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処女の秘孔は蜜の味 15



15 ヤンキーからの贈り物

「イエーイ!」
 店内で、ロックが爆音で鳴っていた。
 店の奥のテーブルに置いてあるCDプレイヤーがアンプに繋がれていて、フルボリュームでがなり立てている。
 テーブルを片付けたフロアはダンスホールと化して、間髪入れずに繰り出してくるロックンロールにアメリカ兵や彼らに群がる韓国人女達が、身体を揺らしながら踊ったり、歌ったりと楽しんでいた。
「よう」
 スツールに座ってビールを飲んでいると、野崎がやってきた。
「見ろよ、あれ」
 野崎がフロアに向かって顎をしゃくった。アメリカ軍の女性兵士の周囲に人だかりができていた。仲間達と一人一人肩を組んで楽しそうに話し込んでいる。
「見ろよ、あの強烈な胸。日本人の女には到底かなわないよな」
「でかけりゃ、いいってわけじゃない」
 店の隅でパーティーの輪の中に入れないアメリカ兵もいる。ヤンキーが全員、陽気なわけではない。
「胸はでかいに越したこたぁ、ないだろ?」
 息が酒臭い。野崎はすでにかなり酔っていた。
「まあな。でも、アメリカ女はあそこが臭いらしいぜ」
 野崎が笑いながら肩を叩いてくる。
「匂いなんか気にならねえよ。俺のチンポには鼻はついていないんだ」
「あそこを舐めるとき、臭いだろ」
「お前、女のあそこ舐めるのが好きなのか?」
「お前は嫌いなのか?」
「好きとか嫌いとか、考えたことねえな。すぐに突っ込んじまうしな」
「俺はいつも舐めるぜ。味はそうだな、女によって色々だ。おまえ、可愛い処女のあそこは蜜みたいに甘いって知ってるか?」
「嘘つけ」
「やっぱり、知らねえんだな」
「処女となんかやったことねえからな」
 野崎がバーボンのボトルに口をつけ、直接喉に流し込んでいる。
 作業服の内ポケットには、綾香から届いた一番新しい手紙が忍ばせてあった。辰雄は野崎と話し終わると、らせん階段の横にあるトイレに入った。
 内ポケットから手紙を取り出し、読み返した。
「エリカの居場所がわかったよ」
 綾香の手紙の最後の行にそう書いてある部分があった。辰雄はそれを読み返す度に、心の中に懐かしさが湧き上がっていた。
 治安会からの追求から逃げるために、徴兵に応じた。前線に送られたら生きて帰れる保障はないが、全員が最前線送りにされるわけじゃない。そっちに賭けた。今のところ、運はこちらに向いている。二年後に日本に戻っても、治安会は辰雄のことなど忘れているだろう。
 たしかに武器を持って戦うことはなかったが、いつ砲弾が飛んでくるかもしれない最前線で荷物運びをやらされるはめになった。運が向いているといっても、気まぐれな神様がいつまで辰雄を生かしてくれるのか。
 生きるか死ぬかは、神のみぞ知るということだ。
 大盛況なパーティーの様子を満足げに見渡していたジムが、カウンターの中からでてきた。
「ヘイ、タツ!」
 ジムは軍から支給された陸軍のジャケットを着ていた。彼は軍人ではないが、先月、軍属として配属されていた沖縄から朝鮮半島に送られてきた。
「これ、フランクから届けるようにって言われたんだ!」
 ジムはカウンターの上に「ドン!」とバーボンとグラスを置いた。沖縄に長いこといただけあって、ジムは日本語がうまい。
「フランクから?」
「先週のお礼だって言ってたぜ。タツが戻ってくるのと入れ違いに戦場に行っちまったけどな」
 ということは、次に会えるのは三ヵ月後か。もっとも、お互い生きていればの話だが。
「でも、お礼って、どう意味なんだ?」ジムが怪訝そうな目を向けてくる。
「たいしたことじゃない」
 楽しんでくれといって辰雄の肩を叩くと、ジムはフロアの人だかりを避けながら、カウンターの中に戻っていった。
 辰雄は手元にあった煙草を咥えてライターで火を点けた。
 大きく煙を吐く。
 少し長生きしただけで、面白いこともあるもんだ。
 先月、三八度線に戻る前の日だった。
 飲んだ帰り、通りを歩いていると、酔っ払った女と男が歩いてきた。
 男は眼鏡をかけた米兵で、それがフランクだった。
 フランクが彼女を抱きしめてキスしていた。どうやら酒場で口説いて連れ出したらしい。
 そこに、黒人の男がやってきて、つかみ合いになった。英語で叫んでいたので、なんといっていたのかわからなかったが、「人の彼女に手を出すな!」 って感じのブチギレ方だった。
 ふたりがつかみ合いになり、女が慌てて割って入った。その様子を見ていた辰雄もその中に入り、二人を引き離した。
 女は黒人に連れられ、その場を離れていった。その様子を、フランクが悔しそうに見ていた。
「ヘイ」
 そういって、フランクの前に財布を差し出した。彼が目を瞬かせて辰雄の顔を見た。
「さっきの女がスッたんだ」
 英語は喋れなかったが、ズボンの尻ポケットから財布を抜き取られる様子を真似て見せた。女と黒人の男はグルになって、フランクの財布を盗もうとしたのだ。
 ようやく通じたのか、フランクが辰雄の手を取って「サンキュー」を連発していた。そして、このバーに連れてこられて一緒に飲んだのだ。
 俺が今週ソウルに戻ってくるのを覚えていたのか。律儀な奴だ。
 栓を抜き、グラスに中身を注いだ。そして、一気にグラスを飲み干した。


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