逃れの海峡 7
7 南へ……
啓次郎のベンツは加平インターから首都高速に上がった。
「新宿歌舞伎町で暴力団幹部が殺されたんだってね」
啓次郎は前を見たまま、何も言わない。
「あんたがやったの?」
前を走るクラウンを追い越した。午前一時。高速道路にはまだ車が多い。
「安西って人、殺されたんでしょ? 私の部屋に来た夜、あんたのスマホに電話をかけてきた人なんでしょ?」
「君には迷惑をかけた」
「そんなことを言って欲しいんじゃない。私の質問に答えて」
ベンツが速度を上げた。
「ああ、俺がやった。安西は俺の昔の仲間でね。田所の居場所を探り出して俺に教えてくれたんだ」
田所。たしか、啓次郎が殺した暴力団幹部だった。
「それで、どうする気? これから死ぬまで一生逃亡生活するつもりなの」
ベンツが大型トラックを追い抜いていく。何キロ出ているのだろう。かなりの高速で巡航している。
「自首しなさい」
「それはできない。死刑になっちまう」
「一人殺したくらいじゃ、死刑にならないわよ」
「もう一人、やらなければならなくなった」
驚いて啓次郎を見た。
「武野の名刺をもらったって言ってたな。安西の仇なんだ。安西を殺したのは武野だよ」
朱音は黙って運転する啓次郎を見ていた。
「さすがにふたりぶっ殺したら死刑だ」
「つきあってられないわ」
「悪かった」
「その武野ってのを殺した後はどうするの?」
「海外に逃げる。釜山に仲間がいるんだ」
「安っぽいやくざ映画みたいね」
「現実ってそんなもんだよ」
「で、私に何の用?」
啓次郎がしばらく口を噤んだ後、深いため息をついた。
「手を貸して欲しい」
「私に殺人の共犯者になれっていうの?」
「安西が死んだ今、頼れるのは君だけなんだ」
「一回寝ただけの男に、どうしてそこまでしなくちゃいけないわけ?」
「上手く説明できないんだが、君なら強い味方になってくれると思ったんだ」
「私にその武野って男の内情を調べろとでも言うわけ? 言っとくけど、やくざの内通者に知り合いなんていないの」
「そんなことは頼まないよ。それに、武野のことはよく知っている。君には俺の代わりに色々動いてもらいたいんだ。海外に逃げる準備とかね」
「散々利用したあと、用済みになった私をどうするの? 捨てる気? まさか、殺したりしないよね」
「一緒に韓国に行こう」
「はあ?」
「君を韓国に連れて行く」
言葉が出なかった。この男の思考回路はいったいどんな仕組みになっているのだろうか。
「とにかく、今夜はどこかに泊まりましょう。私のマンションは見張られているだろうし、あんたの住処に戻るわけにもいかないでしょ?」
「都心に出たほうがいいな」
「都心じゃ、こんな時間、どこも泊めてくれないわよ。小菅で降りて川沿いを走って。あの辺りのラブホテルなら、この時間でも入れてくれるわ」
高速を降りて荒川沿いを走っていると、ラブホテル街が広がる一角に出た。正方形のアルミパネルで覆われたホテルが目に入った。建ったばかりなのか、綺麗なホテルだった。
「そこのホテルにしましょう」
「どうして? 来たことあるのかい」
「ないわよ。お城みたいにけばけばしくないから」
「中身はどこも同じだよ」
車を駐車場に停めて中に入る。エントランスを過ぎて暗いロビーに入った。壁に埋めこまれた部屋の写真のパネルはほぼ灯が消えて、数枚の空き部屋を残すだけだった。そのうちの一枚にふれた。
自動音声が流れる。エレベーターで七階に上がると、廊下の壁が点滅して奥に進むよう誘導してくれている。その先でドアの上にある七〇八のパネルが点滅している。
ドアを開ける。玄関の足元に青いLEDが光っていた。通路の奥にガラス扉があり、朱音と啓次郎が映っていた。
後ろから、いきなり啓次郎が朱音の身体を抱きしめた。
「ちょっと……」
啓次郎は朱音の身体を自分のほうに向け、抱きすくめてキスをした。長いキスだった。
キスをしながら、朱音の服を脱がせていく。
「何よ、いきなり。部屋で少し休みましょう」
「今、ここでしたいんだ」
「ここでって……?」
おたがいの濃厚な体臭で、全身の感覚が敏感になっている。啓次郎がブラジャーをずらし、乳房を両手で鷲づかみにした。
乳首をなめあげられ、思わず声を上げる。
朱音は啓次郎のズボンに手を伸ばした。ズボンの下で彼が既に硬く熱を帯びている。啓次郎がワンピースをたくしあげ、下着の上から朱音の性器に触れる。
布の上から執拗に刺激され、朱音は立て続けに声を漏らした。啓次郎のズボンのベルトをはずし、ファスナーを下ろした。ボクサーショーツから彼の硬くなったものを取り出し、その形と大きさを確かめるように手で軽く扱く。
朱音は身体を折って、啓次郎のペニスを口に含んだ。それは驚くほど熱かった。朱音が奉仕している間、啓次郎は優しく髪をなでていた。
朱音も、これ以上我慢できなくなってきた。最後にペニスの先を強く吸いあげ、口を離した。
「ねえ、後ろから入れて……」
床に両手をついて、尻を彼にむけた。啓次郎がワンピースをめくり、下着を引き剥がすように下ろした。
自分の性器の匂いが漂ってきた。
啓次郎が朱音の尻を両手で引きあげるように割った。
「早く……。あ、でも、中で出しちゃ、駄目よ」
「わかってる」
彼がゆっくりと侵入してきた。太いペニスが、肉襞を押し広げながら奥に入ってくる。朱音は背中を仰け反らせて声を上げた。
啓次郎がリズミカルに動く。先端が朱音の奥の扉を叩く。短い悲鳴のような声が響く。
啓次郎は、腰を動かしながら右手をまわし、朱音の敏感な場所を指でなでる。
朱音の声が断続的に反響する。
ペニスの律動と指の刺激で、朱音が最初のエクスタシーを迎えた。
二人は折り重なるようにそのまま廊下に倒れこんだ。ふたりの荒く息を継ぐ音だけが響いていた。
ブラジャーが上にずれ、腰にワンピースのスカートをまくりあがっている。啓次郎のペニスが、天井を向いている。
啓次郎は朱音からブラジャーとワンピースを剥ぎ取ると、自分も服を脱ぎ捨てた。そして、朱音の身体を押し倒すと、上に覆い被さってきた。
さっきより乱暴に、彼が入ってきた。先ほどの行為で性器が口を開いていたからか、すんなりと入ってきた。
啓次郎がどこで生まれ、どんな人生を歩んで、これまでどんな女を抱いてきたのか、朱音は知らない。恋人でもない。それどころか、この男は人を殺している。それなのに、こうして心と身体がつながってしまっている。
不思議に、少しだけ泣きそうになった。
朱音が彼の逞しい体を抱きしめた。壊れるんじゃないかと思うくらい激しく乱暴に、啓次郎が攻め立ててきた。朱音は激しく揺さぶられながら、あっという間に二度目の絶頂に達した。