キチガイたちの挽歌 24
攫ってきた女をこの部屋で監禁し、シャブ中にする。逆らえなくしてから、裏風俗でも稼がせている。中坊たちにもシャブを食わせ、女とマジわせる。頭の感覚を麻痺させて、いざと言うときの鉄砲玉にするためだ。
「あの女、どうします」
中坊に声をかけられ、マムシは部屋のシミを見た。完全に狂っている女がいる。痩せて使いものにならない。先日コンビニから拉致してきた女、太田江利香だ。
江利香は来る日も来る日もこの部屋でマムシや中坊たちに犯された。コンビニからの帰り、夜道で攫ってこの部屋に連れてきたときは、まだ初々しい女子大生だったが、シャブ漬にされた彼女の体は、見る影もなくガリガリに痩せ細っており、骸骨のようだった。
しばらくシャブを与えられていない江利香は、ずっと禁断症状に苦しんでいた。
「寒い……寒いよう……お願い、薬をちょうだい……お尻にシャブ浣腸をして……」
江利香は部屋の隅にうずくまって一人で苦しんでいる。中坊達は、気味悪がって誰も近付こうとしない。
「ああっ! 虫が! 虫が体の中を這い回っている! 助けてえええ!」
突然、江利香が発作を起こしたように暴れ始めた。自分で自分の腕や腹を掻き毟り、皮膚が破れて血だらけになる。周囲の中坊や女達は、恐怖に引きつった顔で、後ずさりし、距離を取って江利香を遠巻きにした。江利香は、全身の血管の中を小さな虫が無数に這い回っているような掻痒感に、気が狂いそうになっていた。
「薬! 薬を頂戴! 何でもするからああああっ!」
マムシがわめき続けている江利香に近寄っていった。
「ねえ、あたしに薬を頂戴! どんなに恥ずかしい事でもするからああっ!」
江利香が必死の形相で、マムシの足元にすがりついた。
「静かにしろ!」
マムシが江利香の腹に強烈な蹴りを入れると、彼女は呻き声をあげて床に倒れた。
「もう、こいつはだめだな。シャブを打ち過ぎた」そういって中坊たちを見ると、「この女を捨てにいくぞ」といって、冷酷な目を使いものにならなくなった女に向けた。
中坊三人で江利香を部屋から連れ出し、車に押し込んだ。
「お前、運転しろ」マムシが車のキーを投げた。
「おれ、免許持ってねえっす」
「だからなんだ。邪魔な奴がいたら引き殺したらいいんだよ」
「わかりました!」そういって中坊嬉しそうに運転席に飛び乗った。
車の中でも、女は虫が這いまわっていると言って騒いだ。
「虫がいっぱいいるよ」といって、髪の毛をかきむしっている。
「虫がいっぱいいるよ」
「ほらほら、ここにも虫が這ってるぜ」マムシがそういって女の腕を指差すと、女が悲鳴をあげて腕の皮膚をかきむしった。マムシが大きな声で嗤った。
「ほら、ここで降りろ」後部座席のドアを開けて江利香を外に放り出すと、マムシたちを乗せた車がその場を走り去った。道路のまん中で、所在なさげに立っている江利香を見て、車内の男たちがまた嗤った。
「じゃまだな、あいつら」中坊が呟いたので、マムシがフロントガラスの向こうを見た。バイクが連なって蛇行運転している。
「あいつら、関東連合だ」マムシが低い声で唸るように言う。
「後から引き殺せ」といって、後ろから運転席を蹴った。中坊がアクセルを踏み込むと、前のバイクにみるみる接近し、遂に一台のバイクに追突した。バイクが転倒し、運転していた少年と後部座席の少年が道路に投げ出される。
怒声をあげながら、他の仲間のバイクが車を取り囲んだ。全部で五人。マムシは金属バットを握るとドアを開けて外に飛び出した。
「何じゃ、お前は!」
眼を怒らせ眉を吊り上げて睨みつけてくる少年の頭に、いきなりバットを叩きつけた。少年が悲鳴を上げて地面に倒れた。
「この腐れボケェェがぁぁッ!」
憤怒に顔面を赤銅色に染めたマムシが、怒鳴りちらしながらバットで少年のドテッ腹を殴りつづけた。他の仲間が飛びかかってきて、マムシの腹部に拳をめり込ませた。逆流する胃液。胃袋がめくれあがる激痛。拳が何度も腹部を打ち抜いた。痛みに脈拍が上昇した。
しかし、マムシは倒れた少年をバットで執拗に殴り続けた。
「ふざけんじゃねえぞぉぉッッ、俺を誰だが知ってんか! おおおっ!」
マムシの耳をつんざく怒号が暗闇に響く。
「やめろよ! 死んじまうだろ!」
仲間が止めに入ったが、マムシは構わずに、倒れている少年の頭を狙って何度もバットを振り下ろした。
車にいた他の中坊たちも、手にバットやナイフを持って車から飛び出してきた。それを見た関東連合の連中が、慌てて逃げ出した。中坊の一人が、逃げ遅れた関東連合の少年の脚にナイフを突きさした。悲鳴をあげて地面を転げるよう念の上に乗り、何度もナイフを振り下ろす。
「テメエら、何やってんだよぉぉぉッ!」
戻ってきた関東連合のメンバーが、仲間の少年を助けに入る。
「お前ら、こいつら全員ぶっ殺せ!」マムシが中坊たちに叫んだ。
「ず、ずいばぜん……た、たすけてぇ……」
バットで殴られている少年が、必死で命乞いをしたが、マムシは容赦なくバットを振り下ろす。やがて、少年は動かなくなった。
「よし、ずらかるぞ」
マムシの指示で仲間の中坊が車に乗り込んだ。路上には4人の少年が倒れたまま動かないでいた。残った三人の少年が茫然と見ている中、マムシの車は走り去った。