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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 11


「おい」
 棟方が顎で指図すると、新井が売人の男を引き摺ってきた。男は惨めったらしく泣きながら命乞いしている。
 副島がバットを構えた。
 男が悲鳴を上げると同時に、副島がこめかみめがけてフルスイングした。
 白い壁に血しぶきが点々と飛び散る。
「いいスイングだ」と、棟方が誉めた。
「恐縮っす」
 頭を叩き潰された若い男は、それでもまだ息絶えることなく、床に倒れたままぴくっぴくっと肩を痙攣させている。
「お前もやっとけ」 棟方が新井に言った。
「うっす」
 新井は金属バットを受け取ると、頭上に振りかぶり、何のためらいなく若い男の頭に振り下ろした。
 ゆで卵を硬い床に叩きつけたような音。
 若い男は痙攣は止め、喉から奇妙な息の音を漏らした。膝をストレッチするように伸ばすと、そのまま動かなくなった。
「ズボン、汚れちまった」と新井。
「きったねえなあ、お前」と、副島が茶化すように言う。
「夜が明けるまでに埋めとけよ」
「ういーっす」
 棟方が、祐輔と健次の顔を相互に覗きこむ。
「頼まれたこと、やる気になったか?」
 背筋がぞっとする。こいつらは本当にヤバイ連中だ。
「んだと、コラぁ」
 健次が棟方を睨んだ。
「それくらいのことで俺らがびびるとでも思ってんのかい? 馬鹿にしてもらっちゃ、困るな」
「ほう、いい度胸している。大概の奴ぁ、今のシーンを見ると小便漏らしちまうのによ」
「あんたが茂樹さんを目の仇にしている理由に思い当たるふしがあるぜ」
 健次がにやりとした。
「先月、ヤシマ組のへタレヤクザを半殺しにしてやったって、茂樹さんが話してたな。そいつ、泣きながら土下座したらしいぜ。自分が大物だと勘違いしたインテリヤクザみたいだったって言ってたけど、あんた、ぴったりじゃねえか」
 健次の頬に棟方の拳が食い込んだ。健次の体がぶっ飛ぶくらい、強烈な一撃だった。
「このボケがぁぁッ!」
 憤怒に顔面を歪めた棟方が、怒鳴りちらしながら健次の顔面を殴り続ける。
「ガキのくせしてやくざ舐めんじゃねえぞぉぉぉッ! ああぁッ?」
 棟方が健次の顔面に唾を吐き捨てた。
「この半グレがぁッ! 俺たちゃヤクザなんだよぉ! おまえらガキと違って喧嘩に負けましたじゃなぁ! 明日からオマンマが食えねえんだよぉッ!」
 髪の毛を引っつかみ、何度も揺さぶりながら健次の耳元で棟方がわめく。
 健次の腹部に棟方の拳がめり込んだ。見ているだけで胃液が逆流する。拳が何度も健次の腹部を打ち抜いた。
 健次が床にゲロをぶちまけた。祐輔は奥歯を食いしめた。じっとりと汗ばむ額、耐えるしかなかった。
 棟方の耳をつんざく怒号、延々といたぶるように叩きつけられる拳。
 健次が動かなくなった。
 棟方が祐輔を見た。
「いいか、三日待ってやる。どんな手使ってでも斉藤のタマとってこい」
「自分でやったらどうなんだ?」
 床で動かなくなっていた健次の、濁音混じりの声が響いた。
「何が落とし前だよ。ケジメつけるとか言って、怖いから俺たちに茂樹さんを殺れって、おまえ、びびりまくりじゃねえか」
 苦痛にうめきながら、健次が床に唾を吐いた。棟方の容赦ない蹴りが、健次の腹に食い込む。
 健次が床にへたり込んだ。それでも棟方は容赦なく健次を蹴り続けた。こんな光景には慣れている祐輔も、背筋がゾクッとする。本職の勢いはハンパない。
「シンジ、バット貸せ」
 棟方が右手を差し出すと、新井がバットを差し出した。
「こいつの頭、叩き潰してやる」
 棟方がバットを振り上げた。
「待て、やめろ」
 祐輔の声に、棟方が動きを止めた。
「茂樹さんを殺ってやるよ」
「祐輔、てめえ……」
 健次が血塗れの顔を祐輔に向けた。

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