ハイエナたちの掟 18
「あっ」
玲子が短い喘ぎ声を漏らした。ベッドの上で、仰向けに寝ている玲子の局部をナオミが舐めている。
「千賀子が今日退院したの」
涼子の声を聴くのは半月ぶりだ。
「両親が彼女の傍から離れないのよ。私はすっかり蚊帳の外」
「まあ、いいじゃねえか」
あっ。
玲子がまた喘いだ。玲子の中に残っている省吾の精液を、ナオミが舌で掻きだし舐めとっていく。
「妹は犯されていなかったの。まだ男を知らない身体だってお医者さんが言っていたわ」
川辺という男は千賀子の身体を舐めまわすだけで、傷つけはしなかったらしい。それがあの男の千賀子に対する楽しみ方だったのだろう。しかし、川辺の変態行為で妹はまだ精神的に不安定だという。
「それで頼みがあるの。監禁されている間、千賀子を世話してくれていたサオリって女性を探して欲しいの。東京から来た元看護婦で、名前が一条サオリ」
絶望的な監禁生活で、千賀子の心の支えはサオリだった。川辺蔵祐の死体を運びだし、綺麗に指紋をぬぐった後、あの部屋を出て涼子の部屋に千賀子を運んだのだが、そのどさくさにまぎれて姿を消したサオリの行方をいつまでも気にしていた。
「あの子、心も身体もサオリさんに依存してしまっているの」
「身体もって、どういう意味だ?」
「千賀子に女の味を教えたらしいの」
省吾は苦笑いし、目の前のベッドで絡み合っている二人の女を見た。
「彼女に会いたいとしきりに言っているし、千賀子の慰めにもなるので、探してほしいの」
「無理だな」
省吾が間髪入れずに言った。
「東京から大阪に年間どれだけの女がやってくるか知っているのか? それに、名前も経歴も、出身地さえ、本当のことを言っていたとは限らない。裏社会に住む者はめったなことでは自分の素性を明かさないんだ。たとえ気を許した相手にもな。仲間に裏切られるなんざ、この世界じゃよくあることなんだよ」
電話の向こうの涼子が沈黙した。
「それに、あの部屋で妹さんの支えになっていたといっても、それは大切な玩具が精神的に破たんしないように、あの変態野郎に指示されて世話していただけなのかもしれない。裏社会の住人は、日の当たる世界に住んでいる連中とは考え方も価値観も全く違うんだ。平穏な生活に戻った千賀子にとって、裏社会の住人のサオリがいい人である可能性は低いんだ」
「そうよね」
「異常な体験で負った傷をいやすのは容易じゃないが、一人で立ち直るしかない。周りの者は手を貸すことしかできないんだ」
涼子が、また、そうよねと寂しそうにつぶやいた。
「また困ったことがあったら連絡してこい」話はこれで終わりだ。「仕事の連絡なら大歓迎だ」
ありがとう。そういって涼子は電話を切った。彼女が省吾に連することは二度とないだろう。
「あの女、妹さん連れて帰るとき、あんたに色目使ってたで」
全裸の玲子がベッドの上から省吾を見た。ナオミが玲子の足の指を舐めている。
「あの変態野郎の死体はどうしたんだ?」
「北山ちゃんがどこかの山に捨てに行きよったわ。金もろてないんやから、業者に頼んだら自腹きらなあかんから。ここまで手を焼かされてなんでただ働きやねん。あのサオリとかいう女逃がさんと、どこかに囲って身体売らせて金に換えたらよかったんや」
もっと奥まで舐めるんや。そういって、玲子が脚を広げた。
「私も、はよ苛めてほしい……」
「こいつのザーメン、全部舐めとってからや」
ナオミが拗ねた顔をして玲子の股間に顔を深く埋めた。
「最近は、死体をサンポールみたいなアルカリで全部溶かしてまうんやて。肉も皮も髪の毛も骨も歯も全部綺麗に溶けてしまうらしいわ。あとはそのまま流しに流すんやて。金歯は溶けへんから、あとで濾しとって海に捨てるらしいわ」
「そりゃ、楽だな。昔は必死でバラして、袋詰めにして生ゴミと一緒に捨てたもんだが」
「ほんまや。脂でのこぎりの刃もすぐ切れんようになるし、首なんか筋肉と筋ばっかりで切りにくいし。それに、臭うてたまらんかったわ。特に肝臓いわしとる奴の内臓の処理がたまらんかった。身体に匂いしみついて取れへんかったもん」
玲子が笑った。
「二人で真っ裸で四体いっぺんにばらしたことあったな。終わってから、思い切りやりまくったん、覚えてるか?」
省吾が苦笑して、床に落ちていたトランクスを拾って足を通した。
「なんや、帰るんか? 3Pせえへんのか?」
「お前の中に全部吐き出しちまったから、もう出ないよ」
「あの若い猫とやる気やろ。やめとき。あんな若い女じゃ、物足りんはずや。あんたを満足させられるんわ、私しかおらん」
「そうだな」
省吾はズボンを穿きジャンパーを着ると「また来る」と言って寝室を出た。