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鮮血のエクスタシー 3


鮮血のエクスタシー 3

 大きく開いたドレスの胸元を、女はしきりに気にしていた。
 岩丸は舐めるように目の前の女を見た。大きく張り出した胸と尻、そして鋭く括れた腰。美人ではないが、男を欲情させる怪しい目と唇。
 女が媚びた視線を寄越した。自分の身体をいくらの金に換えることができるのか、早く知りたがっている。そのために売春マンションと呼ばれるこの怪しい場所まで来たのだ。
「借金はいくらあるんだ?」
「二百万円ほどです」
「服を脱げ」
「えっ?」
「裸になれ。全部脱ぐんだ」
 女が戸惑っていたのは一瞬だった。背中に手を回し、ドレスのファスナーを降ろすと、肩からドレスを落とした。ドレスと同じ、真っ赤な色のブラとショーツをつけている。ブラを外すと、見事なバストが飛び出してきた。
 岩丸が思わずつばを飲み込む。久しぶりのヒットかもしれない。
 ショーツを脱いで全裸になった女が、前を隠そうともせずに岩丸の前で直立している。大きく張り出した尻と胸は見かけ倒しではなかった。陰毛はかなり濃い目だが、金持ちの中年オヤジたちは陰毛の濃い女を好むものが多いので、ちょうどいい。
 まさに、俺の下で働くために生まれてきた女だと、岩丸は思った。
 女にくるりとまわれというと、背中を見せて見事な尻を向けた。
「悪くないな」
 岩丸の言葉に、女が顔を綻ばせる。
「だが、裸を見せるだけの仕事は、俺の店にはねえ。わかるか。お客さんに奉仕してもらわないといけねえ。うちに来るのは社会的地位の高い金持ちのお客さんばかりだ。客は高い金をあんたに払う。あんたはそれに応えなくちゃいけねえ。俺の言っている意味が分かるな」
 女が黙って頷いた。
「幸い、あんたはいい身体をしている。お客さんたちにどう奉仕するかは、覚えればいい。俺が直接指導してやる」岩本がにやりと笑った。
「まず、あんたがどれほどできるのか、見せてくれ」
 女を傍に呼ぶ。たしかに胸が大きい、いい女だ。
「まずは、しゃぶってくれ」
「はい」
 岩丸の脚の間に割り込むとズボンのベルトを外した。ファスナーをおろしパンツごとズボンをずらす。脚からズボンとパンツを抜くと、岩丸の股間を大きく開いて顔を埋め、ペニスを口に含んだ。女の舌の使い方をじっくり観察する。舌で転がすように亀頭を刺激する。男のツボをうまく押さえている。風俗経験者だとわかった。それも、かなり若いころからの。しゃぶり方もなかなかのものだった。
 いい身体をしているし、テクもある。こんな女、なかなか手に入らない。
 この女は知り合いの風俗嬢から岩丸のことを聞いたらしい。借金で首が回らないので使ってほしいといって、ここに転がり込んできたのだ。
 女の口の中で、ペニスが完全に勃起した。
 シノギのため自慢の巨根をフルに活用し、若い時は三十人の金持ち中年女をこました。裏社会に住処を得たばかりの世間知らずの若い女の中には、岩丸に生意気な口を聞く者もいたが、そんな女どもは拉致して薬を使って次々に奴隷にしてやった。
 生意気な女を虐げて稼ぐのが俺の何よりの生きがいなんだ。お前は気をつけろよ。股間でペニスにむしゃぶりついている女を見下ろしながら、岩丸はほくそ笑んだ。
 最近は大麻と覚せい剤で乱交パーティーを催す裏風俗が好調だ。奴隷にした若い女に覚せい剤を仕込み、マリファナでラリった客とはまらせる。男も女もよがりまくり、リピーターが増える。
「ねえ、親分さん……」
 口から離したペニスを手でしごきながら、女が上目使いで潤んだ瞳を向けてきた。
「我慢できなくなったのか?」
 女が黙って頷く。
「四つん這いになってケツをこっちに向けろ」
「はい……」
 女は床に手と肘を突き、重量感のある尻を岩丸に向けた。岩丸は机の引き出しに隠していた覚せい剤のパケを取り出すと、封を破って結晶を机の上に出した。唾液で湿らせた指先を押しつけて結晶を付着させると、四つん這いになっている女の膣に指を押し込んだ。
「やんっ!」女がくすぐったそうに声を上げる。
「何だよ、もうぐしょぐしょじゃねえか。俺のでかいチンポしゃぶってたんで、興奮しちまったのかい?」
「親分さん……早く入れてほしい……」
「もうしばらく待っていろ」
 尻を振ってねだっている女の尻をスッとなでると、女が悲鳴を上げた。
「敏感になってるじゃねえか。そろそろ効いてきたな」
 岩丸は女の尻の後ろに脛立ちになり、ペニスを一気に根元まで押し込んだ。
 女が悲鳴を上げて身体を仰け反らせた。
「どうだい? いいだろ? もっと気持ち良くしてやるぜ」
 女の肌に鳥肌が立っている。岩丸は巨大なペニスで女の身体の中をかき回した。太いペニスで膣壁を擦られる度に大量の粘液が溢れだし、凄まじい快感が女を襲った。
 女は髪を振り乱し、獣のような喘ぎ声をあげた。
 岩丸はそんな女を見て、腰の動きを早くしていく。ミシミシと床の軋む音とともに、女の高い喘ぎ声が部屋に響く。 
 女が泣くように顔を歪ませて喜ぶ。岩丸は抜き差しのスピードを徐々にあげて女を追い込んでいく。
 女の体が激しく跳ねてぴんと力が入り、ブルブルと震える。同時に床の上に暖かい液体がかかる。軽く失禁したようだ。
 女は色白の肌をピンク色に染めて、気持ち良さそうに喘ぎまくっていた。
 岩丸はラストスパートで激しく突いた。女がいっそう激しく喘いだ。
 そして、女の奥深くで弾けた。

「ねえ、親分さん……私、稼げる?」
 岩丸の萎えかけたペニスを舌で舐めながら、女が訊いてきた。
「ああ、稼げるさ。稼いでもらうさ。さっそく店に出ろ。今日から出てもいいぞ」
「嬉しい!」
 女が岩丸に抱きついた。そして床に落ちていた下着とドレスを身に着けると、「じゃあ、行ってきます」といって部屋を出た。
「シャワーをきちんと浴びてからいけ」女の背中に向かっていったが、聞こえたかどうかは知らない。
 岩丸はパンツとズボンを穿くと、タバコを銜えて火をつけた。
 悪くない話だった。
 あの亀梨の目の前で組長が殺された。対立する組が命令したとの噂だ。戦争になるのは間違いない。
 鏡を割った破片で頸動脈切断。相手はなかなかのすご腕らしい。組長と一緒にいた女は、店に来たのが三日前。組長が一目で気に入って連れだした。
 あの日以来、女は店に来ていない。殺し屋とともに消えた。
 誰がやったのだろうか? 雇ったのは誰か?
 そういえば、あの女もなかなかの上物だった。
 亀梨め、もう指を詰めただろう。ざまあみろ。
 岩丸は携帯電話を取り出すと弟分の電話を呼び出した。
「車を用意しろ」
「どちらへ?」
「決まっているだろう。親父の葬式に行ってくる」

鮮血のエクスタシー 2


鮮血のエクスタシー 2

 虐めてほしい……?
 恥ずかしいことされたいの?
 恥ずかしいことされて、それを人前に晒されてみたいの?

 一糸まとわぬ恥ずかしい姿で、後ろ手に縛られていた。ベットの上で足を大きく広げられ、粘液を垂れ流している女の大事な部分を晒す惨めな格好が、沙羅の目の前にさらけ出されている。自分の恥辱的な姿を思い浮かべると、全身に鳥肌が立って震えてきた。
 沙羅に二の腕や肩を撫でられ、アンナが声を上げて身体を震わせた。
「虐められると、興奮するんでしょ? そうなんでしょ? 素直に認めなくっちゃ。自分が虐められて感じる変態マゾだって」
 冷たい声で言い放つと、沙羅がアンナの尻を掌で叩いた。
「いや……」
「ちゃんと言いなさい。虐めてほしいんでしょ?」
「虐めて……」
「恥ずかしいこと、して欲しい?」
「恥ずかしいことを、いっぱいして……」
「それが、あなたの願望なのね」
「そう……」
「やっぱり。あなたはやっぱり変態マゾよ。 虐められて感じる、変態マゾなの」
 言葉で虐げられるとこの後の展開に対する黒くて甘い期待感が心に広がり、アンナの鼓動はさらに早くなった。
「じゃあ、その虐められて感じる変態マゾは、今何をされたいのかな? よくわかるように教えなさい。大きな声ではっきりと。それとも、もっとお預けにしてほしいの?」
「いや……」
「虐めて欲しくてたまらないんでしょ? この変態!」
 変態……。
 虐めて欲しい……。
 もう、我慢できない……。
「苛めて……。バイブで……乱暴にして……」
 その言葉が自分の口から発せられた瞬間、あまりの恥ずかしさで気を失いそうになった。唇が細かく震えているのが、自分でもわかる。
 恥ずかしさで心臓の鼓動も早くなり、息も熱くなっていた。
「そんな小さな声じゃ、何言ってるのか全然聞こえないわ。どこをどうやって苛めてほしいのか、もっと、大きな声ではっきりと言いなさい。そうしたら、虐めてしてあげるわ」
 アンナの興奮がどんどんと高ぶっていった。
 我慢の限界だった。
 身体の奥から、熱くて粘り気のある粘液がとめどなく溢れているのが自分でもよくわかる。恥ずかしくて、気が変になりそうだった。
「バイブで……一番奥を……めちゃくちゃかき回して……」
「そんな恥ずかしいお願い、よくできるわね。変態!」
 不意に脚を開かれ、そのままぐっと手前に引き寄せられた。襞と尻肉がさらに開かれ、羞恥心が増大する。
 アンナが大声をあげて仰け反った。
「あそことお尻の穴が丸見え……。すごく恥ずかしい恰好だわ。それに、こんなにびちゃびちゃに濡らしちゃって……」
 沙羅が左右に開いたアンナの襞を、指でなぞる。
「じゃあ、虐めてあげる」
 沙羅がバイブを手にとる気配が伝わってきた。身体の奥がキュンと緊張する。
「これ、欲しい?」
 沙羅がバイブをアンナの口元にあてる。
「ほ、欲しい……」
 アンナがバイブに舌を這わせる。額から汗が流れ落ちる。
「自分から、足を開きなさい」
 アンナは目をぎゅっとつむり、両足が震えるほど限界まで開く。まるで自分の恥ずかしい部分を見てくださいと、お願いするかのように……。
 沙羅が両手をアンナの尻肉に添えて上に持ち上げると、肛門が上を向いた。
「あそこもお尻の穴も丸見え……。全裸で……大また開きで……全部……胸も、あそこも、お尻の穴まで……恥ずかしいところが全部丸見え……」
 被虐の興奮が全身を駆け巡る。アンナの羞恥心は頂点を迎えようとしていた。熱く疼いている部分が、すごく敏感になっているのがわかる。
 大きく開かれた両足の間に沙羅がバイブを這わせる。濡れそぼった部分の周辺を彷徨いながら、アンナが溢れさせた粘液を掬いとっていく。
「早く、入れて……」
 アンナが尻を振った。それを合図に、一気にズブズブと侵入してきた。
 桁違いの快感に、アンナは全身を震わせた。熱い蜜壷が、卑猥なオブジェを飲み込んでゆく。何の抵抗も無く一気に根元まで挿入された。押し出された粘液が蜜穴から溢れ、太腿を伝わってショーツの上に落ちた。
 沙羅がふふっと鼻で嗤った。
「散々焦らされた後だから、すごく気持ちいいんでしょ?」
「いい……気持ちいい……」
 バイブで膣の中をかき回される。アンナは身体をのけぞらせて叫んだ。唇を震わせながら、ひたすら快感を貪る。
「欲しくて欲しくて、仕方が無かったみたいね。本当に恥ずかしい女……」
 快感を求めて尻が勝手に動き出す。くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、沙羅が奥まで挿入したバイブで激しく肉壁を刺激する。
「見ているこっちのほうが恥ずかしくなるわ。いやらしい音させながら、お尻まで振っちゃって」
 沙羅の人を蔑む低い声が、アンナの膨張した被虐心に火をつける。奥まで挿入されたバイブを、肉壁でぐっと締め付ける。
 突然、新しい快感が、背筋を走った。沙羅の舌が、肛門の上を這っている。
「ああっ、そこはだめ!」
「嘘、ここも気持ちいいくせに。私はあなたのことは何でも知っているのよ」
 沙羅が舌を肛門に押し込んできた。
 体の奥がかき回される。腰椎から上がってきた電流が背中を貫き、アンナは悲鳴を上げた。
「ここ、凄く気持ちいいんでしょ? あなたの身体のことは、私が一番よく知っているわ」
 アンナがまた悲鳴を上げた。沙羅がバイブの先で、子宮の入り口を擦りあげる。アンナの弱点を、沙羅が巧みに攻め続ける。
 一気に追い詰められたアンナは背中を大きく反らせると、腰を激しく痙攣させながら、絶頂に達した。
「なによ、もうイっちゃったの?」
 沙羅が、アンナの尻にキスをした。
「あなたの恥ずかしい声、しっかりと聞かせてもらったわ」
 達する時の恥ずかしい声を聞かれたと思うと、体の奥の方からゾクゾクとした感覚が這い上がってきた。まるで、体中の神経の上を毛虫が這うような感覚だった。強烈な被虐感を伴うその感覚に、アンナは酔いしれた。
 アンナは、自分の痴態を凝視され、支配され、服従する喜びで満たされていた。ただひたすらこの女に服従し、支配されるという被虐の快感……。
「まだまだよ。まだ許さないわ。あなたの気が変になるまで、今夜は苛めてあげるから」
 アンナにより一層の快感を貪らせるため、沙羅のバイブはその後も激しく動き続けた。

 顔に仄かな熱を感じる。唇に柔らかい感触。目を開けると、沙羅が微笑んでいた。
「どう、満足した?」
 思わず顔をそむける。さっきまでの激しい羞恥プレイでの興奮がすっかり治まっていた。
「正気に戻っちゃったから、恥ずかしいんでしょ?」
 沙羅が抱きついてくる。
「私も良かったわ」
 沙羅が目の前に洗ったばかりの双頭バイブをつき出した。沙羅の裸体を両手でつき放すと、アンナはベッドを降りてバッグから封筒を取り出した。
「はい、これ」
 金の入った封筒を、沙羅の前に投げ出す。
「満足したらとたんに冷たくなるのね。一発やり終えたスケベオヤジみたい」
 封筒の中の金を数えながら、沙羅が拗ねたような顔で口を突き出した。「どうせ、私はビアン専用の風俗嬢よ」
「沙羅」アンナが沙羅の身体を抱きしめた。上品な香水の香りが鼻腔をくすぐる。「もちろん、あなたをただの風俗嬢だとは思っていないわ。私にとって大切な人」
「あなたは、私にとっては上得意のお客様」
「意地悪」沙羅の鼻を指でつつく。
「どうしたの? 今日は凄く燃えていたじゃない。普通のプレイじゃ満足できないって言いだすんだもん、びっくりしちゃった」
「でも、どうして私が虐められたら感じる女だってわかったの?」
「これでもプロなの。大切なお客様の嗜好はそれとなく探り出すことにしてるの。それに、あなたは典型的なマゾ」
「どうして?」
「人をいたぶるのが好きな女に、マゾが多いの。サドじゃなく」
 アンナがどきっとして沙羅を見た。
「人をいたぶる? 私が?」
「違う? 時々、凄味のある目をする時があるの。サディスティックな、男をいたぶる女の目よ。そんな女は、自分もいたぶられたいと思うものなの」
「そうかしら」
 アンナはその場をごまかすようにセーラムライトを取り出して火をつけた。吐き出した煙で、二人の間にぼやけた幕が下りる。
「ねえ、白人の女のあそこって、本当にチーズの匂いがするの?」沙羅が訊いてきた。
「なに、それ」
「あなた、白人の女とやったことあるって言ってたじゃない」
「いったけど、チーズの匂いなんてしないわよ。不潔にしたら、日本人だってそんなニオイするんじゃないの」
 アンナの冗談に、沙羅が笑っている。アンナがセーラムライトの箱を沙羅に投げ渡したとき、テーブルに置いた携帯電話が鳴った。
「だれ、女?」沙羅が画面を覗き込もうとする。
「仕事の話よ」
 彼女の身体を押し返すと、アンナは携帯電話を持ってベッドから離れた。
「今、いいかな」大島の低い声が流れてきた。
「ええ」
 バスルームに入ると、ちらっとベッドのほうを見た。沙羅がタバコを吸いながらテレビを見ている。プロの高級風俗嬢なのだ。彼女も心得ている。
「お見事だったね。ニュースを見たよ。残りの金は振り込んでおいた。確認してくれたか?」
「信用してるわ」
「続きの仕事も受けてくれるね」
「リスク次第ね。詳しい話を聞いてから決めるわ」
「時間はあまり空けないほうがいい。やられたら間髪入れてやり返すのが連中のやりかただから。勝手に暴れ回られても困るんだ。明日、いつもの場所で。どうだい?」
「オーケー」
「それと、あんたが欲しがっていた情報が入った。山岡幸一の件だ」
 心臓がどくっとした。悪寒で鳥肌が立ち、背中に冷たい汗が流れる。
「あんたの言っていた通り、先週刑務所から出てきたよ。今は無職で居酒屋通い。出てきてそうそう店のバイトを口説いている。ありゃ、またやるな」
 唾を飲み込む。脳裏に当時の悪夢が突然よみがえってくる。
「あんたが関わるような奴じゃないな。女子高生に突っ込んで十年。クズのような男だ」
「いいの、個人的な問題だから」
「誰かの敵討ちかい?」大島が意味ありげに言う。
「詮索は無用よ。後でメールで送っておいて。情報料は振りこんでおくわ」
「貸しにしておくよ」
「人に借りを作るのは嫌いなの」
「わかったよ。すぐに送る。明日、いつのも場所でよろしく」
 大島が電話を切った。胸がまだ高鳴っている。山岡幸一。すぐに地獄に落としてやる。
 ベッドに戻ったアンナを見て、沙羅が顔を曇らせた。
「どうしたの? 顔が真っ青よ」
「えっ?」思わず頬に手を当てる。「大丈夫よ」
「さっきの電話でしょ? 何言われたの?」
「大丈夫だって。心配しないで」
 沙羅に抱きつき、彼女にキスした。

鮮血のエクスタシー 1


鮮血のエクスタシー 1

「今まで殺した奴は、百人は下らねえよ」
 子分の運転するベンツの後部座席に座った途端、店では口にしなかったきわどい話を始めた。自分が今までしてきたあくどい所業を自慢している。大物ぶっていても所詮はチンピラと変わらない。
 男の名は権藤。権藤組の組長であり、広域暴力団山梨組の直参でもある。権藤が部下に経営させているクラブで働き始めて三日目、早くも店に顔を出した彼は、アンナを見るなり岩のような顔を崩した。今夜が初対面なのに、ソファに座るなり岩石のような顔を突きつけ、「俺のことを知っているか」と聞いてきた。
「もちろんですよ。権藤親分」
 そう答えてやると、まんざらでもない顔をした。
「親分さんのような男気のある人が好きなんです」といって、膝に置かれた権藤の手にそっと触れると、いやらしそうに顔を歪めた。
「好きなのは俺の持っている金だろ?」
「まあ、ひどい。私はそんな女じゃないですよ。そりゃ、三拍子揃っていれば文句なしですけど」
「三拍子?」
「男気とお金、それに、うふふ……」
「もう一つは?」
「女の大好きなもの。でも、女の口からは言えないものです」
 そういって権藤のズボンの前のふくらみに目を向けると、その視線に気づいた権藤が豪快に笑ったのだ。
 三拍子揃っているところを見せてやるぜ。そう言って権藤は店が終わる前にアンナを外に連れ出したのだ。
 ベンツがホテルのエントランスの前に停まった。
「ここらで一番いいホテルだ。庶民はなかなか泊まれないホテルなんだぜ」
 安い部屋でも一泊十万はするらしい。権藤は先にベンツから降りると、アンナの手をとって急かすように車から引きずり出した。そして、助手席から若頭の亀梨が降りてきた。
「どうぞ」亀梨が先を歩いてエレベータに乗った。どうやら、部屋は亀梨がとっていたようだ。エレベータを二十階で降りて部屋に入る。
「悪いが調べさせてもらう」そう言うなり、亀梨がいきなり身体に触れてきた。アンナが小さな悲鳴をあげる
「ボディーチェックだ。我慢してくれ。こいつはやたら心配性でな。俺も困っているんだよ」
 権藤が苦笑いしている。亀梨がアンナのバッグを取って、中身をソファにぶちまけた。化粧品に手鏡、部屋と車のキーに常備薬。
「ああ、それは」
 亀梨が黒い塊を手にとった。手早く広げられる。
「やだぁ」アンナが両手で顔を覆った。黒のTバックのショーツだった。
「なかなか色っぽいのをつけているんだな」
 権藤が亀梨の手から奪い取ったショーツを鼻に近づけた。アンナが慌ててそれをひったくると、丸めてバッグの中に押し込んだ。権藤が下品に笑っている。
「てめえも、少しは女心ってのに配慮しろ」
「どうもすみませんでした。ごゆっくりくつろいでください。自分はロビーで待ってますので」
 亀梨は二人に一礼すると、部屋から出ていった。
「悪かったな、恥かかせちまったみたいで」
 権藤が後ろからアンナにしがみついて、大きく張り出した胸を揉んだ。
「シャワーを浴びさせて……」
「そんなことをすれば、匂いが流れちまうじゃねえか」
「だめ……」
 正面から抱きすくめようとする権藤の肥った体を押し返し、手を後ろに回してドレスのホックをはずした。
「ベッドで待っていて。すぐに済ませるから」
 赤いドレスを肩からスッと落とす。黒のブラとショーツ姿になったアンナの見事なプロポーションに、権藤の目が釘付けになる。
「もう、嫌だわ。あまり見ないで」
 権藤の視線から逃れるようにバスルームに入ると、ドアを閉めた。アンナはブラとショーツを外して全裸になると、洗面台においてあった消毒済みグラスを手に持ち、グラスの底を鏡にたたきつけた。
 大きな音を立てて、鏡が砕け散った。アンナの大きな悲鳴を聞き、バスローブに着替えていた権藤がバスルームに飛び込んできた。
「ごめんなさい。水を飲もうとしたらうっかりグラスをぶつけちゃって」全裸のまま、アンナはその場にしゃがみ込んだ。折りたたんで洗面台の横に置かれていたタオルを手に取り、広げて床に飛び散った鏡の破片を掻き集めた。
「そんなもの、あとでホテルの従業員に片づけさせろ」
「でも、親分さんに怪我をさせるといけないから」
 アンナはしゃがんだ姿勢で権藤に背中を向け、床を見ようと頭を下げた。ボリューム感のある尻が、権藤の目の前に晒されているはずだ。権藤の注意を自分の尻に向けさせ、アンナは大きな破片をタオルの中に素早く隠した。
「きゃ!」
 権藤が尻に手を出してきた。
「いいケツしてやがる。そんなものはほっておいて、早くシャワーを浴びろ」
「じゃあ、親分さんもご一緒にどうです?」アンナが悪戯っぽい目を向ける。「洗ってあげるから」
 権藤の顔がにやけた。アンナが手を伸ばし、権藤の身体からバスローブを剥いだ。バスローブの下は全裸だった。ペニスがすでに勃起していて、その表面に凹凸が目立っていた。いくつもシリコンを埋め込んでいる。
「嬉しいわ、もう、こんなになって」
 権藤のペニスにそっと触れる。
「じゃあ、念入りに洗わせてやるよ」
 権藤が先にバスルームに入った。アンナはガラスの破片を包んだタオルを持って、彼の後に続く。
 シャワーを捻って温度を確かめ、湯の温度を調節する。その間、権藤はアンナの尻や胸に指を這わし続けていた。
「お背中流しますね」
 権藤に背中を向けさせて、シャワーをあてる。手で男のがさついた肌を撫でると、そっと身体を背に当てた。
「逞しいわ……」
 豊かな乳房が男の背中でつぶれる。
「俺も洗ってやるよ」
 権藤がいきなり振り向いた。ノズルを持つ手が跳ね上げられ、しぶきが飛び散って権堂の顔を濡らした。
「あっ、ごめんなさい」
 アンナが棚に置いたタオルにそっと手を伸ばした。
「顔を濡らしちゃったわ」
「構わねえよ」
 アンナが権藤に抱きついた。後ろに回した両手でタオルからガラス片を取り出すと、気づかれないようにそっと権藤の首にあてがった。
 バスルームの壁と天井が、一気に赤に染まる。権藤は両目を見開いたまま、バスタブの中に倒れ込んだ。数秒間身体を痙攣させると、そのままの姿勢で動かなくなった。大きく開いた権藤の両脚の付け根に、グロテスクなペニスがまだ鎌首を持ち上げていた
「何が立派なもんか。あんたと同じ、グロテスクで醜くて吐き気がするわ」アンナは天井を向いているペニスに湯をかけた。
 身体に浴びた返り血を、ボディーソープで丁寧に落としていく。髪に血はついていなかった。浴室内はむっとする血の匂いで噎せ返るようだった。
 敏感な襞に指が触れた途端、全身に電流が走った。知らぬ間に身体の奥が疼いていた。今夜は思い切り感じることができるかもしれない。
 指紋は一切残していないはずだ。バスルームの外に脱ぎ捨ててあったドレスを身につけ、部屋を出る。非常階段のドアを開けて上と下を確認する。人の気配はない。一度ドアを閉めればホテルに戻ることができなくなるが、非常階段からならロビーを通らずにホテルの外に出ることができる。ロビーにさっきの手下が待っているはずだ。
 亀梨。なかなか手ごわそうな男だった。
 非常階段を駆け下り、裏口からホテルの外に出る。
 人ごみに紛れてホテルから離れていく。どこで権藤の配下のものが目を光らせているかもしれないのだ。
 人気のない広場に出た。携帯電話を取り出し、登録していた番号を呼び出す。
「あら、あなた」沙羅の済んだ声が聞こえてきた。身体の奥がずきんと疼く。
「今夜、いつものホテルで待ってるわ」
 それだけ告げると、アンナは電話を切った。

鮮血のエクスタシー 目次

鮮血のエクスタシー

金で雇われ犯罪組織の幹部を無慈悲に殺す、レズビアンの殺し屋アンナ。仕事の後は風俗嬢と激しく絡み合い、ビアンバーで初心な女を誘う。しかし、アンナの存在に気づいた犯罪組織が、じわじわと包囲網を狭めてくる。

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魔女の棲む街 19(最終章)


魔女の棲む街 19(最終章)

 空には雲一つなかった。
 アキラはタバコの煙を空に向かって吹きあげた。
 午後の眠い時間だった。五限目と六限目は郊外で絵を描かされることになり、学校の近所にあるこの公園に来ている。かったるかったが昼寝もできる。絵心なんてものには無縁だが、楽ができると聞いていた。美術を選択しておいてよかったと思う。
 昨日の夜、チンピラの惨殺死体が街外れの倉庫の中で見つかった。殺されたのは盛り場を根城にしている不良たちの間で有名な、安尾というチンピラだった。
 ヤクザと揉めたという噂だが、ネットニュースには心臓をえぐり取られていたと書かれていた。例の猟奇殺人事件と同じ犯人なのか、ヤクザが偽装しているのかはわからない。とにかく、鬱陶しい男だったので、犯人には感謝している。
「はい、アキラ」
 絵里が缶コーヒーを持ってきた
「なんだよ、これ。缶ビール買ってこいよ」
「そんなの売ってないよ。それにタバコ、やばいよ。先生が回ってるって」
「ちっ」
 舌打ちして吸殻を地面に押し付ける。絵里が立ちあがった
「ちょっとでも描いたほうがいいよ。さぼてったのモロばれだから」
「じゃあ、あいつはどうなんだよ」
 アキラが顎をしゃくった。春姫がひとりで退屈そうにベンチで寝ている。
「昼寝の時間かよ、まったく」
「あの子は全くやる気なしだね」
「俺たちもこんな授業なんてサボって帰ろうぜ」
 視線を横にむけると、佐藤がいた。画用紙に筆を走らせながら、時折春姫を盗み見している。アキラはにやけながら立ち上がると、佐藤のそばに寄っていった
「何をしているんだ? あんなビッチがいいのか?」
 佐藤が振り向いてアキラを見た。
「僕の自主制作映画の出演者をね、探しているんだ」
「は? 何それ?」
 そばに寄ってきた絵里と二人で笑う。
「長い間手間隙かけて準備してきたのに、ある人がどじ踏んだおかげで時間を無駄にしたんだ。だけど、やっと準備が出来たんだ」
 佐藤がふっと笑う。いきなり何を話しているのか。この男は馬鹿なんじゃないかと、アキラは思った
「主役は決まってるんだ。あとは他の出演者なんだよ。ねえ、僕の映画に出てよ」
「はあ? 俺が?」
「出てあげればいいじゃん、出ろ出ろ」
 絵里が笑ってはしゃぐ。
「私も出てもいい?」
「きみじゃだめなんだ。魔女役は決まってるんだよ」
「なんでお前の映画に俺が出るんだよ。なめたこといってると殺すぞ、お前」
 また絵里が笑う。
「ところで、どんな映画なの?」絵里が訊く。
「魔女と生贄をバモイドオキ神に捧げる映画なんだ」


(完)

魔女の棲む街 18


魔女の棲む街 18

 少年に電話がつながった
「今夜、注文通り女を攫ったぜ。あいつらも呼んでレイプさせるから、今からこっちに来て映像を撮れ。その後、約束どおり性悪女をくれてやる。場所はいつもの倉庫だ」
「本当?」
 受話器の向こうで少年が大喜びしている。どうしようもない変態野郎だ。安尾は振り返って春姫を見た。後ろ手に縛られたまま上体を起こし、こちらを睨みつけている。気の強い、いけ好かない女だ。
「お前はこれから俺の弟分にさんざん弄ばれた後、変態野郎に殺されるんだぜ」
 春姫を見下ろしながら、安尾はにやりと笑った。
 あのガキと組めば、シノギには困らない。
 弟分も呼んで、みんなでこいつを輪姦してやる。携帯電話に視線を落とすと、弟分の番号を呼び出した。
 電話を終えたとき、春姫は気丈にもこちらを睨みつけていた。
「くそ度胸だけはいいんだな。しかし、いい身体してやがるぜ。今までその身体でたんまり稼いできたんだろ」
 白い乳房を鷲掴みにすると、「勝手に触るな!」と叫んで足で蹴ろうとしてきた。本当に気の強い女だ。
「どれ、あいつらが来るまでに味見をさせてもらうか」
 安尾が春姫の固く閉じている脚をこじ開けた。春姫の悲鳴が倉庫内に響く。
「ヤリマンの癖して可愛い悲鳴をあげるじゃねえか」
「この変態!」
「うるせえ!」
 安尾に頬を張り倒され、春姫が悲鳴を上げる。足首を掴んで無理やり足を左右に広げた。
「使い込んでる癖してずいぶんと綺麗じゃねえか」
「この野郎!」
 春姫が暴れるたので、足首を掴んでいた手を離してしまった。胸を蹴られ、激しく咳き込んだ。
 安尾はナイフを取り出して春姫の鼻先に突きつけた。春姫の顔が強張り、身体が凍りついたように動かなくなった。
「その綺麗な鼻を削ぎ落としてやろうか」
 春姫がごくりと唾を飲んだ。ざまあみろ、ビビッてやがる。
「そうやっておとなしくしてろよ。暴れたら目ん玉くりぬいてやるからな」
 安尾がベルトをはずし、ズボンのファスナーを降ろした。
「中に思い切り出してやるぜ」
 ナイフを突きつけたまま、春姫に覆いかぶさっていった。
 突然、頭に強い衝撃を受けた。目の前が暗くなる。落とした携帯電話が地面の上で撥ねる。
頭を抱えてその場に蹲る。こめかみに強い衝撃があり、そのまま地面に倒れた。棒切れが床を転がっていく。女の靴が目に入った。
 女に棒で殴られたとわかった時、女の姿は倉庫から消えていた。
「くそ!」
 額を押さえると、血が流れていた。
 ガラスの破片が落ちている。あれでテープを切ったのか。
「あのアマ! 絶対ぶっ殺してやる!」
 頭を押さえながら立ち上がる。倉庫の入り口で影が動いた。少年が中を覗いている。
「魔女はどうなったの?」
「はあ?」
「レイプしたあと、僕にくれると言っていたじゃないか。その後殺して首を切るんだ。映像を撮らせてくれると約束しただろ?」
「うるせえな!」
 安尾が額の血を拭いながら毒づいた。
「女はいねえよ」
「もう、バモイドオキ神様に連絡してしまったんだよ」
「はあ? なんだ、それ。知るか、そんなこと。予定が変わった。他を探してやる」
「生贄はもう決めているんだ。あの女でないと駄目なんだよ。あとは最後の生贄と魔女の映像がそろえばいいんだ。あの女でないとだめなんだ。魔女が必要なんだ」
「知るか、ボケ! この変態野郎が!」
 泣きそうな顔で抗議していた少年の目から、スッと感情が抜けた。
「もう、あなたに用は無いよ」
「なんだと!」
 安尾が少年の胸倉を掴む。
「舐めてんのか、てめえ! ちょっと甘やかすとすぐに調子に乗りやがって。ヤキ入れるぞ、こらぁ!」
 脚に焼けるような衝撃を感じ、思わず離れた。手で押さえると、太腿が五センチほど切り裂かれていて、血が噴き出ている。少年を見た。右手にナイフを持っている。サバイバルナイフのような頑丈なものでなく、刃の部分が細長い、今まで見たこともないタイプのナイフだった。
「この野郎! 何しやがる!」
 頭に血が昇る。怒りに我を忘れた安尾は、立ち上がって少年に掴みかかったが、掴みかかってくる安尾の腕を身をかわして避ける。
 踏み込んで拳を叩き込んでも、ひらりと交わす。動きが速い。
 少年が腕を横に薙いだ。腕に焼けるような痛みが走り、思わず引っ込めた。上腕部が大きく裂けて、血まみれになっている。
「この野郎!」
 少年が踏み込んできた。あっという間に腕と足を切られる。耐えきれず、安尾はその場に倒れ込んだ。
 少年が感情のない目で安尾を見下ろしている。
「魔女が殺される映像が僕には必要なんだ。あの方と約束したんだ」
 こいつの目は本物だ。はったりじゃない。
 少年が足を踏み出してきた。安尾は立ち上がることができず、そのまま後ずさりしていく。
背中に壁が当たった。
 まるでガラス玉のような少年の目に、いつの間にか殺意が宿っているのに気付いた。
「た、助けてくれぇ!」
 安尾の絶叫が倉庫に響いた。

魔女の棲む街 17


魔女の棲む街 17

 フロアで踊る若い男女をぼんやり眺めていた。体がだるい。急にピルを止めたせいだろうか。新しいパトロンができて張り切って処方してもらったが、無駄になってしまった。
 目の前で、一人で席に座る女に、男が声をかけている。今夜の獲物にありつこうと、男は必死だった。
「ダサ男が。一人で抜いとけ」
「何か、機嫌悪そうだね」
 絵里が、窺うようにこちらを見ている。真紀子は用があるといって今日は来ていない。男とやってる最中だろう。彼女も稼ぐのに忙しい。
「あんたはなんか機嫌よさそうね」
「昨日、四万稼げたの」
「客とったの?」
「ふたり。安尾さんに二万渡したけど」
「いいわねえ。私は稼ぎ損ねたわよ」
「新しいパパができたんでしょ?」
「それが殺されちゃったの。電ノコで真っ二つに切られて。今夜あたりニュースでやってると思うけど」
「真っ二つって、マジ?」
 春姫は銜えたタバコに火をつけた。タバコがまずい。
 いったい誰が川辺を殺したのか。
「それに最近、どうも嫌な視線を感じるのよね。まさか、私も狙われてるのかな」
「あんたはいつも男の視線を集めてるじゃん」
「でも、物欲しそうな視線なんかじゃじゃないの。なんか、得体の知れない、不気味な視線」
「やだ、ストーカー?」
「そんなやつ、目の前に出てきたら股間蹴り飛ばして金玉潰してやるんだから」
 春姫の下品な言葉に、絵里が大笑いしている。機嫌のいい絵里がうらやましい。
 春姫はタバコの吸い殻を灰皿に放り込むとソファから立ち上がった。
「どこ行くの?」
「帰る。今日はだるいわ。あんたはどうする?」
「じゃあ、もう少し踊ってく」
「そう。じゃあね。また明日」
 もう帰るのかと、クラブの黒服が寄ってくる。手を振って追い払い、店の外に出た。通行人が駅の方に向かってぞろぞろ歩いていく。電車に乗って帰るのが面倒だった。
 タクシーで帰るか。
 人の流れに逆らってきた道を戻り、わき道にそれる。スポンサーがいなくなって、これまでのように金を好きなように使えない。次のパトロンを早く見つけたいが、何か余罪が見つかってしまったのか、クラブのママはまだ警察署につながれたままだ。もしかしたら、パトロンの仲介をやめるかもしれない。
 まったく、ついてない。
 地面を蹴った。靴底が地面をこする音が、闇夜に響く。
 それを合図に、前に停まっていた車のドアが開き、男が中から降りてきた。
「よう」
 安尾だった。思わず舌打ちしそうになる。こんな人気のないところでこんな奴に出会うなんて。
 そっと後ずさりする。人気の多い通りまでは三十メートルほど。隙を見て走れば何とかなる。
「前から聞こうと思っていたんだがな」
「な、なに?」
「お前、何でそう人に偉そうにするんだ」
「なに、それ。別に偉そうにしてないわよ」
「してんだよ!」
 安尾がどなった。身体が強張る。
「お前、俺のこと馬鹿にしてるだろ。ああ?」
 一気に通りまで走ろうと、春姫は踵を返した。しかし、安尾の手が一瞬早く、春姫の髪をつかんだ。
「何すんのよ!」
「うるせえ!」
 頬に強い衝撃が走り、その場に倒れ込んだ。
「前からお前のことが気に入らなかったんだ」
 安尾が地面に倒れている春姫の背中を蹴った。激しい衝撃に息が詰まる。
「ちょっと来い」
「いや!」
 手を振りほどこうとした時、何かを首に押し付けられた。殴られたような衝撃に襲われ、急に目の前が真っ暗になった。

 身体が大きく揺れて、目が覚めた。車の後部シートに寝かされている。身体を起こそうとしたが、後ろ手に縛られていた。
「気が付いたか?」
 安尾がにやけた顔で、運手席から後ろを振り向いた。
「今から焼きを入れてやるからな」
 声を出そうとしたが、口が開かない。ガムテープでふさがれていた。しばらくして車が停まった。安尾が運転席から降りた。
「降りろ」
 後部座席のドアが開き、春姫は車から引きずり出された。ガムテープをはがされる。呼吸が楽になった。
 安尾は縛り上げた春姫を背中から羽交い締めにして、当然のように春姫の胸をまさぐった。安尾の手が無遠慮に春姫の下着に潜り込む。
「やめて!」
 春姫は身を捩って逃れようとしたが、安尾の指が膣に侵入してくる。
 安尾は春姫の下腹の割れ目に指を差し込んで動かし続けた。
 安尾が春姫を床に転がした。
 上着をはぎ取られ、更にブラジャーが引きちぎられた。乳房が剥き出しになる。春姫は恥ずかしさと屈辱で叫び声をあげた。
 晒し出された春姫の胸をいやらしい目で見ながら、春姫の四肢を押さえ込んだ。そして乳房と太ももを乱暴に撫で回した。
 安尾は一基に春姫のショーツを引きずりおろした
 春姫の全てが安尾の目の前にさらけ出された。春姫は安尾の視姦から逃れようと身をよじらせてもがいた。
 安尾が携帯電話を取り出した。足元に、割れたガラスの破片がころがっているのが目に入った。

魔女の棲む街 16


魔女の棲む街 16

 裏びれた喫茶店。他の客は競馬新聞を黙って読む中年男三人だけだ。
「順調に売れてますよ」
 エロDVDの店長が、ヤニで黄色く濁った歯を見せた。レイプもののDVDはここ最近の売れ筋らしいが、素人女のガチレイプとなると、なかなかのレアものだ。レイプマニアは目が肥えているので、演技だとすぐにばれてしまう。モノホンだという噂が噂を呼び、マニアたちに飛ぶように売れているらしい。
「じゃあ、今度はこれだ。よろしく頼む」
 少年から受け取った裏DVDを詰めたボストンバッグを渡す。男が封筒に入った金を渡した。百万はあるだろう。これで五件目。全部で五百万。このシノギはやめられない。
「次のも今編集中なんだ。じゃんじゃん売ってくれ」
「どこで仕入れてくるんです? まさか、自分たちで作ってるとか?」
「つまらねえことを詮索するんじゃねえよ」
「噂で聞いたけれど、海外にもこのDVDが流れているらしいんです。向こうのマニアにもうけてるみたいっすね」
 安尾はにやりとして、コーヒーを啜った。
「でも、週刊誌で騒いでいるでしょ。きっと警察が動いていますよ」
「びびるんじゃねえよ。被害者が訴え出たわけじゃあるまい。それに、仕入れて売ってるだけだ。お前が捕まることもねえよ。何か聞かれたら、とぼけ顔で、もちろんガチじゃなく演技に決まってますよって言ってやればいいんだ」
「まあ、こっちは売れてくれりゃ、文句は言わねえっす」
 店長は鞄を抱えると、逃げるように店を出て行った。安尾もコーヒーを飲み干して外に出た。
 ビルの前で携帯電話を耳にあてていた若者が、安尾の顔を見るなり携帯をパタンと閉じ、微笑みながらお久しぶりですと頭を下げた。この辺りじゃ、俺もなかなかの顔役になった。
 パーキングでライトバンに乗り込みエンジンを掛ける。ブブスンっという間の抜けた排気音と共にラジオから妙にテンションの高い年増女の声が響いた。女の奇妙な高笑いを聞きながら、この女のテンションの高さは精神を病んでいると思った。
 新宿に戻り、裏路地にポツンとあるパーキングに車を停めた。
 アダルトDVDとビニ本の店だ。
 階段で地下に降りる。ドアに一糸まとわぬ有名アダルト女優のポスターが貼ってあった。
「どうでした?」
 弟分が媚びるような笑みを浮かべて寄ってくる。
「この通りだよ」
 金の入った封筒を見せつける
「今回のも、五百万いきましたね」
「これからもどんどん儲けてやるさ。あいつは?」
「事務所にいます」
 事務所のドアを開けると、少年が椅子に座っていた。相変わらず、表情のない、魂が抜けたような顔をしている。こいつの眼には生気がないのだ。
 もう一人の弟分が、編集したレイプ画像を見ていた。男が二人で女子高生を犯している。男の顔にはモザイクが入っているが、女の方ははっきりと顔が写っている。
「この女、良かったよなぁ」
 レイプ動画をみながら、弟分が股間を掻いている。
「一度訊きたいと思っていたんだがよ」
 安尾が椅子に座ってタバコをくわえた。動画を見ていた舎弟が慌ててライターを差し出した。
「お前が尊敬しているサカキバラってのは、二十年ちょっと前に神戸でガキを殺した中学生のことだよな」
 少年が安尾を睨むように見る。
「あの方の偉業を、誰もが簡単に理解できるとは思っていないよ」
「へへへ」
 安尾が笑う。このガキは完全にいかれている。
「頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
 煙を天井に向かって吹き上げた
「この前話した女をレイプしてくれるんだろ?」
「ああ」
 春姫をレイプしてくれと、このガキが頼んできた。春姫のレイプ動画。想像しただけでぞくぞくしてくる。さぞ売れるはずだ。
「レイプしたあとの女子高生を僕にくれないかい?」
「どうするんだ? 女には興味は無いんだろう?」
「殺して首を斬り落とすんだ。そして口を裂いて祭壇に奉るんだよ。その場面を録りたいんだ」
「はあ?」
「テーマは『魔女』なんだよ。相手は悪いことをした奴でないとだめなんだ。魔女が必要なんだ」
「この変態野郎が」
「魔女が殺される映像が僕には必要なんだ。斬り落とした魔女の首を、あの方に捧げるんだ。早くしなければ、僕には時間がない」
「そうだな。今のうちにやりたいことやっとかないと。ガキはいくら殺しても死刑にならないからな」
 安尾は吸殻を灰皿の上で押しつぶした。
「いい身体をした性悪の女子高生だ。きっと気に入るぜ」
 にやりと笑う安尾。少年の目が輝く。
「魔女を捕まえたら連絡して」
 春姫の顔が思い浮かぶ。
「わかっている。そいつは悪い女だ。思いっきりレイプするから、ちゃんと撮影しろよ。その後、女をお前に譲ってやる」
 少年の顔が、ぱっと明るくなった。このガキがこんな笑顔を見せるとは、意外だった。
「じゃあ。約束だよ」
 そう言い残して少年が帰っていく。
「気味の悪い奴だ」
 舎弟と目が合い、思わず苦笑いした。

魔女の棲む街 15


魔女の棲む街 15

 だるい……。
 今日が学校休みでよかった。あってもさぼっていた。
 時計を見た。朝の八時過ぎ。まだ布団から出たくなかった。
 下着に手に入れる。
 あっ……濡れてる。
 指を動かす。甘い快感が広がってくる。微かに開いた唇から声が漏れる。
 やばい、やめられなくなっちゃった。
 ベッドサイドのスマートフォンに手を伸ばす。おかずを探さないと集中できない。中学の時に覚えたセルフ。かつてはガールズコミックでドキドキしていたが、援助交際を始めてからは親父としかやってない。目を閉じても浮かんでくるのは醜く突き出た下腹と、濃い陰毛に覆われたペニスばかりだ。
 検索画面を呼び出す。少女がホテルで殺害される。ニュース欄のタイトルが目に飛び込んできた。他人事ではない。思わず開いてしまう。
 被害者は木下萌香という十七歳の女。自分と同じ歳だ。中年男とラブホテルに入ったが、トラブルになり絞殺されたらしい。
 馬鹿な女だ。金に眼がくらんで、身元もわからない怪しい男とホテルにしけ込むからそんなことになるのだ。その点、身元のしっかりした金持ちの男を選んであてがわれている自分がいかに特別な存在か確認できた。
 スマホ検索で無料で読めるアダルトコミックを探す。凌辱モノが好みだった。気に入った作品を見つけたので、布団にもぐりこんで読む。
 これ、結構いいかも……。
 下着の中に指を忍ばせる。さっきよりも濡れている。汚さないように下着をずらして指を使い始める。
 我慢しても小さな声が漏れる。しばらくして頂上が見えてきた。
 もう少し……。
「春姫」
 母の声が頭上から聞こえてきた。身体が痙攣を起こしたように強張る。
「な、なによ!」
 慌てて首を布団から突き出す。
「どうしたの? 起きてたの?」
「勝手に入ってこないで! ノックくらいしてよ!」
「そんなに怒らなくってもいいでしょう。それより、刑事が来てるのよ」
「はあ?」
「警察。あんたに話が聞きたいんだって」
「なんで?」
「知らないわよ。こっちが聞きたいくらいよ。あんた、まさか何かやったの? 万引きとかしたんじゃないでしょうね」
「万引きくらいで刑事が家になんか来るかよ」
 まだ下着はずらしたままなので布団から上半身だけを出す。
「用意するから出てて。すぐに下に降りるから」
 不安そうな顔で春姫を見てから、母が部屋から出て行った。
 刑事がどうしてこの家にやってきたのか、気になった。まさか、援助交際のことがばれたのか。親ばれはまずいんだけど。不安な気持ちで下着を穿き直し、トレーナーとジーンズを着ると、部屋を出て階段を下りた。
 母が階段の下で待っていた。玄関で男女二人が立ってこちらを見ている。男は五十前の中年。女の方は若く、まだ三十になっていないだろう。援助交際を始めてから、中年男の歳が正確にわかるようになっていた。
「榎本春姫さんね」
 女の方が口を開いた。見たところ女は普通だが、男の眼が異様に鋭い。これが刑事の眼なんだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここじゃなんだから外に出られるかしら?」
「いいですけど」
 振り返ると母親が心配そうにこちらを見ている。大丈夫だから。目でそう答えて玄関の外に出た。
「ごめんね。休みの日に」
「いえ。なんです、話って」
「川辺蔵祐って人、知ってるわよね」
 胸がどきりとする。やっぱり援交のことだったのか。
「まあ、知り合いっていえば知り合いだけど……」
「クラブのママの紹介で知り合ったのよね」
「クラブのママ?」
「とぼけてもダメよ。ちゃんと調べているんだから」
 そこまで調べているのか。心臓が高鳴り、全身から汗が染み出てきた。
「は、はい……」
「どんな関係だったの?」
「その……あって食事をして、お小遣いをもらっていました」
 ホテルにいって抱かれた、とは言わなかったが、それくらいのことは刑事もわかっているのだろう。
「あの……」
「心配しなくてもいいわ。お母さんには黙っておいてあげるから」
「はい……ありがとうございます」
「その代わり、こちらの質問には正直に答えてね」
「はい」
「昨日の夜十時ごろ、どこにいたの?」
「昨日の夜ですか? 家にいましたけど」
「誰か証明してくれる人、いる?」
「はい。親と妹が」
「家族以外には?」
「いえ……」そう言いかけて、そばのコンビニが目に入った。
「昨日の夜十時過ぎ、そこのコンビニに買い物に行きました。防犯カメラに映っていると思います」
「そう」
 中年男が女の刑事に何か耳打ちした。
「実はね、昨日の夜、川辺さんが殺されたの。経営している鉄工所で」
「えっ……」
「知らなかったの?」
「は、はい、知りませんでした」
「本当かい?」
 中年男が鋭い目で睨み付けてくる。冷たい、嫌な目だった。
「はい。朝、スマホでニュースを覗いたけど、載っていなかったし」
「実は、まだ報道されていないんだよ。特異な方法で殺されたのでね」
「特異な方法ですか?」
「川辺さんの周りで何か変わったことはなかったかな。怪しい人と付き合っていたとか」
「いえ……」
「川辺さんが誰かの恨みを買ってるってことは?」
「あの……川辺さんとは知り合ったばかりで、詳しいことは知らないんです。川辺さんのことはママが詳しいかもしれません」
「蒲生時恵さんだね。今、署で事情を聴いているところだよ」
 春姫は息を呑んだ。ママが警察署に引っ張って行かれたのだ。
 それから同じような質問を二、三受けたが、いずれも春姫には覚えのない質問だった。
「何か思い出したり何か聞いたりしたら連絡して頂戴」
 帰り際、女の刑事が名刺を差し出した。

魔女の棲む街 14


魔女の棲む街 14

 緑色に塗られた薄汚れた工場の壁を見上げる。
 川辺鉄工所。
 駐車場に、ピカピカに磨かれたあのベンツが置かれている。看板を照らすライトを跳ね返していた。本当によく磨かれている。
 自然に笑いが漏れた。せっかく綺麗に磨いたのに、あの男はもうすぐあの車には乗れなくなるのだ。
 車のボンネットの前にしゃがみ込んで手を車体の下に差し込む。マグネットで固定された小箱を外した。
 殴られている時に、男の隙を見て車に取り付けたGPS。バッテリーはまだ十分残っているようだ。
 鉄工所の窓から、事務所の中を覗き込む。影が動いた。部屋の明かりは消されていたが、男と女の影だった。
 男が女を作業机に押さえつけ、後ろから覆いかぶさって腰を激しく振っている。
 警報機に注意しながら工場の周囲を探る。事務所の裏側に入り口を見つける。鍵は開いていた。音を立てないようにドアを開け、中に忍び込んだ。真っ暗な室内に、工作機械が並べられている。作業室のようだ。足音を忍ばして部屋の中を通り、事務所に近づいていく。
 開いたドアから女の喘ぎ声が聞こえてきた。そっと覗き込む。男は体を仰け反らせ、大声で吼えた後、腰の動きを止めた。
「ふう……。最高だったぜ」
 嫌らしく笑いながら男が椅子に座り、銜えたタバコに火をつけた。女がティッシュで股間を押さえながら、こちらに向かってきた。下着はつけていない。
 慌てて機械の陰に隠れる。廊下に出た女が突き当りを右に曲がった。物陰から出て女を追う。脱衣室と書かれた部屋の明かりがついていて、すりガラスを通して女の影が見えている。水の音が聞こえてきた。そっとドアを開けて中に忍び込む。女の下着と作業服が床に脱ぎ捨ててあった。女は工場の従業員らしい。スイッチに手を伸ばし、電気を消した。
 女が小さな悲鳴を上げた。
「ちょっと、社長ったら。見えませんよ」
 ドアを開けると、女の背中がすぐ目の前に会った。スタンガンの電極を女の首筋に押し付けた。ギャッと小さな声を上げ、女が床に倒れる。電気をつけると、薄い肌着をつけただけの女が、尻をむき出しに倒れている。股間だけを湯で流していたのだろう。
 歳は三十歳くらい。でも、大人の女の歳などよくわからない。
 女の腕を後ろ手に縛りタオルで猿轡を噛ませると、浴室から引きずり出した。目を覚ました女に、再びスタンガンの電極を押し当てた。
 女を脱衣室の床に転がしたまま、外に出た。足を忍ばせて暗い廊下を歩き、事務所まで戻る。男がタバコを吸いながらパソコンの画面を見ていた。息を殺して事務所の中に入り、背後に忍び寄った。
「おい、見てみろよ」
 振り向いた男の首にスタンガンを押し付けると、男はうぐっ吐息を漏らして床に倒れた。
 パソコンの画面には、男女が交わっている無修正画像が映されていた。

 目を覚ました男がこちらを見た。
「お前、誰だ」
 男がふてぶてしくそうに言った。しかし、何も答えない。これから、神の儀式が始まるのだ。
 男が台の上で暴れる。手足は縛って固定してある。
「おい、こら、何をした。てめえ、なめるんじゃねえぞ。俺はただの町工場の社長じゃねえんだ。筋もんにも知り合いはいっぱいいるんだぜ。てめえ、殺されちまうぜ」
 男の言葉を無視してスイッチを入れた。甲高い金属音が作業室に響く。男が悲鳴を上げた。
「てめえ! 俺をどうする気だ!」
 男は股間で鈍く光っている電動鋸を凝視した。ようやく自分の置かれている状況を理解したらしい。
「僕のこと、覚えてないの?」
「お前なんか知るか! 早くここから降ろせ!」
「それはできないよ。神の儀式はもう始まっているんだ。中断するなんてできないよ」
 スイッチを入れた。甲高い金属音に交じり、男の悲鳴が部屋中に響いた。
「助けて! 助けてくれ! お願いだ、金ならいくらでも払う!」
 男の頭の方に回り、台を手で押してゆっくり進めていく。男の股間が高速回転する電動鋸の刃に近づいていく。
「やめてくれぇ!」
 男が目を向いて涙を流し、命乞いしている。しかし、そんなたわごとを聞いている暇はない。
 絶叫が作業室に響く。男の股間から鮮血の飛沫があがる。のたうつ男の身体の中を、電動鋸の刃が高速回転しながら進んでいく。回転刃にかき回され、切断された腹から内臓が飛び出て来た。
 周囲が鮮血に染まり、男はすでに動かなくなっていた。
 刃が男の胃のあたりまで来たとき、電動鋸のスイッチを切った。吸い込まれそうな静寂が作業室を包む。
 男は天井を睨み付けたまま絶命していた。大きく開けた口からよだれが垂れている。カバンからメスを取り出し、男の胸を切り裂いた。皮膚を両側に大きく開き、むき出しになった肋骨をハンマーで砕いて取り除く。メスで血管を切断し、心蔵を取り出すと、それをビニール袋に入れた。浴室から女の呻き声が聞こえてきた。
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アーケロン

Author:アーケロン
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