fc2ブログ

鮮血のエクスタシー 4


鮮血のエクスタシー 4

 車が停まった。
「どうした」岩丸が苛ついた声を上げた。葬式が始まる前の打ち合わせの時間が迫っている。
「すんません、渋滞です」
「クラクション鳴らして脇に避けさせろ」
「それが、マッポでして」
 軽く舌打ちしてタバコを銜える。横に座る若衆がさっとライターを出した。
 葬儀会場となった事務所前で、組員と警官隊とがにらみ合っている。岩丸は事務所裏の地下の駐車場に車を入れるよう指示した。事務所の角を曲がるとき、防弾チョッキを着ている警官と目があった。マッポだらけの事務所に突っ込んでくる馬鹿もいないだろう。
 地下の駐車場に車を乗り入れる。大型のワンボックスカーがずらりと並んでいる。一昔前まではヤクザの幹部が乗る車はベンツが多かったが、最近は乗り心地が良く、かつ目立たないワンボックスカーが好まれるようになっている。
「お疲れ様です!」
 事務所に詰めている若衆がドアを開けると、居並ぶ組員たちが頭を下げて声を上げた。
「親分衆は?」
「上の会議室で待機いただいております」
 エレベータで四階にあがり、重厚な樫のドアを開ける。権藤組傘下の組長たちが既に顔をそろえていた。中央に小指に白い包帯を巻いた男が、歯を食いしばって座っていた。亀梨組組長、亀梨正志だ。
「てめえ、あの女は何者だ!」
 部屋に入ってきた岩丸に向かって亀梨が叫んだ。
「なんだぁ?」
 声を張り上げた亀梨を、岩丸が睨んだ。
「組長をやった女だ。お前の店で雇っていた女だろ!」
「ほう、自分の不始末のくせしやがって、俺にアヤつけんのかい」
「なんだと!」
 亀梨が席を立った。横にいた親分が亀梨をなだめた。
「女がやったとはどういうことだ。あの女にそんな大それたことができるか」
「じゃあ、やつらとグルだったに違いねえ」
「いい加減にせんかい!」
 岩丸がどなる。
「あの女の不始末のせいにして俺に責任なすりつけようって魂胆かい。女は親父を殺して逃げたんじゃねえ。殺し屋にさらわれたんじゃ。俺のせいにするんじゃねえ」
 直参若頭の斉藤に睨まれ、岩丸は頭を下げて席に座った。斉藤が権藤組長の後を継ぐことが幹部会で決まったと連絡があった。
「じゃあ、なんで攫われたんだ。グルだったに決まっている」
「その場にいて巻き込まれただけだ。女の裏は取ってある。知り合いの組幹部に面通しまでして雇ったんだ」
「岩丸」
 斉藤がギラリと光る目を向けた。
「ここに来る前の幹部会で、跡目は俺が継ぐことになった」
「へい、聞いておりやす」
「その女を探し出して、ここに連れてこい」
「へい」
 岩丸が頭を下げた。
 まったく、冗談じゃねえや。

 葬式を終えると、岩丸は急いでスナック「カサノバ」に向かった。店に入ると、手下がママと一緒に待っていた。
「女は?」
「いませんでした。電話も通じません。住所はでたらめです」
「なんだぁ!」
 岩丸がテーブルをひっくり返すと、ホステスたちが悲鳴を上げた。
 くそ、このままじゃ、俺も指を詰めさせられちまう。
「あの女の素性には間違いないんだな」
「へい」
 配下の組の幹部が、スーツの袖で額の汗をぬぐった。
「うちの系列の店で使っていました。こいつの店です。面通しで面拝みましたが、間違いねえです」
 幹部の横で、ホスト上がりだとわかる四十過ぎの男が頭を下げた。
「だれだ、そいつ」
「俺の店で店長をやらせています。レナは二年間こいつの女でした。高級ソープ嬢だったのをスカウトして、金持ち親父専門の娼婦をやらせてたんです。上玉で、権藤組長にも気に入ってもらえると思ってこの店で働かせてたんですが」
「お気に入りだったのは間違いねえ。その日のうちに連れ出したんだからな」
 岩丸は店長という男の前に立った。
「てめえの女なのに居場所がわからねえとはどういうことだ」
「半年くらい前に別れてまして」
「馬鹿野郎! てめえの女だったら、知り合いとか親許とか、探すところがあるだろう!」
「はい、探しましたが、知らないと。ここんところ音沙汰なかったらしくて、どこにいるかわかりません。親分の言うとおり、本当に攫われて殺されちまったかもしれません」
「ふん」
 それならそれで話の筋が通る。
「女を探せ」
「でも、どこにいるかわかりません」
 長身でグラマラスな水商売風の女だ。目立つはずだ。
「スナック、風俗店。どこでもいい。店を回って情報を流せ。見つけたら奴には報奨金を弾むってな」
 ママが不安そうに擦り寄ってくる。
「私、関係ないよね」
 ぽってりした唇が色っぽい。あれのしゃぶり方もうまかった。
「さあな、お前だって親父が殺されたことに無関係じゃねえんだ」
「そんな……」
 怯える女のドレスの胸が大きく開いている。岩丸が手を滑り込ませた。店に出るときブラはつけるなと言ってある。乳房に直接触れる。きめの細かい肌はこの女の自慢だ。
「心配するな。女はすぐに見つかるさ」

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

アーケロン

Author:アーケロン
アーケロンの部屋へようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR