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処女の秘孔は蜜の味 9



9 豪傑な叔母

 マスタングを倉庫の中に入れ、叔母の店に入った。
「いらっしゃいませ」
 カウンターの中から条件反射的に営業スマイルを向けた叔母が、辰雄を見て真顔に戻った。
「やあ、叔母さん、久しぶり」
「なんだ、おまえか。久しぶりだね、元気だったかい?」
 カウンター席に腰かけると、瓶ビールが出てきた。程よく淡い照明と、小粋なジャズがマッチした空間は、どこか心地よかった。
 父親の妹。辰雄の父に借りた金でこの店を開いたが、借金を返す前に父が死んだ。叔母はその借りを辰雄に返している。
「機嫌悪そうじゃないか」
「昼間に世間知らずの女に説教してやったんだ」
 叔母が笑う。カウンターに五人の客とボックス席に四人組。店は流行っているほうなのだろう。
「相変わらずワルやってるのかい?」
「まあね」
「困ったらいつでもおいで」
「ボランティアに行きたくねえな」
「だったら、逃げるが勝ちだ。匿ってやるよ」
「親戚が真っ先に疑われるよ」
「そんなへまはしないさ。それより、治安会のほうが問題じゃないのかい? 父さんからもらった種で葉っぱ作って売ってるんだろ?」
「まあね。親父が残してくれた財産だ。有効に活用しているよ」
「港の倉庫で売人が二人、殺されたらしいよ。治安会に黙ってシャブやマリファナを捌いていた連中なんだけど、ばれちまったんだろうね。あんたも気を付けな」
「わかってるよ。その治安会なんだけどさあ。俺、追われるかも」
「マリファナのこと、ばれちまったのかい?」
「二人ぶっ殺した。この前、河口に浮かんでいた二人だ」
 叔母が息を飲んだ。
「何か揉めたのかい?」
「いや、成行きで。単なる弾みだよ」
「誰かに見られたのかい?」
「まあね。しかも、その目撃者は俺のことを知ってるんだ。喋らないと言ってるんだけど、何かの拍子で連中が知ることになるかもしれない」
「そいつは困ったねえ」
 その目撃者を殺せと、叔母は言わない。必要なら辰雄がそうすることを、叔母は知っている。
 叔母の店の倉庫に身を隠すこともできるが、徴兵逃れではなく治安会の組員を殺したのだ。見つかれば叔母に迷惑がかかる。
「連中に目をつけられると面倒だねえ」
「いざとなれば大陸にでも逃げるさ」
「ボランティアにはいきたくないんじゃないのかい? あんたみたいなのは真っ先に前線に送られちまうよ」
「慰安婦って稼げるんだろ?」
「はあ? ケツ掘らせる気なのかい」
「まさか。俺は一生アナルバージンを守るつもりだ」
 叔母が豪快に笑った。アメリカ軍の慰安婦にはゲイもいるらしく、補給品リストにも入ってるらしい。
「女は慰安婦になれば、戦場で稼げるよ。日本人の上玉は米軍将校用の慰安婦になれるからね。割り切れるならいい商売だ。日本人女のボランティアも悪くないかもね」
「韓国人の女はそうじゃないのかい?」
「兵隊の性欲処理専用だよ。汗臭い兵隊の下の世話して、故郷に戻って家建てる韓国人女もいるらしいけど、そんな勝ち組は一部だね。多くは使い捨てで殺される。まあ、韓国人女は昔から世界中で体を売って稼いできたからねえ。男に股広げて体を売って稼ぐのが当たり前になってる。楽して稼げるし、あいつらにとっちゃ、よっぽど誇らしい職業なんだろうね」
 エリカが言っていたことは本当か。
「女は凄いね」
「好きでもない男にはめられるなんて、慣れちまえばどうってことないよ」
「そうかなあ。俺は凄いと思うよ」
 英語や韓国語もわからないのに慰安所に連れて行かれ、アメリカ兵や日本兵や韓国兵、それにいろんな国の国連軍の兵士が大勢が列をなし、一日何人も相手に、男のズボンのジッパーをおろして汗臭い汚いものを舐めるのだ。
「アメリカはいい国なのかい?」
「日本よりかずっといいよ。日本と違って絶対に他国に媚を売らないからねえ。国民を他国の生贄に差し出すなんて、最低だよ」
 叔母の出してくれたビールを喉に流し込んだ。
 エリカは今、何をしているのだろうか。

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