キチガイたちの挽歌 9
赤坂一つ木通りのシティ・ホテル下の道路沿いのレストラン。
陽子はフレンチ・トーストと珈琲で遅い朝食をとっていた。白いポルシェから降りた平田がニコニコと笑いながら近づいてくる。
「やあ、陽子。お店の外で会うのは始めてだな。太陽の下でも、やっぱり君は綺麗だよ。艶かしくて惚れ惚れする」
「あら、社長。相変わらずお口がお上手ですこと」
「今日は、私とデートしてくれるんだってな。北原って人から連絡があった」
「ええ、いつもいつも社長に親切にしていただいているんですもの。今日は、私がお返ししますわ」
「どこに行こうか」
「すべて、社長におまかせします」
「今夜は私と最後の一線を越えてもいいと覚悟していると、北原くんは仄めかしていたが、本当にそうなのかな?」
「はい、社長、そのつもりでいます」
わざと顔を赤らめて答える。
「結構、大胆なんだな。気に入ったぞ。このまま、上のホテルに直行してもいいんだけれど、それじゃあ、即物的過ぎで、情緒も面白みもないよな。まずはどこかでおいしいものを食べて軽く飲もうか。君のこと、いろいろ聞きたいしな」
「すぐばれるから、先に言っておきます。私、食い意地の張った、セックスに貪欲な女なの。社長、本当の私の姿を知ったら、がっかりなさるわ」
「面白いことを言うなあ。普通の女は自分からそういうことは言わないぞ」
「本当のことなんです。私、おしとやかで、上品だと思われているから」
「無理じいはしないからな。俺とやるのが嫌になったら、何時でも言ってくれよ」
「ですから、私、セックス大好きなんですの。私から嫌になることはありません」
「ハハハ、面白い子だなあ。さあ、食べにいくぞ! 車に乗った、乗った。それから、陽子に乗って、君の大好きなセックスだ」
「腹が減っては戦はできない、でしょ」
「ハハハ、でも、俺はそんなに出来ないぞ。一発か二発だぞ」
「女は、内容がよければ、回数なんかに、こだわらないのよ。パパ」
立ち上がった平田の股間は、もうはちきれんばかりに膨らんでいた。
平田がベッドに座ると、代わりに彼の足元に陽子がひざまずいた。
ズボンのファスナーを下ろすと、勢いよく勃起したペニスが飛び出した。
赤く剥き出しの先端を指の腹で摩ると、平田がビクリと身体を震わせた。
「陽子……跨いでごらん」
平田に促された陽子は、立ち上がるとベッドに座った平田の股間を跨いだ。
陽子は黙って平田のペニスを掴んだ。そして、指を添えて角度を確かめながら、そのまま、ゆっくり腰を落としていった。
ヌメっと平田のペニスの先が陽子の膣口を押し広げた。半分ほど入ったところで、陽子は腰をくねらせた。
上半身を屈めて、二人の性器が結合している一点を見つめながら、陽子は歓喜の声をあげた。
喉元から絞り出された平田の唸るような声を聞きながら、陽子はゆっくりと腰を落として、根元まで剛直を挿入していた。
陽子はぴったりと股間を合わせ、円を描くように股間を擦りつけていた。平田は陽子の腰に両手を回して抱き寄せた。そして、髪の毛の匂いを嗅ぎながら、腰を下から突き上げ始めた。
顔に押し付けられた陽子の大きな乳房を、平田が手で乱暴に揉みしだいた。
固くなった乳首を指を摘ままれて、陽子は小犬のように泣いた。
やがて陽子は大きく上体を逸らして絶頂に達した。
「ああ……私……もうだめ……」
「何言ってるんだ、陽子。これからだぞ」
平田は陽子をベッドにうつ伏せに寝かせると腰を持って引き上げた。
陽子はベッドの縁に両手を突いて平田に尻を突き出した。平田は両手で陽子の尻を掴み、背後から貫いた。
陽子が、高い声をあげながら、背中を弓なりに反らした。平田は陽子の尻肉つかむと、さらに奥に到達するように、ぐん、とペニスを突っ込んだ。
陽子はシーツに乳房を押し付け、張りのある尻をさらに高く掲げた。
「陽子はいやらしいなぁ……そんなに好きなのか?」
ますます、スピードアップしていく平田の腰の動きに、陽子は悲鳴のような声をあげ続けた。
やがて平田も切羽詰った声を上げ、陽子の中で弾けた。
二人の動きが止まった。つい先ほどの淫らな嬌声が嘘のように、部屋は静寂を取り戻した。
しばらくして、忘れていた呼吸を思い出したように、二人は、息を整えた。そして、快楽に潤んだ瞳で、お互いを見つめ合った。
「ああ……よかった……」
陽子はシーツに腹ばいになって尻を高く掲げたままぐったりしていた。
陽子から出た平田はベッドに座ると、タバコに火をつけて一息吸い込んだ。
とうとう、平田社長に、身体を許してしまった。しかし、別にどうってことはない。いつもの手続きだ。
所詮、私は、節操のない、緩い女。不潔で淫らな女。
だから、どうだって言うの。
純潔や貞操という言葉には、昔から縁がない。
携帯が鳴った。平田がベッドの上でうとうとしていた。
「はい」
「俺だ」
田村からだった。