野獣よ暁に吼えろ 19
野獣よ暁に吼えろ 19
笙子はずっと明生を抱きしめたまま離さなかった。時折、思い出したように黙って明生の頬をなで、唇にキスをして、再びしがみついた。
笙子に抱きしめられているうちに、少しずつ睡魔の波が押し寄せてくる。このまま眠れれば少しは痛みから逃れることが出来るのだが、笙子が離してくれそうにない。
「もう、気が済んだか?」
笙子は首を横に振って、泣きそうな顔で明生を見つめる。そしてぎゅっと目を閉じ、何度も明生の肩に顔を擦りつける。
明生は右手で笙子の頭を撫でて、ゆっくりと座椅子に持たれかけた。
「指、痛い?」
厚く包帯を巻かれた左手に、彼女がそっと触れた
「まあな」
傷がひどく痛む。あまりの痛みに、動悸と冷や汗が止まらない。歯を食いしばって耐えていた。堪らずに呻いたときは、笙子が胸をそっと手でおさえてくれた。
須田一家が長年世話になっている医者は、六十過ぎの温厚そうな男だった。
「やくざなら、麻酔なしで縫うんだがな」
顔に似合わず、厳しいことを言った。縫合は無事終わったが、鎮痛剤を処方しようとはしなかった。
「明生……ごめんね……」
笙子が俯いて肩を震わせた。彼女の肩を抱いて引き寄せる。明生の胸元に笙子が頭をもたせるような格好になる。
「今、何時だ?」
「七時過ぎ」笙子が自分の腕時計を覗いて答えた。
「お腹は空いてない? 何も食べていないでしょ?」
「食欲がない」
そういって、ウイスキーを瓶から直接喉に流し込む。酒を飲むしか、この痛みを誤魔化すすべがない。
アルコールが回ってきた。しばらく横になるというと、笙子が床に布団を敷いた。布団に身体を横たえると、笙子が添い寝をした。
体がだるい。早いところ普通の生活に戻りたいものだ。
誰かがドアをノックした。
「見てきてくれ」
笙子が布団から起き上がり、玄関に向かった。
襖から顔を出したのは工藤だった。
「どうだ、様子は?」
「のた打ち回っているところですよ」
「薬、買ってこようか?」笙子が言った。「鎮痛剤。市販の薬でも、よく効くのがあるの」
「その必要はありませんよ、お嬢さん」工藤が言った。「この痛さに耐えてこそ、男です。薬で誤魔化すなんざ、俺たちの世界じゃ許されません。だから先生は鎮痛剤を処方しなかったんですよ」
「でも、このままじゃ、明生がかわいそう。だって、何日も痛むんでしょ」
笙子がまた涙を流した。
「まあ、酒で誤魔化すしかないですね」そういって、持っていたレジ袋からウイスキーを取り出してテーブルに置いた。
「実は、須田の親分に会ってきたところなんです」
「お父さんに?」笙子が眉根を寄せた。「あんなひどいことするなんて……。いくらお父さんでも許せない」
「まあ、そう酷いことでもなさそうなんですよ」工藤が明生を見た。
「親分に呼び出されたんですか?」
「そうなんだ。最初話を聞かされたときはびっくりしたけど、須田の親分、明生さんのことを気に入ってるみたいだな」
「ホントに?」笙子が伏せていた顔を上げた。
「いい度胸してると感心していた。あれほど焼きを入れたのに一言も泣き言をいわず、エンコも堂々と飛ばしたってね。口先だけの半端もんは、指詰めろといわれてドスあてられただけで小便漏らす奴が多いんだ」
笙子の肩から力が抜けていくのがよくわかる。
「お嬢さんが面倒見ていると、須田の親分には伝えておきます」
「お願いします」笙子が深々と頭を下げた。
工藤は立ち上がると、意味ありげな笑みを顔に浮かべて明生を見ると、部屋を出て行った。
夜になると痛みがいっそう酷くなった。小指が熱を帯び、耐え難い痛みがずきずきと襲い掛かってくる。明生はウイスキーをラッパのみしながら痛みに耐えた。
「痛い?」
横で寝ていた笙子が心配そうに訪ねてくる。
「悪いな。呻き声なんて上げちまって情けねえ」
「そんなことない……」笙子が明生を抱きしめた。
明生が笙子の手を取って股間に導いた。
「あ……」
「気晴らしにやろうぜ」
「動いたら、指が痛むわよ」
「じゃあ、お前が上になれ」
明生は笙子の華奢な肩に置いてある手をゆっくりと下げていき、浴衣の合わせ目から手を入れて、なだらかな膨らみを軽く揉んだ。大きく実った、弾力のあるいい乳房だった。
笙子が微かに声を上げた。明生は少しずつ胸を弄ぶ手に力を込め、変形する乳房を楽しんだ。
笙子は明生の浴衣の前をはだけた。逞しい胸があらわになる。
笙子は明生の股間にまたがると、指で広げた部分に男根の太い頭をあてがった。明生の肩を掴む手に力が入って、ゆっくりと腰に沈めていく。
明生が下からゆっくりと抜き出して、再び反動をつけて突き入れる。笙子の熱い吐息が耳元に浴びせられる。想いをぶつけるように激しく何度も何度も繰り返す。その度に笙子は前へ仰け反り、顔を明生の頬に擦り付ける。
明生の突きが徐々に早まっていく。
快楽に掻き回されながら、笙子は無我夢中で明生の唇に吸い付いた。互いに舌を絡み合わせる。
「明生……アキオ……」
薄らいだ意識の中で、笙子が明生の名前を呼ぶのが聞こえる。
「好き……愛してる」