魔女の棲む街 17
魔女の棲む街 17
フロアで踊る若い男女をぼんやり眺めていた。体がだるい。急にピルを止めたせいだろうか。新しいパトロンができて張り切って処方してもらったが、無駄になってしまった。
目の前で、一人で席に座る女に、男が声をかけている。今夜の獲物にありつこうと、男は必死だった。
「ダサ男が。一人で抜いとけ」
「何か、機嫌悪そうだね」
絵里が、窺うようにこちらを見ている。真紀子は用があるといって今日は来ていない。男とやってる最中だろう。彼女も稼ぐのに忙しい。
「あんたはなんか機嫌よさそうね」
「昨日、四万稼げたの」
「客とったの?」
「ふたり。安尾さんに二万渡したけど」
「いいわねえ。私は稼ぎ損ねたわよ」
「新しいパパができたんでしょ?」
「それが殺されちゃったの。電ノコで真っ二つに切られて。今夜あたりニュースでやってると思うけど」
「真っ二つって、マジ?」
春姫は銜えたタバコに火をつけた。タバコがまずい。
いったい誰が川辺を殺したのか。
「それに最近、どうも嫌な視線を感じるのよね。まさか、私も狙われてるのかな」
「あんたはいつも男の視線を集めてるじゃん」
「でも、物欲しそうな視線なんかじゃじゃないの。なんか、得体の知れない、不気味な視線」
「やだ、ストーカー?」
「そんなやつ、目の前に出てきたら股間蹴り飛ばして金玉潰してやるんだから」
春姫の下品な言葉に、絵里が大笑いしている。機嫌のいい絵里がうらやましい。
春姫はタバコの吸い殻を灰皿に放り込むとソファから立ち上がった。
「どこ行くの?」
「帰る。今日はだるいわ。あんたはどうする?」
「じゃあ、もう少し踊ってく」
「そう。じゃあね。また明日」
もう帰るのかと、クラブの黒服が寄ってくる。手を振って追い払い、店の外に出た。通行人が駅の方に向かってぞろぞろ歩いていく。電車に乗って帰るのが面倒だった。
タクシーで帰るか。
人の流れに逆らってきた道を戻り、わき道にそれる。スポンサーがいなくなって、これまでのように金を好きなように使えない。次のパトロンを早く見つけたいが、何か余罪が見つかってしまったのか、クラブのママはまだ警察署につながれたままだ。もしかしたら、パトロンの仲介をやめるかもしれない。
まったく、ついてない。
地面を蹴った。靴底が地面をこする音が、闇夜に響く。
それを合図に、前に停まっていた車のドアが開き、男が中から降りてきた。
「よう」
安尾だった。思わず舌打ちしそうになる。こんな人気のないところでこんな奴に出会うなんて。
そっと後ずさりする。人気の多い通りまでは三十メートルほど。隙を見て走れば何とかなる。
「前から聞こうと思っていたんだがな」
「な、なに?」
「お前、何でそう人に偉そうにするんだ」
「なに、それ。別に偉そうにしてないわよ」
「してんだよ!」
安尾がどなった。身体が強張る。
「お前、俺のこと馬鹿にしてるだろ。ああ?」
一気に通りまで走ろうと、春姫は踵を返した。しかし、安尾の手が一瞬早く、春姫の髪をつかんだ。
「何すんのよ!」
「うるせえ!」
頬に強い衝撃が走り、その場に倒れ込んだ。
「前からお前のことが気に入らなかったんだ」
安尾が地面に倒れている春姫の背中を蹴った。激しい衝撃に息が詰まる。
「ちょっと来い」
「いや!」
手を振りほどこうとした時、何かを首に押し付けられた。殴られたような衝撃に襲われ、急に目の前が真っ暗になった。
身体が大きく揺れて、目が覚めた。車の後部シートに寝かされている。身体を起こそうとしたが、後ろ手に縛られていた。
「気が付いたか?」
安尾がにやけた顔で、運手席から後ろを振り向いた。
「今から焼きを入れてやるからな」
声を出そうとしたが、口が開かない。ガムテープでふさがれていた。しばらくして車が停まった。安尾が運転席から降りた。
「降りろ」
後部座席のドアが開き、春姫は車から引きずり出された。ガムテープをはがされる。呼吸が楽になった。
安尾は縛り上げた春姫を背中から羽交い締めにして、当然のように春姫の胸をまさぐった。安尾の手が無遠慮に春姫の下着に潜り込む。
「やめて!」
春姫は身を捩って逃れようとしたが、安尾の指が膣に侵入してくる。
安尾は春姫の下腹の割れ目に指を差し込んで動かし続けた。
安尾が春姫を床に転がした。
上着をはぎ取られ、更にブラジャーが引きちぎられた。乳房が剥き出しになる。春姫は恥ずかしさと屈辱で叫び声をあげた。
晒し出された春姫の胸をいやらしい目で見ながら、春姫の四肢を押さえ込んだ。そして乳房と太ももを乱暴に撫で回した。
安尾は一基に春姫のショーツを引きずりおろした
春姫の全てが安尾の目の前にさらけ出された。春姫は安尾の視姦から逃れようと身をよじらせてもがいた。
安尾が携帯電話を取り出した。足元に、割れたガラスの破片がころがっているのが目に入った。