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愚かな毒鼠どもの眠れない夜 16



16 脱出

「バカはお前だよ。以前、書類を何枚か書かされたことがあっただろ? バカだから意味分かんなかったかもしれないけどな、あれ、会社を受取人した生命保険だったんだよ。分かるか? しくった奴をぶっ殺して、生命保険で損失補填するためなんだよ。死体は色々調べられっけど、ばれたことないんだぜ。お前の場合は、そうだな、酒でも飲んでもらって、酔って海に沈んでもらおうか」
「ふざけんじゃねえよ」
「本気だぜ」
 取り巻きのひとりがウイスキーのボトルを持ってきた。
「まあ、いっぱいやれや」
「そんな安もん、飲めるかよ」
「ごちゃごちゃいってねえで飲むんだよ!」
 沖島がいきなり髪を掴むと、祐輔の頭を持ち上げた。取り巻きが口をこじ開け、ボトルの口を突っ込む。無理やりウイスキーを流し込まれ、喉に焼けるような刺激が走る。
 入口のドアが細く開いた。祐輔の他に、その場にいる誰もが気付いていない。
 ドアが開き、覆面姿の男たちが三人、なだれ込んで来た。全員が銃を手にしている。おもちゃを持っているように見えるのは、使い慣れていない道具がフィットしていないからだ。
 乾いた発砲音が、がらんどうの地下室の内部に反響する。
 撃ち合いではない、一方的な虐殺。
 侵入者の一人が沖島のこめかみに銃口をつけ、引き金を引いた。
 弾かれたように沖島の頭が真横に跳ね、膝から力が抜けて床に崩れる。倒れた体に、侵入者は念のため弾丸を数発撃ち込んだ。
 赤黒い血が、頭蓋骨に開いた穴から噴き出す。体の穴からは血がインク洩れのように滲み出て、シャツを見る間に濡らし、浸していく。
 魂の抜けた沖島の体が、床に静かに横たわっている。
 壁際の取り巻きたちも反撃する暇さえなく、次々に頭を弾かれていく。
 血しぶきが壁や天井に飛び散り、カーペットには赤黒い水たまりが広がっていく。
 祐輔は両手で頭を抱え込んだままどうすることも出来ずに、惨めな虫のように背中を丸めてうずくまっていた。体の震えを自覚してから、自分がようやく死の恐怖に直面していることに気付く。力いっぱい噛みしめているはずなのに、歯がカチカチと鳴るのを止められない。頭蓋骨の中に銃声がわんわんと響いているので、自分の耳に歯を噛み鳴らす音は聞こえていない。
 次は俺が撃たれる。
 汗が次から次へと顔や背中を流れ落ち、濡れたシャツが冷たく皮膚に貼り付くのを感じる。空気がむせかえるほど火薬くさい。
 永遠とも思える数秒間が過ぎる。
 いっそひと思いに殺して欲しいとすら思い始めたその時、
「おいおい」
 と、失笑まじりの声が聞こえる。
「そんなにビビってんじゃねえよ」
 侵入者のひとりが覆面を外し、素顔をあらわにしている。
 棟方。
 他の二人も覆面を外した。副島と新井。
「何で……」
「何でって、仕事に決まってんだろ。別にお前を助けたかったわけじゃねえぞ。会社だとか名乗ってバカやってるこいつらが目障りだったから、いつか何とかしなきゃって思ってたわけよ。このビルには前から目星をつけてたけど、本当にここが自社ビルなのか、どうにも確信が持てなくてよ。表に看板出してるわけじゃねえし、登記簿を調べてもよく分からないし。ヤクザに厳しい世の中だろ? 万が一でも間違っちゃあ、現場責任者の俺のクビが飛ぶんだよ。どうしたもんかって思ってた時に、今回のお前の件だ。これはもう、利用しない手はないと思ったぜ。斉藤を殺したら、お前は当然逃げ出す。それでも放ってりゃ、会社だとかの連中が俺らより先に捕まえる。俺らみたいに色んなとこに監禁とか殺しに使える場所持ってるわけじゃないから、捕まえた奴をどうにかするとすりゃ、まずは人目につかない自社ビルに連れ込む可能性が高い。そこを押さえりゃ、万事解決だ。一気に叩いてドカン、ぶっ潰せる」
 淡々として喋る棟方の言葉は、何ひとつ祐輔の頭に入ってこない。
「そんなわけで、お前が捕まって運び込まれるのがどこか、本当にここが会社とやらの自社ビルなのか、俺たちは辛抱強く見張ってたわけだ。そしたらビンゴ、めでたしめでたし。ハッピーエンドってわけだな」
 棟方は死んだ沖島の頭を軽く蹴飛ばす。血溜まりのはねが飛んで、祐輔の顔に赤い斑点を散らす。
「用は済んだんだろ。さっさと殺せよ」
「殺しゃしない」棟方は無表情な目を向けて言う。
「いったん引き上げるぞ」
 男たちは帰り支度をはじめる。
「死体はどうするんだ?」
「後で回収して、始末するさ。お前も一緒に来るんだ」
そういって棟方が祐輔の肩を掴み、立ち上がらせた。


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