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魔女の棲む街 13


魔女の棲む街 13

 ソファに腰を落とした途端、どっと疲れが出てきた。重いため息が自然に漏れる。
「塩、まいた?」
「塩?」
「葬儀会場出るときもらったやつ」
「どこかに捨てた」
 春姫はタバコに火をつけると、フロアに向かって煙を吐き出した。罰当たりめ。そういって真紀子が自分の残りの塩を春姫の肩に振りかける。
「こんな穢れまくったクラブのフロアで清めても仕方ないでしょ。そんなのは家に入る前に玄関でやるものなの」
 肩の塩を手で払うと、タバコの煙を真紀子の顔に吹き付けた。
「まあ、気持ちの問題っしょ」
 春姫に塩を振りかけ終わると、真紀子がソファにドカッと座ってタバコを銜えた。
「聞いた? 坂上のこと。ひどい殺され方だったって」
「心臓がえぐり取られていたんでしょ。どこかの馬鹿に恨み買うようなことしてたのよ」
「でも、暴走族が心臓抉るまではやらないわよ。サイコよサイコ」
 クラスメートの亮輔が殺された。暴走族のたまり場になっているダムの傍で心臓をえぐり取られて。仲間と女を攫って輪姦していた最中に襲われたらしい。しかも、亮輔があんな残虐な方法で殺されたのに、しばらくは誰も気づかなかったらしい。犯人は音もたてずに亮輔に忍び寄り、気絶させてその場を離れ、人気のない暗い闇の中で彼を殺して心臓を抉り取ったのだ。
 急に身震いがした。まるでホラーだ。
 真紀子がフロアに一人で踊りに行った。
 あのアキラのダチだったが、アキラは特に悲しむ様子もなく、ただ退屈そうに式が終わるのを耐えているという感じだった。
 自分もそうだったけど。春姫は心の中で呟きながら、灰皿にタバコの吸い殻を押し付けた。読経の間、あまりに退屈過ぎて何度も首が落ちた。彼のために涙を流す者など一人もいなかった。所詮はそれだけの男だったってこと。女の敵が一人、この世から消えただけのことだ。
 真紀子が戻ってきた。彼女の後ろに絵里がいる。
「どうしたの?」
「この子が安尾を紹介してくれって」
 真紀子は席に座るとがカシスソーダに口をつけた。絵里が春姫の正面に座って、窺うような目を向けた。
「なんであんな奴に会いたいの?」
「今日、街で客とって、やり逃げされたんだって。それで、ケツ持ち探してるんだって」
 絵里が「お願い」といって手を合わせた。「彼のために新しいスマホ買ってあげるの」
「彼ってアキラのこと?」
 絵里が頷く。
「やめときなよ。あんた、あの男にだまされてるよ」
「でも……」
 絵里が上目使いに春姫を見ている。彼女の煮え切らない態度に苛ついてくる。それほどあの男に惚れているということか。
「まあ、いいじゃん。ケツ持ちがいれば取りっぱぐれはないし、客は紹介してもらえるし。こんなのだってすぐ買えちゃうしね」
 真希子がここ最近の成果を自慢する。彼女の買ったばかりのシャネルを、絵里がうらやましそうに見ている。
 援交か。
 金も稼げるし、ブランド物のバッグも買える。それに、グラマラスな体つきの絵里のほうが、その気になれば真紀子より稼げるかもしれない。
「安尾なら真紀子に呼んでもらいなさい。ここで待っていれば来るわよ」
「ごめんね、春姫」
 私に謝る必要などない。要は絵里にこの商売をやっていく覚悟があるかどうかだ。援助交際。一度始めるとなかなか抜け出せなくなる。
「ねえ、知ってる?」
 カシスソーダのグラスを空けた真紀子が顔を覗き込んできた。口がタバコ臭い。
「週刊誌に私たちの中学の同級生のことが出ていたわよ」
「同級生って、誰?」
「中村由紀子。あのヤンキーよ。攫われてレイプされて、その場面がDVDにされて売られていたんだって。その上シャブ中にされて裏風俗で働かされていたのよ。酷い話ね」
「へえ、あの女が? いい気味よ。それで、どうなったの?」
「今、病院にいるんだって。ここの」そういって、彼女が自分の頭を指で差した。病院に入れられたなら、まともな姿に戻れるかもしれない。裏社会に足を踏み入れたものはなかなか抜け出せなくなる。あの世界から抜け出すために必要なのは、手を差し伸べ、腕をつかんで引き上げてくれる者の存在なのだから。
「安尾さんに連絡して、ケツ持ち引き受けてくれるように頼んだげるね」
「ありがとう」まるで肩の荷を下ろしたかのような絵里の笑顔。そこまでしてまであんな男に尽くしたいものなのか。まあ、この子ももうすぐ気づくだろう。この世で本当に信用できるのはお金だけだということを。
 電話を終えると、真紀子と絵里が春姫を残してフロアに出ていった。二人向かいあって、悩ましげに腰を振りながら踊っている。春姫はバーボンソーダを啜りながらタバコを吸った。今夜は男が誰も声をかけてこない。
 フロアに目を向けると、真紀子と絵里が男に付きまとわれている。彼女が絵里の手を引いて席に戻ってきた。
「信じられない」
「どうしたの?」
「あいつら、やらせろって」
「いいじゃない。自分で客を見つけた時はピンハネされないんじゃなかったの?」
「ただでよ」
「それは虫が良すぎるわね」
 真紀子がまた携帯電話を取り出した。安尾の弟分に連絡するのだろう。彼女が電話を終えた頃に、さっきの三人組の男たちがやってきた。
「おっ、もう一人いるじゃん」
 なれなれしそうな口調で減らず口を叩きながら、春姫の横に腰を下ろした。
「ねえねえ。俺たち別々に車で来てんだよ。これからみんなでドライブに行こうぜ」
「嫌よ」真紀子がそっぽ向く。
「いいじゃねえか」真紀子の横の男が、彼女の髪を撫でる。その手を払う。絵里は身を固くして下を向いたまま、黙っている。
「私たち、これから大事な話があるの」春姫が三人の男たちを見た。もうすぐ安尾の弟分がここに来る。それまでの辛抱だ。
「じゃあ、俺たちもその話し合いに混ぜてくれよ。これでもいいこと言うんだぜ」
「ごめん、お呼びじゃないの。あっちにいって」
「はあ?」
 男が口を歪めて、馬鹿にするような目で春姫の顔を覗き込んできた。一応警告してやった。
「なあ。お前、俺たちのこと、舐めてねえ?」
 男が春姫の髪を掴んだ。前に座っていた絵里が悲鳴を上げる。
「あんたたち、いい加減にしときなよ」真紀子が三人を睨んだ。「あたしら、ケツ持ちがいるんだけど」
「どこにいるんだよ。どうせ弱っちいやつなんだろ」
「弱っちくて悪かったな」
 後ろを振り向いた男たちが、安尾を見て息を呑んだ。弟分を五人連れている。いつもの二人と、初めて見る顔が三人。年恰好からして、この三人は弟分の後輩分なのだろう。相手が三人だと真紀子に聞いて、この三人をどこかから連れてきたのだ。
「ちょっと来てくれや」
 安尾の子分たちが、三人の男を店から連れ出そうとして胸ぐらをつかんだ。必死で謝る三人を、有無も言わせずに引きずっていく。あの三人には、外に連れ出されて半殺しにされる運命が待っている。
 安尾が春姫の横に座った。
「この子か?」
 安尾が目の前の絵里を舐めるような目つきで見る。さっきまで怯えていた絵里が、よろしくお願いしますといって、頭を下げた。
「わかった。今夜から客を回してやる」
 安尾の言葉に、絵里が顔を明るくした。
「今から付き合えよ」安尾が春姫に顔を近づけていった。
「この後、予定があるんです」
「俺はお前のケツ持ちじゃねえんだ。それでも助けてやったんだぜ。その礼はきちんとするのが、俺たちの世界のルールなんだ」
「でも、私は助けを求めていたわけじゃないですよ。せっかくいいところまでいっていたのに」
「ふざけんなよ」
 安尾が春姫の髪を掴んで持ち上げた。絵里が小さな悲鳴を上げる。真紀子は泣きそうな顔でこちらを黙って見ていた。
 本当に嫌な男だ。
 しかし、この男が暴力をふるうことはない。言いがかりをつけているのはこの男の方だし、未成年の少女を殴って警察に駆けこまれればどんな目にあわされるか、この男はよく知っている。
「調子に乗んなよ」安尾は春姫の髪から手を離すと、席を立った。

魔女の棲む街 12


魔女の棲む街 12

 アキラは葬儀会場を出ると、すぐに詰襟を開けた。学ランの詰襟をしめたのは、初めてかもしれない。中学の時はブレザーだった。
 クラスで仲が良かった不良仲間と別れ、一人で喫茶店に入った。席に座るなり、絵里にメールを送り、タバコに火をつけてひと吹かしする。
 亮輔が死んだ。殺されたのだ。
 いい奴だったのに。
 いったい誰が殺ったのだ。対立していた不良グループに心当たりはない。亮輔がどこかで誰かと揉めていたという話も聞いていない。
 それに、不良の手口じゃない。
 亮輔は心臓をえぐり出されていたらしい。異常者の仕業だ。
 嫌な予感がしてきた。想像すらつかない相手の正体に身震いする。
 二本目のタバコに火をつけた時、絵里が店に入ってきた。学校の制服姿のままだ。真面目に授業を受けていたのだろう。
「お葬式、どうだった?」
 正面ではなく、横に座った絵里が、潤んだ瞳を向けてきた。
「どうだったって言われてもなぁ。葬式に出るなんざ、初めてのことだからよぉ」
 横にいる絵里の太腿に触れる。くすぐったそうに脚を閉じると、アキラに身体を寄せてきた。
「誰が殺したんだろうな」
「アキラも狙われているの?」
「知らねえよ」そんなはずはない。誰かに狙われる覚えなどないのだ。
「なあ、絵里。金、貸してくんねえかな」
「いくら?」
「そうだなぁ……。三万くらいあるか? すぐに返すからよぉ」
「うん……」
 絵里が財布から諭吉を三枚とりだした。まだいくらか持っているようだ。やはり援交しているのだろう。
「悪いな」札を折りたたんでポケットにねじ込む。
「ねえ、アキラ。私のこと、だましてないよね」
「当たり前だろ」
「昨日の夜、街で女の子と一緒だった?」
「はあ?」
 誰かに見られていたのか。誰かは知らないが余計なことちくりやがって。今、この金づるを手放すわけにはいかない。
「そんなことねえよ。誰かの見間違えだろ」
「でも、亮輔君とは一緒にいなかったんでしょ?」
「昨日の夜は家で寝てたんだ。誰かの見間違えか、お前に嫉妬して嘘ついてるんだ、きっと」
「嫉妬なんてしそうな子じゃないんだけど」
「誰なんだよ、そんなふざけたことをお前にいったのは」
 絵里は黙って下を向いた。
「なんだよ、俺にも言えねえのかよ」
 アキラの露骨な舌打ちに、絵里が怯えたように顔を上げた。
「は、春姫ちゃん……」
 榎本春姫か。あのアマ。
「俺はお前のことしか見えていないんだよ。他の女にちょっかいなんか出すもんかよ」
「ほんと?」
 アキラは手を伸ばして絵里の左の乳房に触れた。
「ちょっと、アキラ」
「今から俺の部屋に行ってやろうぜ」
 カップにはまだコーヒーが残っていたが、絵里を店から連れ出した。部屋に入ると絵里を抱き上げて、ベッドの上に放り投げた。
「もっと優しくしてよぉ」
 口を尖らせる絵里にかまわず、服に手をかけた。絵里が諦めたように目を閉じ、アキラにされるがままになった。
 絵里の制服のボタンを一つずつ外していくと、黒のブラジャーが見えてきた。ボタンをすべて外すと服を絵里の体からするりと抜いた 。
「じゃあ今度は下を脱がすぞぉ」
 スカートを脱がし終えると、絵里はブラジャーとパンティだけになった 。
「いいねぇ、肌が白くてスベスベしていて、エロい身体してんじゃん」
「もう、嫌い……」
 アキラはゆっくりと背中に手を入れパチッとブラジャーのホックを外し、絵里の腕からブラジャーを抜いた。形の良い大きな乳房が露わになった。
 アキラは彼女の胸を揉み始めた。絵里の反応を楽し見ながら舌で乳房を舐める。絵里の体がどんどん熱くなっていく。
 手を絵里の下半身へ持っていく。下着の端に指を掛け、ゆっくりと脱がしていく。絵里を全裸にすると、膝を持って開脚させた。
 綺麗なピンク色の女性器。薄い陰毛を触ってその感触を楽しんだ。
「ねえ、早くぅ……」
 指を絵里に軽く入れ、上下にゆっくり動かすと、粘液質な音が鳴った。絵里の股間に顔を突っ込み舌で舐めた。絵里の喘ぎ声大きくなっていく。
「気持ちいいか?」
 耳元でささやき耳や首をなでる
「き、気持ち……いいっ……」
「じゃあ、入れるぞ」
 絵里の脚の間に腰を入れ、彼女の上に覆いかぶさった。
 激しく腰を振ってやると、絵里はすぐに果てた。腰をひねりながら逃れようとする彼女をしっかり抱きしめて腰を振り続けると、立て続けに達した。
 今度は絵里がアキラの上になり、ぐっと腰を落とした。
「おおおお……」
 先端を包み込むような感覚に、思わず唸り声を上げた。彼女が腰を動かし始めると、あっけなく弾けてしまった。
 行為を終え、絵里が隣に寝転ぶ。目を潤ませたままの絵里が「アキラぁ……」と言ってしがみ付いて来た。
「さっきの先っぽに絡み付いてきたのって、何だ? 気持ちよすぎだぜ」
 頭を撫でると、絵里が甘えるように額をアキラの腕に擦りつけてきた。
「あ……あれね、子宮の入口。絵里の得意技」得意げににんまりと絵里が微笑んだ。
 こいつはもしかしたら萌香以上に稼ぐ女になるかもしれない。
 俺はいい男だ。こうやって女が寄ってくる。俺は女でのし上がってやる。

魔女の棲む街 11


魔女の棲む街 11

 アキラが銜えたタバコに火をつけ、夜空に向かって煙を噴き上げる。
 駅前にある天使の銅像の前は、若者であふれていた。大学生風の若者のグループや仕事帰りのOLの姿も多いが、特に目立っていたのは、スマートフォン片手に誘うようなもの欲しそうな視線を周囲に送る女子高生と、色欲も露わに彼女たちの白い太腿を目で追う中年のサラリーマン風の男たちだ。
 目の前で、女子高生が中年男に声をかけている。普通ならあり得ない話だが、この辺りではよく見かける光景だ。
 援助交際。女子高生たちは今、営業の真っ最中なのだ。
 彼女たちは女子高生という自分たちの価値をよく理解している。若く瑞々しい身体は、高く売れる間に売れるだけ売っておかなくては、あっという間に価値を失ってしまう。誰もがバスに乗り遅れまいと必死になって、はち切れそうな太腿を露わにして男を誘う。
 最近の相場は諭吉が2枚だと聞いている。あいつらがオヤジに抱かれる代償。安いビッチどもだ。
 人混みの中から女子高生風の少女を連れたチンピラが姿を現してこちらに歩いて来た。女子高生のほうはなかなかの上玉だ。チンピラが高級そうなスーツを着た中年男に女子高生を紹介している。少女の管理売春に手を出しているどこかの組のチンピラなのだろう。連中は出会い系サイトや出会いアプリで客を募っては、親父たちと女子高生たちの仲介をしている。連中を通した場合の値段は諭吉3枚。少々高めだが、中年親父たちは可愛くていい身体をした正真正銘の女子高生を抱くことができる。その内2枚が女子高生の取り分で、客を連れてきたチンピラが一万円を手に入れる。
 俺もいつか、あいつらみたいに女で食うような男になってみせる。俺はいい男だ。女たちが尻尾を振って寄ってくる。そんないい男が女で稼がないでどうする。
「アキラ!」
 明るい茶色に染めた髪を揺らしながら、萌恵が小走りで寄ってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
 両手を合わせ、上目づかいでアキラの表情を窺っている。俺を待たせるとはいい度胸じゃねえか。そう言おうとしたが、大きく前に張り出した萌香の胸を見て、思わず口元が緩んでしまう。顔は並みだが、いい身体をしている。絵里もいい身体をしているが、萌香のほうが男をそそらせる色気がある。それに、この女の舌技は素人離れしている。どんな男でもほんの数分でいかせてしまうのだ。風俗は未経験だといっていた。いったい誰に教わったのか、聞いても誤魔化すように笑うだけで教えてくれなかった。
「いいさ。俺は萌香に待たされるのも楽しみなんだ」
「ほんとに?」彼女の目がうるっと光る。
「さあ、飲みに行こうぜ」
 萌香と肩を組んで、雑踏の中に足を踏み入れた。
 先月、繁華街の路肩で暇そうに友人と煙草を吸っていたところを、亮輔と二人でナンパした。酒を飲ませその日のうちにホテルに連れ込んだが、白くてすべすべの肌、でかい胸と尻肉、それにフェラのうまさに興奮し、四発もしてしまった。
 今では萌香はアキラにぞっこんだった。そして、アキラのために稼いできてくれる。
 店に入り、アキラはビール、萌香はレモンの酎ハイを注文した。
「はい」萌香がお金を差し出した。諭吉が2枚。
「新型のスマホが欲しいって言ってたでしょ。少ないけど、足しにしてよ」
「どうしたんだよ、これ」
「アルバイト」萌香ら意味ありげに微笑む。彼女が援助交際をしているのは明らかだったが、アキラは何も言わない。俺に貢ぐために、この女は当然のことをしているまでだ。
「サンキュー、萌香」
 周囲を憚らず、萌香にキスをする。彼女は恥ずかしそうに肩を竦めた後、きゃあきゃあ言ってはしゃいでいる。この女は俺に惚れている。これからも、金を稼いで運んできてくれるだろう。
 酒を飲み、料理をつまみながら、萌香がその日一日の出来事を離し始めたが、アキラには全く関心はなかった。彼女のことでアキラが関心あるのは、彼女が持ってきてくれる金だけだった。
「ねえ、ねえ。面白いDVDを手に入れたの。アキラの好きそうなの」
 タバコに火をつけようとした時、萌香が顔を覗き込んできた。
「何だよ、エロいやつか?」
「レイプもの」
 萌香が笑う。
「すごいリアルなの。アキラの部屋で見ようよ」
「いいぜ、一発やりおわってからな」
「やだぁ!」萌香が手を叩いで嬉しそうにはしゃいでいる。本当に好きものの女子高生だ。
 飲み終わり、タクシーでアキラの部屋に行く。飲み代もタクシー代も萌香が全部出した。
 部屋に入ると、アキラは後ろから萌香を抱きしめた。
「早くやろうぜ」
「ちょっと待ってよぉ……」
 手を後ろから萌香のショーツに滑り込ませる。
「もう、ぐしょぐしょじゃねえか」
「あん……」
 萌香がアキラにキスをして舌を絡めた。キスをしながら服を脱がせていく。
 全裸の萌香を布団に寝かせると、脚の間に腰を入れ、彼女に覆い被さった。彼女が甘い声を上げて抱きついてきた。

 中でいいといったので、遠慮なく萌香の中に放出した。
「あん、漏れてきたよぉ」
 萌香が慌ててティッシュを股間にあてがう。そしてきれいに拭うと、アキラに抱きついてきた。
出したらもう萌香に用はない。
「お前が借りてきたDVDでも見ようぜ」
 抱きついてくる萌香を引き剥がし、アキラがバッグに手を伸ばした。取り出したDVDをプレーヤーにセットする。
 テレビ画面の中で女子高生らしき少女に男たちが覆いかぶさっている。無修正のレイプものだった。
「でけえチンポ」
「アキラのほうが大きいよ」
 女子高生が泣きじゃくっているのに、構わずに犯す。やり終えると、連中は注射器を手にした。シャブを打つ。再び女と交わった。女が今度は悦びの声を上げる。
「エスするとそんなに気持ちいいのかな」
「やめられなくなるっていうぜ。お前もやってみるか?」
「やだぁ。アキラ、手に入るの」
「何でも手に入るぜ」
 レイプDVDが終わった。
「噂だけど、この子、地元の女子高生だって。ネットに載っていたもん」
「だとすると、俺の知り合いにも出てもらいたいな。興奮するじゃねえか」
 アキラがタバコを銜えた。
「これ、本物じゃないよね? 裏風俗に売られた悲惨な女子高校生って噂もあるのよ」
「まさか」
 DVDが終わった。シャブ打って女子高生をひたすらレイプし続ける、鬼畜ビデオだったが、なかなかの内容だった。
 アキラは萌香を引き寄せると、股間に手を突っ込んだ。
「あっ、やだぁ!」
「なんだよ、びしょびしょじゃねえか。あんなビデオが好きなのか?」
「レイプものって興奮するじゃん。リアルにされるのはごめんだけど」
「じゃあ、もう一発やるか」
 DVDを取り出す。画面がニュース画面に代わった。ダムの傍で暴走族の少年の死体が見つかったと報じている。
 被害者の名前がテレビ面に出た。
 坂上亮輔。
 殺されたのは亮輔だった。


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魔女の棲む街 10


魔女の棲む街 10

 液晶画面の中で、嫌いなキャスターが物知り顔で話している。
 先日街で起こった心臓くり抜き事件を伝えていた。犯人は精神異常者の可能性もあり、警察は過去に小動物を虐待したことがある人物を調べているらしい。
 無能で愚かな警察諸君よ。これからも検討違いの犯人を追い続けるといい。僕は、精神異常者でもなければ、動物を虐待したことも一度もないのだ。
 赤いかつらを被って鏡を見る。笑いたくなった。街にいる馬鹿な連中と同じ格好だ。馬鹿な連中の中に身を紛れ込ませるには、馬鹿な連中と同じ格好をすればいい。それに、あんなゴミのような街の連中も、僕に心臓を捧げることによって、神に近づくことができるのだ。彼らは死して僕に感謝しなくてはならないのだ。
 革製のかばんを開ける。ネットで購入した暗視ゴーグル、ビデオカメラに三脚、スタンガン。そして、生贄をさばくためのサバイバルナイフにペンチ、ハンマー、肉切包丁、手術用のメスも入っている。
 今はシャットダウンしてある、さっきまで操作していたパソコンを見た。
 あの方のホームページが、また繋がらなくなっていた!
 サーバーの運営者が、あの方の邪魔をしているのだ!
 屑どもが!
 どうしてあの人の偉大さがわからないのだ!
 僕はきっとあの人の偉業を世間の連中に認めさせてやる。
 外に出ると、250CCの大型スクーターに跨り、エンジンをかけた。帳の降りた街に飛び出す。どこかの馬鹿な女子高生が、コンビニの駐車場で耳障りな笑い声を上げている。今はあいつらには用はない。そのうち、僕が救いの手を差し伸べてあげるよ。
 街を抜け、山に向かう国道に入る。街から離れるに従い、車の数が次第に減っていく。郊外にある住宅街を抜けると、車が一気に姿を消した。
 ダムに向かう狭い県道に入る。周囲を森に囲まれた、街灯もない真っ暗な道をひたすら進んだ。ようやく、月明かりに照らされる湖面が眼に入った。ダム湖の周囲を囲む道路に入ると、スピードを落として休憩所にゆっくりと近づいていく。
 街灯もない漆黒の闇の中で、三台の自動販売機のある休憩所の周辺だけが明るい。少し離れたところにバイクを止めると、側道脇の草むらの中に隠した。革のかばんを肩から掛け、休憩所に使づいていく。
 改造バイクが止まっていた。全部で五台。確認すると、あの男のバイクもある。
 やっと、ここにやってきたのだ!
 耳を澄ますと風にのって若い男たちの笑い声と女の悲鳴が聞こえてきた。かばんから暗視ゴーグルを取り出して装着し、遊歩道をゆっくりと上がっていく。
 わずかな月明かりだが、足元に生えている草や転がっている小石まではっきり見える。突然、鋭い光が目に飛び込んできた。連中が懐中電灯を振り回しているので、その明かりがゴーグルに入ってきたのだ。増幅された光に網膜を強く刺激され、視覚を失った。その場で伏せて、視覚が回復するまでしばらく待った。
 また、女の悲鳴が聞こえてきた。連中の姿がゴーグルの中に映し出される。ターゲットを確認する。ズボンを上げているということは、もう用は済んだのか。
 その場でじっと待つ。今日で三日目。チャンスを待つ時間が好きだった。じっくり待ったあとに獲物を仕留めたときの爽快感は、何事にも代えられない。
 女はもう悲鳴を上げていなかった。一人が女の上に覆いかぶさっていて、一人の男が腕を押さえている。あの男は笑いながらその行為を見ていた。時々、あの男の顔がパッと明るくなる。タバコを吸っているのだ。
 仲間の男がひとり、その場を離れた。自動販売機のある休憩所に下りてきた。自動販売機にコインが落ちる音、缶が転がり出る音。ジュースを買った男が戻っていく。
 あの男も、下に降りてきた。
「激しい運動をしたんで、俺も喉が渇いちまったよ」
 あの男の声だ。ジュースを買いに降りてきて、すれ違った仲間と言葉を交わしたのだ。
 チャンスが向こうからやってきた。
「お前、あっという間に出したじゃねえか」
 馬鹿どもが笑いあっている。ゆっくり立ち上がって休憩所に近寄っていく。
 あの男が自動販売機の前に立った。光がまぶしすぎるので、ゴーグルを外して、男に近寄っていく。
「ねえ」
 後ろから声をかけた。振り向いた男の首筋にスタンガンを押し当てる。糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた男に猿轡をかませ、結束バンドで手首を後ろ手に拘束すると、暗闇の中に引きずっていく。
「おーい、亮輔。二回目始めるぞ」
 男を呼ぶ仲間の声。女の泣き声が微かに耳に届く。
 休憩所の光の届かない場所まで男を引きずって来た、男が身を捩って呻いている。目を覚ましたようだ。革のバッグからビデオカメラを取り出し、赤外線モードに切り替えて三脚にセットする。
 そして、メスとハンマーを手に持った。
「さあ、宴の始まりです」
 男のシャツをメスで切り裂く。電気ショックを受けたように全身を痙攣させながら、男がのたうち回った。男を押さえつけ、シャツを破って胸をさらけ出すと、喉の下から胸の中央にかけて一気にメスで切り裂いた。
 男の断末魔の叫びが、噛ませている猿轡でこもって聞こえる。男に馬乗りになり、切り裂いた皮膚に両手の親指をねじ込み、左右に開いて皮膚を引き裂いた。男が身体をのたうたせながら暴れる。構わずメスで何度も肉を切っていくと、ようやく肋骨が見えてきた。
 ハンマーで肋骨を叩き割る。暗くてよく見えないが、辺りは血の海のはずだ。男の動きが弱々しくなってきている。ハンマーで肋骨を砕き終わったころは、男は動かなくなっていた。
 砕いた肋骨を取り除き、胸の中に手を入れる。心臓はまだかすかに動いていた。ゆっくりと握りしめ、その動きを止める。絶命の一歩手前で、男の身体が最後にぴくっと痙攣した。
 ついにやった。三日間狙い続けていた獲物をやっと仕留めた。
 興奮してくる。メスで血管を切断し、男の身体から心臓を取り出した。
 これで、またあの方に一歩近づくことができた。
 できるだけ血液を絞り出した後、ビニール袋に入れる。男の死体をその場に残し、休憩所から離れた。
 風に乗って男たちの笑い声と女の悲鳴が聞こえてきた。


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魔女の棲む街 9


魔女の棲む街 9

 午前の終業のチャイムが鳴る。黒板の前の教師が授業を途中で打ち切って、さっさと教科書と出席簿を持って教室を出て行った。この学校の教師に授業をまともに進めようとするものなどなく、またまともに授業を聞く生徒もいなかった。
 春姫が真紀子と二人で教室を出て行った。美味そうなケツを眺めていると、亮輔に肩を叩かれた。
「腹減ったなぁ」亮輔が呟いた。
「今日は焼きそばロールって気分だな」アキラがにやけて親指を黒板のほうに向ける。佐藤が席を立って教室を出て行こうとしている。
「おい、佐藤」
 アキラが前の机に足を乗せ、佐藤を呼んだ。振り向いた佐藤がいつもの愛想笑いを浮かべながらアキラと亮輔の傍に寄ってきた。
「焼きそばロール二つ買ってきてくれ。それとフルーツオーレもだ」
「う、うん」
 佐藤が突っ立ったままこちらを見ている。
「悪いが、金、立て替えておいてくれねえか? 後で返すからよぉ」
「ごめん、あまり持ち合わせがなくって」
「あぁ?」亮輔が睨んだ。「あとで返すって言ってるだろうが!」
「まあまあ」アキラが机の上にあったノートをちぎると、そこに「一万円」と書いて佐藤に渡した。
「ほら、金だ」
 亮輔が手を叩いて笑っている。
「早く受け取れよ」アキラが佐藤を睨むと、戸惑っていた佐藤がいつもの卑屈な笑顔に戻って「一万円」と書かれた紙を受け取った。
「釣りもちゃんと返してくれよな」教室を出て行こうとする佐藤の背中に大声でいうと、亮輔がまた大笑いした。
「たまんなかったよな」
「何が?」亮輔が訊き返してくる。
「春姫のケツだよ。プリッとしてて歩くとゆさゆさ揺れやがってよ。美味そうったらありゃしねえ」
「どうする? 犯っちゃう?」
「そうだな。スタンガンで気絶させてどこかに攫っちまってふたりで輪姦しちまおうか。ばれはしねえだろ」
「そうそう。あんなケツ振りながら俺たちの前を歩く奴が悪いんだ」
 二人で大笑いする。亮輔と一緒だと、何でもやれそうな気がしてくる。
 佐藤がパンとジュースを買ってきた。
「おう、ごくろう」焼きそばロールを受け取って包みを破る。もちろん、金など払わない。アキラが手のひらを差し出した。
「一万円渡しただろ、釣銭返せよ」
 佐藤は「一万円」と書かれた紙を机に置いて、「これ、使わなかったからいいよ」といった。なるほど、考えたもんだ。
「じゃあ、奢りか?」
「そうかな」
「お前、いい奴だな。俺たちの親友だ」亮輔が立ち上がって佐藤の肩を抱いた。
 焼きそばロールを食い終わると、絵里に「すぐ来い」とメールした。春姫の尻が頭にちらついて、股間が熱くなったままだ。
 しばらくして絵里が教室に顔を出した。
「何?」
「学校を散歩しようぜ」
「散歩? どこに? また屋上に行くの?」
「なんだよ、俺とやんのが嫌なのかよ」
「そりゃ、したいけど」
「昼休みに屋上なんていけねえよ。みんなタバコを吸っているから、あんなところに行くと輪姦されるぜ」
 絵里の顔を強張るのを見て、アキラが笑う。
「誰もいない、いいところがあるんだ」と言って、絵里の腕を取った。
 隣の校舎の二階に上がる。
 絵里を理科準備室に押し込むと、後ろ手にドアを閉めた。
「本当に誰も来ないの?」
「そこ、見てみろよ」壁にかけられているカレンダーを見る。部屋の使用予定が教師によって書き込まれている。
「今日はどこも使う予定がないんだよ」
 アキラが絵里の制服のスカートの中に手を入れた。
 絵里の性器を弄っていると、彼女の息が次第に熱くなってきた。
「尻をこっちに向けろよ」
 絵里が素直に従う。アキラは絵里の下着をずらすと、ズボンからペニスを取り出し、後ろから貫いた。
 絵里が吐息を漏らす。
「声を出すなよ」
 ゆっくりと腰を動かす。結合部が奏でる湿っぽい音が、理科準備室に響いた。
「中は……だめだよ……今日はやばいから……」
「わかってるよ」
 俺はもてる。学校の女どもは誰でも俺に犯られたがっている。
 春姫のうまそうなケツが脳裏に蘇った。
 いつか、あの女も犯してやる。


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魔女の棲む街 8


魔女の棲む街 8

 食事を終えた二人はエレベーターに向かった。エレベーターの中で、二人の体が触れあった。二階下の二三階で降りて、赤い絨毯が敷かれた広い廊下を歩き、部屋にたどりついた。
 室内の主照明は落とされていた。天上に吊るされた小さなペンダントライトと、ベッド脇に立ててあるスタンドランプの淡いピンク色の間接照明。部屋の奥に白いシーツのダブルベッドがおいてあった。ベッド脇の壁一面には鏡が張ってあった。ベッドの反対側の壁には大型の液晶テレビがおかれていた。
 鏡にミニスカートの可愛らしい女子高生と五十過ぎの肥った男が並んで映っている。鏡に映った春姫をみて、パトロンがほほ笑んだ。こんな若く美しい娘を抱けるのかと思うと、たまらなく嬉しいのだろう。
 パトロンが春姫の方に視線を向ける。
 視線が春姫の身体を這い回る。胸、腹や下半身、太ももへと移動する。
 舐め回すように視線を浴びせられる。
「やだよう、じろじろ見て。恥ずかしい」
 春姫はパトロンに背中を向け、服を脱いだ。ブラとショーツになったところで、パトロンがストップをかけた。
 パトロンは服を脱ぐと春姫をベッドに連れて行った。
「春姫、可愛い下着つけてるじゃねえか。勝負パンツか?」
 普段あまり身につけていない紫の上下の下着を着けていた。
「パパ、こんなの好きかなって思って。白かピンクのパンティのほうがよかった?」
「こっちのほうがいい」
 ベッドの上でパトロンが顔を近づけてきた。春姫の肩に手を回して、髪を撫でる。
「最近、女子高生とヤる事が多かったけど、みんな申し合わせたみたいに白を履いてやがる。中年男は白が好きだなんて、いつの時代の話なんだと思うぜ。別に処女なんて求めてねえのに、空しくなるじゃねえか」
 パトロンがキスをしてきた。
「パパ、シャワー……」
「このままがいい」
 パトロンが春姫からすべてを剥ぎ取り、全身に舌を這わした後、のしかかって来た。
 これまでの男より、女の扱いに慣れていると思った。触り方が優しい。いろんな格好をさせられるのは他の男と同じだったが、がつついた様子はなかった。
 上手いとか下手だとか、別にどうでもいい。これは仕事だ、バイトだ、ビジネスだ。
 あまり早く終わると二回目を求められる。適当に声を出して、あとは好きにさせた。そろそろいいかなと思う頃になって、パトロンに抱きつき切羽詰った声を出してやると、待っていましたとばかりに腰の動きを速め、そして終わった。
 四十分。いつもと同じ段取りで仕事を終えることができた。
「パパぁ……気持ちよかった……」
 最後の仕上げに、パトロンに抱きついてキスをしてやった。

 制服を身につけドレッサーの前で髪を梳き、最後に胸にリボンをつけた。
「今月のお手当だ」パトロンが封筒を差し出した。
「わあ、ありがとう!」
 封筒を手に取る、分厚い。厚さからすると三十万か。
「すごい、こんなに!」
「たいしたことない。全部千円札だ」
「パパの意地悪!」
 口を尖らせる。パトロンが笑っている。中を見る。一万円札がぎっしり入っている。
「パパ、大好き!」抱きついてキスをした。
 この男が自分に大金をもたらせてくれる。そう思うと、心がうきうきしてくる。援助交際を始めた中学三年生の頃は、客となった男は、たいていごく普通のどこにでもいるような中年男たちだった。そのうち、男たちは結婚しているのに少女を買って遊んでいることや、そのことに一片の罪悪感も持っていないことを知った。セックスの後に妻と幼い娘が映っている家族写真を見せられたこともあった。醜く太った、金を出すことでしか女と関係できないできそこないの男を相手にすることも多かった。そんな時は恐怖すら感じたが、金の誘惑には勝てなかった。
 あの時と比べると、私も出世したもんだ。鏡に映った自分の姿を見ながら春姫は微笑んだ。

 十時過ぎにホテルの部屋を出た。
「パパ……これでパパとずっと一緒だよね?」
 エレベータの中で、パトロンの腕にしがみつく。パトロンの顔に疲労が浮かんでいる。この歳で女子高生相手に一時間も情交していたのだから当然だろう。
「ああ勿論だよ。春姫がイヤだって言ったらパパは春姫を何処かへ閉じ込めるかもしれない」
「嬉しい……パパが望むなら閉じ込められてもいいもん……」
 春姫がパトロンに抱きついた。
「私を買ってくれてありがとう、パパ」
「よしよし、いい子だ。これから贅沢をさせてやるからな」
「うん!」
 ホテルの駐車場を出て渋谷の繁華街を抜けていく。途中渋滞にぶつかってしまい、パトロンがハンドルを切って裏道に入った。
 暗い路地を曲がろうとした時、ヘッドライトの中に人影が飛び出してきた。パトロンが急ブレーキを踏んだ。タイヤが地面をこする鋭い音と、春姫の悲鳴が響く。地面に小柄な男が倒れている。
「野郎!」
 パトロンが車を飛び出した。
「急に飛び出すんじゃねえよ」
 男の胸倉をつかんで引き上げる。髪を赤く染めた若い男だった。
「気をつけろ、馬鹿」
 パトロンが男を殴った。車の前に倒れた男は悲鳴一つ上げないで顔をあげてこちらを見た。どこかで見たことのある、陰気臭い顔だった。
 男が車のバンパーに手をついて立ち上がろうとした。
「汚い手で触るんじゃねえよ」
 パトロンが男の腹をけり上げると、崩れるように男が地面に倒れた。
「お前みたいな若者がいるから、日本が世界中からバカにされるんだよ」
「パパ、早くいこ」
 パトロンは地面に倒れた若者につばを吐きかけると、ベンツの運転席のドアを開けた。


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魔女の棲む街 7


魔女の棲む街 7

 渋谷の駅前は遊び目的の若者でごった返していた。春姫は腕時計を見た。稼いだ金で買ったカルティエの高級時計だ。まだ待ち合わせ時間の七時半まで一時間以上あった。
 道に溢れる若者たちの間をぬって、目の前のCDショップに入る。店内に最近売出し中の女性歌手のポスターが貼ってある。髪を金髪に染め、陰毛が見えそうなくらい深く切りこんだパンツをはいて、胸も乳首以外はほとんど曝け出した格好で、こちらを挑発的に見つめている。
 数々の恋愛スキャンダルにも動じない自由奔放な彼女の生き方が、多くの女性たちに支持されている。春姫も彼女の性的大胆さに憧れているひとりだった。
 彼女のCDを一枚買い、ショップから出た。近くのブティックに入り、洋服を物色する。肌の露出の多い過激な服が多いので有名な店で、春姫もこの店で衝動買いをすることがよくある。しかし今日は金を持ち合わせていない。新しいパトロンから手当をもらったらどれを買おうかと、心ときめかせて店内を回った。
 待ち合わせの時間が迫ってきた。店を出て緩やかな雑踏の足取りに歩調を合わせて駅前まで戻る。待ち合わせ場所の銅像の周りは多くの若者であふれている。彼らは手すりに尻をついて座ったり、煙草をふかしながら友人たちと話したり、携帯電話をもてあそんだりしている。見たことのある制服を着たどこかの女子高生が、暇そうに携帯電話をいじっている。パンツが見えそうなくらい短いスカートに明るく染めた髪、けだるそうな目で、客を待っている女子高生だと一目でわかる。
「やあ」
 高級スーツを着て、髪をオールバックにきめたパトロンが、目の前に立っていた。
「パパ」
 さっそくそう呼んで、パトロンの腕を取る。「ごめんね、待たせちゃった?」
 友達言葉で、いつも通りの笑顔を作った。鏡の前で練習している自慢の笑顔。男に一番受けるとびっきりの笑顔だ。
「全然かまわんよ。しかしひどいところだな。糞みたいな連中ばかりじゃねえか」
「ごめんね。次からはパパの好きなところで待ち合わせしよ」
「じゃあ、次はホテルのロビーだな。エレベーターに乗れば部屋まですぐだ」
「パパのエッチ」
「でも、やっぱりお前は綺麗で可愛い女の子だ。ママに紹介してもらってよかったぜ」
「私もうれしい」
 パトロンと腕を組み、自慢の胸を押し付ける。手すりに腰かけて携帯電話をいじっていたさっきの女子高生がこちらを見ていた。目に嫉妬の色が浮かんでいる。悔しかったらお前も私のように金づるを掴んでみろ。
 優越感に浸りながら、パトロンと並んで歩く。横からパトロンを見た。着ているスーツやシャツの生地には高級感が漂い、くっきりとしたストライプ柄のネクタイも上品だった。ビジネスバッグは有名な海外ブランドの特製品。この高級で上品な身なりはどこかの会社の社長か重役だ。ねだればいくらでも金をくれそうだ。
 駅の傍の駐車場に入ると、重量感のある黒のベンツが停まっていた。
「プリンスホテルを予約してある」
「すごい!」
 都内の最高級ホテルだ。歓楽街にあるラブホテルとは違う。
 春姫がベンツの助手席に座ると、パトロンはゆっくりと走らせ、都内一の高級ホテルに向かった。
 一〇分ほどでホテルに着いた。最上階のレストランの席に座る。窓の外に、煌びやかな東京の夜景が広がっている。こんな贅沢な場所に来るのま生まれて初めてだった。
「すごい! 宝石みたい」
「さあ、料理を選ぼう」
 ウェイターが差し出した細長いメニューを眺めた。大きく張り出した胸に吸い寄せられているパトロンの視線がくすぐったい。
「どれでも好きなものを注文しなさい。私は松坂牛のステーキを食べるぞ。スタミナをつけないとな」
「やだあ、えっち」
 ステーキはしつこそうなのでサーモンのムニエルを注文した。こんな高級な場所に来るのは初めてだったので、春姫はつとめて微笑みを作って自分自身をリラックスさせようとした。
「あと、フルーツの盛り合わせと、マンゴージュースを注文していい?」
「いいぞ」
 料理が出され、二人は食事を始めた。パトロンは中規模の鉄工所を経営している社長だった。親族が経営する企業の株主や社外取締役もやっており、収入は有り余るほどあると自慢している。妻と息子がいるらしいが、若い時分から囲っている愛人にも子どもを産ませていると、笑いながら話した。そんな話を平気な顔で話せるのも、目の前の少女が愛人だからだろう。男は愛人にはすべてをさらけ出す。春姫にとって目の前の男が三人目の愛人だったが、過去二人の愛人もそうだった。そして、金の切れ目が縁の切れ目になる。それまでにいくら引き出せるかが勝負なのだ。
 パトロンは自慢話をしながら分厚いステーキをあっという間に平らげた。その精力有り余る姿には感心してしまう。あと一時間以内には確実にこの男に抱かれているのだ。嫌われないようにしないと。そう思うと、これから初体験をする処女のように緊張してくる。
 店員やほかの客たちがちらちらとこちらに視線を向けている。見るからに金持ちの中年紳士と可愛い女子高生の組み合わせ。傍から見るといかにもという感じのカップルだった。
 最後のデザートが出てきた。フルーツの盛り合わせとマンゴージュースとケーキ。ケーキの上にたっぷりかかっている蜂蜜の甘さがたまらなく美味しかった。
「うまそうだな」とパトロンが言った。
「じゃあ、パパも食べて。はい、あーん」
 春姫は緊張感を押し隠して、フォークに突き刺したメロンを口元に差し出す。
「ははは、こんなところでいいよ、恥ずかしいだろう」
「いいから、食べて」
 パトロンがよく熟れたメロンを口に含んだ。春姫は微笑むと、蜂蜜ののったアイスクリームを、生地ごと口に入れた。


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魔女の棲む街 6


魔女の棲む街 6

「最近どうよ」
「しけてらぁ」
 亮輔の決まり文句。しかし、しけたことしかない変わりない毎日は、アキラも同じだった。もっと刺激のある毎日を送れないものか。
「で、絵里、どうよ」
「あ、食っちまった」
 アキラがそう言うと、タバコに火をつけた亮輔が下品にけけけっと笑う。教室で堂々と煙草を吸っても、誰も何も言わない。
「抱き着心地、よかっただろ。胸もでかくてむっちりしてて」
「ケツもでかいし、あそこもぐっしょり濡れてて締まってたぜ」
 亮輔がまた笑った。学校でも底辺の成績のこの男は、族に入ってからは髪を脱色してパンチパーマを当てた。
「お前、駅前の援交女子高生のこと知ってるか?」
 亮輔がタバコの煙を天井に噴き上げた。
「ああ。中年オヤジにやたら身体を売っている女子高生だろ」
 この学校の女子生徒の中にも、売春している者は多い。身体を売っている女は日頃から派手な化粧をしているし、持っているものを見ればわかる。ブランド物のバッグに財布、化粧品。普通の女子高生が手にできそうもない豪華なものを持っていれば、そいつが制服を着た娼婦なのだ。
 しかし容姿端麗な女子高生は、テレクラに舌足らずな声で電話したり、インターネットの掲示板に諭吉3などと書き込んだり、街を歩く中年オヤジに色目を使ったりはせず、金持ち親父を手に入れるために自分の身体に日々磨きをかけているらしい。金持ち親父の愛人になれば、街で援交するより一桁多い稼ぎを手に入れることができるし、金持ち親父から日々、ブランド物のプレゼントももらえる。そうなれば勝ち組らしい。
 教室に春姫と真紀子が入ってくる。
「あいつら、いい身体してるよなぁ」
 真紀子と春姫は、何人も男を知っている身体だ。
 春姫の耳のピアスがきらりと光るのが目に入った。ピアスの輝きが強ければ、そいつは売れっ子。本物のダイヤが入っているからだ。春姫のピアスはおそらく十万はする、ダイヤ入りだ。金持ち親父の愛人に囲われているのだ。
「あの女、勝ち組なのか。むかつくぜ」アキラが吐き捨てるように言った。
 教室が荒れに荒れまくっている、低レベルの学校。誰も真面目に授業など受けたりなんかしない。教師たちもすっかり諦めていて、生徒たちを叱ろうとする熱意すらない。公立の学校や普通レベルの私立学校に不採用だったへたれ教師たちが流れ着く、レベルの低い私立高校の一つだ。
 アキラが床に落ちているテニスボールを拾い上げると、黒板のほうに向かって思い切り投げつけた。最前列の佐藤の頭にボールが当たり、ぱこーんと言い音を立てて天井に届くくらい跳ね上がった。
 それをみていた亮輔が笑う。他の生徒たちもくすくす笑っている。頭を押さえながら振り向いた佐藤が、卑屈な愛想笑いを浮かべていた。
 クラスの苛められ役。見ているだけでいらついてくる、へたれ野郎だ。
「あんな糞野郎にボールぶつけたくらいじゃ、すっきりしねえよな」
 亮輔がタバコの吸い殻を窓から捨てた。
「あ、俺、頭痛が痛いから保健室にいってくるわ」
「さぼりかよ。出席日数、やばいんじゃねえのか?」亮輔がわらっている。
 廊下に出たアキラは携帯電話を取り出した。
「よう、絵里か?」
「あ、アキラ」
「今から、屋上まで来いよ」
「え、もうすぐ授業が始まっちゃうよ」
「なんだよ、俺の言ういことが聞けねえのかよ」
「そんなこと、ないけど……」
「俺のこと嫌いなのかよ」
「好きだよ」
「ん? 聞こえない。もう一回」
「好き。これでいい?」
「ちゃんと言えるじゃん。俺のこと好きなら屋上に来てくれよ、よろしく」
 電話を切って、階段を上がっているとき、始業のベルがなった。
 屋上でタバコを吸っていると、ドアの開く音がした。
「よう」
「体調が悪いって言って、教室出てきた」
 絵里がアキラの横に座る。
「吸うか?」
 アキラが絵里にタバコを銜えさせた。絵里が激しく咳き込む。アキラは絵里の口からタバコを引き抜いてキスをした。絵里の身体が緊張で硬くなっている。
「なあ、絵里。今からここでしようぜ」
「え? でも……」
「大丈夫、誰も来やしねえよ」 
 アキラが絵里のブラウスに手をかけた。
「だめだよ、脱ぐのは嫌。誰かが授業サボってあがってきたら見られちゃうよ」
「しょうがねえな。じゃあ、パンツ脱いで俺の上に跨がれ」
 アキラがベルトをはずし、ズボンのファスナーを下ろした。絵里は素直に下着を外すとアキラの股間に跨った
「おおお、濡れてるじゃねえか。お前、屋上に呼び出されたときから、こうなるってわかってたんだろ」
「うん……なんとなく」
「なんだよ、嫌なら止めたっていいんだぜ」
「嫌じゃないよぉ」
 絵里がアキラに抱きついたまま、ゆっくりと動き始めた。


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魔女の棲む街 5


魔女の棲む街 5

 教卓の前に立っている教師が、淡々と授業を進めている。流暢な英語が教師の口から流れ出てくるが、聞いている者はほとんどいない。
 もうすぐ三十歳になろうとしている彼女は、痩せた体に淡いグレーのスーツを着ており、長い髪を頭頂で束ね、櫛でとめていた。顔は面長で、細く整えた眉毛の下に、切れ長だが鋭くない、覇気のない目を宿していた。
 机の下で多くの生徒たちが、ノートにいたずら書きするような感覚で、授業中でも平気でライン交換をしている。この学校で勉強を真面目にしているやつなどほとんどいないが、春姫は英語の授業はそれほど嫌いじゃなかった。だから、英語の授業だけはサボったことがなかった。
 目の前の席で、高田アキラが机の上に顔をつっぷして居眠りしていた。髪を黄色に染めた、成績がクラスで最下位の馬鹿だが、イケメンで身体も鍛えていて、喧嘩も強い。それに、噂によると、アレもでかいらしい。とにかく、あちこちで女を食いまくっているので、流れ出てくる噂も信憑性が高い。
 そっと横の席の絵里を盗み見る。斜め前のアキラに潤んだ瞳を向けていた。
 私から見ればただのガキじゃん。こんなやつのどこがいいのよ。
 教師は高田アキラが眠っていることに前々から気づいているはずだが、注意することもなく、淡々と授業を進めていた。早く授業をすすめて、予定の箇所まで終わらせることが彼女の仕事なのだ。彼女自身、自分のやっていることがどれ程無駄なことなのか知っているはずだ。決められた範囲を教えて給料をもらう。ほとんどの教師はそう割り切っている。
 春姫はため息をつくと、教科書に視線を落とした。
 一番後ろの窓際の席という、教室一のベストポジションからクラスを眺める。女子生徒たちが机の下で、携帯電話に「仕事の予約メール」が届いていないか確かめている。女子高生専門の売春斡旋業に籍を置いている女子生徒も、この学校には多い。授業中でも時々、客の予約が入ったことを告げるメール音が教室に響くこともある。
 六限目の現代文の授業中、春姫の携帯にメールが届いた。春姫は教師に見つからないよう机の下で携帯電話を見た。
 新しく愛人となった男からだった。今夜渋谷で会いたいと書いてある。春姫は夜七時半に駅前で待っていますと絵文字入りのメールを手早く作って返信した。
 春姫は中学生の頃から大学に行く必要などないと思っていた。実生活に必要のない知識と技術ばかりを身につけなければならない、苦しい受験勉強をするのが嫌だった。かといって、卒業したら何をするかも特に決めていない。この日本に暮らしているかぎり、何の努力をせずとも、いつまでも平和な生活が保証される。お金が足りなくなったら男に頼ればいい。せっかく美人に生まれたのだから、男を利用しない手はないのだ。
 しかし、こんな生活をいつまで続けられるのだろうか。女子高生だからこそ、中年男たちが高額の報酬をくれるのだ。もし社会人になっても体を売る仕事を続けていれば、そのまま風俗穣になってしまうのではないか。そんな危惧も抱いていた。クラスの女子生徒の中には、十八歳を過ぎたら風俗で稼ぎたいなどと明るく言っている馬鹿もいたが、春姫にその気はなかった。
 しかし、何かと金がいるが、真面目に働くこともめんどくさい。
 春姫が頬杖をついて、うとうとしているうちに、黒板の上にあるスピーカーから終業のチャイムが鳴った。チャイムの音を聞いてすぐ、学級委員の、成績がいつも一番目の桜井恵子が「起立」と元気な声をあげた。号令にあわせて、生徒たちはばらばらに立ち上がった。教師は、自分が終わりの合図を出してもいないのに、学級委員の恵子が号令をかけたことを気にもせず。取り澄ました顔で教科書を閉じた。
 居眠りしていた高田アキラは、桜井恵子の声を聞いて、みんながもう立ち上がっていることに気づいて大きな体を立ち上げた。
「礼」と恵子が言うと、みんなばらばらのタイミングで、ばらばらの角度の礼をした。教師は規律の乱れた礼に怒ることもなく、そもそもそんな乱調にも気づかず、ぺこりと首から上だけ軽く頭を下げた。
 生徒たちが廊下に出たり、友達の席に集まったりした。教師はとり澄ました顔で教卓の上の教材をまとめると、逃げるように早足に教室を出て行った。
 ざわついた教室の中で春姫は席にゆっくり腰をおろし、窓の外の景色を見つめた。三階の窓からはビルとアパートと民家の縦列しか見えなかったが、コンクリートの建物の間から、ところどころに植えられた木々の葉が見えた。
「春姫、今日暇?」と、友人の茜が声をかけてきた。背の低い中条茜は銀色のメッシュを入れた茶色の長髪に、日焼けした小顔をおさめており、人気女優をまねて訓練した笑顔を作っていた。
「ごめん、さっき仕事入った」と春姫は言った。
「あっそ。じゃあいいわ」
 茜はクラスでも一番短いスカートをひらりとさせて、別の友達の席に可愛さを取り繕った小走りをしながら向かった。春姫にどんな用件があったのか、全く関心がなさそうに。茜はいつもこうして突然来て、自分の目的に合致しないとわかると、何も説明せず立ち去ってしまうのだった。
 春姫は頬杖を突きながらつまらなそうな顔で外を眺めた。カラスは樹から近くの電線の上に飛び移り、獲物でも探すかのように頭を小刻みに動かした。
「よお、仕事って何してんだよ?」
 高田アキラが春姫に尋ねた。春姫はどきりとして、アキラのにきび面を見た。横には絵里が立っている。瞳に落ち着きがない。
 いやらしい顔で自分の体を見つめるアキラの顔を見て、嫌悪感が全身に走る。まさか、自分の仕事内容を知っているのではないだろうか。
「あんたには関係ない」
 春姫は動揺が表情に現れないように立ち上がり、トイレに向かった。


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