野獣よ暁に吼えろ 14
野獣よ暁に吼えろ 14
明生はハンドルを握って海沿いの国道を走っていた。
会ったときはまともに顔を見ること野獣よ暁に吼えろ 14ができなかった。運転席に座って、その横顔をそっと盗み見るのがやっとだった。
衝撃的なセックスだった。あれだけの快感を覚えたのは生まれて初めてだった。男には歳相応に抱かれてきたが、セックスがいいとは思ったことなどなかった。なのに、明生に与えられた快感に気が狂いそうになって、激しく乱れてしまった。
あんな自分の恥ずかしい姿を見られたのに、またこうやって明生に会っている自分が信じられなかった。いや、明生に会いたかったのだ。そして、またあの快感を与えて欲しかった。明生に抱かれたがっている自分が、今でも信じられない。
「夏ももう終わりだな」
「えっ?」不意に横から声をかけられ、笙子は慌てて窓の外を見た。海水浴場に人影は無かった。砂浜に点々と散らばっているのは打ち寄せられた塵だろう。寂しいと思えるような景色だった。
「南原組を継ぐの?」
「祖父の望みだった」
「おじいさまの?」
「祖父が死ぬ前に、約束しちまった。工藤が見届け人だった。死んだから約束を反故になんてできない」
「その……」口ごもった後、思い切って口を開いた。「私と結婚したいって、本気?」
「だめか?」
「何のために? 須田組も一緒に継ごうってわけ?」
「上部組織に俺が立って、二つの組を傘下に収める」
「組員たちが納得しないわ」
「させるさ。その準備をしてきた。若い衆にいい生活をさせてやれる。女も抱かせてやれるし、やりがいのある仕事も与えてやれる。男はそんな奴についてくるんだよ」
「結局は金と欲なのね。あなた、やっぱり根っからのやくざなのよ」
「おまえも、愛だの恋だの、青臭いことを言う男は嫌いだろ。俺は自分の道を極める。必要なのは、そんな俺についてきてくれる女だ。お前の母親だって、極道の親父さんについていったんだろ」
「でも、新宿の一等地に住んでいて、どうしてこんな田舎に戻ってくるわけ? 南原組を継ぐっていったって、あなたを慕ってくれるのは、今となっては工藤とその舎弟くらいしかいないわ」
「ここは俺の故郷なんだ」
「何それ」
明生はそれ以上、何も答えようとしなかった。
「あなたが南原組を継ぐのは無理よ。お父さんは別の人間を組長に添えるはず」
「誰をだ。もしかしたら長谷川のことを言ってるのか? あの男に組の頭なんざ務まらんよ」
「長谷川じゃない」
「でも、お前の親父さんは長谷川を後釜にするんじゃないのか?」
「あいつが出てきたの」
「あいつ?」明生が鸚鵡返しに聞いてきて、そして、息を呑んだ。
「宗田義光か」
「そう。あの男は人間じゃない」
「まさか、義光に跡を継がせるんじゃないだろうな」
「お姉ちゃんの旦那だから」
「旦那といっても、正式に結婚はしていない」
笙子が鼻で笑った。
「役所に婚姻届ださないと妻とは言えないだなんて、やくざのいうことじゃないわよ」
「たしかにな」
「でも、あの男にこそ組長なんて務まらないわ。ケダモノなのよ、あいつは。今までお姉ちゃんがどんな目にあわされてきたか。特に、あいつの兄が殺されてから、余計に凶暴になったわ。極悪兄弟だったもん。犯人はまだつかまっていないし」
車がホテルの駐車場に入った。
「馬鹿にしないで」
「来るんだ」
明生の目が一瞬、猛獣のように鋭く光った。背中にぞくっと冷気が走った。笙子の身体からすっと力が抜け落ちた。
明生に抱えられるように、ホテルの部屋に向かった。明生に身体を預けていた。口を閉じ、唇をぶるぶると小刻みに震えさせている。恐怖のためじゃない。期待と極度な緊張のために、身体が震えているのだ。
自分の身に何かが起こっている。身体の奥から、ゾクゾクとした神経を直接撫でられているかのような感覚が、次々と這い上がってくる。心臓がバクバクと鼓動を早め、体中の神経が敏感になり、視界が広くなったように感じる。
そして、口の中がからからに乾燥していた。
明生が、自分の身体の中に潜む女の淫獣を呼び覚ましたのだ、と、笙子は認めざるを得なかった。
強烈な劣等感が笙子を混乱させた。自分が、急にどうしようもなく淫乱で意思の弱い人間に思えてくる。
いやらしい、どうしようもない女……。
突然下半身に鈍い感覚が走り、胸が締め付けられる。身体が明生を求め始めている。
ホテルの部屋に入ると、明生が突然笙子を抱き上げた。そして、ベッドの上に彼女の身体を投げ出した。
「やっ……そ、そんな雑な扱いしないでっ!」
笙子の反応に満足したのか、明生は笙子の唇にゆっくりとキスをした。もはや、笙子に抵抗する気は無い。薄く開いた唇から明生の舌の侵入を許し、その中で舌が嬲られても、それを嫌がる素振りを見せなかった。
突然、笙子の足が大きく開かされた。
「あ、嫌! 待って! シャワー浴びてない!」
「俺はお前の匂いを嗅ぎたいんだ」
「嫌! それはだめ!」
明生がズボンを下ろし、カチカチに硬くなった物を笙子に握らせた。
「あ、ああっ!」笙子が身体を震わせた。
「どうだ?」
「どうって」
すごい……。太くて硬い。これが私の中に入ったんだ。
あの日、レストランからホテルに連れ出されて、明生に犯された。それから無理やり宿泊させられ、翌朝までぶっ通しで犯されたのだ。
そう、あれは無理やり……。
しかし、セックスで失神したのは初めてだった。話には聞いていたけど、信じていなかった。でも、すごく気持ちよかったら女は失神するんだということを、笙子はあの日、初めて経験したのだ。
明生の手が段々と降りてくる、臍を通過して、短パンのゴムの隙間から指を差込み、さらに奥へ、そしてついに下着に侵入した。
「あ……だめ……汚い……」
「ここは嫌がっていないぞ」
「そ、そんなこと……いわないで……」
明生が強引に下着を剥ぎ取った。お互い上半身衣服を着たまま、笙子の淫裂に、明生の先端があてがわれた。
「ああ……そんな……いきなり……」
「何もする必要がないくらい、お前のここは準備が整っているんだよ」
その時、笙子が何と言おうとしたかは、分からなかった。仰向けにされた豊かな裸体に硬い肉棒が突き刺さった瞬間、笙子は声を上げた。
口をパクパクさせながら、笙子の体は甘い快感に酔いしれていた。引き締まった腹から豊かな乳房にかけて明生が手を這わすと、それだけで甘い声を漏らす。硬く勃起した肉棒で体の中をかき回されると、悲鳴のような歓喜の声で応えた。
明生の腰の動きが早くなると、笙子の声もそれに合わせて早くなった。太い肉棒が出入りする膣から、止め処なく愛液が溢れているのを、笙子も自覚していた。
明生は着ていた服を脱ぐと、笙子のブラウスのボタンをはずし、ブラごと剥ぎ取った。
卑猥な音を立てながら、笙子の無防備な性器が犯されてゆく。
ああ……もう、我慢できない……!
気が狂いそうなくらい、気持ちいい……。
笙子は胸を反らし、体を震わせながら、荒れ狂う快感の濁流に翻弄されていた。明生に突き上げられる度に、奥の方からゾクゾクと痺れるような劣情が湧き上がり、足のつま先から、頭髪の一本に至るまで、抗いようの無い強烈な快感に蹂躙されていく。
そこまで考えた時、笙子の中で何かがパッと弾けた。そして、抑える事の出来ないゾクゾクした快感が湧き上がった。性器がきゅうっと収縮し、切なくてたまらない。
もう、堕ちてしまいたい……奈落の底まで……。
何もかも捨てて、ただ、明生の言いなりに成るだけの道具になりたい。
もう、何も考えたくなかった。
笙子は大声で叫びながら、絶頂を迎えた。背中を弓のように湾曲させ、胸を反らしながら、体を痙攣させる。そして自ら腰を振り、性器を締め付け、射精を終えた明生の肉棒から一滴も残さずに精液を搾り取ろうとした。
霞がかかったように意識がぼんやりしている。明生が笙子の上から離れてペニスを抜いた。
「あっ……」
明生の放ったものが零れ落ちるのを感じた。
「明生……」
笙子が仰向けになった明生の身体を抱きしめた。
「本当に……赤ちゃん、できるかもしれないわよ」
明生がベッドの上でタバコに火をつけた。
「覚えておきなさい。堕ろせなんていったら、殺すからね。須田一家がどこまでもあなたを追いかけ、追い詰め、殺すから」
「怖いな」
明生が笙子の頭を撫でた。
「今夜、泊まれるか?」
笙子が明生を抱きしめ、キスをした。長く激しいキスだった。