魔女の棲む街 18
魔女の棲む街 18
少年に電話がつながった
「今夜、注文通り女を攫ったぜ。あいつらも呼んでレイプさせるから、今からこっちに来て映像を撮れ。その後、約束どおり性悪女をくれてやる。場所はいつもの倉庫だ」
「本当?」
受話器の向こうで少年が大喜びしている。どうしようもない変態野郎だ。安尾は振り返って春姫を見た。後ろ手に縛られたまま上体を起こし、こちらを睨みつけている。気の強い、いけ好かない女だ。
「お前はこれから俺の弟分にさんざん弄ばれた後、変態野郎に殺されるんだぜ」
春姫を見下ろしながら、安尾はにやりと笑った。
あのガキと組めば、シノギには困らない。
弟分も呼んで、みんなでこいつを輪姦してやる。携帯電話に視線を落とすと、弟分の番号を呼び出した。
電話を終えたとき、春姫は気丈にもこちらを睨みつけていた。
「くそ度胸だけはいいんだな。しかし、いい身体してやがるぜ。今までその身体でたんまり稼いできたんだろ」
白い乳房を鷲掴みにすると、「勝手に触るな!」と叫んで足で蹴ろうとしてきた。本当に気の強い女だ。
「どれ、あいつらが来るまでに味見をさせてもらうか」
安尾が春姫の固く閉じている脚をこじ開けた。春姫の悲鳴が倉庫内に響く。
「ヤリマンの癖して可愛い悲鳴をあげるじゃねえか」
「この変態!」
「うるせえ!」
安尾に頬を張り倒され、春姫が悲鳴を上げる。足首を掴んで無理やり足を左右に広げた。
「使い込んでる癖してずいぶんと綺麗じゃねえか」
「この野郎!」
春姫が暴れるたので、足首を掴んでいた手を離してしまった。胸を蹴られ、激しく咳き込んだ。
安尾はナイフを取り出して春姫の鼻先に突きつけた。春姫の顔が強張り、身体が凍りついたように動かなくなった。
「その綺麗な鼻を削ぎ落としてやろうか」
春姫がごくりと唾を飲んだ。ざまあみろ、ビビッてやがる。
「そうやっておとなしくしてろよ。暴れたら目ん玉くりぬいてやるからな」
安尾がベルトをはずし、ズボンのファスナーを降ろした。
「中に思い切り出してやるぜ」
ナイフを突きつけたまま、春姫に覆いかぶさっていった。
突然、頭に強い衝撃を受けた。目の前が暗くなる。落とした携帯電話が地面の上で撥ねる。
頭を抱えてその場に蹲る。こめかみに強い衝撃があり、そのまま地面に倒れた。棒切れが床を転がっていく。女の靴が目に入った。
女に棒で殴られたとわかった時、女の姿は倉庫から消えていた。
「くそ!」
額を押さえると、血が流れていた。
ガラスの破片が落ちている。あれでテープを切ったのか。
「あのアマ! 絶対ぶっ殺してやる!」
頭を押さえながら立ち上がる。倉庫の入り口で影が動いた。少年が中を覗いている。
「魔女はどうなったの?」
「はあ?」
「レイプしたあと、僕にくれると言っていたじゃないか。その後殺して首を切るんだ。映像を撮らせてくれると約束しただろ?」
「うるせえな!」
安尾が額の血を拭いながら毒づいた。
「女はいねえよ」
「もう、バモイドオキ神様に連絡してしまったんだよ」
「はあ? なんだ、それ。知るか、そんなこと。予定が変わった。他を探してやる」
「生贄はもう決めているんだ。あの女でないと駄目なんだよ。あとは最後の生贄と魔女の映像がそろえばいいんだ。あの女でないとだめなんだ。魔女が必要なんだ」
「知るか、ボケ! この変態野郎が!」
泣きそうな顔で抗議していた少年の目から、スッと感情が抜けた。
「もう、あなたに用は無いよ」
「なんだと!」
安尾が少年の胸倉を掴む。
「舐めてんのか、てめえ! ちょっと甘やかすとすぐに調子に乗りやがって。ヤキ入れるぞ、こらぁ!」
脚に焼けるような衝撃を感じ、思わず離れた。手で押さえると、太腿が五センチほど切り裂かれていて、血が噴き出ている。少年を見た。右手にナイフを持っている。サバイバルナイフのような頑丈なものでなく、刃の部分が細長い、今まで見たこともないタイプのナイフだった。
「この野郎! 何しやがる!」
頭に血が昇る。怒りに我を忘れた安尾は、立ち上がって少年に掴みかかったが、掴みかかってくる安尾の腕を身をかわして避ける。
踏み込んで拳を叩き込んでも、ひらりと交わす。動きが速い。
少年が腕を横に薙いだ。腕に焼けるような痛みが走り、思わず引っ込めた。上腕部が大きく裂けて、血まみれになっている。
「この野郎!」
少年が踏み込んできた。あっという間に腕と足を切られる。耐えきれず、安尾はその場に倒れ込んだ。
少年が感情のない目で安尾を見下ろしている。
「魔女が殺される映像が僕には必要なんだ。あの方と約束したんだ」
こいつの目は本物だ。はったりじゃない。
少年が足を踏み出してきた。安尾は立ち上がることができず、そのまま後ずさりしていく。
背中に壁が当たった。
まるでガラス玉のような少年の目に、いつの間にか殺意が宿っているのに気付いた。
「た、助けてくれぇ!」
安尾の絶叫が倉庫に響いた。