係者は中止が基本だろう。
現在、日本人の入国制限を行っている国はすでに100近くに上り、近々、アメリカも日本人の入国制限を課す予定だ。
残りの国々も追随することになるだろう。
日本人の入国制限を課す国々は、自国民の日本への渡航制限策を講じるので、ほとんどの国々からのオリンピック選手団の日本への派遣はなくなる。
アメリカにしても、今年は大統領選の真っ最中だ。
再選を最優先するトランプ大統領が自国の選手団を派遣して、帰国した際に感染拡大を招くようなリスクを許すはずもない。
アメリカ人選手団の参加がなくなれば米国内のテレビ中継もなくなり、オリンピック最大のスポンサーである米テレビ局もIOCに違約金を払ってスポンサーを降りる可能性が高い。
ほとんどの国々からの選手団のオリンピック参加が消えようとしている現在、たとえ無観客であっても、実現はほぼ絶望的と言わざるを得ないのだ。
過去予定通りでないオリンピックは、中止が4回、延期が1回あった。
延期と言っても、4年後の繰り越し開催なので実質は中止である。
2024年はパリで決まっているし、オリンピック憲章から言っても1年後2年後というのはあり得ない。
残念ながら延期ではなく中止となりそうだ。
他のプロスポーツと違うのは、オリンピックは世界的に人が動くことである。
日本は苦しい中、国民が協力して拡大防止に尽力してる。
一生に一度の高校球児の夢まで犠牲にして、高校野球の春季大会の中止が決まったところだ。
なのに、オリンピックで世界中から人が来たらどうなるか。
日本は辛うじて封じ込めに成功しているように見えるが、世界ではそうなっていない。
今の状況でオリンピックを開いたら一気に感染が広がり、これまでの国民の努力と犠牲が台無しになってしまう。
たとえ今から抑え込んだとしても、開催することで人々が世界からやってくると、再び蔓延する可能性もある。
そうなれば、オリンピックどころの話ではなくなってしまう。
にもかかわらず、いまだに「延期なんてまったく考えていない」と森喜朗会長は言っている。
オリンピックは膨大な利権を権力者にもたらす。
利権にからんでいる連中は「中止」になんて絶対にしたくないのだ。
日本では全国民にコロナ検査をしている訳ではないので、実際には発表より10倍は感染者がいると試算されている。
政府が検査に消極的なのは、オリンピック開催国に感染者が大勢いると、それこそ問答無用で中止にせざるを得なくなるからだ。
この状況では、早い段階で中止を決定したほうがいいはずだが、裏のあるオリンピックだから権力者たちは冷静な判断ができないのだろう。
むしろ、高橋氏のように現実的な物の見方をできる人間が組織にいたのは驚きだ。
最も恐ろしいのは、ウイルスは遺伝子の変異を繰り返すため、長期化すれば致死率の高い株に変異してしまう可能性があることだ。
今は自国の利益ばかりを考えている場合じゃないし、そもそも開催できる要素が微塵も無い。
中止にするべきだろう。
日本高野連が、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、選抜大会の中止を決めた。
選抜大会は太平洋戦争の影響で1942~46年に中断したが、予定されていた大会が中止となるのは初めてとのことだ。
この大会が最初で最後の出場チャンスだった選手も多いだろう。
無観客ならやってもよかったのではないか、という声もあるが、正しかったかやり過ぎだったかは、誰にも判断できないのだ。
出場予定だった高校の主将が『他のスポーツも全国大会が中止になっている。残念だか仕方ないことだと思う』と話していた。
この高校はこうした考えに切り替えできるよう指導している指導者がいて良かった。
ほとんどの学校が休校になっている現状、選手の中には1%の望みを持っていた生徒もいたと思うが、ほとんどが想定内の結果だっただろう。
人生で最高の思い出の活躍の場を失ってしまい、非常に無念だろうが、生きていればどうしようもない問題にあたってしまうこともある。
生徒たちはこの経験を糧にして頑張ってほしい。
テレビのコメンテーターや司会者など、無関係の大人が『無観客でもやってほしかった』と言うものもいるが、生徒たちのことを考えるのなら、そんなおろかな発言は慎むべきだろう。