キチガイたちの挽歌 1
シュウジの携帯が鳴った。左手でハンドルを握りながら、右手で携帯電話を耳に押し当てている。
後部座席に座っているハヤトが、ウインドウを下ろして銜えたタバコに火をつける。午後十時。歓楽街の土曜の夜はこれからだ。
「ジュンからか?」電話を置いたシュウジに聞いた。
「はい。ヤツはファミレスで飯食ってるらしいっす」
「やくざがファミレスで飯食ってどうすんだよ」横に座っているコウイチが、逆立てた髪を撫でながら嗤う。
「ヤクザじゃねえよ。金のないただのチンピラだ。クズだよクズ」
ハヤトが右手の人差し指と中指にはめたシルバーのスカルリングを撫でる。相手の顔面をぶちのめしたときに指輪が相手の頬を切り裂く感覚が好きだ。あのチンピラ野郎の皮膚が裂け骨が砕ける感触を想像すると、身震いしてきた。
コウイチがタバコを銜えて火をつけると、煙を噴きながら顔を近づけてきた。
「この前スカウトした女に、チンポ銜えさせてやったんだ」
「お前のイカクサデカマラをか? それ、気の毒だろ。いたぶりすぎ」
「拷問っすよね」
ハヤトにつられて運転席のシュウジも笑った。女子高に入ったばかりの一六歳の少女だったはずだが、顔を思い出せない。
「でも、うまそうにしゃぶっていやがったぜ。それも、うめえんだ。たまんなくなって口の中に思い切り出してやったら、全部飲み込みやがった。それから言いやがるんだ。『これで私もアイドルになれますか?』だって」
コウイチの下品な笑い声が車内で響く。
「まあ、少なくとも素質はあるだろうな。売れるかどうかは別として」
外を眺めながらハヤトが呟いた。三センチほど下ろしたウインドウの隙間から、タバコの煙が外に流れていく。初めて会う男のチンポも銜えられないようじゃ、今の芸能界でアイドルをやっていくのは無理だ。
「シュウジ、奴は何人つれているんだ?」
「女を一人連れているだけらしいっす」シュウジが答える。
「女かよ、そりゃいい」コウイチが後ろから運転席の背もたれを叩いた「その女、いただいちまおうぜ。ちょうど溜まってたんだ。倉庫で待ってる連中の土産にもなるしな」
「いいぜ、好きにしても。どうせヤクザの女だ。何しても構わねえよ」
コウイチが笑う。この男の笑い方はどこか下品だ。ハヤトはスカイラインの後部座席で、ルームミラーに映るシュウジに顎を飛ばし、急ぐように言った。
国道を車で飛ばし、途中脇道に入る。そこから三十分ほど走ったところで、ファミレスが見えて来た。
ファミレスの前に、ハザードを点滅させた赤いカローラが停まっている。その後ろ車をつけると、赤いカローラからジュンとケイタが下りてこちらに走ってくる。
「店の奥の席にいます」窓を下まで降ろすと、ジュンが窓を覗き込んでいった。
「奴は車か?」
「はい、あのマスタングです」ジュンが駐車場の隅に停めてある黒いマスタングを指差した。両側のスペースが開いている。
「奴が車に乗り込むところを拉致る。マスタングの横にカローラを放り込んでおけ。シュウジもこの車をあいつの横につけおくんだ」
はい、といって、シュウジが頷いた。ケイタが踵を返してカローラに戻っていく。
「出てくるまで待つか」コウイチが窓の外に吸殻を投げ捨てる。
「まずはツラ拝みに行こうぜ」
ハヤトがジョリーロジャーのダウンジャケットを手に持った。シュウジを残してコウイチと一緒に車を降り外に出た。ジュンが後をついてくる。
ドアを開けて店の中に入る。客席のざわめきが三人を包んだ。