処女の秘孔は蜜の味 13
13 処女のあそこは蜜の味?
目隠しをはずされた。
倉庫のような場所だった。
裏門に、箱型の車が止まっていた。車好きの辰雄は瞬時に車名と年代を見極めたが、肝心のナンバープレートは辺りが暗くて見えなかった。
車に乗せられた時点で、アイマスクを付けられた。何処をどう走ったのかまったく分からなかったが、時計を確認すると走行時間は二十分弱だった。
それほど移動したわけではなさそうだ。
倉庫の中に入る。剥き出しの鉄骨と高い屋根。コンクリート敷きの床は汚れていて、空調もないから部屋はひどく暑く、じめじめして不快だった。
廃屋になって久しいらしく、天井の照明器具も壊れていた。泥だらけの窓から差し込んだ頼りない月明かりが、中の様子を間接照明のように照らしている。
だだっ広い空間に、今は使われなくなった大型機械が埃を被っていた。ドラム缶や角材、ジャッキなどが数えきれないくらい置かれて、只でさえ薄暗い視界を遮っている。
遠くに、埃まみれの壁とドアが見えた。ユニットハウスのようだ。
辰雄は両手を拘束されたまま床に座らされた。
くぐもった呻き声が聞こえてきた。視線を動かして様子を窺う。
祥子だった。下着姿で口にガムテープを張られた状態で、辰雄を見ていた。
辰雄を見た祥子の目に安堵の色が宿った。まだ犯されていないし、怪我もしていないようだ。
「腕を離してやれ」
犬が唸るような低い声。こいつらの兄貴分のようだ。
「でも」
「かまわねえよ。こんなガキにびびるんじゃねえ」
「別にビビッてませんよ」
手首のガムテープが剥がされ、両手が自由になった。
「俺がいったい何をしたって言うんです?」
「覚えていないのか?」
「俺はただの現場の作業員です」
「土建会社で働いてるんだったな」
この男は辰雄のことを知っている。
「忘れたって言うなら思い出させてやるよ。もうかれこれ、半年以上前のことだからな」
半年前……。まさか……。
「半年前、俺たちの仲間二人が街で女子高生を拉致した。溜まってたんで犯すつもりだったんだろう。しかし、翌日に死体となって川に浮いていた」
辰雄はごくりと唾を飲んだ。ずっと調べていたのだ。
「どこで殺されたかはわからなかった。そこで川の上流をさかのぼって調べると、あいつらの車を見つけた。付近を探すと、なんと大麻草が生えていたじゃねえか。誰かがそこで大麻草を栽培して街で捌いていたんだってわかったんだ」
全身から冷や汗が出てきた。相手は三人。足手まといの祥子もいる。
どうする……。
「あいつらが街で誰を攫ったのか聞きまわっていたんだが、白百合学園の制服を着た、長い黒髪の女だとわかった。そこで白百合学園の生徒で髪の長い女すべてをリストアップして、可能性のないのを順に省いていった。残ったのが、そこの女だ」
くそ……。やくざの組織力と執念深さを甘く見ていた。
「その女をずっとつけていた。お前の部屋に頻繁に通っていたんでな、お前のことも調べさせてもらった。お前、以前、街でマリファナを売っていたらしいじゃねえか」
選択肢は三つ。倉庫に隠してある金で解決するか、隙を見て祥子を見捨てて逃げるか、三人をここで殺すかだ。
「俺じゃないんです! た、助けてください!」
「また芝居か?」
「お芝居じゃないですよ! し、死にたくない! 確かにマリファナを捌いていました。でも、誰も殺してなんていません!」
「信じられねえな」
「本当です。あ、マリファナで稼いだ金があるんです。全部で三千万。それをあげるから助けてください。それと、その女も自由にしてくれて結構です!」
こちらを見ていた祥子が大きく目を見開いた。
「金かあ」
兄貴分がにやりと笑った。
「じゃあ、とりあえず金を拝ませてもらおうかな。お前の言っていることが本当なら、助けてやらないこともない」
よくもまあ、しゃあしゃあと見え透いた嘘を。金を奪ってから殺す。祥子は飽きるまで輪姦したあと、どこかに売り飛ばす。こいつらのやり口くらいわかっている。
「じゃ、じゃあ、金の隠し場所に」
「そいつの腕を縛れ」
兄貴分の命令で、子分の一人がガムテープを持ってきた。
迷いはなかった。
そっと足首に手を伸ばし、隠してあったナイフを抜いた。
「手を後ろに回せ」といって腕をとろうとした男の股間にナイフを突き上げた。
男の悲鳴が倉庫に響いた。ナイフを持った手にさらさらした生暖かい液体がかかった。ナイフの刃が男の大切な場所を突き抜け、膀胱を切り裂いたのだ。
素早く立ち上がり、目の前で呆然としている男に突進していった。
「ゲホッ!」
男が嗚咽とともに血を吐いた。ナイフが男の腹のど真ん中を刺している。その場に崩れ落ちるように倒れた男に覆いかぶさり、胸にナイフの刃を差し込んだ。
辰雄は立ち上がると、股間を刺されて床をのたうっている男に近寄り、背中に乗って男の腰やわき腹を何度も刺した。
やがて、倉庫からうめき声が消えた。
「アッ! ウッ……」
兄貴分の声が震えている。足元の男の白いシャツや麻のパンツが赤い血で染まっていた。
「てめぇ……ああ……ハァ……ハァ……畜生!」
兄貴分は完全におびえていた。おそらく、人を殺したことなどないのだろう。
立ち上がった辰雄が、じりじりと兄貴分を倉庫の角まで追い詰めていく。
「なめてんのかお前!」
強がっているものの、声が震えている。
辰雄が突進すると、兄貴分が悲鳴を上げた。ナイフを思い切り男の太ももに突き立てた。
「あああああああ!」
「うるせえな」
痛みに前かがみになった男の髪を掴み、無理やり持ち上げると、腿から抜いたナイフを喉元にグイと押しこんだ。
「があっ!」
喉の軟骨をぶちぶちと引き裂く感触が伝わってきた。
何か言おうとした男の口からは、言葉の代わりに血混じりの泡が醜く噴き出る。
喉を刺された男が、助けを求めるようにこちらに手を伸ばす。その手を思い切り踏みつけた。
やがて、男は動かなくなった。
祥子が辰雄を凝視したまま震えていた。彼女に近寄ると足元の床が濡れていた。恐怖のあまり、失禁したようだ。
彼女の口を塞いでいたガムテープを剥がしてやった。
「俺がどんな人間かわかっただろう。平気で人を殺すロクデナシなんだよ」
そういって、紙袋から制服を掴みだして彼女に投げた。
この連中は仲間の誰かに辰雄のことを伝えているだろう。明日からは治安会に追われる身だ。
いつまでも服を着ようとせずに固まっている祥子を怒鳴りつけると、彼女は弾かれたように立ち上がって慌てて服を着はじめた。
倉庫の外に出る。祥子が慌ててついてきた。
男たちが乗ってきた車に乗り込む。
「早く乗れ」
「でも、車が汚れちゃう。おしっこ漏らしちゃったから」
「気にするな。男にとって女子高生の小便は聖水以上に清いものなんだ」
おいていくぞというと、祥子は慌てて助手席に乗り込んだ。
車のエンジンをかけてヘッドライトを点灯させる。道路には人ひとりいない。
「お父さんとお母さん、きっと私のこと探しているよ」
祥子の親は上級国民だ。捜索願が出ているのなら、警察は本気で捜している。こんな時間に灯火管制下の街を無免許で運転して捕まったらどうする。祥子さんには何もしていません、なんていっても、彼女の両親は信じてくれないだろう。今捕まればどんな目に合わされるかわからない。無実の罪を着せられて刑務所行きか、強制的に海外ボランティアに従事させられるか。
海外ボランティアか。明日から治安会に追われる身だ。海外ボランティアも、悪くない。
「祥子」
「は、はい……」黙って俯いていた彼女がはっとして顔を上げた。
「俺、前から気になっていたことがあるんだ」
「なんですか?」
「お前、まだ処女か?」
「え、え、ええ?」
「男とやったことあるかって聞いてんだよ」
「あ、ありません!」
「なあ。可愛い処女のあそこって舐めると蜜の味がするって聞いたんだけど、本当かよ」
「し、知りません、そんなこと!」
祥子は口を硬く閉じて眼を見開き、穴が開くんじゃないかと思うくらい熱い視線で辰雄を見つめた。