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魔女の棲む街 4


魔女の棲む街 4

 校門には誰もいなかった。鉄門は閉まっている。一時間目の授業は始まったばかり。走れば遅刻は大目に見てくれるが、そんな気もなく、鉄門を押し開けて中に入ると春姫はそのまま校舎の裏に回った。
 プレハブ倉庫の裏で、真紀子が一人、地面に腰を下ろしてタバコを吸っていた。短いスカートの奥から下着が顔を覗かせている。
「パンツが見えてるぞ」
「おっ、春姫もさぼり?」
「お前もこんな朝っぱらからニコチン補給?」
 春姫は真紀子の横に腰を下ろすと、学生鞄からセーラムライトを取り出した。
「今朝は機嫌がいいのね。昨日はだいぶ稼いだんじゃないの?」
 春姫が最初のひと吹かしを辺りにまき散らす。
「まあね。それでかな。股間がやたら痒いんだけど」
 真紀子がスカートの中に手を入れる。
「病気じゃないの?」
「大丈夫」と言って、スカートから出した指を鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。
「うん、いい匂い」
 春姫が彼女からそっと離れた。
「絵里がさ、高田にぞっこんなんだよね」
「高田?」
「高田アキラ」
「ああ、あのチャラオか」
「あいつのこと、どう思う?」
「どう思うって、見た目まんま。あんな奴信用できないじゃん。性欲処理用に遊ばれるだけだよ」
「そう思うっしょ。でも。絵里に言っても全然聞く耳持たずだし」
「無駄無駄。恋は盲目だもん。特にあの子の場合、前の男にあんなひどい目に遭わされたのに、全然懲りてないし」
 ポケットの携帯電話が鳴った。
「誰?」
「ママからメール」
「何? 仕事のメール?」
「そう」
 すぐにかけなおす。
「昨日の彼、どうだった?」
「とてもいい人。紳士だったよ」
「向こうも気に入ってくれたみたいなの。もう、話付いているの。あなたには月二十万入るわ。できれば断らないでほしいんだけど」
 やった! 思わずその場で拳を握った。
「私なんかでよければ、こちらからお願いします」
「そう、よかった」
 ママの声がパッと明るくなる。ママにはいくら入るのか知らない。私が二十なら、十ってところか。金を持っていそうな男だった。それくらいなんともないだろう。
「今夜も彼に会える?」 
「大丈夫」
 ママが男との待ち合わせ場所を説明する。
「どうだった?」
 電話を切ると、真紀子が顔を覗き込んできた。ピースサインを送ると、「やったジャン!」といって背中を叩いた。
「いいなあ……。今度奢ってよ」
「あんたも金持ちのパパを見つけろ」
「それはそうと、あの安尾には気をつけたほうがいいよ。あんたに眼ぇつけてるみたいだし」真紀子が地面にタバコの吸い殻を押し付けた。
「あいつにとやかく言われる筋合いないじゃん。客は自分でとっているんだし。街で男を見つけるわけじゃないんだし、ショバ代を払えんてどうして言われなきゃ、なんないわけ?」
「やくざにそんな言い訳通用しないよ。あの街のあいつらの縄張りで遊んでいて身体売ってる女の子は、みんなあいつらに金渡さないとダメなんだよ」
「そんなの、おかしいじゃん。普通の女の子だっていっぱい遊んでるじゃん」
「そうだけど。だから、あまり近づかない方がいいよ。あいつらに理屈は通用しないんだから」
 春姫は大きなため息をついた。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。


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