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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 2



2.ろくでなしの毒鼠

 マルボロの煙を吐く。
 沖島に殴られた顎と耳の奥がまだ痛い。
 あの野郎……。いつかぶっ殺してやる。
 咥えタバコのまま、親指でスマートフォンの画面に番号を呼び出す。
「よう」
「あ、祐輔くんだぁ」
 絵美。中学の同級生。中坊の時から性欲処理に使っている女。
 そして、祐輔の初めての女の娘。
「今、仕事か?」
「そうだよ」
 絵美の仕事。街に立って客を取る立ちん坊。
「何時に終わる?」
「会ってくれるの?」
「久しぶりにお前とやりてえなって思って」
「ばかぁ」
 知恵遅れとまではいかないが、絵美は頭がかなりトロイ
「仕事は何時までなんだ?」
「ええっとねぇ……。今日は三人お客がついたから、いつでもいいよぉ」
「おおう、稼いだじゃねえか。じゃあ、九時ごろ迎えに行ってやる」
「わあ、嬉しい」
「姉ちゃんには、俺に会うなんていうなよ」
「祐輔くん、お姉ちゃんと仲良しになってよ」
「そのうちにな。じゃあ」
 電話を切る。絵美の姉の茉莉も売春婦だが、こっちは気が強くてやり手だ。親はヤクザとその情婦。近所でも有名なろくでなし家族で、それゆえに姉妹とも過酷な少女時代を送ってきた。
「よう、祐輔」
 佐藤健次が歩いてくる。派手なスカジャン。そろそろ自分の姿がおかしいと感じなければならない歳だ。
「沖島とひと悶着あったらしいじゃねえか」
 健次がタバコの箱から一本振り出して銜える。ライターが見当たらないようなので、ジッポを貸してやる。火をもらった健次がうまそうに煙を吐き出した。
「沖島と揉めたんだって?」
「あの野郎、いつかぶちのめしてやる」
「やめとけ、幹部と揉めるのは。あいつは小物だ。いつか落ち目になる」
「俺はそんなに気が長くねえんだ」
 健次が笑う。
「明、飛んじまうな、ありゃ」
「あんな根性なしにタタキやれってのが間違ってんだよ」
「あいつらが輪姦した女、裏風俗行きだって。落とし前つけるために闇金で五百万借りさせられたんだってよ。阿漕なことするよな、沖島の奴」
 健次はまだろくに吸っていないタバコを地面に捨て、吸殻を靴で踏みつぶした。
「あの女、ヤバイ系って知ってたか?」
「ヤバイ系? なんだ、そりゃ?」
「やくざのこれらしいぜ」といって、健次が小指を立てた。
「あの女がか? そういや、やくざ好みのいい体してたぜ。でも、ツラはいまいちだったな。どこかの下っ端の情婦なんだろうな。でもよ、そんなやばい女に明は手ぇだしてたのか?」
 そういって、祐輔が「そうか」といって舌打ちした。
「そう、明はヤシマ組のスパイ。女はその報酬だったってわけさ」
「あの野郎……」
「まあ、やくざの女に手ぇ出しちまって、それをネタに脅されてるのかもな」
「明の奴、沖島に知られたら殺されるな」
 祐輔が煙草の吸殻を放り投げる。だからといって、沖島にチクる気などない。明がスパイだと見逃した沖島が悪いのだ。
「お前、あの女がヤシマ組とつながってるって、誰に聞いたんだ?」
「まあ、馴染みにしている女からだな。ヤシマ組のシマん中にある店で働いてるんで、いろいろ情報が集まってくるんだよ。お前も情報網を少しは広げたほうがいいぜ」
 いいもの見せてやるぜ。そういって健次が脱いだ靴を手に持って祐輔に突き出した。靴の踵をグイっと回すと、中から小さなナイフが落ちてきた。
「なんだ、そのおもちゃは?」
「映画に出てくるスパイの道具みたいでかっこいいだろ。海外の製品なんだが、少し前に通販で買ったんだ。サイズは二七センチだけだがな」
「お前もまだガキだな」
「まあ、それで、売れるかなと思って、ちいっとばかし仕入れたんだ。買ってくれよ。一足三万なんだ」
「売れ残りを押し付ける気か? そんなおもちゃに興味ねえよ」
「ダチだろ? 頼むよ」
 祐輔は舌打ちして、ポケットから金を取り出した。

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