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魔女の棲む街 15


魔女の棲む街 15

 だるい……。
 今日が学校休みでよかった。あってもさぼっていた。
 時計を見た。朝の八時過ぎ。まだ布団から出たくなかった。
 下着に手に入れる。
 あっ……濡れてる。
 指を動かす。甘い快感が広がってくる。微かに開いた唇から声が漏れる。
 やばい、やめられなくなっちゃった。
 ベッドサイドのスマートフォンに手を伸ばす。おかずを探さないと集中できない。中学の時に覚えたセルフ。かつてはガールズコミックでドキドキしていたが、援助交際を始めてからは親父としかやってない。目を閉じても浮かんでくるのは醜く突き出た下腹と、濃い陰毛に覆われたペニスばかりだ。
 検索画面を呼び出す。少女がホテルで殺害される。ニュース欄のタイトルが目に飛び込んできた。他人事ではない。思わず開いてしまう。
 被害者は木下萌香という十七歳の女。自分と同じ歳だ。中年男とラブホテルに入ったが、トラブルになり絞殺されたらしい。
 馬鹿な女だ。金に眼がくらんで、身元もわからない怪しい男とホテルにしけ込むからそんなことになるのだ。その点、身元のしっかりした金持ちの男を選んであてがわれている自分がいかに特別な存在か確認できた。
 スマホ検索で無料で読めるアダルトコミックを探す。凌辱モノが好みだった。気に入った作品を見つけたので、布団にもぐりこんで読む。
 これ、結構いいかも……。
 下着の中に指を忍ばせる。さっきよりも濡れている。汚さないように下着をずらして指を使い始める。
 我慢しても小さな声が漏れる。しばらくして頂上が見えてきた。
 もう少し……。
「春姫」
 母の声が頭上から聞こえてきた。身体が痙攣を起こしたように強張る。
「な、なによ!」
 慌てて首を布団から突き出す。
「どうしたの? 起きてたの?」
「勝手に入ってこないで! ノックくらいしてよ!」
「そんなに怒らなくってもいいでしょう。それより、刑事が来てるのよ」
「はあ?」
「警察。あんたに話が聞きたいんだって」
「なんで?」
「知らないわよ。こっちが聞きたいくらいよ。あんた、まさか何かやったの? 万引きとかしたんじゃないでしょうね」
「万引きくらいで刑事が家になんか来るかよ」
 まだ下着はずらしたままなので布団から上半身だけを出す。
「用意するから出てて。すぐに下に降りるから」
 不安そうな顔で春姫を見てから、母が部屋から出て行った。
 刑事がどうしてこの家にやってきたのか、気になった。まさか、援助交際のことがばれたのか。親ばれはまずいんだけど。不安な気持ちで下着を穿き直し、トレーナーとジーンズを着ると、部屋を出て階段を下りた。
 母が階段の下で待っていた。玄関で男女二人が立ってこちらを見ている。男は五十前の中年。女の方は若く、まだ三十になっていないだろう。援助交際を始めてから、中年男の歳が正確にわかるようになっていた。
「榎本春姫さんね」
 女の方が口を開いた。見たところ女は普通だが、男の眼が異様に鋭い。これが刑事の眼なんだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここじゃなんだから外に出られるかしら?」
「いいですけど」
 振り返ると母親が心配そうにこちらを見ている。大丈夫だから。目でそう答えて玄関の外に出た。
「ごめんね。休みの日に」
「いえ。なんです、話って」
「川辺蔵祐って人、知ってるわよね」
 胸がどきりとする。やっぱり援交のことだったのか。
「まあ、知り合いっていえば知り合いだけど……」
「クラブのママの紹介で知り合ったのよね」
「クラブのママ?」
「とぼけてもダメよ。ちゃんと調べているんだから」
 そこまで調べているのか。心臓が高鳴り、全身から汗が染み出てきた。
「は、はい……」
「どんな関係だったの?」
「その……あって食事をして、お小遣いをもらっていました」
 ホテルにいって抱かれた、とは言わなかったが、それくらいのことは刑事もわかっているのだろう。
「あの……」
「心配しなくてもいいわ。お母さんには黙っておいてあげるから」
「はい……ありがとうございます」
「その代わり、こちらの質問には正直に答えてね」
「はい」
「昨日の夜十時ごろ、どこにいたの?」
「昨日の夜ですか? 家にいましたけど」
「誰か証明してくれる人、いる?」
「はい。親と妹が」
「家族以外には?」
「いえ……」そう言いかけて、そばのコンビニが目に入った。
「昨日の夜十時過ぎ、そこのコンビニに買い物に行きました。防犯カメラに映っていると思います」
「そう」
 中年男が女の刑事に何か耳打ちした。
「実はね、昨日の夜、川辺さんが殺されたの。経営している鉄工所で」
「えっ……」
「知らなかったの?」
「は、はい、知りませんでした」
「本当かい?」
 中年男が鋭い目で睨み付けてくる。冷たい、嫌な目だった。
「はい。朝、スマホでニュースを覗いたけど、載っていなかったし」
「実は、まだ報道されていないんだよ。特異な方法で殺されたのでね」
「特異な方法ですか?」
「川辺さんの周りで何か変わったことはなかったかな。怪しい人と付き合っていたとか」
「いえ……」
「川辺さんが誰かの恨みを買ってるってことは?」
「あの……川辺さんとは知り合ったばかりで、詳しいことは知らないんです。川辺さんのことはママが詳しいかもしれません」
「蒲生時恵さんだね。今、署で事情を聴いているところだよ」
 春姫は息を呑んだ。ママが警察署に引っ張って行かれたのだ。
 それから同じような質問を二、三受けたが、いずれも春姫には覚えのない質問だった。
「何か思い出したり何か聞いたりしたら連絡して頂戴」
 帰り際、女の刑事が名刺を差し出した。

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