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キチガイたちの挽歌 7



 洒落た和風創作料理の店。ここの日本酒がうまいと隆志が勧めていた店だった。
「陽子、でかい仕事が決まったんだ」
 オールバックヘアが今日も決まっている。建設業界の大物の息子。陽子の上得意だった。
 最近までは……。
「そう。どんなお仕事?」
「今度東京で建設予定のテーマパーク関係の仕事さ。倍率が高かったんだけどうまく潜りこめた。やりがいのある堅い仕事なんだ。これで陽子にもいい思いをさせてやれると思うんだよ」
「すごいわね」
 嘘だ、と陽子は察した。嘘と判断する理由があったわけではない。直感だ。男の微妙な表情の変化で、男の嘘は手に取るようにわかるようになった。
 佐田隆志は、親のコネと資金で自分の建設会社をつくった。成功しているときはもちろん羽振りも良く、陽子にも大金をふるまってくれたが、ここのところ事業が失敗続きで会社も赤字に転落してしまっている。
「私、欲しいマンションがあるの。六本木なの。とてもいいお部屋なのよ。好きなときにあなたが会いに来れるわ」
「六本木か。いいねえ」隆志が視線を逸らせた。
「ねえ、買ってよ」
 これでマンションを買ってくれれば、この男ともうしばらく付き合ってもいい。しかし、最近は月々の手当まで出し渋っているありさまだ。
 マンションを買ってくれないと別れると言って隆志が怒ったら、その時はその時。私との別れを口にしたら、その程度にしか私を愛していなかったということ。
 私は男にすがってなんか生きない。隆志なんかあてにしない。
「そうだな、買ってあげよう」
「本当?」
「ただし、二か月待ってくれ。二か月、延期してほしいんだ」
「そんなに待っていたら売れちゃうわ。とてもいいお部屋なのよ。私じゃ手付も払えないけど、隆志なら大丈夫でしょ?」
 隆志の顔が赤くなっている。
「どうしたの? そのくらいのお金、隆志ならなんとかできるんでしょ?」
 いつも調子こいて大ぼら吹いているから、こんな目に会う。この男からは散々巻きあげた。そろそろ切っておかないと、面倒なことになるかもしれない。
「私って、隆志に迷惑かけてるかな」
「そんなことないよ」
「これ以上、隆志に迷惑かけたくないわ」
「そんなこと言って、俺と別れるつもりじゃないだろうな」
 隆志の顔がますます赤く変わり、唇が震えてきた。
「このことだけははっきりさせておく。俺はお前とは別れないからな。俺の言う通りにしろ!」
 だったら、払うもの払え、馬鹿野郎。
「なにそれ? 隆志って私の亭主なの? 相手が亭主でも、私は自分の思い通りにするわ」
 怒りで血走った隆志の鋭い視線が突き刺さってくる。握り締めた拳が震えていた。
 金を出し渋る以上、この男に従う必要はない。
「なあ、クラブのホステスをやめて、俺だけの女になってくれよ。一生楽をさせてやるから」
 そんな言葉、信用できるはずもない。
「もちろん、隆志が養ってくれるなら、やめてもいいわよ。でも、お金って、どうなるかわからないじゃない」
「俺が事業に失敗すると思ってるのか?」
「確かな将来なんてないもの。現在を犠牲にするなんて、勇気のいることなのよ」
「お前、俺のこと全然信用してないじゃん。少しは自分というものを抑えることを覚えろ!」
「あら、私は抑えられない女よ! そのことは隆志もよく知ってるじゃない」
「まあな。確かにそこが君の魅力でもある」
「隆志こそ、口に出しては言わないけれど、心の中ではお金お金っていつも言っている私のことを蔑んでいるんじゃないの」
「そんなことないよ」
 陽子の目から涙がこぼれた。
「悪かったよ、陽子。マンション買ってやるから、泣きやんでくれ」
 隆志が陽子を抱きしめた。

 騎上位で身体を躍らせる。
 タプタプとイヤらしく形を変えながら上下に揺れる乳房を隆志の目が追う。
 隆志は股間に手を伸ばして、指先で陽子の敏感な場所を摘んだ。陽子の頭の中に火花が弾けて飛び散った。
 強い刺激を受けて激しくなる腰の動きに、勢い余って時折ペニスが抜ける。
 闇雲に何度も何度も突き上げられて、陽子は背中を弓なりに反らして悦びの悲鳴を上げ続けた。
 顎が上がり身体が硬直して、息が出来なくなる!
 切羽詰まった隆志の声に、陽子もすぐ目の前に迫った絶頂へ駆け登る。何度も波のように襲う絶頂感に飲み込まれながら、隆志の最後の瞬間を待つ。
 引き絞るような隆志の声が聞えた途端、陽子の中でペニスがビクビクっと震えた。
 頭の中が真っ白くなって、全身の感覚が抜けていく中、まだ固さを失っていない隆志のペニスの感覚だけが感じられる。
「隆志、すごかったわ」
 腰を落として陽子は隆志にキスをした。この男とこうやって性を交えるのも、これが最後かもしれない。

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