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魔女の棲む街 8


魔女の棲む街 8

 食事を終えた二人はエレベーターに向かった。エレベーターの中で、二人の体が触れあった。二階下の二三階で降りて、赤い絨毯が敷かれた広い廊下を歩き、部屋にたどりついた。
 室内の主照明は落とされていた。天上に吊るされた小さなペンダントライトと、ベッド脇に立ててあるスタンドランプの淡いピンク色の間接照明。部屋の奥に白いシーツのダブルベッドがおいてあった。ベッド脇の壁一面には鏡が張ってあった。ベッドの反対側の壁には大型の液晶テレビがおかれていた。
 鏡にミニスカートの可愛らしい女子高生と五十過ぎの肥った男が並んで映っている。鏡に映った春姫をみて、パトロンがほほ笑んだ。こんな若く美しい娘を抱けるのかと思うと、たまらなく嬉しいのだろう。
 パトロンが春姫の方に視線を向ける。
 視線が春姫の身体を這い回る。胸、腹や下半身、太ももへと移動する。
 舐め回すように視線を浴びせられる。
「やだよう、じろじろ見て。恥ずかしい」
 春姫はパトロンに背中を向け、服を脱いだ。ブラとショーツになったところで、パトロンがストップをかけた。
 パトロンは服を脱ぐと春姫をベッドに連れて行った。
「春姫、可愛い下着つけてるじゃねえか。勝負パンツか?」
 普段あまり身につけていない紫の上下の下着を着けていた。
「パパ、こんなの好きかなって思って。白かピンクのパンティのほうがよかった?」
「こっちのほうがいい」
 ベッドの上でパトロンが顔を近づけてきた。春姫の肩に手を回して、髪を撫でる。
「最近、女子高生とヤる事が多かったけど、みんな申し合わせたみたいに白を履いてやがる。中年男は白が好きだなんて、いつの時代の話なんだと思うぜ。別に処女なんて求めてねえのに、空しくなるじゃねえか」
 パトロンがキスをしてきた。
「パパ、シャワー……」
「このままがいい」
 パトロンが春姫からすべてを剥ぎ取り、全身に舌を這わした後、のしかかって来た。
 これまでの男より、女の扱いに慣れていると思った。触り方が優しい。いろんな格好をさせられるのは他の男と同じだったが、がつついた様子はなかった。
 上手いとか下手だとか、別にどうでもいい。これは仕事だ、バイトだ、ビジネスだ。
 あまり早く終わると二回目を求められる。適当に声を出して、あとは好きにさせた。そろそろいいかなと思う頃になって、パトロンに抱きつき切羽詰った声を出してやると、待っていましたとばかりに腰の動きを速め、そして終わった。
 四十分。いつもと同じ段取りで仕事を終えることができた。
「パパぁ……気持ちよかった……」
 最後の仕上げに、パトロンに抱きついてキスをしてやった。

 制服を身につけドレッサーの前で髪を梳き、最後に胸にリボンをつけた。
「今月のお手当だ」パトロンが封筒を差し出した。
「わあ、ありがとう!」
 封筒を手に取る、分厚い。厚さからすると三十万か。
「すごい、こんなに!」
「たいしたことない。全部千円札だ」
「パパの意地悪!」
 口を尖らせる。パトロンが笑っている。中を見る。一万円札がぎっしり入っている。
「パパ、大好き!」抱きついてキスをした。
 この男が自分に大金をもたらせてくれる。そう思うと、心がうきうきしてくる。援助交際を始めた中学三年生の頃は、客となった男は、たいていごく普通のどこにでもいるような中年男たちだった。そのうち、男たちは結婚しているのに少女を買って遊んでいることや、そのことに一片の罪悪感も持っていないことを知った。セックスの後に妻と幼い娘が映っている家族写真を見せられたこともあった。醜く太った、金を出すことでしか女と関係できないできそこないの男を相手にすることも多かった。そんな時は恐怖すら感じたが、金の誘惑には勝てなかった。
 あの時と比べると、私も出世したもんだ。鏡に映った自分の姿を見ながら春姫は微笑んだ。

 十時過ぎにホテルの部屋を出た。
「パパ……これでパパとずっと一緒だよね?」
 エレベータの中で、パトロンの腕にしがみつく。パトロンの顔に疲労が浮かんでいる。この歳で女子高生相手に一時間も情交していたのだから当然だろう。
「ああ勿論だよ。春姫がイヤだって言ったらパパは春姫を何処かへ閉じ込めるかもしれない」
「嬉しい……パパが望むなら閉じ込められてもいいもん……」
 春姫がパトロンに抱きついた。
「私を買ってくれてありがとう、パパ」
「よしよし、いい子だ。これから贅沢をさせてやるからな」
「うん!」
 ホテルの駐車場を出て渋谷の繁華街を抜けていく。途中渋滞にぶつかってしまい、パトロンがハンドルを切って裏道に入った。
 暗い路地を曲がろうとした時、ヘッドライトの中に人影が飛び出してきた。パトロンが急ブレーキを踏んだ。タイヤが地面をこする鋭い音と、春姫の悲鳴が響く。地面に小柄な男が倒れている。
「野郎!」
 パトロンが車を飛び出した。
「急に飛び出すんじゃねえよ」
 男の胸倉をつかんで引き上げる。髪を赤く染めた若い男だった。
「気をつけろ、馬鹿」
 パトロンが男を殴った。車の前に倒れた男は悲鳴一つ上げないで顔をあげてこちらを見た。どこかで見たことのある、陰気臭い顔だった。
 男が車のバンパーに手をついて立ち上がろうとした。
「汚い手で触るんじゃねえよ」
 パトロンが男の腹をけり上げると、崩れるように男が地面に倒れた。
「お前みたいな若者がいるから、日本が世界中からバカにされるんだよ」
「パパ、早くいこ」
 パトロンは地面に倒れた若者につばを吐きかけると、ベンツの運転席のドアを開けた。


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