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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 9


9.闖入者

 ドアが叩かれる音で目を覚ました。
 朝の九時を回ったところだった。
「健次、誰か来たぞ」
 アルコールでずきずき痛む頭をひねって、ベッドの上の健次を見た。
「お前が出ろよ」といって、ベッドを降りようとしない。結局、二人とも夜中に目を覚まし、今朝の明け方近くまで飲んでいた。
 頭が痛い。
 無視して布団の潜り込んだ。誰かが拳でノックする音が続く。
「すんませーん、宅急便ですけどー」
 男の声が響く。健次は相変わらずベッドの上で丸まったままだ。
 祐輔は舌打ちして起きあがって、よたつきながらドアへと歩いていった。
 鍵のつまみを回した途端、勢いよくドアが開いた。
「おい」
 凄もうとする祐輔の肩を、いきなり入ってきた見知らぬ男たちの一人が、思い切り突き飛ばす。
 よろめく間もなく無様に尻もちをつく。スニーカーの靴底が、胸板めがけて飛んできた。倒れたところをうつ伏せに引っくり返され、背中をのしかかってきた膝で押さえつけられる。ねじり上げた後ろ手に手錠を掛けられた。
「誰だ、てめえら!」
 健次の怒声が部屋に響く。ベッドの上で拘束され、怒りの滾った目を見開いて相手を睨みつけている。
 最後に入ってきた男が、ドアを閉じて内側から鍵を掛けた。スニーカーにスウェットパーカー姿。動きやすそうな格好をしている。フードを頭から被れば、監視カメラから顔を隠すこともできる。
 他人の部屋に踏み込む荒業に慣れている連中だ。
「まあ落ち着けよ、な?」
 兄貴分らしき男が若い二人を諌める。
「おまえら、どういうつもりだ? 俺たちが誰だか知ってるのか?」
 顔をカーペットに押し付けられながらも、健次が強がる。祐輔も床に押さえつけられ、何も出来ない。這いつくばった状態で男たちを睨みつける。
「分かった分かった」
 兄貴分らしき男が苦笑する。
「俺は棟方ってんだ。そっちは副島、お前を押さえつけてるのが新井。お前たちこそ、俺たちのこと、知らねえのか?」
「知らねえよ。下っ端の名前までいちいち覚えてられっか」
 背中にのしかかっている新井に髪を掴まれ、顔を引っ張り上げられた。
 鼻面から床に叩きつけられる。
 重い痛みに後頭部まで刺し貫かれ、目がくらんだ。鉄臭い味が口の中に広がる。
「てめえら、調子に乗んなよ、こらぁ!」
 健次が叫ぶ。副島という男が、健次の顔をベッドに押し付けた。呼吸ができなくなった健次が暴れている。
「お前も大人しくしてろよ、な?」
 健次は半分くらい顔を布団に埋めたまま、歯を食いしばって棟方を睨みつけている。
 祐輔と健次は後ろ手に手錠を掛けられたまま、床に座らされた。
 新井と副島の無表情なまなざし。
 棟方はベッドの端に腰掛け、スマートフォンで誰かと話している。
「今は佐藤って野郎のヤサだ……そう、二人ともここに……まあな、こっちでも色々と訊いとくから……後はよろしく……じゃ……」
 通話を終えると、前置きもなく祐輔に訊く。
「しくっただろ?」
「は?」
「は、じゃなくて。強奪班に奪わせた三千万、横取りされただろ?」
「なんでそれを……」
 床に座らされたまま、棟方を睨む。こいつ等が関わっていたのか?
「ヤクザの情報網ナメんじゃねえぞ。俺たちは何だって調べちまうんだからな。まあ、お前が間抜けすぎるのが一番悪いんだよ」
「んだとコラ」
 祐輔が凄んだ途端、副島が平手打ちを食らわす。
 鼻血が垂れてくる。それでも祐輔は相手を睨み続ける。
 相手はやくざだ。しかし、ナメられて何もしないわけにはいかない。それに、こっちのバックには会社がついているのだ。
 棟方は笑ってもいなければ怒ってもいないし、無表情を装っているわけでもない。ただ、黙って祐輔の目を見ている。
 壁を這う虫を観察するような、無感情な目。
 直感が、こいつはヤバイ奴だと告げている。
 恐怖の塊がみぞおちの辺りを圧迫して、軽い吐き気を覚える。
 なんとしても、ここから逃げなければならない。武器がないか周囲を見回す。レジ袋に入った、健次から三万で買った靴。あれの踵に小さなナイフが仕込んである。しかし、どうやって手にしたらいいか。
「あの爺さんが三千万溜め込んでいるのを調べるのに、組織……おまえら、会社っていってんだっけ? どれだけ金と手間をかけてるか知ってるか? それに強奪班までマッポに捕まっちまって。あいつらがべらべら喋るのも時間の問題だぜ」
「あいつらは何も知らねんだよ」
「警察は素人じゃねえんだ。スマホの履歴しらべて、どこの国のどこから誰が発信したかなんて、すぐにつきとめちまう。タタキはよぉ、しくっちまったら後が大変なんだよ。何せ、警察は躍起なって追い回してくる。間に入って金を回収している実行役も会社も追われることになっちまうわけだ。おまえらの会社だって、簡単に許しちゃくれねえだろ。警察に捕まる方がまだマシかもな。会社に捕まったら半殺しじゃすまねえよ。下手すりゃ、いや、下手しなくても重りつけられて海底散歩をするはめになる。だからここでダチと二人で隠れてたってわけだ」
「……だから? それで、どうしたいんだよ?」
「どうしたいか?」
「あんた、会社の回し者? もし違うんならさ、俺らが何しようが、あんたには関係ないじゃん。ヤクザがいったい何の用なんだよ」
 棟方が不意に笑い出す。
「そうか。てめえらもあの爺さんを狙っていたのか。あそこで見張っているところを俺たちの強奪班に金を盗られちまったって訳だ。それで、あいつらの後をつけたが、目の前でどこの誰だか知らねえヤツに金を横取りされちまった」
 棟方がまた大笑いした。そして、いきなり祐輔の胸に前蹴りを叩き込んだ。
 身構える間もなく後ろに吹っ飛ばされる。カーペットが張られているとはいえ、もろに後頭部を叩きつけられた。金属バットで殴られたような衝撃だ。
 気を失いかける。息が詰まり、心臓の音ばかりが耳の奥でけたたましく鳴っている。
「そこまでわかってんなら、話が早ええぜ。要するに、俺たちの世界じゃ、落とし前ってのをつけなきゃなんねえんだ」
「俺たちには関係ねえ。勝手に会社と揉めてくれ」
「やってほしいことがあってな。うまくいったらお前らを助けてやってもいいぜ」
 棟方が、肩に手を回してきた。

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