魔女の棲む街 6
魔女の棲む街 6
「最近どうよ」
「しけてらぁ」
亮輔の決まり文句。しかし、しけたことしかない変わりない毎日は、アキラも同じだった。もっと刺激のある毎日を送れないものか。
「で、絵里、どうよ」
「あ、食っちまった」
アキラがそう言うと、タバコに火をつけた亮輔が下品にけけけっと笑う。教室で堂々と煙草を吸っても、誰も何も言わない。
「抱き着心地、よかっただろ。胸もでかくてむっちりしてて」
「ケツもでかいし、あそこもぐっしょり濡れてて締まってたぜ」
亮輔がまた笑った。学校でも底辺の成績のこの男は、族に入ってからは髪を脱色してパンチパーマを当てた。
「お前、駅前の援交女子高生のこと知ってるか?」
亮輔がタバコの煙を天井に噴き上げた。
「ああ。中年オヤジにやたら身体を売っている女子高生だろ」
この学校の女子生徒の中にも、売春している者は多い。身体を売っている女は日頃から派手な化粧をしているし、持っているものを見ればわかる。ブランド物のバッグに財布、化粧品。普通の女子高生が手にできそうもない豪華なものを持っていれば、そいつが制服を着た娼婦なのだ。
しかし容姿端麗な女子高生は、テレクラに舌足らずな声で電話したり、インターネットの掲示板に諭吉3などと書き込んだり、街を歩く中年オヤジに色目を使ったりはせず、金持ち親父を手に入れるために自分の身体に日々磨きをかけているらしい。金持ち親父の愛人になれば、街で援交するより一桁多い稼ぎを手に入れることができるし、金持ち親父から日々、ブランド物のプレゼントももらえる。そうなれば勝ち組らしい。
教室に春姫と真紀子が入ってくる。
「あいつら、いい身体してるよなぁ」
真紀子と春姫は、何人も男を知っている身体だ。
春姫の耳のピアスがきらりと光るのが目に入った。ピアスの輝きが強ければ、そいつは売れっ子。本物のダイヤが入っているからだ。春姫のピアスはおそらく十万はする、ダイヤ入りだ。金持ち親父の愛人に囲われているのだ。
「あの女、勝ち組なのか。むかつくぜ」アキラが吐き捨てるように言った。
教室が荒れに荒れまくっている、低レベルの学校。誰も真面目に授業など受けたりなんかしない。教師たちもすっかり諦めていて、生徒たちを叱ろうとする熱意すらない。公立の学校や普通レベルの私立学校に不採用だったへたれ教師たちが流れ着く、レベルの低い私立高校の一つだ。
アキラが床に落ちているテニスボールを拾い上げると、黒板のほうに向かって思い切り投げつけた。最前列の佐藤の頭にボールが当たり、ぱこーんと言い音を立てて天井に届くくらい跳ね上がった。
それをみていた亮輔が笑う。他の生徒たちもくすくす笑っている。頭を押さえながら振り向いた佐藤が、卑屈な愛想笑いを浮かべていた。
クラスの苛められ役。見ているだけでいらついてくる、へたれ野郎だ。
「あんな糞野郎にボールぶつけたくらいじゃ、すっきりしねえよな」
亮輔がタバコの吸い殻を窓から捨てた。
「あ、俺、頭痛が痛いから保健室にいってくるわ」
「さぼりかよ。出席日数、やばいんじゃねえのか?」亮輔がわらっている。
廊下に出たアキラは携帯電話を取り出した。
「よう、絵里か?」
「あ、アキラ」
「今から、屋上まで来いよ」
「え、もうすぐ授業が始まっちゃうよ」
「なんだよ、俺の言ういことが聞けねえのかよ」
「そんなこと、ないけど……」
「俺のこと嫌いなのかよ」
「好きだよ」
「ん? 聞こえない。もう一回」
「好き。これでいい?」
「ちゃんと言えるじゃん。俺のこと好きなら屋上に来てくれよ、よろしく」
電話を切って、階段を上がっているとき、始業のベルがなった。
屋上でタバコを吸っていると、ドアの開く音がした。
「よう」
「体調が悪いって言って、教室出てきた」
絵里がアキラの横に座る。
「吸うか?」
アキラが絵里にタバコを銜えさせた。絵里が激しく咳き込む。アキラは絵里の口からタバコを引き抜いてキスをした。絵里の身体が緊張で硬くなっている。
「なあ、絵里。今からここでしようぜ」
「え? でも……」
「大丈夫、誰も来やしねえよ」
アキラが絵里のブラウスに手をかけた。
「だめだよ、脱ぐのは嫌。誰かが授業サボってあがってきたら見られちゃうよ」
「しょうがねえな。じゃあ、パンツ脱いで俺の上に跨がれ」
アキラがベルトをはずし、ズボンのファスナーを下ろした。絵里は素直に下着を外すとアキラの股間に跨った
「おおお、濡れてるじゃねえか。お前、屋上に呼び出されたときから、こうなるってわかってたんだろ」
「うん……なんとなく」
「なんだよ、嫌なら止めたっていいんだぜ」
「嫌じゃないよぉ」
絵里がアキラに抱きついたまま、ゆっくりと動き始めた。