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魔女の棲む街 10


魔女の棲む街 10

 液晶画面の中で、嫌いなキャスターが物知り顔で話している。
 先日街で起こった心臓くり抜き事件を伝えていた。犯人は精神異常者の可能性もあり、警察は過去に小動物を虐待したことがある人物を調べているらしい。
 無能で愚かな警察諸君よ。これからも検討違いの犯人を追い続けるといい。僕は、精神異常者でもなければ、動物を虐待したことも一度もないのだ。
 赤いかつらを被って鏡を見る。笑いたくなった。街にいる馬鹿な連中と同じ格好だ。馬鹿な連中の中に身を紛れ込ませるには、馬鹿な連中と同じ格好をすればいい。それに、あんなゴミのような街の連中も、僕に心臓を捧げることによって、神に近づくことができるのだ。彼らは死して僕に感謝しなくてはならないのだ。
 革製のかばんを開ける。ネットで購入した暗視ゴーグル、ビデオカメラに三脚、スタンガン。そして、生贄をさばくためのサバイバルナイフにペンチ、ハンマー、肉切包丁、手術用のメスも入っている。
 今はシャットダウンしてある、さっきまで操作していたパソコンを見た。
 あの方のホームページが、また繋がらなくなっていた!
 サーバーの運営者が、あの方の邪魔をしているのだ!
 屑どもが!
 どうしてあの人の偉大さがわからないのだ!
 僕はきっとあの人の偉業を世間の連中に認めさせてやる。
 外に出ると、250CCの大型スクーターに跨り、エンジンをかけた。帳の降りた街に飛び出す。どこかの馬鹿な女子高生が、コンビニの駐車場で耳障りな笑い声を上げている。今はあいつらには用はない。そのうち、僕が救いの手を差し伸べてあげるよ。
 街を抜け、山に向かう国道に入る。街から離れるに従い、車の数が次第に減っていく。郊外にある住宅街を抜けると、車が一気に姿を消した。
 ダムに向かう狭い県道に入る。周囲を森に囲まれた、街灯もない真っ暗な道をひたすら進んだ。ようやく、月明かりに照らされる湖面が眼に入った。ダム湖の周囲を囲む道路に入ると、スピードを落として休憩所にゆっくりと近づいていく。
 街灯もない漆黒の闇の中で、三台の自動販売機のある休憩所の周辺だけが明るい。少し離れたところにバイクを止めると、側道脇の草むらの中に隠した。革のかばんを肩から掛け、休憩所に使づいていく。
 改造バイクが止まっていた。全部で五台。確認すると、あの男のバイクもある。
 やっと、ここにやってきたのだ!
 耳を澄ますと風にのって若い男たちの笑い声と女の悲鳴が聞こえてきた。かばんから暗視ゴーグルを取り出して装着し、遊歩道をゆっくりと上がっていく。
 わずかな月明かりだが、足元に生えている草や転がっている小石まではっきり見える。突然、鋭い光が目に飛び込んできた。連中が懐中電灯を振り回しているので、その明かりがゴーグルに入ってきたのだ。増幅された光に網膜を強く刺激され、視覚を失った。その場で伏せて、視覚が回復するまでしばらく待った。
 また、女の悲鳴が聞こえてきた。連中の姿がゴーグルの中に映し出される。ターゲットを確認する。ズボンを上げているということは、もう用は済んだのか。
 その場でじっと待つ。今日で三日目。チャンスを待つ時間が好きだった。じっくり待ったあとに獲物を仕留めたときの爽快感は、何事にも代えられない。
 女はもう悲鳴を上げていなかった。一人が女の上に覆いかぶさっていて、一人の男が腕を押さえている。あの男は笑いながらその行為を見ていた。時々、あの男の顔がパッと明るくなる。タバコを吸っているのだ。
 仲間の男がひとり、その場を離れた。自動販売機のある休憩所に下りてきた。自動販売機にコインが落ちる音、缶が転がり出る音。ジュースを買った男が戻っていく。
 あの男も、下に降りてきた。
「激しい運動をしたんで、俺も喉が渇いちまったよ」
 あの男の声だ。ジュースを買いに降りてきて、すれ違った仲間と言葉を交わしたのだ。
 チャンスが向こうからやってきた。
「お前、あっという間に出したじゃねえか」
 馬鹿どもが笑いあっている。ゆっくり立ち上がって休憩所に近寄っていく。
 あの男が自動販売機の前に立った。光がまぶしすぎるので、ゴーグルを外して、男に近寄っていく。
「ねえ」
 後ろから声をかけた。振り向いた男の首筋にスタンガンを押し当てる。糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた男に猿轡をかませ、結束バンドで手首を後ろ手に拘束すると、暗闇の中に引きずっていく。
「おーい、亮輔。二回目始めるぞ」
 男を呼ぶ仲間の声。女の泣き声が微かに耳に届く。
 休憩所の光の届かない場所まで男を引きずって来た、男が身を捩って呻いている。目を覚ましたようだ。革のバッグからビデオカメラを取り出し、赤外線モードに切り替えて三脚にセットする。
 そして、メスとハンマーを手に持った。
「さあ、宴の始まりです」
 男のシャツをメスで切り裂く。電気ショックを受けたように全身を痙攣させながら、男がのたうち回った。男を押さえつけ、シャツを破って胸をさらけ出すと、喉の下から胸の中央にかけて一気にメスで切り裂いた。
 男の断末魔の叫びが、噛ませている猿轡でこもって聞こえる。男に馬乗りになり、切り裂いた皮膚に両手の親指をねじ込み、左右に開いて皮膚を引き裂いた。男が身体をのたうたせながら暴れる。構わずメスで何度も肉を切っていくと、ようやく肋骨が見えてきた。
 ハンマーで肋骨を叩き割る。暗くてよく見えないが、辺りは血の海のはずだ。男の動きが弱々しくなってきている。ハンマーで肋骨を砕き終わったころは、男は動かなくなっていた。
 砕いた肋骨を取り除き、胸の中に手を入れる。心臓はまだかすかに動いていた。ゆっくりと握りしめ、その動きを止める。絶命の一歩手前で、男の身体が最後にぴくっと痙攣した。
 ついにやった。三日間狙い続けていた獲物をやっと仕留めた。
 興奮してくる。メスで血管を切断し、男の身体から心臓を取り出した。
 これで、またあの方に一歩近づくことができた。
 できるだけ血液を絞り出した後、ビニール袋に入れる。男の死体をその場に残し、休憩所から離れた。
 風に乗って男たちの笑い声と女の悲鳴が聞こえてきた。


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