鮮血のエクスタシー 1
鮮血のエクスタシー 1
「今まで殺した奴は、百人は下らねえよ」
子分の運転するベンツの後部座席に座った途端、店では口にしなかったきわどい話を始めた。自分が今までしてきたあくどい所業を自慢している。大物ぶっていても所詮はチンピラと変わらない。
男の名は権藤。権藤組の組長であり、広域暴力団山梨組の直参でもある。権藤が部下に経営させているクラブで働き始めて三日目、早くも店に顔を出した彼は、アンナを見るなり岩のような顔を崩した。今夜が初対面なのに、ソファに座るなり岩石のような顔を突きつけ、「俺のことを知っているか」と聞いてきた。
「もちろんですよ。権藤親分」
そう答えてやると、まんざらでもない顔をした。
「親分さんのような男気のある人が好きなんです」といって、膝に置かれた権藤の手にそっと触れると、いやらしそうに顔を歪めた。
「好きなのは俺の持っている金だろ?」
「まあ、ひどい。私はそんな女じゃないですよ。そりゃ、三拍子揃っていれば文句なしですけど」
「三拍子?」
「男気とお金、それに、うふふ……」
「もう一つは?」
「女の大好きなもの。でも、女の口からは言えないものです」
そういって権藤のズボンの前のふくらみに目を向けると、その視線に気づいた権藤が豪快に笑ったのだ。
三拍子揃っているところを見せてやるぜ。そう言って権藤は店が終わる前にアンナを外に連れ出したのだ。
ベンツがホテルのエントランスの前に停まった。
「ここらで一番いいホテルだ。庶民はなかなか泊まれないホテルなんだぜ」
安い部屋でも一泊十万はするらしい。権藤は先にベンツから降りると、アンナの手をとって急かすように車から引きずり出した。そして、助手席から若頭の亀梨が降りてきた。
「どうぞ」亀梨が先を歩いてエレベータに乗った。どうやら、部屋は亀梨がとっていたようだ。エレベータを二十階で降りて部屋に入る。
「悪いが調べさせてもらう」そう言うなり、亀梨がいきなり身体に触れてきた。アンナが小さな悲鳴をあげる
「ボディーチェックだ。我慢してくれ。こいつはやたら心配性でな。俺も困っているんだよ」
権藤が苦笑いしている。亀梨がアンナのバッグを取って、中身をソファにぶちまけた。化粧品に手鏡、部屋と車のキーに常備薬。
「ああ、それは」
亀梨が黒い塊を手にとった。手早く広げられる。
「やだぁ」アンナが両手で顔を覆った。黒のTバックのショーツだった。
「なかなか色っぽいのをつけているんだな」
権藤が亀梨の手から奪い取ったショーツを鼻に近づけた。アンナが慌ててそれをひったくると、丸めてバッグの中に押し込んだ。権藤が下品に笑っている。
「てめえも、少しは女心ってのに配慮しろ」
「どうもすみませんでした。ごゆっくりくつろいでください。自分はロビーで待ってますので」
亀梨は二人に一礼すると、部屋から出ていった。
「悪かったな、恥かかせちまったみたいで」
権藤が後ろからアンナにしがみついて、大きく張り出した胸を揉んだ。
「シャワーを浴びさせて……」
「そんなことをすれば、匂いが流れちまうじゃねえか」
「だめ……」
正面から抱きすくめようとする権藤の肥った体を押し返し、手を後ろに回してドレスのホックをはずした。
「ベッドで待っていて。すぐに済ませるから」
赤いドレスを肩からスッと落とす。黒のブラとショーツ姿になったアンナの見事なプロポーションに、権藤の目が釘付けになる。
「もう、嫌だわ。あまり見ないで」
権藤の視線から逃れるようにバスルームに入ると、ドアを閉めた。アンナはブラとショーツを外して全裸になると、洗面台においてあった消毒済みグラスを手に持ち、グラスの底を鏡にたたきつけた。
大きな音を立てて、鏡が砕け散った。アンナの大きな悲鳴を聞き、バスローブに着替えていた権藤がバスルームに飛び込んできた。
「ごめんなさい。水を飲もうとしたらうっかりグラスをぶつけちゃって」全裸のまま、アンナはその場にしゃがみ込んだ。折りたたんで洗面台の横に置かれていたタオルを手に取り、広げて床に飛び散った鏡の破片を掻き集めた。
「そんなもの、あとでホテルの従業員に片づけさせろ」
「でも、親分さんに怪我をさせるといけないから」
アンナはしゃがんだ姿勢で権藤に背中を向け、床を見ようと頭を下げた。ボリューム感のある尻が、権藤の目の前に晒されているはずだ。権藤の注意を自分の尻に向けさせ、アンナは大きな破片をタオルの中に素早く隠した。
「きゃ!」
権藤が尻に手を出してきた。
「いいケツしてやがる。そんなものはほっておいて、早くシャワーを浴びろ」
「じゃあ、親分さんもご一緒にどうです?」アンナが悪戯っぽい目を向ける。「洗ってあげるから」
権藤の顔がにやけた。アンナが手を伸ばし、権藤の身体からバスローブを剥いだ。バスローブの下は全裸だった。ペニスがすでに勃起していて、その表面に凹凸が目立っていた。いくつもシリコンを埋め込んでいる。
「嬉しいわ、もう、こんなになって」
権藤のペニスにそっと触れる。
「じゃあ、念入りに洗わせてやるよ」
権藤が先にバスルームに入った。アンナはガラスの破片を包んだタオルを持って、彼の後に続く。
シャワーを捻って温度を確かめ、湯の温度を調節する。その間、権藤はアンナの尻や胸に指を這わし続けていた。
「お背中流しますね」
権藤に背中を向けさせて、シャワーをあてる。手で男のがさついた肌を撫でると、そっと身体を背に当てた。
「逞しいわ……」
豊かな乳房が男の背中でつぶれる。
「俺も洗ってやるよ」
権藤がいきなり振り向いた。ノズルを持つ手が跳ね上げられ、しぶきが飛び散って権堂の顔を濡らした。
「あっ、ごめんなさい」
アンナが棚に置いたタオルにそっと手を伸ばした。
「顔を濡らしちゃったわ」
「構わねえよ」
アンナが権藤に抱きついた。後ろに回した両手でタオルからガラス片を取り出すと、気づかれないようにそっと権藤の首にあてがった。
バスルームの壁と天井が、一気に赤に染まる。権藤は両目を見開いたまま、バスタブの中に倒れ込んだ。数秒間身体を痙攣させると、そのままの姿勢で動かなくなった。大きく開いた権藤の両脚の付け根に、グロテスクなペニスがまだ鎌首を持ち上げていた
「何が立派なもんか。あんたと同じ、グロテスクで醜くて吐き気がするわ」アンナは天井を向いているペニスに湯をかけた。
身体に浴びた返り血を、ボディーソープで丁寧に落としていく。髪に血はついていなかった。浴室内はむっとする血の匂いで噎せ返るようだった。
敏感な襞に指が触れた途端、全身に電流が走った。知らぬ間に身体の奥が疼いていた。今夜は思い切り感じることができるかもしれない。
指紋は一切残していないはずだ。バスルームの外に脱ぎ捨ててあったドレスを身につけ、部屋を出る。非常階段のドアを開けて上と下を確認する。人の気配はない。一度ドアを閉めればホテルに戻ることができなくなるが、非常階段からならロビーを通らずにホテルの外に出ることができる。ロビーにさっきの手下が待っているはずだ。
亀梨。なかなか手ごわそうな男だった。
非常階段を駆け下り、裏口からホテルの外に出る。
人ごみに紛れてホテルから離れていく。どこで権藤の配下のものが目を光らせているかもしれないのだ。
人気のない広場に出た。携帯電話を取り出し、登録していた番号を呼び出す。
「あら、あなた」沙羅の済んだ声が聞こえてきた。身体の奥がずきんと疼く。
「今夜、いつものホテルで待ってるわ」
それだけ告げると、アンナは電話を切った。