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野獣よ暁に吼えろ 6


野獣よ暁に吼えろ 6

 明生は用があるといって、席を立った。
「女っすか?」
 小指を立てて聞いたが、「ただの野暮用だ」といって、一人で出て行った。工藤に会いに行ったのかもしれない。
 すっかり酔ってしまった一平太は、一人で部屋に戻って寝ることにした。
 明日から三日間の祭りだ。初日から二日酔いでフラフラしていたんじゃあ売上にも影響する。明生にも怒られるかもしれない。早く寝て酔いを醒まさないと。
「どうして明生君が帰ってきたの?」
 階段を上がろうとしたとき、玄関から女の声が聞こえてきた。一平太は自分に話しかけられたと思って声のしたほうを向いた。聡子だった。妹の笙子も一緒にいる。
「夜店の手伝いじゃないの? 毎年この時期に帰ってきているみたいだから」
「代貸しが気にしていたわ」
 聡子の言葉に笙子の目が険しくなった。
「何よ、あんな男」
 笙子がそういい捨てると、姉を置いて玄関から外に出て行った。
 階段を上がると、磨き上げられ黒光りしている廊下に出る。料理を食べさせるのが中心の店なので、泊まって行くのは宴会や食事の後で帰るのが億劫になった旦那衆がほとんどだ。従って客間は三つしかない。
 祭りの日の前で、泊まり客は取っていなかった。
 小さな旅館だけど温泉を引いているんだぜ、と明生は言っていた。湯船は小さいが二十四時間何時でも入れるそうだ。
 二階の廊下に出て左の一番奥が一平太と明生が泊まる部屋だった。廊下の反対側、右手の一番奥、障子が明るくなっている部屋が女将と代貸しがいる部屋だ。
 一時間ほど横になったあと、一平太は風呂へ入る事にした。階段を下りて一階に行き、廊下を料亭とは反対側に進む。突き当たりのガラスの引き戸が風呂場の入口だった。
 引き戸を開けようとすると、いきなり中から開いた。姿を現したのは聡子だった。
「あら」と聡子は言った。
「今、代貸しが入っているわ」
「そうっすか、じゃあ、俺は後からにします」
「大丈夫よ。五人くらいは入れるお風呂だから、さあ、お入りになって」
 聡子はそう言って廊下を戻って行った。
 代貸しの背中でも流していたのだろう。
 一平太は手早く服を脱ぎ、風呂場の戸を開けた。身体の大きい男が湯船に浸かっていた。
「失礼します」
「おお、はいれ」
 代貸しは血色の良い男だった。でっぷり太っていて、頭が大分薄くなっている。背中一面に坂田の金時の刺青が彫ってあった。
 その筋の男だが、見た限りでは恐ろしい男だという印象は無い。人の良いオジサンと言った感じだった。しかし、声は掠れて太く、長年の渡世で鍛えてきた貫禄が滲むように出ていた。
「明生の弟分なんだって?」
 代貸しは気さくに声を掛けてきた。
「ここの祭りは初めてかい?」
「はい」
「ここいらの田舎としちゃあ結構大きいんだぜ。参拝客も大勢来る、せいぜい稼ぐんだな」
 代貸しは湯船につかりながらこちらを見ている。
「いい身体しているじゃねえか」
「ジムで鍛えてるっすよ」
「明生は東京じゃ、ずいぶん羽振りがいいそうじゃねえか」
「店をいくつか経営していますから。俺もそこで働いているんっすよ」
「そうかい。ところで、明生の爺さんは博徒の親分だったんだ。聞いているかい?」
「はい」
「そうか、それならいいんだ」
 代貸しは、ふうっと息をついた。
「明生に言っておいてくれねえか。爺さんの後を継ぎたいんなら縄張りを返してやってもいいんだぜってな。俺のところで修業して、爺さんの後を継ぐ気はねえかってな」
 玄関で話していた聡子と笙子の会話を思い出した。代貸しは明生が帰ってきたのを気にしていると、聡子は言っていた。
「明生さんが組の跡を継ぐんっすか?」
「奴にその気はねえのか?」
「そんな話、聞いたことないっす。東京で店を四つも持ってますから、向こうを離れる気なんてないんじゃないですか」
 噂では明生の年収は三千万を超えていると聞いている。こんな田舎の組を継ぐとは考えられない。
「爺さんが死んだ時、明生のお袋に連絡したんだが無しの礫だった。明生が祭りの時期にこの町に帰って来るようになるまでは、何処でどうしているんだかまったく分からなかったよ。俺が縄張りを預かったんだって、他にどうしようも無かったからだ。東京や関西の連中にいい様にされるわけにはいかねえしな。何て言ったってここは俺たちの土地だ。そうだろ」
「はい」
 代貸しは風呂から上がっていった。代貸しの股間には黒い大きなペニスがぶら下っていた。勃起すればかなりのサイズになるだろう。
 あれで聡子をよがらせているのか?
 聡子の熟れた浴衣姿を思い浮かべ、下半身が熱くなった。

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