ハイエナたちの掟 19(最終回)
インターネットによる投票結果が読み上げられ、スポットライトが向けられる。会場が割れんばかりの拍手に包まれた。
今のセンター五人に加え、新たに五人を追加し新ユニットで全国に売り出すプロジェクトの、今日が投票結果の発表日だった。そして、遠藤リナが五人の新メンバーの一人に選ばれたのだ。
思わず万歳を叫んだ。いつもは軽蔑している会場のオタク男どもの喝采が心にしみて、思わず涙ぐんだ。
これで本当のアイドルになれる。ドラマに映画に歌番組にバラエティ。絶対に頂上に上ってやるんだ。
「みんな、ありがとう!」
涙声で叫ぶと、再び拍手の嵐に包まれた。
蔵祐からは、DVDを取り返したという電話以来、連絡が取れなくなった。しかし、あの男が手を回してくれたに違いない。正直、容姿も実力もリナより上のメンバーはたくさんいる。こうやって選ばれたのもあの男のおかげなのだ。
生ごみのような体臭をまき散らす、蛙のように醜い男。だが、我慢して抱かれてきてよかった。今夜あたり連絡してくるだろう。思い切りサービスしてやらなければ。それに、手持ちの現金もそろそろなくなってきた。お小遣いもねだってやろう。もらえものはもらえるだけもらえばいい。私にはその資格があるのだ。
舞台を降り、汗をぬぐう。選抜に漏れた女たちの嫉妬の視線がこれほど心地よいものだと初めて気づいた。いつもセンターの五人組が味わっている快感を、これからは私も味わうことができるのだ。
控室に向かっているとき、前に二人の男が立っていた。ひとりは四〇後半で、もう一人はまだ三〇を超えたあたりだろう。スタッフがリナを指差すと、二人の男がリナによってきた。
きっと、イベント会社の関係者だ。さっそく仕事の話が入ってきたのだ。
「遠藤リナさん?」
「はい、そうです」笑顔で答える。
「本名は田中智子さんですよね」
リナの顔が一瞬で強張った。脇を通り過ぎていくメンバーの女の子たちが、訝しげな眼でこちらを見ている。
「南署のもんですけど、三年前に女子中学生が暴行されて死んだ事件について、話を聞かせてもらいたいんですが」
そう言って四〇過ぎの男が、上着の内ポケットから黒い手帳を取り出した。
(完)