野獣よ暁に吼えろ 16
野獣よ暁に吼えろ 16
夜明け前にもう一度聡子を抱いた。行為を終えると、聡子が部屋に戻っていった。しばらくして、また睡魔が襲ってきた。
障子が激しい音を立てて開いた。その音で一平太は目覚めた。大して眠った感じもしない。目を開けてみると、部屋の中が明るくなっていた。
脇に工藤が立っている。
「明生さんはどこだ?」
工藤は息せき切ってそう言った。
「帰ってきていないっすけど」
一平太は首を横に振った。工藤が外に出ていった。一平太も浴衣を着て部屋を出た。
「聡子さん」
工藤が廊下で大声を出した。暗い廊下にその声が響く。しばらくして部屋の障子が開き、聡子が顔をのぞかせた。しどけなく着た浴衣の前を両手で掻き合わせている。
「代貸しが大変なことになった。誰かに刺された。めった刺しにされたんだ。今病院に担ぎ込まれた所なんだが、どうやら危ないらしい」
聡子の顔が引きつっている。
「お父さんも事務所にいます。警察から、事務所を手入れすると言って来たんです。喧嘩が起きると思っているでしょう」
「私はどうすればいいんですか?」
「若い奴をおいていきます。聡子さんは部屋から出ないでください」
工藤は戻ってくると、「すぐに明生さんに連絡をとってくれ」と一平太にいって、階段を下りていった。
振り返って聡子を見た。一平太と目を合わせると、黙って部屋に入っていった。代貸しが刺されたと聞かされても、動揺している様子はない。度胸が据わっているのか。ヤクザの娘とはそういうものなのかもしれない。
午前十時に「釣り堀」を開けた。
昨日ウナギを釣れなかった子供たちがすぐにやって来て、今日こそは釣るんだ、と言って騒いでいる。
周囲は、祭りのためでは無く、何となくザワついている。近くの露店も商売に身が入っていない。
あちらこちらに、二人、三人と寄り固まって何事か話をしている。
「警官がやたら多いですね。まあ、仕方ないっすけど」
「祭りの期間中に暴力沙汰でもあったら大変だからな」
明生がタバコの煙を吐きながら言った。
「さしたる観光資源も無いこの町では、この祭りが外部から客を呼べる唯一の機会なんだよ。警察も神経質になっている。面子にかけても暴力沙汰を起させるわけにはいかない」
「じゃあ、このまま平和に終わりますかね」
「どうかな。ヤクザ者は面子で生きている。面子が潰されたままでは、この世界では生きていけない。面子が潰されたのは佐々木組とその上部組織の須田一家で、組と兄弟の関東の三合会も絡んでいる。しかし、面子ばかりとは言えないな」
「どういうことっす?」
「須田一家内にも争いがある事は事実なんだ」
「身内の誰かが代貸しを刺したってことっすか?」
一平太は聞いてみた。明生は「分からない」と首を振った。
日が高くなるにつれて、ヤクザ者の姿が目に付くようになってきた。祭り見物に繰り出した人達の間をしきりに行き来している。長谷川の姿も目にした。警官の姿も益々多くなってくる。誰の目にも、何か不穏な事態が進行しているのは明らかだった。
昼少し過ぎに工藤がやって来て、代貸しが死んだと告げた。明生の顔も心持青くなった。
「さっき五所川原の親分がやって来て佐々木組の事務所に入った。若い者頭の長谷川も一緒に来た。代貸しが死んだことで、何がどう動くのか分からない。明生さんも気をつけてくれ。長谷川もあんたのことを気にしているんだ。なんといっても、新宿の半グレのリーダーで、祖父は南原組の組長だったんだ。誰がどう誤解するか分かったもんじゃない。あいつらは明生さんの事をよく知らないからな」
「わかってます」
「佐々木組の内では、代貸しは長谷川にやられたと思っているものもいる」
「どうしてそんな風に思う人がいるんっすか?」一平太が横から聞いた。
「梅の家の女将の事だよ」
「聡子さんっすか?」
「長谷川と梅の家の女将ができてるってのは、みんな知っているんだ」
一平太は唾を飲み込んだ。
「代貸しもうすうす疑っていたようだ。代貸しは豪放そうに見せてはいたが、とんでもない。特に女の事になると、やたらと細かいしうるさいんだ。自分の女に誰かが手を付けることなんか、絶対に許しゃしない。逢引を見つかった長谷川が、やられる前に代貸しを殺ったと考えたって何もおかしいことじゃないんだ」
「そうかな」明生がぽつりと言った。
「長谷川に代貸しを殺す度胸なんかないんじゃないですか」
「やくざを甘く見ちゃいけないよ、明生さん。あいつももう何年もこの世界で飯食ってんだ。それに、子分も大勢いる。いっぱしの幹部なんだから」
工藤がため息をついた。
「それに、他にも厄介な事が起こりそうなんだ。三合会と洪門会が人を出してくるらしい。須田組長と長谷川はその事でカリカリしている。そこに、警察署長も介入してきたんだ」
「まだあるんです」明生がいった。
「何か?」
「あの男が刑務所から出てきた。宗田義光ですよ」
工藤が黙って頷いている。どうやら知っていたようだ。
「宗田って、どんなやつなんです?」一平太が訊いた。
「常軌を逸した男だよ。ヤクザも警察も恐れない。自分の命でさえ要らないって男だ」
「その……聡子さんの内縁の旦那っすよね」
「まあな。聡子さんもとんでもない男に目をつけられちまったもんだ。自分で聡子さんに客を取らせておきながら、町で男と親しく話をしていたと言って聡子さんを殴るんだ。もちろん、相手の男も半殺しの目に会う。自分の所有物に他の誰かが声を掛けるのが許せないらしいんだ。それに、聡子さん自身、宗田のことは良く知らないらしい。極端に口数が少ないので、四年も一緒に暮らした聡子でさえ、奴が何をどう考えているのか分からないんだそうだ」
「ほんとっすか?」
「欲望のままに抱いて、終われば放り出す。他には交渉らしいものは何も無い。何処へ行くとも言わず出掛けて行き、一か月も、二か月も連絡が無い、そういう事はしょっちゅうだったらしい。宗田が刑務所に入ったと聞いた時は救われたと思ったことだろうな」
一平太は歯を食いしばった。そんな男がまた世間に出て来た。また自分のところへ現われるんじゃないかと、聡子は怯えているのではないだろうか。
「ヤクザ者じゃないどころか、ヤクザよりもたちの悪い、手の付けられないヤツなんだ。須田組長も自分の組に入れなかった。ヤクザ社会の上下関係も掟も何も関係無いという男なんだよ。刑務所に迎えに行ったのも、戻って来てもらっては困るからだという話だ。佐々木の代貸しが迎えを出したのも、奴をどこかへ追っ払おうとしたんだろうな」
長谷川がやって来た。今度は子分を四人も連れている。警戒しているのだ。
長谷川が明生を睨みつけながら、近づいて来る。
「お前、昨日の夜、何処へ行っていたんだ?」顔を赤く染めている。凶暴そうな眼光に、一平太の背筋が凍った。これがやくざの幹部の迫力なのだ。
しかし、明生は表情を変えずに長谷川を見ていた。
「明生さんが代貸しを殺ったっと思ってるんかい!」
工藤が怒鳴った。「明生さんは先代のお孫さんだぞ」
「先代の孫なら、代貸しを殺してもいいというんかい」
「てめえ、誰に向かって口を聞いてるんだ!」
工藤が長谷川を睨んだ。
「昨夜は笙子さんと一緒でした」
明生の言葉に、長谷川も工藤も不意打ちを食らったように目を見開いた。自分の勘が当たっていたと、一平太は思った。
「てめえ、お嬢さんに何をしやがった!」長谷川が睨みつけてきた。
「何も。同級生なんで、昔話をしていただけですよ」
「一晩中一緒にいたんじゃあるめえな」
「少なくとも、代貸しが刺された時間は一緒にいましたよ」
自分だって聡子と関係を持っているじゃないか、と言ってやろうと思ったが、相手はヤクザ者なのだ。まともな話が出来るような相手ではない。力のあるものが、女を力づくでものにする。それがやくざの世界だ。まともな人間が住んでいる場所とは世界が違うのだ。
「お前は佐々木組とはどういう関係なんだ?」と長谷川が言った。
「何の関係もありません」
「ここは東京とは違うって警告したのを忘れたのか。余計なことに首を突っ込むんじゃねえぞ。半グレが」
長谷川はそう凄むと、その場を離れていった。あの様子では、長谷川も明生が代貸しを刺したとは思っていないのだろう。
「今の話、本当か?」工藤の顔色が変わっている。
「笙子さんに手を出すなんざ、自殺行為だ。聡子さんがああなっちまったから、須田の親分は余計に笙子さんを猫可愛がりしているんだ。遊びなら早く手を引いたほうがいい。長谷川が余計なことを親分に吹き込む前にな。いくら先代の孫とはいえ、須田の親分を怒らせるのはまずい」
「結婚するんだ」
「はあ?」
工藤があんぐり口をあけた。一平太も、さすがにこの言葉には驚いた。
「ほんとっすか?」
「ああ。そのうち、須田の親分にも挨拶に行くつもりだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」そういって、工藤が周囲を見回した。
「何を考えているんだ。笙子さんと結婚? 須田一家を継ぐつもりなのか」
「惚れた女と一緒になっちゃいけませんか」
「ふざけたことを言うんじゃねえ!」工藤の鼻息が強くなった。
「その辺の浮ついたカップルがくっつくのとは訳が違うんだ。長谷川の言葉どおり、ここにはここのしきたりがある。新宿のようにはいかない。それに、先代との約束を忘れたのか? あんたは南原組を継ぐんだろうが」
「南原組を継ぐかどうかなんて、俺一人で決められるもんじゃないですよ。須田の親分が決めることです」
「だから、そこは俺がうまく……」
「強引に南原組を継いだって、若い衆はついてきませんよ」
「いや、明生さんなら大丈夫だ。新宿には弟分が五百人いるって聞いている」
「誰にです?」
そういって、一平太を見た。一平太があわてて首を横に振った。
「それくらいのこと、調べるのはわけねえ。新宿の裏社会じゃ、明生さんのことを知らない奴はいないらしいじゃないか。あんたならやれる。その統率力で南原組を復活させてくれ」
「笙子と結婚できれば、状況はさらに工藤さんの望むようになるんじゃないんですか。今のまま俺がここに残っても何かしらトラブルが起こる。今の長谷川がいい例です」
「いや、しかし、笙子さんを巻き込めば須田の親分が……」
「大丈夫です。二人の愛の力があれば、どんな困難だって乗り越えられますよ」
明生は工藤に背を向けると「店番を頼む。祭りの様子を見てくる」と一平太に言い残して去っていった。
一平太の不安とは正反対に、祭りは最高潮を迎えようとしていた。
見物客がどんどんと増えてきた。四方からお囃子が近づいてくる。各町内から出た山車が神社の境内に終結するのだ。境内は山車と囃し手と見物客でいっぱいになる。
周囲の興奮も時間の経過とともに盛り上がってきた。「ウナギ釣り」も一先ずは休止だ。
夜になっても明生は戻って来なかった。
連続的なお囃子の音と、興奮した群衆の声が和するように境内を駆け巡っている。一平太も立ち上がり、背伸びをして境内の方に目を向けた。
誰かに見られている、と言うのは感じるものだ。目から何かが出ている訳ではないのだろうが、他人の視線を感じるという感覚は存在する。意識をどこか一点に振り向けると、体から飛び出して行くものがあるに違いない。
その時一平太が振り向いたのも、そういう超自然的な感覚を得たからだった。急いで辺りを見回してみたが、何も見つける事ができなかった。
しかし、間違いなく誰かが自分を見ていた。一平太は露店を離れ、裏の森に足を踏み入れた。暗がりで、大きな木に寄り掛かって待っていたのは聡子だった。
白地に藍で絞り染めした生地の浴衣を着ていた。闇の中に白い肌と白い生地が浮かび上がっていた。
聡子の顔色がひどく悪かった。青白く、まるで幽霊のようだ。
「どうしたんですか?」
聡子が一平太に抱きついてくる。
「何かあったんですか?」
「不安なの」
聡子は一平太の唇や耳に軽く舌先を這わせた。
聡子が一平太の手を取り、スカートの中に導いた。下着に触れると、すでに湿っぽくなっている。
「俺、まだ何もしてないっす」
「恥ずかしいわ……下着の中に手を入れて」
聡子の下着の中に手を入れる。濃い陰毛が指に触れた。そのまま奥まで侵入し、小陰唇の襞を軽くくすぐった。
「あっ、き、気持ちいい……」
「本当っすか?」
「いい……いいわ……」
聡子が足をくねくねとさせ、快感に身をよじらせる。一平太は指を入れ、粘膜をかき回すように刺激した。ほどなくして、太腿をプルプル痙攣させながら、聡子は絶頂の波に飲み込まれた。
聡子が声を震わせる。そんな聡子に追い討ちをかけるように、指先でこねるようにかき回す。
声が快感に震え、太腿がガクガクと震えている。
快感に逃げようと身体を前にやるが、一平太は執拗に逃げる腰を押さえつけ、ヒクヒクと死にそうなほど痙攣している陰核を正確さで苛めた。
聡子の足の筋肉に緊張が走った。強張って数秒間固くなっている。それでも一平太はやめずに、固くなってじっと堪えている聡子の陰核を正確に攻撃し続けた。
聡子は手を伸ばそうとしたが、一平太はかまわず続けた。聡子の上半身がビクンと上に跳ね上がった。
聡子は首をかすかに動かすと、四つん這いになって一平太に尻を向けた。そして、自分から浴衣をまくった。
白くて豊かな尻肉が露わになる。一平太は聡子の背中に脛立ちになり、両手で尻肉をしっかり掴むと、濡れてベトベトになった聡子の陰唇の狭間にペニスをあてがった。
腰を押し出し、ゆっくりと挿入されてゆく。中は沸騰したように熱く、生き物が四方八方に蠢いているようだった。
一平太のピストンするスピードが増し、クチャクチャと結合部のいやらしい音も激しさを増す。聡子がさらに高く尻を突き上げると、一平太は聡子の尻肉を大きく広げ、結合する面積を拡大してゆく。熱い先端が子宮を貫き、快感に襲われた聡子が叫び声をあげた。
聡子が体をのけぞらせて、恍惚の表情を見せる。一平太のペニスはまだビクビクと震えながら精液を出し続けていた。
「聡子さん、最高っす」
吐精を終えたペニスを膣から抜くと、ぱっくり開いた膣口から放ったばかりの精液がどろっとこぼれ落ちた。
「ねえ……」
「なんだい?」
「あたしってやっぱりオバサン?」
後ろから抱き込むように覆いかぶさってきた一平太に対し、下を向きながら少女のようにすねる。
「そ、そんなことないっす。聡子さん、すごく綺麗っす」
「でも、もう二八だわ」
「そんなこと、関係ないっす」
一平太は、聡子の体をギュッと抱きしめた。