キチガイたちの挽歌 10
通りの路上に二台の車が停まった。五人の男が車を降りる。脇道に入ると、アパートの前の道で数人の女が固まって話をしていた。近づくにしたがって、闇の中で影がはっきり見えてくる。特攻服を着た女が三人。改造バイクが停めてある。
彼女たちの姿を横目で見ながら横を通り過ぎ、最初の曲がり角を折れる。
「どうだ、いたか?」
コウイチが欲望をぎらつかせた目を向けてくる。これからレディースを犯れるので、張り切っている。
「暗くてわからなかったが、多分あの中にいた」ハヤトは角の向こうから聞こえてくる女たちの会話に耳を澄ませた。
「部屋に入ったところを押し込もうぜ」
コウイチがこれ以上待ちきれないといった感じで聞いてくる。シュウジとジュンとケイタは、黙って指示が下りるのを待っている。
「あまり騒ぎになると近所の住人に警察を呼ばれる。外にいるうちに拉致ってしまおう」
そう言ってスタンガンを取り出した。スタンガンは二つ。女は三人。同時に二人気絶させても、残った一人が騒がないか。そう思っていると、バイクのエンジン音が聞こえた。
「ラッキー! どこかに行くみたいだ」あとをつけてどこかの暗がりで拉致るか。そう思っていると、横を一台のバイクが通り過ぎて行った。顔を覗かせると、アパートの前で残りの二人が話し込んでいる。
「あの中のどちらかがリーダーだといいんだが」
「とりあえず、あの二人を拉致って犯っちまおうぜ。違うなら、バイクで走っていたさっきの女をあの二人に呼び出させればいい」
「それで行こう」
ジュンに車のカギを渡し、その場で待機する。裏から回り込んで通りに戻ったジュンとシュウジが、車にのって脇道に入ってきた。残っていた四人が角から出て、二人の女に近づいていく。
女の傍に近づいた。二台の車が横を通り過ぎる時、四人が脇に寄った。車が停車すると同時に、ハヤトとコウイチが女の首筋にスタンガンの電極を押し当てた。
崩れ落ちる女の身体を抱えると、前後の車の後部座席に女を引きずり込み、そのまま走り去った。
「この野郎! 降ろせよ、こらぁ!」
すぐに正気に戻った女は突然のことでしばらく硬直していたが、やがて後部座席で暴れ出した。
金色に髪を染め、いかにも暴走族ですと言わんばかりの特攻服を着ている。
これから自分がどうなるのか見当も付かず恐ろしいのか、威勢がいい割には声が震え、歯がカチカチと音を鳴らしている。
「てめえ、コラ! 抵抗すんな!」
女を押さえていたケイタがナイフをつら突かせても、女は抵抗をやめない。
「キョウコってのはお前か」女がハヤトを睨みつけた。
「だったら、何よ」
「お前の男を呼び出せ。リョウってガキだ」
「ふざけんなよ。赤薔薇連合のヘッドが自分の男を裏切るわけねえだろ!」
「どうせ、俺たちの言うことを聞くことになるんだ。痛い目見る前に言うこと聞いておけ」
「ふざけんな!」叫びながら掴みかかってくる。さすが、気の強い女だ。
キョウコの腹にハヤトが拳をめり込ませた。
「うげっ」
強烈な鈍痛にキョウコが息を詰まらせた。車の中で吐かれると困るので力を抜いたが、女相手なので結構効いたようだ。苦痛に顔をゆがめ、彼女の目尻から涙が零れ落ちた。
「これくらいのことで泣いてんじゃねえよ。これからどんな目にあわされるのか、わかってんのか?」
「あたいをどうすんのさ!」
「殺して埋めちまうんだよ」
「やれるもんなら、やってみろ!」
ハヤトはキョウコの胸倉を掴んで引きよせた。
「いいか、女だからって手加減してもらえるとは思うなよ。俺たちは関東連合なんだ。殺されなくても、その顔をズタズタにされることくらいは覚悟しておけ」
そういって、指にはめているスカルリングでキョウコの頬を撫でた。ハヤトの低く唸るような声に、キョウコが顔をこわばらせた。