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鮮血のエクスタシー 5


鮮血のエクスタシー 5

 潮の香りがする。風は陸から海へと流れているのに、不思議なものだ。
 車から降りると湾に沿って伸びる国道を見た。陽が落ちてだいぶたつが、晴れた夜空をバックに山の影かかすかに見えている。湾を挟んで一キロほど先の対岸に集落の明かりが見える。
 あの明かりの中にあの男がいるのだ。
 胸が急に高鳴る。見つけたわ。お前には一日たりともいい思いはさせないから。
 まだ十五歳だった。学校帰りの人気のない道路で車の中に引きずり込まれた。連れてこられたのはゴミだらけの部屋。鼻をつく腐敗臭。部屋を飛び回るハエに壁を這うゴキブリ。そんな部屋で十日間も監禁され、毎日犯された。
 アンナは意識して地面を踏みしめながら道を歩いた。そうしなければ足を踏み出すことができなかった。非情な殺し屋になった今でも、クズのような強姦魔の記憶を思い起こしただけで脚が震えている。一日たりとも、あの男に自由な気分など味あわせはさせない。
 ガラス戸から情報屋から聞いた居酒屋を覗いた。あの男がいた。カウンターに座り、中にいる若い女をくどいている。
 先週刑務所から出たばかりの男。少女を監禁して十日間毎日犯し続けて十二年の刑。判決を聞いた時は短すぎると思ったが、今は裁判官に感謝したい気持ちだった。
 ガラス戸に手をかける。指先が震えていた。一度手を離し拳を強く握って震えを押さえつけると、思い切って戸を開けた。
「いらっしゃいませ」
 男に口説かれていた女がこちらを向いて営業スマイルを投げた。男もつられてこちらを見る。間違いなく、あの男、山岡幸一だった。心臓が絞られるように鈍く疼いた。
 席二つを開けて、山岡の左に座った。横顔に男の視線が突き刺さってくるのを感じ、悪寒が走った。
「何になさいますか?」山岡の前から離れ、若い店員が注文を聞いてきた。
「じゃあ、熱燗をお願い」
 何気なく横を見ると山岡と目があった。軽く会釈を返して正面を見る。復讐の始まりだ。
「この辺りのもんじゃないよな」
 熱燗が出てきたとき、声をかけてきた。思った通り食らいついてきた。
「旅行かい?」
「仕事です。食品加工会社のものなんです。魚を卸してもらえるようにお願いに来たんですけど、いいお話がなくて」
「俺が口をきいてやるよ」
「それは助かりますわ」
「任せておけ」山岡がグラスを持って横の席に移ってきた。勝手に徳利を手にとって、猪口に酒を注いでくる。
「一人で出張かい?」
「そうなんですよ。予算の関係で」
 山岡がほくそ笑んだ。
「俺たち、どこかであったことあるんじゃねえか?」
 顔が引きつりそうなのを我慢して、アンナが微笑んだ。
「男の人はみんなそういうんですね」
「まあ、会ってるわけないか、俺は十二年も別荘にいたんだからな」
「別荘ですか?」
「そう、別荘だよ。特別な」男が笑ってグラスを飲み干した。
「私、お酒の強い人が好きなんです」というと、男が日本酒の入ったグラスを一気に空けた。
「さあ、あんたも飲めよ」
 山岡は言葉巧みにアンナに酒を飲まそうとした。酔えば酔うほど饒舌になっていった。
「これでもガキの頃は族に入っていて、命がけで戦ったもんだ、マッポとよ」
 知っている。この男の改造車に無理やり連れ込まれたのだから。
「さあ、飲めよ」
「もうだめ、酔ったみたい」
「何言ってんだよ、これからだよ」
「外に出て風に当たりたいわ」
 アンナが意味ありげに山岡を見た。顔に下品な笑みを浮かべた。身の毛もよだつような不気味な笑みだった。
「じゃあ、いいところに連れて行ってやる。静かでいいところだ」
「ぜひ、行きたいわ」
 女の気が変わらないうちにと思ったのか、山岡はさっさと金を払うと、アンナの肩を抱いて店の外に連れ出した。
「夜風が気持ちいいわ」
 風でなびく髪を指で押さえながら、周囲を見回した。誰もいない。
「さあ、こっちに来いよ」そういって、港へと続く道にアンナを誘いこもうとする。
「暗くて怖いわ」
「大丈夫だよ、子供じゃあるまいし」
 山岡はアンナの腕をとって、港への道を進んでいった。
 暗くて小さな漁港だった。地面のいたる所に網が置かれている。
「こっちに来いよ」といって、プレハブ小屋に連れ込もうとする。
「何をする気?」
「ここまで付いてきておいて、それはないだろう」
 山岡が抱きついてきた。酒臭い息がかかり、思わず顔を背けた。
「その気、あるんだろ?」
 後ろから抱きついた山岡が、両手でアンナの身体をまさぐる。
「ここじゃ、できないわ」
「立ったままやろうぜ」
「私、男の人のを確認してからすることにしているの」
「なんだよ、それ」
「だって期待していたのにすごく小さかったらがっかりするじゃない」
「心配いらねえよ」
 山岡がアンナの手を取って股間に導いた。ズボンの中で男のペニスはすでに固くなっていた。
「なあ、でかいだろ?」
「じゃあ、見せて」
「疑い深いんだな」
 山岡が下着ごとズボンを下ろした。グロテスクなペニスが空に向かって鎌首を持ち上げている。
「なあ、でかいだろ」
「そうねえ」
 アンナが山岡のペニスに触れた。
「さあ、そこに手をついてケツを向けろよ」
 妖しい笑みを浮かべたアンナが、山岡の鳩尾に拳を叩き込んだ。ぐえっと息を吐いて身体を丸めた男の首筋に手刀を打ち込んだ。身体を丸めたままの男を仰向けにし、ペニスをつかむと、ポケットから取り出したナイフの刃を立てた。
 山岡の悲鳴が闇に響いた。
「本当に大きいわ。惚れぼれしちゃう」
 切断した山岡のペニスを夜空にかざした。股間を抑え、男がのたうちまわっている。
「しっかり根元を絞って血を止めたほうがいいわ。動脈を切断しちゃったから、そのままだと死んじゃうわよ」
「お前……」
「これなしで惨めな人生を歩めばいいわ。そのうち本当に殺しにきてあげるから」
 アンナはほくそ笑むと、男の眼の前で、手に持ったペニスを海に投げ捨てた

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