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魔女の棲む街 16


魔女の棲む街 16

 裏びれた喫茶店。他の客は競馬新聞を黙って読む中年男三人だけだ。
「順調に売れてますよ」
 エロDVDの店長が、ヤニで黄色く濁った歯を見せた。レイプもののDVDはここ最近の売れ筋らしいが、素人女のガチレイプとなると、なかなかのレアものだ。レイプマニアは目が肥えているので、演技だとすぐにばれてしまう。モノホンだという噂が噂を呼び、マニアたちに飛ぶように売れているらしい。
「じゃあ、今度はこれだ。よろしく頼む」
 少年から受け取った裏DVDを詰めたボストンバッグを渡す。男が封筒に入った金を渡した。百万はあるだろう。これで五件目。全部で五百万。このシノギはやめられない。
「次のも今編集中なんだ。じゃんじゃん売ってくれ」
「どこで仕入れてくるんです? まさか、自分たちで作ってるとか?」
「つまらねえことを詮索するんじゃねえよ」
「噂で聞いたけれど、海外にもこのDVDが流れているらしいんです。向こうのマニアにもうけてるみたいっすね」
 安尾はにやりとして、コーヒーを啜った。
「でも、週刊誌で騒いでいるでしょ。きっと警察が動いていますよ」
「びびるんじゃねえよ。被害者が訴え出たわけじゃあるまい。それに、仕入れて売ってるだけだ。お前が捕まることもねえよ。何か聞かれたら、とぼけ顔で、もちろんガチじゃなく演技に決まってますよって言ってやればいいんだ」
「まあ、こっちは売れてくれりゃ、文句は言わねえっす」
 店長は鞄を抱えると、逃げるように店を出て行った。安尾もコーヒーを飲み干して外に出た。
 ビルの前で携帯電話を耳にあてていた若者が、安尾の顔を見るなり携帯をパタンと閉じ、微笑みながらお久しぶりですと頭を下げた。この辺りじゃ、俺もなかなかの顔役になった。
 パーキングでライトバンに乗り込みエンジンを掛ける。ブブスンっという間の抜けた排気音と共にラジオから妙にテンションの高い年増女の声が響いた。女の奇妙な高笑いを聞きながら、この女のテンションの高さは精神を病んでいると思った。
 新宿に戻り、裏路地にポツンとあるパーキングに車を停めた。
 アダルトDVDとビニ本の店だ。
 階段で地下に降りる。ドアに一糸まとわぬ有名アダルト女優のポスターが貼ってあった。
「どうでした?」
 弟分が媚びるような笑みを浮かべて寄ってくる。
「この通りだよ」
 金の入った封筒を見せつける
「今回のも、五百万いきましたね」
「これからもどんどん儲けてやるさ。あいつは?」
「事務所にいます」
 事務所のドアを開けると、少年が椅子に座っていた。相変わらず、表情のない、魂が抜けたような顔をしている。こいつの眼には生気がないのだ。
 もう一人の弟分が、編集したレイプ画像を見ていた。男が二人で女子高生を犯している。男の顔にはモザイクが入っているが、女の方ははっきりと顔が写っている。
「この女、良かったよなぁ」
 レイプ動画をみながら、弟分が股間を掻いている。
「一度訊きたいと思っていたんだがよ」
 安尾が椅子に座ってタバコをくわえた。動画を見ていた舎弟が慌ててライターを差し出した。
「お前が尊敬しているサカキバラってのは、二十年ちょっと前に神戸でガキを殺した中学生のことだよな」
 少年が安尾を睨むように見る。
「あの方の偉業を、誰もが簡単に理解できるとは思っていないよ」
「へへへ」
 安尾が笑う。このガキは完全にいかれている。
「頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
 煙を天井に向かって吹き上げた
「この前話した女をレイプしてくれるんだろ?」
「ああ」
 春姫をレイプしてくれと、このガキが頼んできた。春姫のレイプ動画。想像しただけでぞくぞくしてくる。さぞ売れるはずだ。
「レイプしたあとの女子高生を僕にくれないかい?」
「どうするんだ? 女には興味は無いんだろう?」
「殺して首を斬り落とすんだ。そして口を裂いて祭壇に奉るんだよ。その場面を録りたいんだ」
「はあ?」
「テーマは『魔女』なんだよ。相手は悪いことをした奴でないとだめなんだ。魔女が必要なんだ」
「この変態野郎が」
「魔女が殺される映像が僕には必要なんだ。斬り落とした魔女の首を、あの方に捧げるんだ。早くしなければ、僕には時間がない」
「そうだな。今のうちにやりたいことやっとかないと。ガキはいくら殺しても死刑にならないからな」
 安尾は吸殻を灰皿の上で押しつぶした。
「いい身体をした性悪の女子高生だ。きっと気に入るぜ」
 にやりと笑う安尾。少年の目が輝く。
「魔女を捕まえたら連絡して」
 春姫の顔が思い浮かぶ。
「わかっている。そいつは悪い女だ。思いっきりレイプするから、ちゃんと撮影しろよ。その後、女をお前に譲ってやる」
 少年の顔が、ぱっと明るくなった。このガキがこんな笑顔を見せるとは、意外だった。
「じゃあ。約束だよ」
 そう言い残して少年が帰っていく。
「気味の悪い奴だ」
 舎弟と目が合い、思わず苦笑いした。

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