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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 15


15 監禁

「お前、ほんと頭悪いよな」
 沖島はパイプ椅子に腰を降ろし、足を組んでふんぞり返っている。頭脳派ぶりたいだけのために掛けている黒縁メガネ、クソださいピンストライプのスーツ、何もかも気に入らない。
「同じ街のコンビニとか、そこの店員が俺たちの仲間かもしれないってこととか、疑いもしねえとはな」
 手足をきつく何重にもガムテープで縛られ、カーペット敷きの床に転がされている。
「あのビルの二階にエロDVD屋があるだろ? エログッズとかも売ってる。コンビニとオーナーが同じで、うちの会社の偉いさんなわけ。お前、俺たちの情報網、ナメてんじゃねえの?」
 部屋にある備品は沖島のパイプ椅子だけ。他の男たちは、壁際に立ったままだ。床のあちこちから、OA機器やパソコン用の電源タップとLANケーブルが露出したままになっている。
 連れて来られる時に目隠しをされなかったのは、ここが祐輔の通い慣れた会社のビルだからだ。あるいは、始末するつもりだから行く先を隠す必要なんてないと思ったからなのか。地下フロアが空き室になっているのは知っていたが、今まで一度も入ったことはなかった。
「んで、俺はそのオーナーと昔から仲いいわけね。お前を探してちょうど近くを車で流してたら、お前が店に来たって、オーナーから電話が入ったんだよ。ツイてたわけだけどさ、日頃の行いが良いせいだよな、これは」
 沖島が声を出して笑う。壁際の男たちは、薄く笑いを浮かべるだけ。会社の中で沖島を嫌っているのが祐輔だけでないことは、沖島本人もよく知っている。
「社長賞もんですよね、おめでとうございます」
 祐輔が嘲笑を浮かべた。沖島が祐輔の腹に蹴りを入れる。嫌われ者と自覚しているくせに、皮肉や嫌味にはやたらと敏感なのだ。
 革靴の先端がみぞおちに食い込み、息が詰まって強烈な嘔吐感がこみ上げる。体をくの字に折り曲げてえづくが、胃液は出てこない。呻き声とも泣き声ともつかない息を漏らして、口の端からよだれを垂らすだけ。
「逃げた後、今までどこに隠れてた?」
 沖島が祐輔の顔に靴底をのせ、ゆっくりと体重を掛けていく。重みが増して頭蓋骨が軋む。
 黙っていると、沖島は足をどけた。鼻を爪先で軽く蹴られ、痛みで目がくらむ。
「お前が金隠してることは分かってんだよ。佐藤のところか? 奴は今、どこにいる?」
 祐輔がそんな大それたことをしでかしたとして、まず頼るのは健次ではなく茂樹だ。それを知っている沖島が、茂樹ではなく健次の名を口にした。やはり、そうだったか。
 侮蔑を浮かべて顔を覗き込んでくる沖島を睨みつける。これだけ追い詰められていても、棟方に相対している時ほどの恐怖感は不思議とない。
「言えよ、金はどこに隠してるんだ? 仕事をしくったのも、もしかしたら誰かと手を組んでやった芝居なんじゃねえのか? だとしたら、誰だ? やっぱり佐藤か?」
「とぼけんなよ」
「はあ?」
「お前が金を横取りしたくせによ」
 沖島の表情が凍りついた。図星か。突然の不意打ちに、感情が顔に表れるのを隠しきれなかったようだ。
「茂樹さんの指図だったんだろ? やり方でわかったよ」
「何ほざいてんだ? ああ!」
 再び腹に靴先がめり込む。
「……」
「どうした? 本当のことを喋る気になったのかよ」
 祐輔は、さも苦しそうなかすれ声で喋ろうと唇を動かす。
「ん?」
 聞き取ろうと近づけてきた沖島の顔面に、唾を吐きかけてやる。
 沖島の目に憤怒が燃え上がるが、すぐに冷静に戻って立ち上がる。ポケットから取り出したハンカチで拭うと、壁際の取り巻きたちに言う。
「解け」
「……は?」
「手だけ解いてやれ。で、起こしてやれ」
「でも……」
「俺がやれっつってんだよ」
 取り巻きたちは互いに顔を見合わせるが、上の命令には逆らえない。沖島も用心は怠らず、両手を自由にされて立たされる祐輔に拳銃を向け、安全装置を外す。
 取り巻きたちにも距離を取るよう顎で指示した。小さな黒い銃口が、異様な存在感と圧力をもって目に飛び込んでくる。
「心臓とか頭じゃなく、腹を撃つ。腹を撃たれたらどうなるか知ってるか? 悶え苦しみながら、じわじわ死んでいくんだよ」
「何の冗談だよ」
「あ?」
「バカじゃねえの?」
 沖島がいきなり宙に向けて発砲する。
 小学校の頃、虐めていたやつのシャツの中に、火のついた爆竹を放り込んだことがある。あの時と似た音がした。銃弾はどこに当たったのか分からない。硝煙のにおいが、つんと鼻をついた。

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