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魔女の棲む街 14


魔女の棲む街 14

 緑色に塗られた薄汚れた工場の壁を見上げる。
 川辺鉄工所。
 駐車場に、ピカピカに磨かれたあのベンツが置かれている。看板を照らすライトを跳ね返していた。本当によく磨かれている。
 自然に笑いが漏れた。せっかく綺麗に磨いたのに、あの男はもうすぐあの車には乗れなくなるのだ。
 車のボンネットの前にしゃがみ込んで手を車体の下に差し込む。マグネットで固定された小箱を外した。
 殴られている時に、男の隙を見て車に取り付けたGPS。バッテリーはまだ十分残っているようだ。
 鉄工所の窓から、事務所の中を覗き込む。影が動いた。部屋の明かりは消されていたが、男と女の影だった。
 男が女を作業机に押さえつけ、後ろから覆いかぶさって腰を激しく振っている。
 警報機に注意しながら工場の周囲を探る。事務所の裏側に入り口を見つける。鍵は開いていた。音を立てないようにドアを開け、中に忍び込んだ。真っ暗な室内に、工作機械が並べられている。作業室のようだ。足音を忍ばして部屋の中を通り、事務所に近づいていく。
 開いたドアから女の喘ぎ声が聞こえてきた。そっと覗き込む。男は体を仰け反らせ、大声で吼えた後、腰の動きを止めた。
「ふう……。最高だったぜ」
 嫌らしく笑いながら男が椅子に座り、銜えたタバコに火をつけた。女がティッシュで股間を押さえながら、こちらに向かってきた。下着はつけていない。
 慌てて機械の陰に隠れる。廊下に出た女が突き当りを右に曲がった。物陰から出て女を追う。脱衣室と書かれた部屋の明かりがついていて、すりガラスを通して女の影が見えている。水の音が聞こえてきた。そっとドアを開けて中に忍び込む。女の下着と作業服が床に脱ぎ捨ててあった。女は工場の従業員らしい。スイッチに手を伸ばし、電気を消した。
 女が小さな悲鳴を上げた。
「ちょっと、社長ったら。見えませんよ」
 ドアを開けると、女の背中がすぐ目の前に会った。スタンガンの電極を女の首筋に押し付けた。ギャッと小さな声を上げ、女が床に倒れる。電気をつけると、薄い肌着をつけただけの女が、尻をむき出しに倒れている。股間だけを湯で流していたのだろう。
 歳は三十歳くらい。でも、大人の女の歳などよくわからない。
 女の腕を後ろ手に縛りタオルで猿轡を噛ませると、浴室から引きずり出した。目を覚ました女に、再びスタンガンの電極を押し当てた。
 女を脱衣室の床に転がしたまま、外に出た。足を忍ばせて暗い廊下を歩き、事務所まで戻る。男がタバコを吸いながらパソコンの画面を見ていた。息を殺して事務所の中に入り、背後に忍び寄った。
「おい、見てみろよ」
 振り向いた男の首にスタンガンを押し付けると、男はうぐっ吐息を漏らして床に倒れた。
 パソコンの画面には、男女が交わっている無修正画像が映されていた。

 目を覚ました男がこちらを見た。
「お前、誰だ」
 男がふてぶてしくそうに言った。しかし、何も答えない。これから、神の儀式が始まるのだ。
 男が台の上で暴れる。手足は縛って固定してある。
「おい、こら、何をした。てめえ、なめるんじゃねえぞ。俺はただの町工場の社長じゃねえんだ。筋もんにも知り合いはいっぱいいるんだぜ。てめえ、殺されちまうぜ」
 男の言葉を無視してスイッチを入れた。甲高い金属音が作業室に響く。男が悲鳴を上げた。
「てめえ! 俺をどうする気だ!」
 男は股間で鈍く光っている電動鋸を凝視した。ようやく自分の置かれている状況を理解したらしい。
「僕のこと、覚えてないの?」
「お前なんか知るか! 早くここから降ろせ!」
「それはできないよ。神の儀式はもう始まっているんだ。中断するなんてできないよ」
 スイッチを入れた。甲高い金属音に交じり、男の悲鳴が部屋中に響いた。
「助けて! 助けてくれ! お願いだ、金ならいくらでも払う!」
 男の頭の方に回り、台を手で押してゆっくり進めていく。男の股間が高速回転する電動鋸の刃に近づいていく。
「やめてくれぇ!」
 男が目を向いて涙を流し、命乞いしている。しかし、そんなたわごとを聞いている暇はない。
 絶叫が作業室に響く。男の股間から鮮血の飛沫があがる。のたうつ男の身体の中を、電動鋸の刃が高速回転しながら進んでいく。回転刃にかき回され、切断された腹から内臓が飛び出て来た。
 周囲が鮮血に染まり、男はすでに動かなくなっていた。
 刃が男の胃のあたりまで来たとき、電動鋸のスイッチを切った。吸い込まれそうな静寂が作業室を包む。
 男は天井を睨み付けたまま絶命していた。大きく開けた口からよだれが垂れている。カバンからメスを取り出し、男の胸を切り裂いた。皮膚を両側に大きく開き、むき出しになった肋骨をハンマーで砕いて取り除く。メスで血管を切断し、心蔵を取り出すと、それをビニール袋に入れた。浴室から女の呻き声が聞こえてきた。

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