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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 7


7.狂人の隠れ家

 悪魔の髑髏、「デビルスカル」。
 昼間はカフェとして営業していて、ランチとかカツサンドとか、普通のメニューものを出していて、客には家族連れも多いが、夜になると、この猥雑な街でも結構ヤバイ雰囲気を醸し出しているカフェバーに変わる。経営者は同じだが、昼と夜で店を切り盛りする人が変わるらしい。
「よう」
 祐輔がドアを開けて入っていくと、カウンターでウィスキーグラスを磨いていた斉藤茂樹が目を向ける。
「どうも」
「んだよ、久しぶりじゃねえか」
 茂樹はカウンターの向こうから身を乗り出して手を差し出してきた。ごつい手を掴んで握手。手首から肩の辺りにかけて広がっているタトゥー。三十を超えても筋肉が全然衰えていない。元半グレの最強男。祐輔の先輩。今は会社から独立して別の仕事をしている。
「元気っすか?」
「当たり前じゃん」
 ちょうど一か月前。店に飲みに来て暴れた三人組の土方の兄ちゃんたちを、茂樹はひとりでぼこぼこに殴って店の外に叩き出したした。チタン製のメリケンサックを拳に着けてタコ殴りしたから、三人とも前歯をへし折られたり、顎の骨を砕かれたりと、散々な目に合わされた。しかし、あれでも茂樹は手加減したのだ。茂樹が本気を出して殴れば、三人とも殺されてどこかの山に埋められていただろう。そして、そいつらの死体を埋めたのが祐輔だったかもしれない。
 座れよと勧められるまま、祐輔はテーブル席に腰を降ろす。
 いかにも不良の溜まり場っぽい店内。流れるBGMは静かなレゲエ。
「調子はどうだ?」
「まあ、ぼちぼちですよ」
「お前がそういうってことは、仕事はうまくいってんだな」
「まあまあっす」
「俺の下についたばかりの時は危なっかしいガキだったのにな。俺も年取るわけだ」
「何言ってんすか。茂樹さんだって、地元最強の現役バリバリじゃないっすか」
 茂樹が奥の方へ声をかける。遠藤美由紀が、タオルで手を拭きながらカウンターの奥にある厨房から姿を現した。Tシャツの胸を大きく持ち上げる乳房。Eカップはある。いや、Gか。どうしても目を向けてしまう。
「祐輔くん、久しぶり」
 隣の椅子を引き、笑いながら「元気にしてた?」と、密着するように体を寄せる。茂樹の女。発酵したパッションフルーツのような匂いが、ふわりと鼻先に漂う。
 高級ソープ嬢として働いたら、きっと月一千万は稼げるくらいいい女。茂樹はこの極上女の体を自由にしている。これまで組織で稼いだ金は億はいっているはずだ。やはり、美由紀のようないい女を物にするには金が必要だ。
 ふっと、絵美の顔が目に浮かぶ。
 今はあいつが俺のお似合いの女と言うことか。
 俺もいつか茂樹みたいになってやる。
「何か作ってやれよ」
 美由紀は微笑みだけ向けると、席を立ってカウンター奥の厨房へ消える。
 茂樹が慣れた手つきでカクテルを作るのを、祐輔は黙って見ていた。おしゃれで大人びた酒の愉しみ方など、祐輔は知らない。こんな猥雑で汚い街の片隅で似合うのは、安いウイスキーのラッパ飲みだ。
 タバコを銜えた。茂樹はまだ十代の時、アメリカで暮らしていた。本場のアメリカのドラマや映画で見るような危険な街の場末のバーで、カクテルの作り方を習ったらしい。
「最近は稼いでんのか?」
 カクテルを注いだグラスを置きながら、茂樹が祐輔に訊いた。
「最近すか?」
「おう」
「まあ、あれなんすけど」と、もったいつけて身を乗り出した。
「実は、金持ちのスケベ爺がいるんすけど、俺の担当のターゲットで、これまでいろいろ探りを入れたんですけど、金、結構溜め込んでんですよ」
「いくら?」
「三千万っす」
「おお、すげえじゃん!」
「なんか超用心深い爺で、生活パターン調べるのにも時間かかったんす。ほんとにそんな金を家に溜め込んでるのかって、疑ってる上の人もいるんすけど」
「そんなの関係ねえって。三千万とか、マジすげえから」
 電話での指示を出している上層部の幹部はフィリピンにいて、日本の警察が簡単に手出しできない安全な場所から指示を出している。日本にいる幹部がその指示を受け、祐輔のような実行役に指示を出す。そして、実行役はラインやネットで闇バイトの襲撃役を募集し、高額報酬に釣られた無職の男たちを使って金を奪わせ、その金を回収する。
 沖島のような日本にいる幹部は実行役の監視だ。受け取った金を配分し、上層部に上納するのが仕事だ。そして、幹部の指示を受けた実行役は襲撃役を用意し、カモの家に押し入らせる。金がある家に当たって大金をせしめれば、うまくいけば幹部になれる。幹部になれば自由に金を使えるのだ。
「お待たせ」
 美由紀がペスカトーレの皿を祐輔の前に置き、タバスコの小瓶を添える。付け合わせは、オリーブオイルを回したトマトとモツァレラチーズのカプレーゼだ。
「どうも。うまそうっすね」
「こいつのつくるパスタは最高だぜ」
 美由紀が静かに微笑んでいる。
 祐輔はトマトとガーリックの効いたパスタを堪能し、新しく注文したビールで流し込む。
「マジで、うまいっす。茂樹さん、マジ人生の勝ち組っすよね。金も夢も手に入れて、綺麗な女もっしょ? 何でも持ってるじゃないすか」
「んなことねえよ」
「俺ら、どうしたら茂樹さんみたいになれるんすか?」
「おだてんなって。お前も頑張ってたら、いつか夢は叶うから。俺が嘘をついたことあるか?」
「いや、ないっす。茂樹さん最高っす」
 祐輔は三杯目に注文したマティーニの残りをひと息で飲み干す。
「久しぶりにやろうと思って」と、タバコをふかすそぶりをしてみせる。茂樹がにやりとする。
「ちょうどいい。メキシコから直輸入の高級品が入ったばかりなんだぜ」
「いいっすね」
「女は?」
 美由紀を見た。まさか美由紀を連れ出すわけにはいかないし、絵美は葉っぱはやらない。それに、ついさっき絵美の中に二発ぶっ放したばかりだ。
「静かにひとりでフカします」
 カウンターの中から、マリファナの入った小さな袋を取り出し、祐輔の前に置いた。
「俺のおごりだ」
「えっ? いいんすか?」
「最近、儲けてんだよ。さばく量増やしてるし。それに、自分用にも取ってんのがあんだよ」
「マジすか? あざっす! マジあざっす!」
 頭を下げて、茂樹の気が変わらないうちにマリファナをポケットにしまった。

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