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漂流の殺し屋剣士の副業 6(最終回)



漂流の殺し屋剣士の副業 6(最終回)

 賑やかな炭鉱の町だった。
 食事を摂ろうと店を探していると、背中越しに女から声をかけられた。
「ねえ、あたしの事、買ってくれる?」
 振り返ると、顔に大きな傷のある女が立っていた。
「この傷だから、安くしておくわ」
「じゃあ、うまい飯が食えるところを紹介してくれ」
「奢ってくれる?」
「いいとも」
 女と二人で、狭い路地に面した静かな店に入った。仕事終わりの炭鉱労働者で店は賑わっていた。
 テーブルに着いた。
「ハンサムね。いい体してるし。炭鉱夫なんでしょ?」
「殺し屋だ」
 女が大げさに笑う。
「女を大勢ベッドで殺してきたんだ」
 すぐに注文した川魚のソテーと酒が来た。女はうまそうに魚を食い、酒を飲んだ。
 アイゼンは女の前に金貨を一枚置いた。それを見た女が驚いてアイゼンを見た。
「いったい、どんな事をしろっていうの? 恥ずかしいことなら我慢するけど、痛いのは駄目よ。切り刻まれるのはごめんだわ」
「情報料だ。娼婦なら近所の街の情報には詳しいだろ?」
「まあ、流れ者を相手にすることは多いからね。あたしはこんな顔だけど、大方の男は女の下半身にしか用が無いから、安い女は人気があるんだよ」
「サウズロード地方の領主の話、何か知ってるかい?」
「ノインシュタイン公爵のこと?」
「ああ」
「ちょっと前にお家騒動があったの。ベルトンって領主が叔父の罠にはまって投獄されたんだけど、牢から抜け出して叔父を城から追い出したんだって。そんな叔父なのに、わざわざ領地の隅に住む家まで建ててやったってんだから、できた人なんだよ」
「かもな」
 女は酒を飲み干した。二杯目を注文してやる。
 女がテーブルに身を乗り出してきた。
「実は、公爵がある男を捜しているの。名前は確か、アイゼン……なんだったっけ? 見つけた人に金貨百枚の報奨金が出るのよ」
「そりゃ、すごいな」
「どんなお尋ね者なんだろうって思ってたんだけど、どうやらそうじゃなくって、公爵家の恩人なんだってさ。碌にお礼もできないまま姿を消しちゃったらしくて、公爵夫人も娘もその男に会いたがってるらしいんだよ。そういえば、公爵令嬢のシェルファって、むっちゃ可愛いんだって。一度見て見たいなあ」
 アイゼンが黙って酒を飲み干した。
「見つけた者に金貨百枚だよ。そいつ、公爵に会いに行けばきっと莫大なお礼をもらえるはずなのに、どこにいるんだろうね? もったいないなあ」
「そうだな」
 女が横に来て、腕を組んできた。
「ねえ……お部屋にいって、布団の中で温まろうよ……。今夜は冷えるんだって……」

(完)

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